異端魔術。
「俺はエミル魔術協会のものだ」
ザラはエミル魔術協会の一支部に所属する魔術師らしい。
エミル魔術とはこの世界でもっともポピュラーな魔術であり、人々の信仰を集める宗教のようなものだ。そんな世界にここ最近、ゾルジ魔術結社と呼ばれる怪しい魔術が勢力を増しつつあった。
「君も知っていようが、ゾルジは危険な魔術だ、ジャミルは君をルシフ(生なき犯罪者)に魔術で変えて、僕として操り、悪行の道具として使おうとした。全くもってけしからん」
ゾルジ魔術には他者を犠牲にする残虐な魔術が目立った。
それを看過できないとエミル魔術協会はさっそく異端審議会を開いた。
ゾルジ魔術がいかに禍々しいものであるかを強調し、術の中で他者を貶める術の多さを指摘し、危険であるとしてお歴々に訴え、敢え無く、ゾルジ魔術は異端魔術として認定されたのだ。
今ではゾルジのメンバーはエミル魔術協会から異端排斥を大義名分として派遣された魔術師によって追われる身である。捕まれば直ちに処刑される身の上らしい。
「異端魔術ゾルジはエミル魔術協会の魔術師にとって、もっとも、憎むべき敵だ。奴等をこの地上から消し去るべく私は派遣され、彼等の情報を集めていた、そして運よくこの辺りに潜伏しているとの情報を得て、あの小屋を探り当てた。しかし、ゾルジ、特にあのジャミルは危険な相手だ。ゾルジ魔術師の中でも上級魔術師の部類に入る。私は駆け出しというわけでもないのだが、上級魔術師を相手できるほどの力量はまだ備わっていない。ここについて、離れた場所から奴の様子を探るしかなかった」
「サーチストーンがありますしね」
「そうだ……あれで探られてはまずいのだ、決して怖いから遠くから見ていたわけではない」
俺の発言に小刻みに頷きを繰り返し、そうだそうだと自分に確認を取るように一人呟いている。
この人案外素直な人かもしれない。腹芸ができないタイプだな。
「だが、俺も痺れをきらしていてな。あの日は夜からアイツの家に忍び込んでいた。インビジブルの魔法で身を隠して、奴をやる機会を窺っていた。だが、サーチストーンを使われてはばれる、インビジブルの魔法もずっとは続かない。俺は切羽詰っていた。背後をみせようものなら……」
「いきなり刺すつもりだったんですね……」
この人慎重なんだか、無鉄砲なんだか。
「そうだ、だが、君のおかげでうまくいった。ジャミルを始末できたのは幸運だった。フフフ」
ザラは堀の深い顔立ちを喜悦に歪めていた。
焚き火を囲んでの深夜の森での宴の場。
俺は命の恩人を前に、倒木に腰を下ろして炎の揺らめきに見入っていた。
「よし、良く焼けたぞ、おおいに食べたまえ」
イモリみたいな小動物を枝で串刺しにしたもの、笑顔で差し出してくる。
「あ、有難う」
無碍にいらねっと断るわけにもいかず、震える手で受け取った。