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6.結末とそれから

『あの野郎。動けない間にしっかり眷属を増やしやがったな』


 湖に戻ると、氷の魔獣の周囲は眷属だらけだった。

 周囲の気温はさらに下がっている。吐く息が白いどころか、凍りそうだ。


「想定内ね。アイセス君、打ち合わせ通り……」

「わかった。二人に守って貰いながら、近づいて力を使う」

『お前の眼ならここからでも焼けるだろうが、制御に失敗するとことだからな。近づいて、奴に剣でも突き立てちまった方が確実だ』

 パギラの話のよると、僕の魔眼を攻撃に使うにはイメージしやすい状況を作るのが大事らしい。今回の場合は剣で突き、相手を焼き尽くすことに専念する必要があるそうだ。


『さて、向こうさんも俺達に気づいたみたいだぜ』


 魔獣がこちら睨んでいた。まあ、隠れてもいないし。隠れる場所もない。


「魔獣のおかげでこの辺りの魔力が濃いから、強い魔法が使えそうね」


 シルヴィさんが軽く杖を振るだけで、周囲に魔力が散った。あの杖、幻獣の森産だそうだ。普通の杖ではああはいかない。


『いくぜ。今ならまだ動きがにぶい』

「わかった。いこう」


 僕が剣を抜くと、パギラが先行した。

 パギラ、僕、シルヴィさんという順番で氷の魔獣に突撃していく。

 まず、迎え撃つのは眷属だ。

 全身が氷で出来た狼が僕たちを噛み殺すべく襲いかかってくる。


『雑魚はお呼びじゃないぜ!』


 パギラの体が発光し、魔力の刃が次々と眷属を切り裂いていく。

 流石は幻獣。あの程度は相手にならない。

 

「壁を作るわ! いけっ!」


 シルヴィさんが杖で地面を叩くと僕達と魔獣まで一直線の道が出来た。左右は頑丈な土壁で覆われた道だ。おかげで眷属が一瞬で閉め出された。

 雑魚を追い払えたのはいいけど、これだとブレスを回避できない。

 案の定、氷の魔獣は僕たちに向けて大きく口を開けた。


「ブレスが来るっ」

『任せな!』


 氷のブレスが吐き出されると同時、パギラの体が消えた。

 辺りに美しい光が満ちる。まるで虹の中に入ったような幻想的な光景だ。

 魔獣の放ったブレスはその幻想的な光に触れた端から消えていく。

 これが幻竜パギラの本領だ。事前に聞いてはいたが、実際目にすると驚きしか無い。

 ブレスが無効化されると、ちょっと見た目が薄くなったパギラが隣に現れた。


『ま、幻竜の名は伊達じゃないってこった。とはいえ、これはあまり連続でできねぇ、決めろ、アイセス!』

「アイセス君。いくわよ!」

「いけます!」


 ブレスを無効化している間も僕達は走るのをやめなかった。

 氷の魔獣まであと少し。

 この距離を一気に詰める。


「いってらっしゃい!」


 背中をシルヴィさんの杖で叩かれた。


「いってきます!」


 叫んだ直後、シルヴィさんの魔法が発動した。

 風属性だという魔術の力で、僕は一気に魔獣の上までぶっ飛んだ。

 予定通り、魔獣が反応するより早く落下できそうだ。

 剣を突き立てるべく、僕は長剣を逆手に握りしめる。


「おおおおぉぉぉおおお!!」


 落下の勢いも利用して、剣を突き立てる。思った以上に魔獣の皮は堅かったが、剣がちょっとだけ刺さった。

 僕が剣と突き立てたのは魔獣の背中。

 背中と剣。

 双方を、両の眼で、視る。


「……いくよっ」


 そう言って眼に力を込めると、一瞬だけ、ここではないどこかが見えた。

 僕が見たのは小さな白い火。

 とても小さな火だが、不思議なくらい眩しかった。


「白い火よ……来いっ」


 両手から白い炎が生まれた。

 それが剣を伝って、魔獣に向かった。

 熱さは感じない。火だるまになってもおかしくないのに、僕も、僕の身につけている物も全部無事だ。

 無事では無いのは剣と魔獣。

 その二つは白い火が燃え移り、派手に燃えていた。

 特に魔獣は酷い。白い火だるまになって、僕の周囲にもそれが広がっていく。


「……燃えろっ」


 僕の意志に答えるように、魔獣全体に白い火が燃え広がる。

 魔獣全体が燃え始め、足下までもが白い火に包まれる。

 しかし、その熱は僕に届かない。

 魔獣は身をよじるどころか、声を上げもしない。


「まだだ、この火で全てを無かったことに……」


 炎は更に燃えさかる。

 ついに魔獣が倒れた。

 

 仕方なく、僕は魔獣の上から離脱する。

 それでも視るのをやめない。

 その内、白い火は魔獣から湖の氷へと燃え広がった。


 パギラの話の通りだ。

 僕の両目は魔力の宿るあらゆるものを燃やすことができるらしい。

 魔獣の生み出した氷は全てが魔力によって作り上げられている。予想通り、燃えやすい。

 敵だけを燃やす炎を見ながら、僕は心を込めて呟いた。


「ここで起きた悲劇をなかったことに……」 


 それからしばらくして、魔獣も、眷属も、生み出された氷も、全て消え去った。

 灰すら残らなかった。


 ○○○


「ほ、ほんとに出来た……」


 僕は全てを終わらせ、呆然と立ち尽くしていた。

 目の前には静かな水をたたえる湖がある。

 さっきまであった全て、僕の出した火が消してしまった。


「…………」


 あまりの結果に何も出来ないでいると、シルヴィさんとパギラが近寄ってきた。


「ごめんね。助けてあげられなくて」


 何もいなくなった湖を見ながら、シルヴィさんは頭を下げて、そう謝罪した。

 横に居るパギラは何も言わなかった。

 幻獣の魔女と幻獣。この二人が何を思うかなんて、僕にはおよびもつかないことだ。


 しばらく3人で湖をみていたら、シルヴィさんが突然僕の方を見て言った。


「さて、アイセス君にお礼をしなきゃ。貴方の眼の正体、パギラならわかるんでしょ?」

『おう。その眼を見てわからない幻獣はいないぜ』


 自信たっぷりにパギラは僕に向かって話す。


『それは『原初の火』と契約した一族の魔眼だな。お前は最も古い人間の一族の末裔ってことだ』

「だそうよ」


 物凄く簡潔な説明だった。


「え? 原初の火って? え?」


 急にそんなことを言われてもわからない。そもそも「原初の火」なんて初めて聞いた。結局これは何なんだ?


『それ以上は自分で調べな。そう難しいことじゃねぇだろ。ていうか疲れた。オレはそろそろ帰るぜ』

「パギラ、ありがとう。また今度ね」

『おう。長期休暇の時はちゃんと里帰りしろよ。ああ、そうだ、言うことがまだあったわ』

「なに? 言うなら今のうちよ?」


 パギラは再び僕の方を向いた。

 それから幻竜は、意外な程真剣な声音でこう言った。


『アイセス、俺からの頼みだ。シルヴィの友達になってやってくれ。こいつ、友達少ないんだ』

「なっ! パギラ!」


 顔を真っ赤にして杖を振り回すシルヴィさん。それを笑顔で避けるパギラ。


『ははは。じゃあ、またな』


 そんな短い挨拶を残して、パギラはあっさり消えてしまった。


「魔眼の正体ががわかったけれど。名前以外の情報がない……」


 微妙に落ち込む結果だ。名前がわかっただけ、かなりの前進と思うしかないか。


「ま、ゆっくり調べましょう。私も興味があるから、手伝うわよ」


 ちょっと照れた様子でシルヴィさんが言ってくれた。

 僕とシルヴィさんの協力関係は今回きりだと勝手に思っていたけれど、どうやらそうでもないらしい。


「あら、みんな来たみたいね」


 シルヴィさんの視線の先、湖畔に次々と人影が現れていた。

 魔獣が死んだのを確認して現れた生徒達だ。


「この結果は、良かったかな」


 僕は足下を見る。そこには男子生徒が一人眠っていた。

 クメルの取り巻きの、氷漬けになった生徒だ。

 彼は今、穏やかに寝息を立てている。

 火は破壊と再生の力、願って力を使えば、助けられるかもしれないとパギラが言っていた。

 どうやら、そこに嘘は無かったらしい。

 竜は嘘をつかない。覚えておこう。


「そろそろ先生達が来るみたいね。……やれやれ、校長に説明するのが面倒だわ」

「働きながら学生するのは大変そうだね」

「ええ、でも結構楽しいわ。あ、それでね。あの、それで、さっきの件なんだけど」


 シルヴィさんが急にモジモジしだした。意味もなく眼鏡の位置を直したりしている。


「えっと、友達っていうの?」

「あの、その、パギラがあんな適当なこと言うとは思ってなかったけど、お願いしてもいい?」

「そ、それは、凄く嬉しいけど」


 僕としては大歓迎です。


「ホントっ? 良かった。あのね、私、こう見えて友達がかなり少ないの。魔女って近寄りがたいみたいでね」


 想像以上にシルヴィさんは喜んでいた。まあ、魔女が近寄りがたいというのはわからないでもない。

 こんな事件でもなければ、僕も話しかけることは無かっただろうし。


「僕も友達はあんまりいないよ。自慢できることでもないけど」

「じゃあ、改めて。私と友達になってくれる? 友達が少ない者同士、ちょうどいいと思わない?」


 そう言いながら、シルヴィさんは僕に向かって手を出してきた。

 勿論、断る理由は無い。


「僕で良ければ喜んで」


 笑顔で答えながら、僕はシルヴィさんと握手した。

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