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落ちた死神が世界を統べるまで  作者: 邪王真眼
1/5

1話 始まり

「何故、俺がこんな学校に.....」

  校舎を目の前にして俺がこう呟くのには訳がある。というのは、この学校は俺の住む街では問題児の集まりということで有名らしい。

  また、らしいと言うにも訳がある。それは、記憶によるとどうやら俺は1ヶ月ほど前にこの世界に来たらしい。

  どこからかって?

  冥界からだ。

  ははっ、中二病だと思っただろ? だが違う、俺は冥界人だ。

「なぁアシュ、やっぱ俺って問題児なのかな?」

  一世一代の告白の後、肯定されるとこを覚悟した上で隣にいる巫女服姿の小柄な少女、アシュレイに問いかける。

  アシュレイは俺の契約霊であり、霊体の状態では一般人には視認することが出来ない。そして、恐らく今は俺、夜宵龍討という人物をいちばんよく知っている存在だろう。アシュというのはあだ名のような物

「まぁ、君が問題児なのは間違いないだろうね」

  答える声はアシュのものでは無い。振り返ると、俺が今さっき下ってきた校舎1階分位の高さの階段の上から制服姿に手袋という奇妙な格好の少女が見下ろしていた。

  早くも問題児発見ってか?

「だって高校の前で、お世辞にも高校生とは思えない小さな女の子を連れたフードを被った男がいれば、問題児にも見えるでしょ? むしろ不審者ね」

  どうやら、俺の第1印象は相当悪いようだ。

  だが、問題はそこじゃない。

「小さな女の子って、お前、こいつが見えているのか?」

  と、アシュの方に視線を送りながら問いかけるが、既にその少女は教室へと向かい校舎内を歩いていた。

  俺はここまで自己中心的な人間を初めて見た気がする。

  俺はアシュに視線を送る。

「リュウ君、君の言いたいことは何となくわかるよ。もしかしたらゴーストバスターの仕事も終わりになるかもしれないね」

「待て、いつ俺がゴーストバスターに成り下がった?」

  多少引っかかるところもあるが初日から遅刻する訳には行かないので教室へと急ぐことにする。教室は二階にあるため靴を脱ぎ階段を登る。校内は思ってたよりも整備されていて並の公立高校よりは綺麗だろう。

  教室に入ると30個ほどある机から俺の名前が貼ってあるものを探し席に着く。俺の席は4列目の3番目だ。

  俺は椅子に座り一息着くが、アシュはそうではなさそうで机に座りキョロキョロと周りを見渡している。

「リュウ君リュウ君、人がいっぱい。学校って楽しそうなところだね」

  興奮しているのか、早口目に言ってくる。

「まぁ、そうだな。あと、聞こえてるから呼ぶのは1回でいいぞ。それより.....」

  明日には変わりそうな感想を言いつつ、朝の少女の話を持ち出そうとしたが後から肩を叩かれ振り向く。

「や、ロリコン君。嫌味とかじゃないんだけど、まさかその子、教室にまで連れてくるとは思わなかったよ」

  振り向くと、朝の少女がいた。

  .....もう帰っていいかな?

「おい、待て。ロリコン君はやめろ。てか、お前誰だよ」

  そのあだ名が続くと高校生活開始早々に周囲からの目が痛くなりそうなのでやめさせる。

「そっか、自己紹介がまだだったね。私は降魔月華。...おっとこれ以上のことは教えられないよ。なぜなら殆どの記憶を失ってしまったから!」

  同じ状況の俺が言えることではないが、重症じゃねーか!

「俺は夜宵龍討だ。それよりよくそんな状況の中、ポジティブでいられるな。俺はお前とほぼ同じ状況だからこそ結構落ち込んでんだぞ」

「まーまー、落ち込んだところで記憶が戻る訳でもないし、それならポジティブに生きた方が良いじゃない?」

  確かに正論だ、正論だが.....

「能天気過ぎないか? お前」

「夜宵君、初対面の人に失礼過ぎない? 心の広いわたしだったからよかったものの」

  ムッとした顔でそんなことを言ってくる。

「お前にだけは言われたくねぇよ?」

  すかさず言い返す。

「そんなことよりも、お前、こいつが見えてるのか?」

  机に座り挙動不審にしているアシュの方をチラッと見ながら聞いてみる。

「見えてるも何も...。ほぉ、なるほど、もしかしなくても君、私と同類ってことだね」

「いや、それは嫌だ。が、お前とはゆっくり話し合う必要がありそうだ。明日あたり喫茶店にでも.....」

「あっ、皆廊下に移動してるね。入学式が始まるのかな? 私達も行こうか」

  初めて女子を誘おうとした所で、まさか入学式に邪魔されるとは思ってなかった。 が、集団行動の出来ない奴だとは思われたくないので、廊下へ出る。並びを見るに、席順とは全く違い、五十音順になっているようだ。そもそも席順がなんの並びなのかは全く分からんが。

  自分の場所であろう所に並ぶと前後から和気あいあいとした声が聞こえてくる。どうやら既にいくつかのグループが出来てしまっていて、俺は完全に乗り遅れたようだ。まぁ、恐らく月華も同じ状況だろうから気にすることはないか。ていうか、律儀に制服着てるのなんてアイツくらいしかいねぇし。

  なんて思っていたが列が階段を下り始めた頃、前方から月華の話し声が聞こえてくる。己、恨むぞ月華。

  暫く進むと、全く歓迎されているとは思えないほど囁かな拍手を受けながら体育館内を進む。ステージの前に並べられた椅子に新入生全員が座ると入学式が始まる。

  始まりの言葉から始まり、担任教師の紹介、校長先生の話と進むが、1年生は雑談に花を咲かせる人と寝ている人の2つに別れた。俺は話す相手もいないので、担任教師の紹介が始まった頃には眠っていた。目を覚ましたのは校長先生の話の終わり頃だった。

「以上で、私からの話は終わりですが、案の定というかやっぱりと言うか例年通り誰も僕の話を聞いてくれないんだね。先生は悲しいよ」

  そう、ウケを狙ってるのかと思うような台詞を残してステージから降りた。

  欠伸をしながら周りを見渡すと、殆どの生徒が眠っていた。アシュも俺の足を背もたれにして寝ている。

「以上で入学式を終了する。1年生から整列して教室に戻るように」

  そう促され1年は立ち上がり、列を作って戻り始めたので俺も急いでアシュを起こし列に入る。

  教室に、戻るとまた各自雑談を始める。それから3分ほど経った頃、ガタイのいい男がドアを勢いよく開けて入ってくる。

「よぉ、今年もやってきたな社会不適合者共。俺が3年間かけてみっちりと常識ってもんを身につけさせてやるから覚悟しとけ!」

  顔が厳ついからなのか、とても威圧感がある。俺の嫌いなタイプの人間だ。

  その証拠にいまさっきまでうるさいほどにざわついていたクラス内が今は静まり返っている。

「俺はこのクラスの担任を持つことになった時任周だ。これから一人一人自己紹介をして行ってもらう。じゃあそこのお前から始めてくれ」

  先生は1列目1番前の席の人を指さしてそう言う。それを聞き、どういう順番で自己紹介するかが分かった所で俺は眠りにつく。

  しばらくして、後ろから肩を叩かれ目を覚ます。すると丁度前の人の自己紹介が終わったところだった。

「ありがと。助かった」

  そう言い残し、教壇に立つ。すると先生がこちらを凝視してから、

「急用が出来たから少し抜けるが続けててくれ」

  と言って、教室から出ていく。俺としては嬉しい限りなので普通に始める。

「夜宵龍討です。えーっと過去の記憶があまりないから自分について語ることもないんだが、まぁ、宜しく」

  クラス内がざわつくのが分かった。

  こいつマジのヤバいやつじゃね?、記憶喪失かよ、ヤバっ。などの言葉が聞こえてくる。

  結構落ち込みながら、対称的にニヤニヤしている月華とすれ違い、席に戻るとすぐに月華の自己紹介が始まる。

「私は降魔月華だよ。ついさっきの夜宵君みたいな衝撃的な過去は無いけど、仲良くしてくれると嬉しいな」

  こいつ、平然と嘘をつきやがった。出会ってまだ半日も経たないがこいつに関しての愚痴だけで一日は語れそうだ。

  そんな事を思っていると、自己紹介は終わっていた。結局、月華以外の人の名前、顔すら覚えられなかったな。

  自己紹介が終わってから間もなくして先生が戻ってくる。

「おっ、もう自己紹介は終わってるみたいだな。例年よりはまともな奴が多いようだな」

  ってことはあの先輩方は自己紹介すらまともにしなかったということか。今年度の生徒で良かった。

「今日は初日だし、これで解散にする。気をつけて帰れよ。ではまた明日」

  手短に帰りの挨拶を済ませ、先生は再び教室を後にする。

  俺は特に帰る人もいないため早々に帰ることにする。眠いしね。

「じゃ、また明日な」

「うん。気をつけて」

  一応、後ろで帰りの支度をしている月華に一言かけ教室を出る。

  校門を出て誰もいないことを確認すると、帰りながらアシュに話しかける。

「なぁアシュ、どう思う?」

「どう思う、か。そうだなぁ、暑そうだな、とは思ったかな」

  やはり、俺と同じくあの不自然な手袋に目をつけたようだ。因みに結局、校内でも手袋はつけたままだった。

「やっぱ、お前もそう思うか。そうだよな、この季節に手袋ってのは暑そうだよな。季節感がないって言うか、それに高校生くらいの女の子ってのはオシャレとかするもんだろ? 制服に手袋ってオシャレとは程遠いしな」

  同意見だったことが嬉しくて少し興奮気味になってしまった。

  気を取り直してアシュに向き直ると小さく笑っていた。

「ん? どうした? なんか変な事言ったか?」

「ふふっ、だって、僕はリュウ君の服装に対して聞かれてると思ったから暑そうって答えたのに、季節感がないとか思いっきりブーメラン発言してるから面白くって」

  このやろう。

「だから、いつも言ってんだろ。俺の能力で作ったバリアの中では常に温度は一定なんだって。そもそもさっき教室であんな会話したばかりなのに何故どう思うって聞いたのが俺の服装についてだと思ったんだよ」

  俺は少し声を荒らげ、アシュの方を揺さぶりながら言う。

「冗談はさておき、あの子について話そうか」

  話を逸らした張本人がそんなことを言ってくる。

「ま、そうだな。とりあえずあいつは俺達と同じ異世界人だということには間違いないんだな。でも、そうなると契約霊はどこにいたんだ?」

「契約霊はその霊によって範囲は変わるし、僕みたいに姿を保てるのは数少ないからね。持ち物にでも宿ってるんじゃないかな」

  そう契約霊の中でも、アシュのように本来の姿を保てるのは魔力の多い上位の霊だけなのだ。また、契約霊は、契約範囲から一定以上の時間出ると消滅してしまう。

「となると常に警戒しておいた方がいいってことだな」

「でも、いざとなればバリアもあるし、僕もいるから安心していいよ」

「おう、頼りにしてるぞ」

  満足げに小さな胸を張っているアシュを微笑ましく見ていると、後から変な男が物凄い勢いで走ってきた。どの辺が変かと言うと陸上選手ばりの速さでうおぉぉぉなんて奇声を発しているところだろうか。

「おい、龍討、同じ高校でしかもまた一緒のクラスになれたから一緒に帰ろうと思ってたのに置いてくなんて酷いじゃないか」

  いや、お前誰だよ。向こうは俺の事を知ってるらしいが俺は全く知らない。まぁ記憶がない上に自己紹介もほぼ寝てたから当然ったら当然なんだが。

「そーいえば、さっきの自己紹介で過去の記憶がないとか言ってたが、まさか親友である俺の事も忘れちまったのか?」

  ガタイのいい少年が泣きそうになりながら言ってくる。面倒くさそうなやつだと思ってはいたが口に出していたらもっと面倒だっただろうから3秒ほど前の自分に感謝する。

「そーなんだよ。記憶が多少なくて.....ってのは冗談でお前の事だけは鮮明に覚えているよ」

  話の途中で泣きだしそうになっている少年を見てついついそんな嘘をついてしまった。名前すらわからないのに。

「ホモかよ。でも良かった。流石は龍討だな」

  なんか今とんでもない事を言われた気がするが、いい友達を持ってたんだな俺。めちゃくちゃ面倒くさいけどな。

  そんな話をしていると家に着いていた。

「明日は一緒に帰ろうな」

  そう言い残し少年と別れた。結局名前は分からないままだ。俺の良心が聞いちゃダメだと訴えているんだからしょうがない。

  家に入ると、ずっと気を使ってか黙っていたアシュが口をひらく。

「あれで良かったの。この世界に来て記憶が無くなったんでしょ?」

「まぁな、そうだけど。あーするしかないだろ。それと疲れたから少し寝る。夕方に起こしてくれ」

  リビングのソファーに寝転がりながら頼む。

「疲れたって午前中しか学校行ってないじゃん。それもほとんど寝てたし」

  的確な指摘を呆れたように言ってくる。

「それでも俺にとっては辛いんだよ」

  ここまでだとこいつ、ほぼ寝てるやん。って思うかもしれないが気にしないでくれ。

「そっか。じゃあ4時頃に起こすね。おやすみ」

  アシュの言葉を聞き届け俺は落ちる。



「ねぇ、リュウ君。起きて」

  アシュに肩を揺さぶられて目を覚ます。

「ん? なんだ? まだ4時になってないだろ?」

  俺は寝ぼけながらそう返す。

「いや、もう5時半だよ。ってそーじゃなくて。すごい魔力反応があるんだよ。多分量的に今までみたいな野良の霊じゃなくて契約者のほうだと思うの」

「それじゃ、今の俺にはどうしようもないだろう。契約者と戦って勝ち目があんのかよ?」

  俺はつい先日こっちに来たばかりで記憶が無いせいで戦い方すらよく分かっていない状態だ。

「何言ってるの? こっちには神科第3位の実力を持った僕がいるじゃないか。それに微かだけどもう1つ反応があるんだ。つまり、誰か襲われてるかもしれない」

  その瞬間、俺の脳はやっと覚醒した。というのも不覚にも月華の事を思い出してしまったからだ。

「もしかしてあいつ.....アシュ頼む。もしも今あいつが襲われているのだとしたら助けに行きたい。お前の力を貸してくれ」

「任せといて。絶対助けよう。ま、これだけ言ってて行ってみたら月華ちゃんじゃなかったら面白いけどね。でもそうと決まったら早く行こう」

  俺達は急いで外に出て自転車に乗り猛スピードで学校の方へ向かう。位置的には学校よりも少し近い辺りだ。10分ほど自転車を走らせていると、団地のような所が見えてきた。その奥には木々に囲まれた一軒家のようなものもある。

「あそこだね」

  アシュが一軒家を指さしながらそう言うので自転車を止めると、ドーンという爆発音が聞こえてくる。

「一刻を争う自体みたいだね。早く行こう」

「そうだな」

  焦る俺達に対して一般人には爆発音が聞こえていないようで通行人は動揺する素振りすら見せない。

  庭の方へ向かっていると何やら声が聞こえたので家に隠れつつ様子を伺ってみる。

「いい加減諦めたらどうかねぇ? 君が生きているのを知っているのは私一人だけ。つまり誰も助けになんか来ない、もっとも私にも増援は来ないがね。でも私に分があるのは君にもわかるだろう? 分かったら早くその本を渡してくれないか?」

  という青年の声。

「嫌よ!これだけは渡す訳には行かない」

  という少女の声の二種類が聞こえてくる。その1つは聞き覚えのある声で、そう思った時には足が出ていた。

「月華!」

  近くに団地があるのも忘れ俺は叫んでいた。

「夜宵君? どうしてここに?」

  驚いたような表情でそう聞いてくる。それもそうだろう、現にそこの青年が助けは来ないと言ったばかりだ。

「そんなことよりお前は大丈夫なのか?」

「ほぅ、まさか君に助けが来るとはね。いやぁ驚いたよ。だが変わらないだろう」

  そう言い、青年が1枚のタロットカードのようなものを月華目掛けて飛ばしてくる。

「月華、危ない」

  俺は間に合わないことを覚悟しながらも駆け出した。

  結局間に合わずカードは前に突き出された月華の手に当たる。が、その瞬間カードは宙に溶けたかのように消えてなくなる。

「え!?」

  理解が間に合わず困惑していると

「君、凄いねぇ。その子の事知らずに助けようとしたんだ。でもねその子は消滅と創造の女神なんて呼ばれて恐れられていた存在なんだ。君が助けられるような子じゃないよ」

  月華の凄さを知り、1度目を向ける。すると、月華は困ったような顔をした後に青年へと向き直る。

「じゃあ、こんなのはどうかな?」

  そう言い青年はまたカードを飛ばしてくる。

「変、冥を天へ」

  青年がそう呟くと今度は月華の手に触れる前にカードが消える。それとほぼ同時に唸りながら月華が膝から崩れ落ちる。

「おい! 大丈夫かよ!」

  しゃがみこんで月華の様子を伺うが息がすごく荒くなっていた。

  俺は木々のあるところまで連れていき、木に寄りかかるように座らせる。

「夜宵君」

  喋るのもやっとの様子だ。

「喋るな。.....いやもう少しだけ喋ってくれ。俺は何をしたらいい?」

「じゃあ、あの本を取り返して貰ってもいいかな」

  先程まで大事そうに抱えていた本だが、倒れた時に手放してしまったようで青年の手に渡ってしまったらしい。

「おう、任せろ」

  俺は勢いよく立ち上がる。が、本ってどこにあるんだろ?

  .....ま、いっか。

「待たせたな。月華の本を返してもらおうじゃないか」

  青年に歩み寄る。

  「嫌だね。これの為にわざわざ私が出向いたんだ、渡すわけがないだろう。だが、特別に残業で君の相手をしてやろう。返して欲しかったら力ずくで奪うといい」

  「いいだろう。さぁ仕事開始だ。アシュ!」

  「うん」

  俺は青年に向かって駆け出し、叫ぶ。

  「この名において顕現を許可する。アシュレイ!」

  アシュが黒い灰のようになり地面に溶け俺の手の中に剣の形を作った後、鮮やかな鋼色の刃と紫色の柄の美しい剣になる。

  「なに? アシュレイだと!」

  神科3位の名を聞いてか驚きを隠せないでいる青年の首を目がけて剣を振るう。

  「変、カードを剣に」

  手に持っていたカードが剣に変わりギリギリの所で受けられる。

  だが、そのまま力ずつで剣を弾き飛ばす。青年の手を離れた剣はカードへと戻り地面に突き刺さる。

  「ぐっ、やはり、死の王。分が悪いか」

  よくわからん事を言っているが構わず肩から斜めに切るように剣をふるう。

  が、1歩下がった青年に腕で受けられる。切断まではいかなかったものの、半分くらいまでは切れただろう。腕からはものすごい量の血が噴出している。

  「クソッ、なんで。とりあえずこれはお前に返してやる。受取れぇ」

  おっ? ほんの1分程前には渡すわけもないとか言ってたのに返してくれるんだ。

  青年はポケットから小さな水晶玉を取り出すと俺に向かって投げる。水晶玉から戻った本を両手で受け取る。

  まさか水晶玉にされていたとは、言われなければ気が付かんかった。

  ともかく一件落着だが、あいつは野放しにしておくとこの先害悪になる予感しかしないので叩いておこう。

  「は? なんだこりゃ」

  なんて思ったが顔を上げると目の前には俺を囲むように壁が出来上がっていた。

  焦った俺は小走りで壁へと向かう。そして、触れてみるとその壁は消えてなくなった。

  「ほっ。いやー焦った」

  だが、もう既に青年はいなかった。恐らくこれも青年の能力なのだろう。

  「ま、しゃーないか。戻っていいぞ、アシュ」

  そう言うと、再び持っていた剣は黒い灰のようになり地面に溶けて俺の前に巫女服をきた女の子の姿となって出現する。

  「お疲れ、ありがとなアシュ」

  「うん、お疲れ様。リュウ君。それにしてもこっちに来ての初めての対人戦だったけど素晴らしい戦いっぷりだったよ」

  「そりゃ、どーも。疲れたし帰るか。あっ.....」

  そう言い来た道の方を向くが行きに使った自転車は鉄くずになっていた。

  「マジかぁ」

  「ちょいちょい、リュウ君」

  「ん?」

  俺の裾を引っ張りながら話しかけてくるアシュの方を向きつつ要件を聞く。

  「あの子はどーするの?」

  木に寄りかかって気を失っている月華を指さしながら言う。

  「あいつならあそこに家が.....ねぇな」

  さっきまで家があった場所には1枚のタロットカードが置かれていた。

  スゲーな、あの能力。

  「ま、とりあえず連れて帰るか。アシュこれを持ってくれ」

  そう言い本を手渡すと俺は月華をお姫様抱っこのような形で抱きかかえ帰路につく。

  「おぉ!リュウ君カッコイイ」

  アシュが今日一のテンションでそんなことを言ってくる。

  「う、うるせぇ」

  でも流石にこの状態で家まではキツいかも。そんなことを思いながら約40分かけて家まで帰った。

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