身近でも話さないとわからない事ってあるよね。
(アベル視点)
クレイ伯爵の邸宅の執務室で、相変わらず無表情の姉は黙々と書類仕事をしていた。
隙がなくきっちりと纏められた赤い髪と細められたエメラルドグリーンの瞳。髪の色も性格も顔立ちも違うと姉を見る度にアベルは思い知らされた。だからか家族の事なのに解らない事が多い。何故、母は実家に帰ったのか。何故、リウィアの父オーソンと結婚したのか。何故、ヴィニーの件に口出ししないのか。何故かと尋ねるのが怖かった。考えを教えてもらえないのが、世間からしたら家族なのにおかしいと思われそうで嫌だった。
俺は臆病だった。リウィアもきっとそうだ。だからかリウィアを見ると仲間だと安心した。でも、いつまでも現状維持では俺もリウィアも先に進めない。人間として成長できない。
俺がお手本になってリウィアを導きたい。
「姉さん」
声が僅かに震えたが大丈夫だ。己を叱咤して声を出す。
「何で母さんは帰ってこないの?」
羽ペンで文字を書いていた手が止まる。姉はこちらを真っ直ぐに見た。エメラルドグリーンの瞳から迷いを感じた。
「俺の所為だよね?」
アベルが母と父に似てなかったからだと言うと思っていた。
姉は目を閉じて悩んだ末に答えた。
「……子を愛さない母はいないと私は思うわ」
姉は羽ペンをペン立てに刺して、手を膝の上に揃えて姿勢を正した。
「お父様はお母様の不貞を疑ったけど、お母様は貴方は自分の子だと確信しているわ。でも、お父様の暴力の所為で、身体的にも精神的にも疲弊してしまったの。だから、そっとしてあげましょう」
思ったよりも優しい口調が少し意外だった。姉も母も俺を恨んでると思ってた。少しだけ気持ちが軽くなったが結局は自分の所為で母は体調を崩したのだ。そこは変わらない事実だった。
「そうだね。会わない方がいいよね」
「……私はね。自分の子を愛せるか不安だったの」
「オーソンさんの事を愛してないから?」
姉とオーソンさんの様子を見てると、恋愛結婚ではないことが分かる。只の仕事仲間に見える程、さばさばしていた。
「……ここだけの話だけど、私は好きだったわ。片想いだから気取られない様にしてたの」
相変わらず無表情だけど、少し顔が赤くなった。アベルはびっくりして目を丸くした。
「まさか姉さんが!?嘘でしょ!?」
常に冷静で、自分にも他人に厳しい姉さんが恋!?...あっ言いすぎた。
案の定姉さんは睨んできた。
「人を何だと思ってるの?...って言っても私も意外だったわ。子供も苦手だったけど、我が子は別ね」
姉の目がキリッと光った。
めっちゃ子供愛してるもんねー。知ってるー。
まさか俺が落ち込んでると思って、こんな話をしたのか?姉って意外と優しい?
今の姉ならまだ質問いいかな?と恐る恐る話す。
「オーソンさんと結婚した理由聴いてもいい?」
「それはっ...リウィアさんになら話すわ」
幅にされた。え?信用問題?リウィアの方が信用できる?
アベルはガクッとうな垂れた。
「言っとくけど、私がオーソンさんが好きだったって漏らしては駄目よ。リウィアさんにはとくにね!」
指差してきたこの人。人を指差したら行けないんだぞー!って姉に言えない。倍返しに合う。
「わかったわかった!もう聴かないし、言わない!でもヴィニーはどうするの!?リウィアが狙われてて大変なんだけど!」
「でも、これといって被害ないでしょ?ほおって置けばいいのよ」
「何かあってからじゃ遅い。今朝の新聞見た?昨日サラマンダーが屋根上で暴れてた記事が消されてたんだよ?これって女王の仕業じゃ...」
「女王様を悪く言わないで!陛下以外だって記事を消すことは出来るわ。貴方は何を疑ってるの?」
「姉さんこそ。精霊教に入ってる自覚ある?どうも女王の言いなりになっている気がする。精霊もしっかり守るべきだよね?」
アベルの言う精霊はセルウィルスやリウィア、リウィアの母のラエティティア事だけどね。
「愛人疑惑のある貴方に言われたくない」
え?その噂もう広まってるの?女王に会ったの昨日の夜だったんだけど、早くない⁇
「こちらとしては好都合ね。愛人になっちゃいなさいよ」
そりゃ。女王の愛人って名誉で箔がつく。男なら誰もが欲しがる地位だ。しかし、アベルにはいらない。名誉も箔もいらない。女王という人間が分からないのだ。
「そんなほいほい出来るものではありません。俺にその気もない」
「まあ。顔だけの腰抜けは女王様も嫌だと思うわ」
誰が腰抜けですと?はい。俺ですね。認めますよ。
「ヴィニーは人間には危害を与えないと思うわ。女王様が許すはずがない」
女王大好き人間め!女王は信じられない!毎回誘拐されそうなリウィアは精霊の血が入ってるからカウントしてないのか!俺はどうなんだろう...。
「俺は女王が信じられない。だから、そのつもりで動くから」
姉は厳しい表情になった。
「やめときなさい。陛下に刃向かうつもり?無謀だわ。何より私が許さない」
姉弟はしばらく睨み合う。
女王の権力は偉大だ。女王が国の法律と言っても過言ではない。だが、国というのは所詮人と人の集まりだ。大勢の人からの支持を得て王が成り立つ。逆に支持が低下すれば王は廃位させられる。
「姉さんが許さなくても、女王の敵は沢山いる。例えば神教の連中とかね」
バラント二大宗教の1つが神教で、貴族の内約2割を占める。ちなみに精霊教は4割で、その他は宗教に属さない人や中立的な人が多い。昨晩にアベルにいちゃもんつけてきた人は神教派である。
神教では平和の女神を追い払ったとしてエリスを魔女として伝えている。前王はエリスの生まれ変わりだ。現女王は前王の黒髪黒目を受け継いでいる。黒髪黒目はエリスの特徴だから、神教派は現女王を魔女だと批判している。
女王によって瘴気で苦しめられたアベルとしては、魔女というより魔王だろと言いたい。
「あの腐った信者共の仲間になる気?正気の沙汰じゃないわ」
「仲間にはならないさ。安心してよ」
神教の連中もアベルの事は女王の犬だと思っている為、多分拒否する。第一に俺が嫌だ。
「俺は傍観することにしたから」
女王に関わると俺死ぬもん。なるべく避けないといけない。瘴気で死ぬと色々とヤバい。
姉は眉間に皺を寄せて、勝手にしなさいと言って書類仕事を再開した。
その後、馬車に乗ろうとしたらサベラが駆け寄って来た。どうやらフリッツに会ったアンゲラが刺されて、リウィア達がウンディーネに頼んで治療された様だ。アベルは馬車に乗りエッディンの湖に向かう事にした。
もうすぐ物語に一区切り付くと思われます。読んで下さる方ありがとうございます!!( ;∀;)いなかったらさみしぃーー!!




