フリッツの夢
フリッツは夢を見ていた。自分であるのに自分じゃないその夢は見ていて不思議と心が温まる。
パチパチ
まず焚き火が見えた。辺りは暗くて風も吹かない静かな夜だ。焚き火を囲う人間は自分も入れて6人。みんな黙り込み考え事をしていた。そんな沈黙を破ったのは、黒髪黒目に少し平たい顔の東洋人の少年だ。ユーロッパ大陸出身の5人より肌が少し黄色い。
「明日はいよいよ最後の戦いだ!皆これまで良く尽くしてくれた!この2年間は我にとって掛け替えのない宝であった!皆に感謝する!」
少年は勢いよく頭を下げた。それを見る他の面々は呆れたり微笑んだり泣いたりと様々だ。...ちなみに泣いてるのは僕だ。みんなこの少年の言葉をしっかりと噛み締めていた。
赤い目に赤い髪の男の身体ががっしりとした男は「あんたのためじゃねぇ。俺のためだ」と突き放すようなことを言ったが、照れ隠しなのがこの場の全員知っていた。
金髪碧眼の少女が呆れて「素直じゃないねぇ」と茶化した。
「どちらでもいいさ。我は皆のためにも明日は全力を尽くす。皆が1人も欠ける事なくこの救国の旅を終えようぞ!」
「「「おおーー!!」」」
拳を上げみんな叫んだ。ピンクブロンドの髪に飴色の瞳の高貴な身なりの少女だけは押し黙っていた。
東洋人の少年はそれに気がつき「少し話がある」と高貴な身なりの少女と共に暗い森の中に消えていった。
ああ。僕もアンゲラに話があるんだった。
話そうとする内容に頰が赤く染まった。
赤い髪の男が「何赤くなってんだ?」と片眉を上げて聞いてくるから咄嗟に「何でもない。火で暑くなっただけ」だと言い訳した。
金髪碧眼の少女が「あんたにだけは言われたくないわよねぇ」と赤髪の男を揶揄った。
赤髪の男は「何だと!」と金髪碧眼の少女を怒鳴る。
騒がしく口喧嘩しだした仲間を尻目に僕は暗い森の中を歩いた。
水の香りと音が聞こえてそちらに歩み寄る。小さな川があった。透き通って綺麗な水だ。
肌身離さず持っている木製の2メートルはある杖に念じる。
「ステファンの名において命ずる。いでよウンディーネ」
ぽちゃん
水滴の音と共にアンゲラは現れた。豊満な胸に均整のとれた四肢。青紫色の髪は長くて太腿に届く長さだ。それと同じ色の目は色っぽくてステファンをそわそわさせた。
「なんじゃ?」
首を傾げるアンゲラ。僕の心臓がバクバクと早鐘を打つ。口を開いては閉じてを繰り返す。そんな僕を見てぷっとアンゲラは笑った。
「魚みたいじゃな」
笑われて少し緊張が薄れた。アンゲラの屈託無く笑う姿は少女のように幼く見えた。
今なら話せる!
「アンゲラはさ。ぼ、僕のことどう思ってるの?」
あ。結局遠回しになってしまった。
僕の顔は真っ赤だった。普通の女の子なら告白だと気付くと思うが相手はウンディーネである。
アンゲラはぱちぱちと目を瞬き。うーむと川を眺めて考え出した。
やっぱり告白だと気付いてない。
それでもドキドキしながら、アンゲラの言葉を待った。
「おぬしは可愛いのぉ。一緒にいて飽きないわい」
「か、可愛いって...僕男だよ」
男として見られていない事実に驚愕した。
「おぬしは男らしいぞ。でも可愛い」
柔らかい笑みに、まぁそれでもいっかと嬉しくなった。
「アンゲラ。この戦いが終わったら一緒にならないか?」
恥ずかしすぎて目を逸らして言ってしまった。
「今も一緒におるでわないか。旅が終われば別れるつもりだったのか?」
アンゲラは不思議そうだ。少し寂しそう。
「そうじゃなくて、僕と結婚してほしいの!別れるつもりなんて一生ないから!」
アンゲラの目が見開いた。頰も僅かに赤い。
「良いのか?我と結婚すれば、浮気をしたら殺されるぞ。もう少し慎重に考えるべきじゃ」
「慎重に考えたさ!アンゲラに飽きられたら僕はどうすればいいのだってね!浮気できるほどの度胸なんて僕にはないって知ってるでしょう?」
アンゲラは「あーしまったそうであった。可愛いステファンをとられぬように我が周囲に警戒しないとなぁ」と後ろを向く。
「やっぱり男らしくなりたい。なってアンゲラを僕が守りたい」
アンゲラははっとなってこちらに振り向く。僕はじっとアンゲラを見つめた。アンゲラは目を伏せて照れてる。
「僕と結婚して下さい」
片膝をついて片手を上げる。片手の上にはノームに作ってもらった意匠をこらした指輪がある。
「はい。喜んで」
アンゲラはそっと手を差し出した。思ったよりも冷えてる手にポケットに入れて温めていた指輪をはめる。
アンゲラは指輪をしっかりと観察して、「あったかいのぉ」と呟いた。
温める機能は無かった筈だ。
「そういう機能はないんだ」
「違うんじゃ」
そう言ったアンゲラの言葉はとても温かい。
「おぬしの心があったかいのじゃ」
ステファンとアンゲラは微笑み。どちらからともなく手を繋いだ。
なるほど、確かに温かい。




