第64話 やり方を奪う者
数日後。
街の一角に、張り紙が出る。
『負担軽減協力所 開設』
リョウはそれを見て、顔をしかめた。
「……露骨すぎるだろ」
サクヤは淡々と。
「来たな」
ユナが不安そうに言う。
「これ……なに?」
リョウはため息をつく。
「多分、“俺たちのやり方”を真似したやつだ」
だが――
嫌な予感しかしない。
協力所の中。
人が並んでいる。
意外と多い。
リョウが低く言う。
「……もうこんなに」
サクヤは周囲を見る。
「不安は早い」
当然だ。
“楽になる方法”があるなら、人は来る。
中に入る。
白衣の人間たち。
そして――
あの男。
神祀庁の男。
「いらっしゃいませ」
穏やかな笑顔。
リョウが吐き捨てる。
「ふざけんなよ」
男は首を傾げる。
「何がでしょう」
リョウは周囲を指す。
「これ、俺たちの真似だろ」
男はあっさり頷く。
「ええ」
否定しない。
「有効でしたので」
リョウの眉が寄る。
「……でも違うな」
空気が違う。
流れが違う。
自然じゃない。
男は説明する。
「我々は“効率化”しました」
奥を示す。
そこには、小型の装置。
人が座る椅子。
そして――
頭部に装着されたリング。
リョウの顔が歪む。
「……機械かよ」
男は頷く。
「個人間での不安定な共有ではなく」
「装置による均一な分散」
「安全で、確実です」
一人の男が椅子に座っている。
装置が起動。
ドクン。
その男の表情が、すっと楽になる。
周囲の別の人間が、わずかに顔をしかめる。
リョウが気づく。
「……流してる」
男は微笑む。
「もちろんです」
「希望者の中で、最適に配分しています」
リョウが睨む。
「“最適”って誰基準だよ」
男は答える。
「我々です」
即答。
迷いなし。
サクヤが言う。
「偏る」
男は首を振る。
「制御されています」
リョウが一歩前に出る。
「それ、選んでるよな」
男は頷く。
「ええ」
「適性のある者に、より多く」
ユナが小さく言う。
「……それって」
リョウが続ける。
「結局、“選別”じゃねえか」
男は静かに言う。
「違います」
「最適化です」
言葉を変えただけ。
やっていることは同じ。
サクヤが言う。
「押し付けている」
男は微笑む。
「役割を与えている」
リョウが笑う。
「言い方うまいな」
でも――
中身は変わらない。
その時。
一人の女性が、装置から外れる。
ふらつく。
だが、笑っている。
「……楽になった」
その顔。
嘘じゃない。
リョウが一瞬、言葉を失う。
現実だ。
“助かっている人”がいる。
男が言う。
「見ての通りです」
「結果がすべて」
リョウが低く言う。
「……その裏で、誰かが潰れててもか」
男は少しだけ間を置く。
そして。
「必要な犠牲です」
静かな答え。
リョウの拳が鳴る。
「それ、認めねえ」
サクヤが前に出る。
「止めるか」
リョウは迷う。
壊すのは簡単だ。
だが――
今ここで壊せば。
助かっている人間も、苦しむ。
その一瞬の迷い。
男は見逃さない。
「どうしました?」
「壊せば、彼らは元に戻りますよ」
「それでも、やりますか?」
選択。
また来た。
重い選択。
ユナが、小さく言う。
「……リョウ」
リョウが見る。
ユナは言う。
「これ、こわい」
リョウは頷く。
「分かってる」
ユナは続ける。
「でも……ちょっと、いいなって思った」
その言葉。
リョウは目を閉じる。
現実だ。
楽になれるなら。
人はそっちに流れる。
リョウがゆっくり目を開く。
「……壊さねえ」
男が微笑む。
「賢明です」
だが――
リョウは続ける。
「その代わり」
一歩踏み出す。
「ぶっ潰す準備する」
男の笑みが、わずかに止まる。
リョウは言う。
「もっとマシなやり方でな」
サクヤが頷く。
「対抗する」
男は静かに笑う。
「楽しみにしています」
外に出る。
空気が軽い。
だが、気分は重い。
リョウが頭をかく。
「……最悪だな」
サクヤが言う。
「現実だ」
リョウは頷く。
「だな」
ユナが言う。
「どうするの?」
リョウは少し考える。
そして。
「仕組み、作る」
サクヤが見る。
リョウは続ける。
「誰も選ばれなくていいやつ」
難しい。
でも。
やるしかない。
サクヤが言う。
「時間がない」
リョウは笑う。
「だから面白いんだろ」
ユナも小さく笑う。
「うん」
戦いは次の段階へ。
力じゃない。
思想でもない。
“仕組み”そのものの戦争へ。




