乗り越えるべき脅威
ギュオー!
ドーン!!
「なんだ!?この音は!」
俺の耳にどこからか、けたたましい音。そして爆裂音が聞こえて来た。
聞き慣れない音では無いのが、非常に嫌な予感をかきたてやがる。
叫び声は恐竜に似て、爆裂音は…考えたくない音に似ているような気が…するんだが。
「…俺の勘違いであってくれよ。いくらなんでも早過ぎんだろうがよ」
音のした方向に走りながら、俺は呪文の1つを用意し始めた。
まずは安全に自分の身を確保出来る位置を選び、周囲に何も潜んでない事を確認してから呪文を起動させる。
立ち眩むような視界の切り替えが起きて、俺の視線はそのまま拡大されて行く。
「ゴッツイ恐竜が、獣どもを蹴散らしてるってのは…まあ良くある光景なんだが…。この傷痕はちょっとヤバイな」
延ばした視線に広がるのは、悪い予感の的中した光景だった。
こういう予感が当たっても嬉しく無いが、現実は現実として認識せざるを得まい。
事態は人間同士で争っている状況などでは、なかったのだ。
一歩間違えば権力闘争に巻き込まれていた事を考えると、胸をなでおろすしかねえ。
「まさか、野生生物がこんなに早くモジュールに適応するなんてな…。それとも、誰か馬鹿な実験でもやってやがんのか?」
言った後で、俺は口の中に苦い物を感じた。
口にしなければ良かった。なんて甘い考えは持っちゃいないが、こいつは中々どうして厄介な現実だ。
これからは呪文を使う生物の脅威と戦いながら、危険な実験についても考える必要が出て来たって寸法に成る。
「順当に考えれば、生物系のアマデウスの野郎が造った代物なんだろうが…。あいつにそこまでの余裕があるか?」
アマデウスの野郎は、生態系の技術全般に詳しい学者であり技術者だ。
一系統に特化した専門化としての深さは無いが、異なる知識を結び付ける知識はあるだろう。
加えて、大怪我をしたからという理由で、自分の身体を全部バイオパーツに取り換えてしまうほどの変態だ。天才となんとかは紙一重ってのをこれ以上ないくらいに顕してはいるんだが…。
「それだとちょっと出来過ぎな話だよな…。関わってはいるだろうが、用意された不正解みてえだ」
三文芝居に出て来る、魔王だとか狂気の科学者…。
本当にそうだろうかと聞かれれば、限りなく近いが、あまりにも、らし過ぎる。
となれば、伯爵を悪役に見立てた筋書きとは別の、用意されたシナリオだと思うべきだろう。
「問題なのは。三文芝居の劇作家が誰かって事だな。いよいよもって4番目を調べるべきか」
別に俺はここまでの考えを、自分の判断だけで思いつけた訳じゃない。
古い劇に登場する、ご都合主義の結末をもたらす存在に心当たりがあったからだ。
その名をデウス・エキス・マキナ。4番目のドミネーターと符合する名前…。
俺は今まで、4番目は伯爵辺りが評決権を二票持つ為の小細工くらいにしか考えて無かった。
だが…。
そんな訳には、行かないようだった。
「谷を攻略したら、次は4番目の調査だな。事故と関わっているなら、谷で少しくらいは情報が入るかもしれねえ」
もしアマデウスの奴が関わっているなら、ほぼ特定するまで情報を集めたら喋ってくれそうだ。
だが、それ以外の状況で何か口を挟んだら、逆に混乱させる為に動き始めるだろう。
そんなに疑うなら、本当に魔王になってやるよとか言いつつ、笑いながら悪役を務めかねない。
移民たち共通の悪役がいれば、一団結する理由になるのだから、保身を考えないあいつにとっては躊躇する理由の方が無いくらいだ。
今までそれをやらなかったのは、近くで馬鹿騒ぎを見ていたいのと、単に4番目が居るからだろう…。
「なにはともあれ、今の現状をなんとかしないとな…」
…モジュール呪文同士の攻防を考えるだけでも頭が痛い。
単に攻撃呪文があるだけで、小形の獣を無視できないし…。
潜伏能力だとか、飛行能力を持たれたら厄介極まり無い相手になるだろう。
これまでの安全な領域なんて知識や経験則は全部ぶっとぶ事になるし、毒の谷は安全な壁扱いだなんて過信しなくて良かったという他は無い。
「(だがまあ、逆に考えればチャンスでもあるかな。獣たちの使った呪文で、何を持ってるかが判り易くなる)」
必要なモジュールを、痕跡から逆算するって寸法だ。
倒してからサーチして、肉の中から確認するよりはよっぽど早い。
欲しいモジュールを使ったらどんな痕跡に成るかを調べて置いて、探索を続けながら借りに行くのもアリになってくるだろう。
交換するにしても、自分達で倒しに行くにせよ、これからは補充がやり易くなるのかもしれない。
それに比例して上昇する、危険と共に…。
ゲーム風解説第15回
@エネミーと、呪文を使用する個体
4番目のドミネーターであるエキス・マキナは
マスターナンバーである司書が死亡した時、その知識や目的を基にコピー・ダウンロードされた存在である。
その目的は、当初の目的を多少歪ませてでも、順調にやり遂げる事。
悪役を用意し(必要であれば自らも)、統一された脅威を造ることで
移民たちを適度に刺激していると言う訳である。
当然ながら、その中にはモジュールによる呪文に近い能力を使用出来る個体も存在する。
それまでの恐竜・獣が目に見える低位の脅威であったのに対し、飛躍的に危険度が増したと言えるだろう。




