第一章・第16話 熱い夜 -1-
それから、さらに二週間が過ぎ――、
ついに“清野四葉と一愛”のコラボ漫画が完成した。
「「「「「「「「かんぱーいっ!!」」」」」」」」
その日の夜、偉世と姫乃、沢村と和章、大滝、そしてアシスタントの三人を交えて
フレンチレストランで打ち上げが開かれた。
「いやぁ~、無事にコラボが終わってよかったよかった♪
こんな料理が食えるなら、毎月コラボやってほしいなぁ♪」
和章はさっそく料理に手をつけようとナイフとフォークを握った。
「毎月やってたら、それはもう“コラボ”じゃなくて“コンビ”だよ」
沢村は苦笑いしながらミネラルウォーターを一口飲んでグラスを置いた。
「沢村さん、お酒飲まないんですか?」
大滝やアシスタント達三人がワインを飲んでいるのに何故か沢村だけは
ミネラルウォーターを飲んでいた。
それで和章が疑問をぶつける。
「帰りは春川さんをホテルまで送るから」
「私なら大丈夫ですよ。ここからホテルまでは歩いてもたいした距離じゃないですし」
姫乃は沢村に安心してくれと笑みを向ける。
「てか、俺が送って帰るのはマズいんですか?」
和章は自分を指差した。
「マズくはないけど……そうすると新田君の帰宅まで遅くなるからなぁー」
沢村はやや心配そうだ。
「それなら、帰りは俺が送って帰ります」
すると、偉世が突然自分が姫乃を送って帰ると言い出した。
「今日はこの後オミさん達は飲みに行くし、俺は先にマンションに帰るから」
偉世が言った“オミさん”とはアシスタントの須藤雅臣の事だ。
「確かに星野なら帰る方角が一緒だし、それが一番丸く収まるっちゃ収まるのか……。
それなら問題ないですか?」
「ないけど……本当にいいんですか?」
沢村は申し訳なさそうに偉世に言う。
「はい」
偉世はにっこり笑って答えた。
◆ ◆ ◆
「なんだかんだ言って、沢村さんも飲みたかったんだね」
打ち上げが終わり、フレンチレストランを出た偉世と姫乃は二人でホテルに向かって歩いていた。
偉世は大滝とアシスタントの三人と共に二次会と称して居酒屋へと繰り出していった
沢村の姿を思い出しながら苦笑いをしている。
「いつも未成年の私達と一緒だから、食事にしても何にしても飲みたくても飲めなかったし。
今頃、大滝さん達と羽根を伸ばしてるんじゃないかな?」
「それじゃあ、俺達も羽根伸ばす?」
「え?」
「今から二人だけで打ち上げの二次会しない? 春川さんに時間があればだけど」
「私は全然大丈夫だけど、星野君は? 時間、大丈夫なの?」
「うん、俺は今日はもう仕事しないつもりだから」
「じゃあ、どこかお店に入る?」
「……春川さんの部屋、とか……は、駄目?」
偉世は熱を帯びた目で姫乃を見つめた。
「……」
そんな風に見つめられ、姫乃は黙ったまま『駄目じゃない』という風に首を横に振っていた。
◆ ◆ ◆
姫乃の部屋に入り、二人だけの空間になる――。
その瞬間……偉世が姫乃を抱き寄せた。
「ほ……星野、く……」
姫乃は突然の事で顔も上げる事が出来ず、喉の奥から声を絞り出すのがやっとだった。
「……春川さん、これからも、ずっと……俺と“コラボ”してくれない、かな?」
偉世は姫乃の肩口に顔を埋めた。
「うん……」
姫乃は偉世の言葉に即答をした。
「“清野四葉”と“一愛”としてじゃなくて、星野偉世と春川姫乃として……て、事なんだけど……」
「え……?」
「俺と……付き合ってほしい……」
偉世は姫乃の頬に手を当て、顔を上に向かせて瞳を覗き込むように囁いた。
姫乃は驚いて何も反応出来ずにいる。
「……春川さんの事が好きだ」
「星野君……」
空調が効いているはずなのに体が熱い。
姫乃はそっと偉世の胸に顔を埋めた。
「私も……星野君が好き……」
「……っ」
偉世は予想外の言葉に驚いた。
“私も……星野君が好き……”
とても小さな声だったが確かに聞こえた。
「……」
姫乃は偉世に何か反応して欲しそうにキュッと偉世のシャツを握った。
それに応えるように偉世は姫乃の顎に手を掛けて再び上に向かせると、
そっとキスをした――。
甘いキスに姫乃は頭の中がボゥーッとしてきて力が抜けた。
膝から崩れ落ちそうになったところで偉世が支えて抱き止める。
「姫乃……」
そう囁いた偉世の吐息の熱さに姫乃の体はより一層熱くなった。
「偉世……」
姫乃がそう呼ぶと偉世はとても嬉しそうに微笑み、もう一度姫乃の唇に甘く熱いキスを落とした――。