呪文制作の自習
「気が進まないが、少しはやらないと後で怒られるしな…」
夕暮れ時になり、サルマンデルは気難しい顔で枝を集め始めた。
威力を落とした火の矢を何度か使って、運よく火が灯った物を臨時の松明にしておく。
「これで十分だと思うんだがな…。仕方ないか。よしっ火を付けてみるぞ」
やらなくても済むが、まるでやってないと判った時が怖い。
臨時の松明を適当な岩の上に載せ、似たようなサイズの枝を取り左の人差し指を近付けて行く。
滅多に化粧などしない彼女にネイルアートが施され、忘れない様にデコられていた。
「モルガナの名に置いて、我、サルマンデルが命じる。重ねて命じる、火のエレメントよ…。灯れ」
登録しておいたモジュールの組み合わせをウインドウに呼び出すと、取り決めておいたキーワードを唱える。
基本系を口に出し、その後で追加のモジュールとキーワードを投入。
決められた方式に従いスタッフは、火のエネルギーを放出させた。ボウっと燃え盛る炎にすかさず枝を突っ込むと、臨時ではなく本当の松明と化す。
「レコード。予定通りに生成呪文が発動。私が知らない呪文を無事に起動出来た事から、有意義であると思われる。残りの問題は、代理登録ないしモジュールの貸出にかかるコストが釣り合うかである」
記録装置にレポートを入力すると、サルマンデルは息を吐き出して緊張を解いた。
ここまでは順調に進み、第一段階終了だ。
借り受けた内、この呪文は彼女の所持モジュールをメインにした物で、モルガナに色々手伝わされたのがコストくらいだ。
だが他の呪文までもはそうもいかず、借りた分だけ色々な要求を飲まされたし、場合によっては交換で貴重な物を提出する事になっただろう。
「まったく、なんであいつに会う為だけにこんな羽目に…。いつでもその辺に居れば問題無く逢え…。っ!!!違う違う」
今から会いに行く男の顔を軽く思い浮かべて、サルマンデルは打ち消す様に首を振った。
考えを打ち消すだけならまだしも、そうしないと誰かに聞かれている様な気がしたからだ。
急いで記録装置を確認して余計な音を拾って居ないのを確認すると、ポケットから予備のモジュールを取り出し、難しい顔をし始めた。
「第二段階だな。同じ効果を…、自分で再現してみる。同じ物はコレとコレなんだから…」
…組みあげさえすれば負担は軽くなるんだ。
そう呟くと、登録呪文のレシピを開いて、手持ちのモジュールと見比べる。
モジュールのレシピを見ると、一行目は空白、二行目に光のモジュール、三行目に空白。
「とても簡単だな。このくらいなら私でもできそうだ。二行目がコマンドだから、となると光が生成コマンド用なのか、投射範囲にしか使ってなかった…」
そう言って気を良くすると、新しい登録枠の二行目に光モジュールを放りこむ。
これで何かを造る呪文が出来たはずだと試しそうになるが、危うい所で本当に完成しているのかを確かめ始めた。
レシピと同じではあるが、このまま発動させると…。
「一行目の物が生成されるとして、何も無い物が生まれる…んじゃなくて、モジュールのパワーソースを放出するんだったはず。と言う事は、ここに相乗して火を発生させてたのか」
彼女が得意な火を入れた場合は、二行目の火は攻撃用途だ。
一行目に何もいれずに発動させると、モジュールを動かしているしているエネルギーが打ち出されて…管理指定されないエネルギーは拡散して威力の弱くなったのを思い出す。
三行目は投射形態で、火は球で空白は触った物に発動した。
そこから形式を咀嚼し直すと、サルマンデルは一行目に自分の火専用スタッフを代入して、得意げに頷いた。
「これで完成だな。よしっ、実際にやって見よう……うわっ!!」
ボフッ!
轟々と手に持った枝全体が燃え出した。
サルマンデルは慌てて防御呪文を起動するとそれ以上の火傷を回避する。
後から思えば火傷した後で回復すれば良かったなとか思いつつ…、レシピにある但し書き…。
流用や限定用の欄を確認し始めた。
「あっそっか。掌全体じゃなくて指先に限定してるのか。…このネイルアートを基軸にしたのは、そういう訳だったんだな。なら最初から言ってくれればいいのに…」
説明書きを全て確認せずにやったのは彼女自身なのだが、その事を棚上げにして火傷に塗り薬を使う。
まさかこんな事で使う羽目になるとは思わなかったな…と苦笑しつつ、スタッフのエネルギー残量を確認してみた。
「負担値も使用した力もモジュール1つ分か。加算系で上乗せする事を考えたら雲泥の差だな。このレベルですむなら、風呂でも沸かせそうだ…」
そう言って、ちょっとだけ風呂に入る事を考え始める。
普段の彼女は攻撃呪文でぬるま湯を沸かして済ませているが…、これだけの火力を使えるなら簡単に風呂が造れる。
石焼温泉なら簡単だな…とか思いつつ、川を探すか水も大量に出すかを比べる自分に気がついた。
「ハッ!?何を考えているんだ。あいつに会いに行くだけなのに、別に風呂に入る必要なんて無いじゃないか。今は非常事態なんだ、何を考えてるんだ私は…」
ブンブンと首を振って、サルマンデルは真っ赤になった顔を自覚した。
身体を洗っても香水とかないし…、と言う感じでドツボに嵌り始める。
からかうなと言って置いて、自分自身に自爆するのが彼女のお茶目な所であった。
ゲーム風解説の第五回
・モジュール呪文と、呪文の登録
モジュールは摩耗を避けるや、無意味な干渉を避ける為に
エネルギーを全て発動させるが、登録しておくと必要最低限のコストで何度でも使用できるようになる。
・限定式
この為、頻繁に使う呪文は登録しておくのが基本となっている。
登録すると解除に時間が掛かるものの、空白で何のモジュールも使わない代用パターン(接触のみ)を設定したり
この時に、こう言う限定という限定式を組む事が出来る。
今回の話に置いて、モルガナがサルマンデルに造った呪文には、指で接触した対象に発動など、効果を自ら狭めることで扱い易くしている。
・モジュールの配置
モジュールは非常に長い指定と、専用器具が必要であったが
配置場所によって、簡略する事が可能になっている。
1欄:呪文属性:
どんな属性の魔法か?火なら火焔呪文、風なら気流呪文になる。
何も無い場合は、パワーソース(後に魔力と呼ばれる)からエネルギーを直接出すので、効果は半減する。
2欄:呪文内容
モジュールごとに設定したコマンドが起動し
火なら攻撃呪文、光なら生成呪文、地なら防御呪文となる。
当然ながら呪文の中で最も重要であり、代用も難しい。
3欄:投射形態
モジュールごとに設定された投射パターンが起動する。
火なら球で10m先まで直進、地なら壁になって直立、光なら3~5m先まで三角形に放射される。
番外:強化項目
完成した呪文に一時強化が出来る。
当然ながら登録状態で無い場合は全て使い果たすが、登録しておけば何度でも使えるのは同じ。
火ならダメージ追加、地なら防御値追加となる。(光は投射系が強いので、バランスを取る為に、強化欄は設定されていない)




