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名も無き星の冒険者  作者: 流水斎
第一章
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彼女の物語

 …舞台と時間は、少々離れる。

 視点は『彼』の元から、『彼女』近くの第三者視点に推移。

 ピックアップされたのは、業火の花が咲き乱れる湖であった。


「ア、マ…デ、ウス~!!」

 湖面が唐突に弾け、周囲に群がっていた獣たちが我先にと逃げ出し始める。

 猛獣たちの生け垣の中から現れたのは、灼熱。

 より正しくは、激怒直前の、魔女の如き女であった。

「はいはーい。何か御用かな~」

 呼びかけられたナニカは、微塵も表情を替えずに寄って行った。

 どうみも地獄の釜が開いたとしか思えない熱量と怒りにモノともせず、笑顔のまま歩いて行った。

 少し煮え足りないなぁ…。なんて物騒な言葉を呟きながら。


「アマデウス。貴様、大したことは無いとか言わなかったか?」

「言ったよ?改めてリソースを使うまでも無い、手持ちだけで済む相手だったでしょ?」

 激怒しかけている相手に対して…。

 疑問形に疑問形で返す、火に油を注ぐような問答。

 怒らせる為の言葉として理想形とは言えないが、どう見てもワザとやっているとしか思えなかった。

「確かにな。だが数が尋常ではないと思わなかったか?危うく私は喰われ掛けたんだが」

「やだなあ。君の体でフリカッセを造るには、トマトの収穫量が足りないよ。僕の菜園が上手くいってないのは知ってるじゃない」

 …言葉が通じない。

 女が思ったのはソレであり、目の前のナニカが冗談では無く、本気でつまらない日常会話を愉しんで居る事に気が付いた。

 何度目かの感想であるが、宇宙人とでも話している様な感覚を覚える。

 そもそも造り物の身体に、全身を取り変えてしまった感性の持ち主と、話が合うという方がおかしいのだろうか?


「もういい。貴様と話していると話がおかしくなりそうだ。次の駆除を再開するぞ」

「働き屋さんだねえ。どうせ皆勤性なんて使ないんだから、ちっとは愉しめばいいのに」

 彼女の眉がピクリと跳ねあがる。

 視線に込められた魔法が指先など他の条件によって発動し、アマデウスとその後ろに迫る猛獣たちの周囲に熱閃を撒き散らし始めた。

 男の姿が朧に分解され、投射された幻影だと判ったのはその時だ。

 女の方もどうせこんな事だろうと思っていたのだろうが、まあ本人だったとしても変わりは有るまい。

「何時から幻影にすり替わって居たんだ。化け物め」

「御用窺いに本体は必要ないでしょ?貴重な投射機だったのになあ…酷いよサルマンデル」

 絶体絶命によって狂乱した猛獣たちが、反撃すら叶わずにのたうち回る。

 その姿で清々するような歪んだ人格ではないが、サルマンデルとしても睨みつけないとやっていられない。

 どうせ人をからかうのならば、命がけですれば良いのに…。と直情的な彼女は思わなくもない。

 もちろんアマデウスにだって言い分はある、本気で殺し合うなら別にして、ついでに殺されたのではたまらないのだ。

「…残りは水中だったな。さっさと片つけて居住区に帰還する」

「あっ怒った?ねえねえ、今ちょっとだけ本気で怒ったでしょ?怒りレベルがあるとして、今どのくらい?」

 話にとりあった自分が馬鹿だと言いたげに、サルマンデルは大掛かりな動きを始めた。

 近年なって作り上げられたモジュール群による『魔法』に、本来は身ぶりや呪文は必要ない。

 こうやって手順を踏むのは、間違っても暴発してはいけないレベルの力を使う為だ。

 熱エネルギーを得意…というか一辺倒な彼女の力が効き難いはずの湖に対して、膨大な力を使い始める。

 その激しい怒りを感じて、アマデウスは本当に嬉しそうな声で彼女を挑発し始めた。

「すごいすごーい。水の中に炎を打ちこむなんて馬鹿な真似を考えるのは、僕らの中でも本当に君くらいだよサルマンデル。実行出来るのも君だけというから本当に凄いよね」

「貴様はもう、黙っていろ!!」

 熱閃が湖を貫通して大型生物らしきものを焼き払う。

 跳ねあげられた水の大半は熱湯を通り越して水蒸気と化し、おそろしいことに…残りの大半はただの水として撒き散らされた。

 サルマンデルの有する強大な火焔呪文は、水中と言う不利に対して、局地的にだけ作用させたのである。


「ねえねえ。今のに格好良い名前ないの?必殺技なんでしょ?ないの?じゃあ僕がつけたげようか?」

「いらん。ツールなぞ区別がつけば良い」

 インフェルノとか、レヴァンティンとか…。

 はしゃぎ回るアマデウスを放置して、サルマンデルは簡単にモジュールをサーチした。

 倒した獣や水中生物の中に、戦利品として剥ぎ取るべき物があるか?

 逃げまどう猛獣たちの中にあれば薙ぎ払って奪う気だったが、残念な事に、貴重なのは水中に沈んだ方である。

 特殊地形に強いアマデウスに頼むか?そう考え始めた瞬間に、彼女は湖の中に飛び込んで行った。

「うわー。何が居るか判らない湖の中に良く飛び込めるね…。まあ物騒な微生物なんて調整して無いけどさ」

 ザプーンと飛び込む彼女を視線だけで追って、アマデウスは変わらぬ笑顔のままで見送った。

 面白い物が見れて上機嫌な彼は、最後の最後だけは冷静に観察者としてレポートを締めくくる。

 回収したモジュールのレアリティはともかく、豊かな湖が人類管理下に置かれた事は大きな第一歩であろう…と。


10話までは書き直し、11話からは書き下ろしになります。


せっかくなのでゲーム風に少し付属を。

『サルマンデル』

最初の七人の一人で、後の委員会に所属する女傑。頭は悪く無いが脳筋と良く言われる。

クラスという概念が無いうちから、火の三重所持を選択し、多大な火力を所有していた。

この選択によって、同属性の所持に良い意味での干渉が起きる事が判明し

クラス『精霊』は彼女によってもたらされたと言って過言では無い。


クラス:精霊

同じ属性とボーナスを3つ所持できる。

ただし欠点として、技の流派・術の門派などのボーナスを得れない。


属性の段階

1:種別・コマンド・投射パターン・強化項目。

  これらの中から、1つだけ無制限に使える。

2:上記項目に関して、全てに渡って無制限に使える。

  火であれば火の矢を何のペナルティも無しに使用。

3:制限地形・対抗術などのあらゆるペナルティの影響を受けない。

  火であれば水中でも問題なく使用でき、後に研究される属性の優劣を無視する。

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