「過去と決別」
卓二は子供の頃は地味だった。それは彼が特に個性の無い子供だったからだ。
彼は成績も運動神経も悪く、特に面白いことを言えるわけでもなく、気が利く子供でも無かった。
それでも卓二は普通に生きることができていた。母が献身的に彼をサポートしていたからだ。彼の忘れ物癖や書字の乱雑さは母のおかげでカバーできていたと言っても過言では無かった。
しかし、彼はあることに対する興味がすごく強かった。ゲームだ。当時、ゲームの時間の制限があった彼は、空いた時間を全て使ってゲームの攻略本を読み込んだ。そして空想にふけった。そんな彼に科学や歴史の入門書を与えたのが彼の父であった。
彼は一気に賢くなり、逆に彼は普通で無くなってしまった。
彼が科学や歴史の話を楽しそう語る度、周囲は彼を異物扱いした。
次第に変人扱いされ、無視や嫌がらせを受けた。それでも彼は親の言うとおり、学校に嫌々ながらも通い続けた。
そんな彼だったがある日突然精神的不調を抱え、入院する。彼も人の子だったのだ。言葉による憎悪の念は、彼の中に少しずつ溜まっていき、彼を蝕んでいった。
もう学校に行けるような状態では無かった。彼はこの社会のシステムに強い不満を感じ、ネット上のテロリストとして、いくつかの犯罪を扇動し、成功させてきた。しかし、もうそんなことはどうでもよかった。
現在の彼は社会的弱者だ。実家で両親のサポートを受けつつ生活しているが、両親が離婚となり、お荷物である彼は、路頭に迷いかけている。犯罪は煽動したが、今までルールだけは守って生きてきた、しかし、さすがにもう疲れた。
「俺がやったらたぶん奴らとは違って10倍の人間を殺せるだろう。社会現象を巻き起こしてこの世の中を変えることしかこの国を救う道はない。」
それが卓二の下した結論であった。
もう彼の心は決まっていた。
彼の命を犠牲に、1000人以上の人間を巻き込んで世の中を変えてやる。それが彼の人生の幕引きとしてふさわしいけじめの取り方だと考えていた。
彼は、バール、モデルガン、バタフライナイフ、ライター、オイル、着火しやすい素材、等を購入し、電車の運行状況や混み具合を入念にチェックして犯行計画を立てていった。
6月のある平日に彼は準備と覚悟を決めた。
「実行は明日にしよう。」
そう言い、彼は眠りについた。
樋口は最近、例のネット経由の事件が無いことを不思議に思っていた。模倣犯はいるのだが新しいタイプの事件は無い。
「何か嫌なことの前触れで無ければいいが、、、。」
彼の呟きはある憂鬱な日の曇り空の中に消えていった。




