最終話
「斗真!今日仕事でしょ……って起きてたの」
朝、少しだけおしゃれな服を選んで髪を整える。閉じたままのカーテンからは、まだまだ続く夏の日差しが溢れていた。
思い切り開けると、その輝きが僕を抱きしめる。
『神奈川県……市沿岸で、カメラと女性の――』
エンジン音が近づいてくると、テレビを消して一度深呼吸した。
大丈夫。今日も、きっと。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
食器を洗う音と、お母さんの声。
扉の外は、目が眩むくらい眩しい世界が広がっている。
「おはようございます」
「おう」
相変わらずぶっきらぼうなマネージャーと、ひんやりして心地よい車内。その矛盾が嬉しかった。今まで気付けなかった、小さな幸せ。
「あっ、そうそう。昴が、ごめんだって」
「あ、ありがとうございます」
流れていく景色の上には、変わることのない青空が広がってる。
「あ……」
カナブンが、車にとまった。
必死にしがみついて、だけど耐えきれずに飛ばされていく。
咄嗟に僕は、窓を開けてカナブンの行った方を見てみる。小さな虫は、一生懸命羽ばたいて、どこまでも続く空へと飛んでいた。
「あの……」
「ん?」
僕も、飛べるかな。
ううん、飛ぶよ。君が照らす、僕だけの物語を。
「僕――」
その光が落ちるまでは、隣りにいてください
―完―




