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名も無き星の冒険者  作者: 流水斎
第ニ章
30/85

敗北!?

「行け!…効いてる。このまま連発して押し切る!」

「倒せるのか…!?行ける、行けるなら…。ってヲイ、ギリギリだぞ…」

 二人掛かりの呪文である事もあり、防御呪文の上からでも、結構な深手を負わせていた。

 時折、強力な回復呪文を使われて台無しにされかかるが…。

 それでもなお、ダメージレースはこっちの方が有利だった。


「直通路が『谷』になる場所を選んで、窪地を挟んでなきゃヤバかったぞ。金輪際、てめえの楽観論には乗らねえからな」

「フン。倒せるから構わないだろう。こういうのは、終わりよければ全て良しだ!」

 キュオー…。

 解放される力と共に、強力を通り越して極大の熱線が結集。

 それはレッサードラゴンへと突き刺さり、杭を思わせるように身体を深く抉る。

 このまま行けば倒せる…。そう判断して、逃げ出したくなる気持ちを抑え、何度目かの攻撃を浴びせた時だ。

 その悪夢が、本性を現し始めた。


「これで墜ちろ!」

「ふう…。やっぱりギリギリだったな、もう少し寄られたら、肉弾戦はともかくブレスの範囲に……何ぃ……」

 再び走り出したレッサーに、また足止めを掛けて共同呪文。

 最後の一撃が突き刺さり、やり遂げた瞬間!その出来事が俺達に突きつけられた。

 これで奴もおしまいだ、そう御思った時…。

「……。馬鹿な、確かに死亡するまで呪文を放りこんだはず!」

「…何でだよ。いまトドメ刺したろ?どうしてその状態から回復呪文を唱えられるんだよ…」

 嘘だろう!?

 焼け焦げた肉の臭いと、破れた皮からこぼれる血潮。

 確かに俺達はレッサードラゴンを倒したはずなのに、その目は戦意を喪失してなどいなかった!

 血へどを吐きながら呪文を唱え…、ゆっくり、ゆっくりと…こちらに進んで来る。

 それは明らかに、悪夢としか言えない光景だった…。


「あ、ああ…。生きているのなら倒さないとな。しっかり集中しろ、今度こそ確実にトドメを…」

「馬鹿野郎!しっかりするのはてめえだ!…さっきまでの様子で学習して無いのか!」

 こいつはそんじょそろこらの化け物どころじゃなねえ!

 明らかに魔物とかそういう部類の規格外だ。

 強力な呪文を連発する上に、攻防に加えて回復まで揃った…マジで隙なんかカケラも無え。

 挙句の果てに、一番厄介なのは、今起きている気色の悪い減少だった。

「さっさとズラかるぞ。このままだとブレスの範囲に入っちまう!」

「…逃げるって何処に!?奴の足の方が幾らなんでも早いぞ…って。ちょっと待て、そっちは毒の谷だ!死ぬ気か!?どうせ死ぬなら、戦って勝つ方に賭け…」

 窪地に飛び込もうが、後ろを向いて逃げようが絶対に殺される。

 だが、唯一、レッサードラゴンが追ってこない場所を、俺は確保していたのだ。

 なおも闘おうとするこいつの手を取って、俺は谷の方へと走り出す。

 谷には毒が充満しており、長くいれば間違い無く死ぬ。だが…。


「短時間なら問題ねえよ!それに、あの辺の風向きは調べてある。…谷をなんとかする方法は見つけてあるから、俺を信じてついて来い!」

「…本当なんだろうな!可能じゃなかったら、心中なんだぞ!?…どうせ手を繋ぐなら、死ぬよりも…生きて…」

 …なんだか拍子抜けしそうになりながらも、能天気な台詞を聞き流して走った。

 手を離せば立ち止まりそうだったので、強引にでも引っ張って、谷の方へ、谷の方へとひた走る!

 後ろを向いても良い事は無いし、ブレスなり高速移動の態勢に入っていたら、それこそ秒単位の勝負だ。

 隠し玉として用意しておいた呪文に、この日、何度目かの距離延長の呪文を掛ける!


「大地よ!彼方に長城を築け!」

「土の壁!?そんなモノが何の役に…」

 遥か向こうに、土の壁を築く。

 それは普通の土が盛り上がっただけの物で、レッサードラゴンを防ぐには踏み台にもならない。

 だが、風向きを計算さえしておけば、谷の毒を遮るには十分だ。

 奴がそこまで追ってこないのなら、俺達が別の場所へ移動するまで保ってくれるだろう。

「黙って見てろ。…気付いたか?奴の足音が遠ざかる…流石に毒の谷は怖ええらしいや」

「そりゃそうだろう。あそこの毒は絶え間ない…。今は耐えられるとしても、いつか死んでしまうからな」

 レッサーは所詮、野生生物だ。

 野生のというにはモジュール呪文を唱える事が出来たり、知能が多少強化されているとは言え…。

 長時間の脅威には、向いて居ないのだろう。

 作った奴が居るとしても、毒の谷に耐える能力を与えるよりは、空を飛ぶなり高速で走る方が重要だろうしな。


「いや、完敗だった。あのレベルの脅威だと判ってたら、最初っから全員で掛かるべきだったな。…種族的な量産タイプかと疑った俺のミスだ」

「…そうえいば、誰かが調整とか言っていたな。何が一体起きているんだ?判っている範囲で教えろ…いや、このピンチが終わってからで良いんだけどな…」

 どうにかやり過ごしたか?

 毒の谷に侵入した俺達は、土の壁を築いて、毒を運ぶ風を遮った。

 もちろん途中で何枚か追加して、ちょっとしたシェルターを造ってるんだが…。

 気がつけば、俺はこいつを抱きしめる格好になっていたらしい。

 騒ぐのをキスで塞ぐなんてワザとしらしい事はする気は無かったが、思わず互いを頼りにして、下がるモチベーションに対抗しようとしていた。


「能力と傾向は判った。次があったら絶対に倒す。あー、とりあえずだな。やつは自分の身体に起きた障害を、後回しに出来るんだ」

「…なんだそれは?言われてみれば確かに足止め呪文の効きが悪かったが…。とうてい野生生物とは思えんぞ?」

 だから、野生生物であって、完全な野生ではないのだろう…。

 奴はモジュールに適応するように調整されただけの生命体ではなく…、意図的に呪文を使う能力をプログラムされているのだ。

 俺が見誤ったのはそこだ、何度でも出て来る脅威で無いのなら…。

 遠慮なく、全員を呼集してから、打ち倒せば良かったのである。


ゲーム風解説第20回

@クラス:ベルセルクと、可能・不可能時の経験値


クラス:ベルセルク

特典能力:与えられたバッドステータスは、ターンの最後に処理する。

 死ぬまで闘い続ける狂戦士を現すクラスで、本来は呪文の苦手な人向けの戦士系クラスである。

流石に頭が吹き飛んでは蘇生できないが、単純に失血死やショック死の類であれば、ターン終了時までに回復してもらえば行き帰る。

全力疾走しても普通に攻撃できるし、気絶させられようが、攻撃してから気絶するナイスガイである。

 ちなみにクラススキルは全力攻撃や、カウンター系の能力で

回避を捨てて攻撃したり、回避の代わりに反撃が可能な、まさに攻撃特化なクラスに相応しい能力である。


なお、話に登場するレッサードラゴンのクラスが

ドラゴンではなく、ベルセルクなのは、単純にクラス:ドラゴンの開発中で参照が間に合わなかった事。

付け加えて、優秀であっても、それほど脅威的な個体には仕上がらないと判断した為である。


/可能・不可能時の経験値

 依頼としては失敗であっても、イベント的に無理な戦いの場合

経験値は減ったりしない。

むしろ、勝てればボーナスであるし、…どれだけ有利に戦えたとしても、情報を持ち帰れなければ失敗である。

 そう言う意味では今回の話しは情報を持ち帰り、判断材料を揃えているので

必要なメンバーを揃えた上で、次回があれば勝利できるので十分に成功である。

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