「最後のテロ1(燃え盛る暴走列車)」
卓二は電車に乗り込んだ。時間は平日、午前9時過ぎ。本当は通勤ラッシュ時を狙いたかったが移動しにくい、という理由で断念した。
卓二は最後方の車両より乗車し、ゆっくりとある透明な可燃性の有機性の液体を気づかれないようにスプレーし、撒いていった。
そして最前列まで行き、電車の運転席付近で軽く深呼吸をした。
気の迷いが無いというなら嘘になる。死ぬ覚悟でいるのだから尚更だ。上手くいくかもわからない。ここからは運と時間との勝負だ。
卓二は覚悟を決めてあらかじめ用意しておいた燃えやすい布に油を染み込ませたものにライターで火をつけ、電車の座席部分や前方に向けていくつか放り投げ、モデルガンを窓に向けて撃ち、窓をひび割れさせることで脅し、周囲から人を遠ざけさせた後、ただちにバールで運転席の扉をこじ開けた。
まごつきながらも緊急停止ボタンを押そうとしていた運転手をバタフライナイフで滅多刺しにし、運転手を放り出し、電車の速度をマックスまで引き上げた。
ここまで行けば問題ない。あとはどこまで被害が大きくなるかだろう。モデルガンで周囲を威嚇しつつ、最前列の窓を開けて火が後部車両に回るように仕向けつつ、逃げ惑う乗客を横目で見て、卓二は計画が順調にいっていることに胸を撫で下ろした。
5両目の車両に乗車していた青年、澤村和司は前方の車両の違和感と普段より電車の速度が早いことに気がついた。よく見るとなぜかわからないが煙が窓から流れて見えるし、前方車両がなんだか騒がしい。
普段止まっている駅に止まらない時点で彼は違和感に気づき、緊急停止しようとした。しかし、ふと思い止まった。
このまま停止したら、こんな速い速度の電車だ。横転は避けられないのではないか?
そう気づいた彼は、警察に連絡をすることにした。
樋口は電車内で事件が起こっていることを聞き、急いで次の停車予定である駅へと向かった。このままやつらの好きにはさせない。どうするのが最善かはわからなかったが行くしかない。
「待ってろよ。黒幕、、、。」
そう意気込んで呟いた言葉には、彼のある種の信念のようなものが滲んでいた。
卓二は燃え盛る暴走列車の中で独りこれまで生きてきたことについて回想していた。
本当にこれでよかったのだろうか?俺は社会に一石は投じられただろう。
ただ、残された身内はどんな目に遭うだろう。手は尽くしたし、もうウンザリはしていた。俺のせいで後ろ指を刺されることになる人生を送らせるのは本当によかったのだろうか?
「まあ、今さら考えたってしょうがないんだけどな」
樋口は本部と連絡を取り、横転覚悟で緊急停止を澤村に頼む判断をした。無論、放送設備などはすでに死んでいるのでSNSや車内の人同士の呼びかけをしてもらい、緊急停止時に身を守りやすい体勢を取るように伝えた。
そして停止する予定場所には機動隊も配備してもらった。
「やることはやった。あとは天命を待つしかない。」
そう空を見上げて呟いた。
澤村はある程度車内の人たちに緊急停止することが伝わったことを確認すると、緊急停止の操作を実施した。もう時間がない、火も回ってきている。ここでやるのが最善だと思った。
「なるようになるしかない!」
澤村は電車を緊急停止させた。
瞬間ギギーッという音と共に電車に強くブレーキがかかり、力の行き場が無くなった電車の車輪はレールから外れ、一瞬浮遊して、その後、側面の窓を叩き割るように横転し、ガラガラとひび割れた音を出し、引きずるように数十メートル進んで停止した。停止前にアナウンスしていたのもあり、体勢を低めに、身を守ることができた人が多く、このことが大きな被害にはならなかったようだ。
「チッ」
卓二は舌打ちした。
「まあ俺にしちゃよくやれた方か。」
運転席の扉を一気に開け放ち、モデルガンを握り締め、卓二は機動隊に取り囲まれた電車から抜け出そうと飛び出して行った。




