第6話「魔法の力」
あははは……
寝坊しましたァ!(土下座)
本っ当にすみませんでした!
第6話「魔法の力」
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今日は、いよいよ試験の日だ。
お父さんの度肝を抜く準備はできてる、大丈夫。と自分を落ち着けてみるけどやっぱり、試験ってつくだけで緊張しちゃうね。
試験は館の中庭で行われる。アルナに連れられてやや小寒い外に出た僕は度肝を抜かれた。
中庭にドームができている。いや、結界、なのかな。僕の視界に映るは六角形のよりあつまった薄青の半球。その中ほどにお父さんは立っていて、
「お、準備はもうできてるぞぅ」
と、僕を手招きしたのだった。
お父さんは一息ついたあと、
「それでは、これより魔導使用許可試験を行う」
そう告げた顔はもう既に仕事用の、口角の平らな顔だった。僕も気を引き締めなければ。
「たしか新魔術は攻撃をする類のものと聞いている。結界の端の方に案山子を立てておいたのでそれへうちなさい」
「わかっ……わかりました」
おっと危ない。素がでかけた。
示された方を見ると確かに案山子……は立ってい、いや、あれは案山子じゃない。形状だけは案山子と言えなくもないけどあれは案山子ではないと思う。素材が既に金属でできているのは勿論、よく見るとなんだか十字架に括り付けられた人にしか見えなくなってきた。そんな珍妙な形なのだ。お父さんの造形センスがよく表れてる。
まあ正直案山子の話なんてどうでもいいっちゃどうでもいいので僕は頭の思考をくるりと入れ替えて集中する。
詠唱、秘密を通したくてまだアルナの前で見せたこともないから成功するかは分からない。けれど唄おう。これが僕の運命を決める第一歩だ!
「《――我がエルーゼ・タトルの名において命ず。それは線分、ただ二本、平行な線分。しかし、分厚く、硬く、特有の光沢を持つもの。鉄よ、鉄よ、さながら巨大な一膳の箸としてこの世へ姿を示せ》」
このままではただ僕は二本の鉄の棒を呼び出しただけだ。当然まだまだ術式は続く。
「《――鉄箸に挟まれるはまた鉄。何よりも硬い鉄の欠片。しかしそれは側を切り落とされしもの。そう、それは柱。真四角の底を持つ柱よ、現れよ》」
そうそう、術式の練習中に気づいたことがあるんだけど、魔術で組み込む言葉はこの世界になくても効果を発揮したんだ。
魔術の「式句次第で強い魔法もうてる」とか「文字に魔力を込める」って性質がひっかかったからちょっと試してみたらできちゃったんだよ。
「《――流れよ、力、鉄の箸へと。流るるは雷。そう、電気の力。我が魔力すらも吸い高まり、鉄箸を溶かさんばかりに流れ、撃ちだせ!》」
ッバチィィッ!!
詠唱が終わった途端、鉄柱が電磁の力を得て馬鹿みたいな速度で飛んでいく。同時に、体からごっそりと何かが抜けた感覚。これが魔力なんだろうか。次いでやってくるのは――痛み。胸のあたりを抉り掘り返すような鈍くもあり、鋭い痛みだ。僕は膝から力が抜けその場にへたり込んで空気をもとめ喘ぐ。口元がぬるぬるしている、気がする。拭う、付いていたのは――、
あ、ダメだこれ
僕の意識はあっけなく暗転した。
◆◆◆◆◆
「このっ、何をやっとるんだこの馬鹿ぁ!」
目が醒めるなりお父さんは涙目で僕に向かって飛び込んできた。ちょっ、痛い重い退いて!
「今後はガーリスト様の許可が出るまで魔術中に自らの魔力を使わないように」
お父さんを退けたら次はアルナだ。どうやら魔力を吸わせるのは魔法を使い慣れていない僕にはとても危険なことらしい。
「うぅっ、ぐすっ、ひぐっ良かったぁ、もう目覚めないかと、思ってぇ、う、ひぐ、ぐすっ」
う、お母さんが泣いている。それだけで凄く、なんだろう、罪悪感が。
――でもね、お母さん。さすがにそれは言い過ぎだよとか考えてそうなので否定しておきます、お嬢様。実際お嬢様は重度の魔力欠乏により四日も瞼を上げることがありませんでした」
あ、アルナが遂に読心術を!?
「覚えてないです」
やっぱり覚えてるじゃないか。でも、そうか、そんなに危ないことだったのか。僕もあの痛みをもう一回受けたいとは思わないし、今後はやめておこう。
「しかしまあ、何はともあれ――
『生きてて良かった』
その場四人の声が重なる。
温かな空気に包まれて僕は再び瞼が、重く……なっ、た。
◆◆◆◆◆
結局僕が目覚めたのはそれからさらに三日後だった。
そして目覚めてから何日かはベッドの上で生活するはめになったので、試験結果をお父さんに聞きに行けたのは意識を失ってから二週間も経った頃だった。
「え、ああ、試験結果?言ってなかったっけなぁ、いや、言ってなかったか。……合格だよ、一応は。ちょっとまってなぁ」
お父さんは執務室の引き出しをがさがさと漁り、一つの水晶柱を取り出した。
曰く、どうやらそれは記録結晶というもので僕の成長をおさめるためにあの日も撮っていたそうだ。
そこに写された案山子は、胴体に綺麗な円形の穴が穿たれていた。いや、よく見るとその向こう、結界すら突き抜けて――あれ、館の壁にまで刺さってないですか?
「いやぁ、流石にまさか結界抜けるとはぁ思ってなかったからあれは焦った」
そう言ってお父さんは朗らかに笑い、顔に笑みを浮かべたまま、声も優しいまま、口調も変えず、
「と、いうわけで、どうしてあんな術式、式句が出てきたのかな?教えてくれるかい『魔術士エルーゼ』さん?」
僕のことを家族ではなく一人の魔術士として扱い、そう聞いた。