サベラと変態といると賑やか
湖のほとりにリウィアとサベラはいた。その2人はキョロキョロと辺りを見渡していた。
「アンゲラー!どこにいるのー!返事をしてー!」
リウィアは叫んでみたが、辺りはシーンと静かで返事がなかった。
「アンゲラ様はフリッツさんが来たと言ってたんですよね〜?実はフリッツさんに見張りをつけてたんですけど、戻ってこないんですよ」
見張りだと!?流石アベルぬかりないなー。
「これ多分やばいやつですね」
冷静にサベラは言う。
「どうやばいんですか?」
半眼になりながら、サベラに質問する。やばいって庶民で流行ってる言葉使いだ。貴族には嫌われてる言葉だ。
「リウィアさんをこっそりと護衛していた時があるのですが、ヴィニーに気絶させられたんですよ。またかもしれないですね」
マジか。こっそり護衛ってやめてほしいわ。じゃなく今はヴィニーが関わってるかもってことが大事か!でもヴィニーって散々脅してくるのに誰も殺してない気がする。
「フリッツさんとアンゲラさまが危ないか、フリッツさんがヴィニー側についてアンゲラさまが危ないかのどちらかですね」
アンゲラさまがヴィニーにつくってのもありか!と不毛なことを考えるサベラを置いといて、リウィアは湖に潜るか悩んだ。手鏡を覗いても反応がない。手鏡は水晶宮のアンゲラの部屋に落とされた。アンゲラは湖の外にいる可能性が高い。
アンゲラどこにいるのよー!
突然一陣の風が舞う。森の鮮やかな緑の葉が舞い落ちる。葉が地面に触れると1人の男が何もないところから現れた。黄緑色の髪に深緑色の瞳の男だ。ラフな出で立ちで何故か肩に靴の跡が残ってる。
リウィアはセルウィルスに飛びかかり、腕を掴む。
「ウィル!良いところに来たわね!アンゲラを捜してよ!」
風の精霊なら人探し楽でしょ!前にお菓子買って勝手に帰った事はまだ怒ってる。ウィルは傷ついたフリをした。
「くー女って人の扱い酷いよね。みてよこのシャツについた汚れ!容赦なく俺を蹴っ飛ばすんだよ!堪んないよねぇ」
ほおを染めてニヤニヤしだすウィルが気持ちわるくて掴んでた腕を離した。サベラに助けてと縋るが首を振り拒否された。
「私でもあれは無理です。湖に沈めましょう」
サベラがウィルを持ち上げ、ウィルがえ?って言っている間に湖に容赦なく投げられた。
バッシャャン
「どぶしぇぇぇ!!ひでー!水気持ちー!あっ汚れ落ちた!」
サベラが良かったですねーって哀れんだ。
「私の言うこときいてる⁇」
バシャバシャ泳ぐウィルに協力してっと叫ぶ。
「俺もね。捜してるんだよ。だけど、どこにもいない。このままじゃ命に関わるかも。リウィアちゃんが能力を使うしか手立てはないね」
「ウィルでも無理なの?」
「属性が違うから、時間がかかる。もうリウィアちゃんの能力しか選択肢がない」
「リウィアさんの心が壊れるのであれば、地道に捜すべきだと思います。私はアベル殿にリウィアさんを優先するように命じられてます」
「私はアンゲラを助けてあげてとお願いされてるのよ!私は能力を使うわ!」
「...わかりました。リウィアさんの判断を優先します」
サベラは真っ直ぐにリウィアの目を見て迷いはないと判断した。私はやらなくて後悔することは嫌だった。どうせなら、やってから後悔したい!
湖のチカラを借りる。深呼吸して、湖の気を体内に取り込む。水と自分を同調させてセルウィルスに教えてもらった呪文を唱える。
「クウァエレレ」
高い耳鳴りがリウィアを中心に円状に広がった。一部で一際大きな音が聞こえた。そこだ!
リウィアは走り出した。サベラとウィルも後を追う。
ずいぶん湖から離れたところだった。草むらの中に青紫色の艶やかな髪の妖艶な美女が倒れていた。顔は青白くて汗をかいていた。
よくよく観察すると胸にナイフが刺さっている。
「ウィル!優しく草むらから出して!アンゲラの処置しないと!」
「はいはい。これたすかるのかねー」
ウィルが風でアンゲラを支え草の生えてない地面に運び出す。
リウィアは頚動脈をチェックするとまだ生きていた。ナイフを慎重に抜くと出血した。自分のシンプルな袖をびりび破くと、アンゲラの胸元をそれでおさえた。
「息がまだあるのなら心臓に届いてないかも。助かるかも!」
「問題はアンゲラをどこで治療してもらえるのか。やっぱり湖にいる水の精霊に頼むしかないねぇ」
「ウィルお願い!!」
ウィルって頼りになるのね!
「もう出血大サービスだよ。リウィアちゃん後で俺のこと蹴っ飛ばしてね」
やっぱ今のなし。ウィルは気持ち悪い変態だね!
セルウィルスが風で浮かせるアンゲラに続いて湖にちかづくと、風の膜がアンゲラとリウィアとサベラを覆い。湖の中に沈んで行く。
サベラは初めてで、わーと感動してた。セルウィルスのチカラで入るのはリウィアも初めてだった。
「もし中に水入ったらウィルさんの髪抜きますね」
にっこりとサベラはウィルに微笑む。
「俺の髪をうすくしないでー!俺もうおじさんなの!もう生えてこないの!」
20歳ぐらいの見た目しといて何言っるんだ。これだから精霊は!と思ってみたがリウィアは年とるのだろうか⁇
「リウィアちゃんは年とるよー!」
考えてるとセルウィルスが察して答えた。
「ききたくなかった!ウィル禿げて!」
「ひでー!ドSしかいないのか!幸せ!」
ドSってなんぞや。
水晶宮が見えて中にはいった。中にいた水の精霊達はなんだなんだとリウィア達に近づいてきた。
「アンゲラが胸を刺されたの。誰か治療できない?」
リウィアは治療できないか精霊達に聴いてみたが...
「治療だと?何故?次の長など勝手に決まるから良くない⁇」
「アンゲラ苦しいのー?早く楽にしてあげるよ」
1人の水の精霊が勝手にアンゲラの胸元の布を剥がして氷のナイフを手に握る。リウィアは慌ててその水の精霊を離れさせ布をまた当てて止血する。
精霊に常識を期待しちゃだめだった!
心がない精霊ってこんなんなの?
サベラの方には5人ぐらいの水の精霊がナンパしに行ってる。
「ここにはまともな精霊いないのかねぇ」
ウィルが辺りを見回す。そして一点を見つめて話し出した。
「ねぇ。君はどう?」
リウィアもウィルが見つめる方を見ると、リウィアと同じ水色の瞳に髪の女性がぼんやり此方を眺めていた。
「なぁに?」
「お母様助けて!!アンゲラが死んじゃう!!」
必死に頼むと、母は不思議そうに首を傾げて此方に近づいてきた。
リウィアの顔を覗き込む。水色の澄んだ目から戸惑いを感じた。
「貴女が苦しむと、とても苦しいわ。貴女はアンゲラを助けたいのね?」
母と会話ができた。少しうるっときた。
リウィアはそうなの!助けたいの!と母に必死に伝えた。
母はわかったわと頷くとアンゲラに手をかざした。
「アクア・ヴィテ」
虹色に輝く雫が現れアンゲラの胸の傷に落ちた。するとみるみるうちに傷口が塞いだ。アンゲラの顔色もよくなる。
「お母様ありがとう!!」
感極まって母に抱きつく。母は抱きつくリウィアに戸惑っていたが、やがて微笑んだ。
「すごいなぁ。これが純粋な精霊の能力かぁ」
鳥肌たっちゃうよとセルウィルスは腕をさすった。
水の精霊をぞろぞろ引き連れてサベラはリウィアに良かったですねと微笑んだ。
うんと頷くリウィアはサベラを眺めて、アベルのことを思い出した。
「サベラさん。アベルに伝言頼まれてほしいのだけど...」
アベルにアンゲラのこと報告しないと心配すると思う。
「私を見て思い出す辺り何か引っかかりますが、わかりました。ちょっと行ってきますので、ここで待っててください」
「俺が連れてくよ〜」
セルウィルスがサベラを連れて水晶宮から出て行った。サベラに言い寄っていた水の精霊は残念そうだ。
まだ意識の戻らないアンゲラの胸元を見ると服に血がついてナイフのせいで破れていた。
着替えってあるのかしら?
「ねぇ。お母様。アンゲラの着替えってあるのかしら?」
リウィアの隣でぼんやりしてる母に聞くと、母は首を傾げた。
「着替える必要ないわよ。能力で服変えれるわ」
それを聞いてリウィアは目をまん丸にして驚いた。
精霊の能力便利過ぎ。ならアンゲラを着替えさせなくてもいいわね。
母はリウィアの腕をじっと見てる。どうしたのだろうと自分の腕を見ると片方だけ袖がなかった。
忘れてたわ。此処には精霊しかいないし、まあいいか。
気にしていなかったのだが、母は気になるようだ。心が壊れても、リウィアのことを心配してくれている気がする。なんだな心がじんわりと温かくなった。
母は袖の無い腕に手を添えると、呪文をとなえた。
「スートゥラ」
水が現れ、袖の形になり、リウィアの破れた袖が再生された。
「え!えー!?」
びっくりして再生された袖を触ると、水じゃなくてちゃんとした布だった。
「お母様って実は最強?」
傷も服も治せるってすごい。リウィアは能力を使いまくれないし(使いまくったが)、繊細で高度な能力が使えないので羨ましい。
「貴女面白いわね」
リウィアの表情がウケたのか母にくすくす笑われた。
母の笑う姿が懐かしくて、目を細めて微笑んだ。




