呪いの歌。
か~ごめ か~ごめ 籠の中の鳥は~
(酷く懐かしい匂いがする……)
い~つ~い~つ~出やる~
(数人に取り囲まれ、その中心で俺は目を手で覆って蹲っている。
ここはどこだろう? )
夜明けの晩に~
(顔を覆った手の隙間から覗くと、細く幼い足が弾んでいる。周りから聞こえる声は子供のものだ。
俺は子供たちに囲まれているに違いない)
鶴と亀と滑った~後ろの正面だあ~れ?
(歌が止んだ、と同時に足音も途絶える。突然、音を失ったような静寂に、俺の鼓動だけが耳を打っている。だが、よくよく耳を澄ますと、頭上から微かな息遣いが聞こえて来る。俺は上から数人の子供たちに見下ろされている。そして、何かを期待されている)
『真琴ちゃん! 』
え? 真琴? てか、俺何勝手に口走ってるんだ?
『あーあ、当たり! 次は私が鬼か』
視界が映り代わった先には、紅いモンペ姿の少女が残念そうに口を尖らせている。
かごめかごめ……そうか、思い出した。昔の子供が遊ぶ時に歌う歌だ。
なら、この少女は……
袖から伸びる白い腕は俺に向けて差し出されている。
見上げるが、少女の顔は黒く塗りつぶされていて判然としない。
立ち上がれというのか。
俺は素直に白い手を掴んで腰を浮かした。
少女の黒い顔に白い歯が覗くが、次の瞬間、
突然、物凄い力で腕を引っ張りあげられる。
な、なんだこの強い力は。
俺は自らの腕の先に視線を投じて驚愕した。
光に映し出された少女の顔は大きく膨張していた、その上、目鼻がないのだ。
「だあぁぁっぁああ! 」
その手を振り払うように大声をあげる。
周りの景色が滲んだようになり、しばらく手足をばたばたさせてパニックに陥る。
「うわ、うわ……あぁああぁあ? 」
程なく焦点が合わさり、ふと我に返る。
気がつくと、俺はベッドの上にいた。
胸にはタオルジャケットが被さっていて、その一端を汗に滲んだ手でしっかり掴んでいた。
素早く辺りに視線を散らす。
ここは俺の自室……
そ、そうか、今のは夢か。
状況を把握すると、俺は深い安堵の息を漏らした。
体中汗に塗れている。
Tシャツは胸から背中までびっしょり。
部屋の中は灼熱地獄の様相を呈していた。
携帯を開けて時間を確認する。
午後2時、そういや二度寝したんだっけ。
俺は一階の台所で、スパゲティを作って遅い昼食をとっていた。
細い麺をフォークで絡めとって口へ運ぶ。
麺が口内へ吸い込まれていく。
口は忙しなく麺をかみくだかんと動いている。
と、同時に監視カメラのように俺の視界は何かを捉えようと必死だった。
真琴め~、絶対奴はこの家にちょくちょく来ている……
さっきの夢でそれを確信した。
真琴の奴、人の夢に土足で踏み込んできやがって。
何が、かごめかごめだ。
あんな場所に行った記憶がないからおかしいと思ったんだ。
どこかの小高い場所にあるお稲荷さんの境内。
モンペ姿の子供たち。
あいつの記憶の中にある情景を俺の夢に刷り込みやがったに違いない。
しかも、最後に死ぬほど驚かせやがって!
絶対、俺はお前をユルサナイ。
それにしても、酷く時代がかった光景だった。
あいつ、いつの時代の生まれだ?
「もしかして、真琴ってとんでもない婆さんだったりして! 」
俺は故意に口にだして毒づいてみた。
沈黙がおりる台所で瞑目し、気配を探るが何も感じない。
稚気にも等しい罠に、しっぽをだすほど愚かではないか。