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再起の脚 終程 〜羽田 創司〜

「うし、サイズはいいな。違和感は?」

「なし!驚きのフィット感!」

「やっぱスライムだな」


 この日までに作り上げた試作品、その数400。

 その集大成とも言える3組の義足のうち、選び抜いた1組の最終確認を行う。


「トレントも軽くていい感じだったよ?」

「あれなー、膨張さえなければなぁ」


 最終候補に残ったのはそれぞれ “強化外骨格骸骨アーマード・スケルトン”、“翠柳の木妖(グリーン・トレント)”、そして“柔筋の青粘塊ブルー・マッシブ”の素材をベースに作った義足だ。

 3つとも強力な魔物素材なだけに素晴らしい性能を発揮したのだが、そのうち2つは思いもよらない欠点があった。


 まず“強化外骨格骸骨アーマード・スケルトン”。

 こいつは強固な骨に全身を覆われた“骸骨スケルトン”の上位種。大抵の探索者では傷一つつけられない頑丈さに、ドロップする素材自体が人骨そのものという義肢作りにおける成形の容易さ。

 義足としてこれ以上なく適した素材だっ!……と、作成当初は思っていた。


 怨念とでもいうのだろうか。完成に近づくにつれ義足から意志・・を感じるようになった。

 気になって調べてみれば、ネットに転がる真偽不明の噂から、組合ギルド発表の怪奇事件の全容まで。アンデッド素材に関する恐ろしい情報がごろごろ転がっていた。


 さすがにこんなものを義足にはできない。

 というかよく考ると思春期女子に人骨装着させるとか倫理的にも衛生的にも色々ダメじゃん。


 そんなこんなでこの義足は没。

 悔しいので改造して武器にした。


 

 次に“翠柳の木妖(グリーン・トレント)”。

 植物系魔物には珍しい純粋な物理アタッカーで、近づいた外敵をしなる樹木で殴りつける。厄介な魔物だが、討伐して得られる素材は頑丈かつ柔軟性を備えた高品質な木材だ。更に物理アタッカーでありながら、内包する魔力は微弱だが土と風の属性を帯びている。

 活発な妹のことだ。義足ができれば走り回ることは目に見えているので、運動用としても相性が良さそうだった。

 

 しかし、装着後しばらく経つと謎の膨張を始めた。10~20分で0.数ミリ程度だが、日に数回のサイズ調整とメンテナンスが必要になる。とてもじゃないが、実用的とは言い難い。

 不思議なことにこの現象は妹が触れている時のみ起きた。作成時には俺がもっと長い時間触れているし、父さんと母さんにも1時間ほど触れてもらったが膨張は起きない。

 釈然としないが、この素材も没となった。

 

 

 残る“柔筋の青粘塊ブルー・マッシブ”。

 体高30mを超えるこいつは滋賀第一迷宮――『琵琶湖ダンジョン』で稀に出現する粘塊スライム種の特異個体。


 初目撃は3年前。

 通称『琵琶湖ダンジョン』で釣りをしていた動画配信者の前に、そいつは現れた。

 粘塊スライムと言えど人型で、人型と言えど人外極まりないその姿は、例えるなら「肉が溶け落ちていく大男」といったところだろうか。半透明な青色じゃなければ粘塊スライム種とは思えなかっただろう。


 正直結構グロいのだが、釣り配信を行っていた探索者の「色違い巨〇兵!?」という発言の直後に口から水流ビームを放ったことで一時期話題になった。


 当時、俺は受験勉強の息抜きになんとなくその動画を見ていた。

 ぼーっと眺めるスマホの先、蒸気を発する水色の粘塊が配信者を追い詰めていく。

 周囲を薙ぎ払う極太ビーム。

 それを釣竿のフルスイングではじき返した配信者。

 大量に入るスパチャ。

 直前まで解いていた数式が頭の中でリフレインする中、安全圏まで逃げ延びた配信者の呼びかけに応じて高評価&チャンネル登録を済ませた俺の頭にはとある閃きが浮かんでいた。

 膨張と収縮を繰り返す粘塊。蒸気を発する熱。

 ピンときたのだ。

 これ、人工筋肉作れるのでは、と。


 

 去年、つまりは高2の夏休み。

 友人たちの力を借りて、俺は迷宮ダンジョン遠征を慣行した。

 最初は一人で行くつもりだったが、仲の良い2人の友人が協力を申し出、そいつらが別の連中に声をかけ、さらに噂を聞いた他の連中が――てな具合に、最終的に結構な人数が集まった。


 旅行だの思い出作りだのとはしゃいでいたが、それならわざわざ危険を伴う遠征じゃなくても良いはずだ。

 ついてきてくれた理由はやっぱり、あいつらなりの優しさなんだろう。


 思い出に浸っていると、妹――美紀みきが小さく呟いた。


「兄さん、ありがと」

「ん?何だよ急に」

「義足だよ。完成させてくれてありがと」

「……気が早ぇよ」

「ふふ、そだね。でも多分大丈夫だよ」


 じっ、と新しい脚(・・・・)を見つめる美紀。

 美紀の身体に合わせて白く細い脚を再現した義足の表面には幾何学的なラインが刻まれており、そこから青い光が漏れている。

幾何学模様から義足内部を除けば、まるで溶けた宝石のように、液状の物質(スライムゼリー)が流動しているのが見える。


「なんかね、この子が大丈夫だよ!って言ってる気がするんだ」

「……そ、そうか」


 それはちょっと怖くない?という言葉はギリギリ飲み込んだ。熱で自壊しながら迫り来る“柔筋の青粘塊ブルー・マッシブ”の姿が脳裏を過ぎる。

 ……たまに夢に出るんだよな、あれ。

 


「母さんたち待ってるしそろそろ行くか。心の準備は?」

「あー、やっぱなんか緊張するけどOK!」


 車椅子を押して病室を出る。向かう先は吹き抜けの中庭。


 建築家が計算に計算を重ねたであろう空間の中央には、陽光を浴びて聳え立つ一本木。

 人工的な美しさと自然の力強さが融合するその木の麓で、仁王立ちした外外観年齢・・・・20代半ばほどの女性が目を閉じて俺たちの到着を待っていた。


 ……我が母ながら絵になる人だ。


 瞬間調光ガラスのドアを開けて中庭に出る。

 室内より少しだけ暑く感じた。


「あれ?父さんは?」

「病院の先生に挨拶に行ったわ。すぐ戻ってくるわよ」


 医療施設というより研究機関としての側面が強いこの病院。利用できるのは組合ギルドで働く父さんのおかげだ。

 仕事のコネに人柄の良さも相まって、父さんは結構顔が広い。

 美紀の通院先を探し始めた頃、それなら是非にと病院側から声がかかったそうだ。


 

 ちなみに組合ギルドの正式名称は「日本探索協同組合」。英訳のJapan Exploration Co-operativesを略して「JE」と表記されるが、公的な場はともかく日常生活では皆「ギルド」としか呼ばない。

 そっちの方がわかりやすいし、それっぽくてテンションも上がる。


 暫く中庭を眺めていると、数分程でガラス戸が開いた。

 

「いやーごめんごめん!遅くなっちゃったよ。今日で最後の挨拶と思うとつい話し込んじゃってね」

「いや、最後て」


 妹に続けて父までもう成功したかのように言う。少し複雑な気分だ。

 

 失敗してほしいわけじゃない。妹の足だ。成功してほしいに決まってる。

 それにこの義足はみんなで素材を集め、何度も試行を重ねて至った最高傑作。これ以上のものとなると、ちょっとどうすればいいのかすぐには思いつかない。


 だが、だからこそ楽観的にはなれないのだ。


創司そうじ


 いつも柔和な、それでいて少し頼りない父さんの声。

 だが、その時ばかりは違って聞こえた。

 

「父さんも母さんも、それに美紀みきも。創司そうじの努力をずっと見てきた。大丈夫さ、絶対うまくいくよ……2人もそう思うだろう?」

「当然よ」

「だね!ジャストフィットだもん!」


 ………どうやら俺はよっぽど不安そうな顔をしていたらしい。妹より先に俺が励まされるなんて、兄として情けない限りだ。

 恥ずかしいので、感謝は心の中でした。


「よし!じゃあ前置きはこのくらいにして、そろそろ始めようか」

「OK!兄さんが泣き出したから早めに終わらせるよ!」

「泣いてねぇよ」

 


 父さんが美紀の車椅子の横に立つ。


「じゃあ創司、反対側の肩よろしく」

「ん。せーのでいこう」

「美紀もいいかい?」

「OK!」

「母さん、カメラを「もう撮ってるわ」――さすが。よし、準備万端だな!美紀、自分のタイミングでいいからな」

「うん!」


 そう返事をして、深呼吸。

 美紀は父さんに似て普段から明るい性格だが、やはり緊張するのか、少しだけ顔が強張っていた。

 しばらく義足を見つめた後、車椅子のひじ掛けに置いた手に力が籠る。

 がばっと上げた顔には、母さんに似た力強い意志が宿っていた。


「よし、いくよ!……せー「「の!」」」


 ◇◆◇

 

 忘れもしない、10年前の4月。

 俺たち兄妹は迷宮ダンジョン発生に巻き込まれた。

 突前現れた迷宮核ダンジョンコアが周囲の空間を取り込み、当時小学生になったばかりの美紀の両脚を奪っていった。

 思えばあれ以来、俺は何かに取りつかれたように美紀のを取り戻そうと必死だった。

 

 ……いや、俺だけじゃないな。父さんと母さんもそれぞれのやり方で必死に動いていた。

 生来明るい性格の美紀は、そんな俺たちに心配かけまいとより一層元気な子供を演じるようになった。


 そこには互いを思う優しさがあって、でもその優しさが互いを苦しめていた。


 俺はこの日を忘れないだろう。


 妹が立ち上がった日。

 俺の挑戦が終わった日。

 そして、止まっていた俺達家族が、再び前に進みはじめたこの日を。

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