俺頑張ってるよ。
風の刃が人型の魔物の伸びた腕を切り落とした。だが瘴気に染まったどす黒い血が切った断面から伸びて切り落とした腕をくっつけた。
セルウィルスはアンゲラに加勢していた。ウンディーネ達がいる部屋の扉を守ってるつもりだったが、ぼーとしてんじゃねぇ!と血走った目をしたアンゲラに叱られた。
喜んでる場合じゃないけど、嬉しかったなぁ。
セルウィルスは頰を染めた。アンゲラは魔物を水を球体にして閉じ込めて呼吸をできないようにした。魔物の口からポコポコと気泡が出る。身動きしないから死んだかなと思った。
呼吸できなきゃ魔物も死ぬのかな。初めからこの方法で良かったのでは?
次の瞬間、セルウィルスの考えは甘いと思い知らされた。魔物を閉じ込めた水が瘴気でどす黒く濁る。黒い水がこっちに水鉄砲のように顔に飛んできた。間一髪のところでしゃがんで避けた。
水を操りやがった!!瘴気ってめちゃくちゃすぎない!?
頭上を通過した黒い水は床に飛び散った。それはウニョウニョと生き物の様に動き1つの液体の塊になった。まるで黒いスライムだ。また攻撃されたら困るので、黒いスライムに乾いた暖かい風を当ててみる。するとみるみる黒いスライムは小さくなり消えた。
瘴気も消えた⁈弱体化してたのかな?
アンゲラの能力を散々食らった瘴気は弱まってた。
水の族長殿も考えて攻撃してたのね!...怒り任せだけじゃなかったのね。
アンゲラは相変わらず魔物に能力をぶつけまくっていた。しかし、魔物はまだ倒れない。
持久戦だなぁ。どっちが勝つんだか。水の族長殿の魔力が尽きたら俺がどうにかしないといけないのかなぁ。...絶対無理。キャパが違いすぎる。
水晶宮の正面扉が突然開いて、男が2人勢いよく入ってきて倒れた。
「お前馬鹿だろう!?おいら死にかけた!!」
「はっ。何も思いつかなかったサラマンダーにだけは言われたくないね」
2人とも美麗な面を蒼白にして、ゼーハーと肩で息をする。プラチナブロンドの髪の方はアベルだった。赤い髪の男の方は知らない。
「…あんな水気の多い場所で火の気とか心配なかったわ」
「ぬおおぉぉぉ。服が乾いてるすげぇな!」
アベルは何やら落ち込んでる。赤い髪の男はイケメンなのに喋ると残念だった。
あっ。そういえばアベル迎えに行くの忘れた。どうやってきたんだろう。まさか泳いだ?
セルウィルスはアベル達に駆け寄った。ちなみに背後では血みどろの戦いが繰り広げられてる。
「アベル!!迎えに行けなくて悪かったね!」
アベルはアンゲラと魔物の戦いを見て、まぁいいよと半眼になった。
「リウィアはどこ?」
背後の光景を見てもアベルは冷静だった。この状況をある程度、知っていた様だ。
流石俺の親友!物知りだな!
「隣の部屋にいるよ。気絶してる」
「なんだって!?」
「息はしてるから大丈夫」
アベルは走って隣の部屋に向かった。セルウィルスはそれを見てにやりとした。
リウィアちゃんのことそんなに大事なんだ。愛ってやつかな。自覚してないだろうけど。
さてと赤い髪の男は一体誰だ?
「お前〜よくも置いて行ったな〜!!」
...この声何処かで聞いた様な気がする。
「あのどちら様ですか?」
赤髪のイケメンはぽんっと光るトカゲに変身した。セルウィルスは今起こった現象に度肝を抜いた。
あの、あの俺よりイケメン野郎がこのトカゲだと!?認めたくない!泣きそう。
ショックのあまり身体がよろけて膝をついた。
「どした?」
トカゲの舌をピロピロ出したり引っ込めたりする姿に先程の面影はない。
「俺はどうして俺なんだーーー!?」
人型は自分で容姿を決めれない。人だった面影を残してると伝えられてる。しかし、精霊になるとある程度容姿が整われる。但し土の精霊を除く。
え?俺これでも整ってる方だよね?アベルとかこのトカゲやアンゲラがおかしいんだよね?!俺の生前ってどうなのよ?!
「...ゲシュタルト崩壊してやがる」
トカゲは呆れた後、俺を無視して魔物の様子を見守る。
「ヴィニー。やっぱりヴィニーはいなくなったのか?瘴気に呑まれるやわな男じゃないだろ」
そう呟くトカゲの背中は寂しげだった。




