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戦いの火蓋②

戦いの火蓋②


盗賊に盗みに入られてから俺は金を持ち歩くようになり、その金で初めて船に乗った時の同僚を見つけあの島へと運んでもらっていた。

「こんなこと言いたくないけどさ」

だが、島へ降り立つとあの時とは違う不満が生まれてしまう。あの時は少なくとも夜明けを何度か繰り返した。しかし、今回は二時間と時間は掛かっていない。思ったよりも近いならばなぜ、あの時あれだけの時間が掛かったのか不思議でしょうがないのだ。

しかし、船主を務める同僚は俺の不満に対して何食わぬ顔でおざなりに答える。

「あ? んなの、当たり前だろ。あの人売りが獣を使わず移動費削って一番安い移動手段選んだからな。でだ、波のある海を手漕ぎの船じゃ遭難はしかけるし、舵も取られる。あれで着いただけ運がいい方だ」

あれが基本的な移動だと信じていた俺からすれば、まだこの国で知らないことが多い。たったそれだけだった。

「しかし、マザーが切り捨てた盗賊連れて逃げようなんて、お前もイカレてるな」

「色々とあるんだよ」

「そうかい。一応言っておくけどな。金貰って船を出すのは仕事の一環だ。つまり俺に付いていた監視員からマザーに報告いってるはずだぜ」

それは予想していた。給料の面で働きぶりをチェックする仕事がある以上、必ずそうなるだろう。そもそも、マザーの目を掻い潜り簡単にあの国を出られるとも思っていなかった。

「分かってるつもりだ」

「そうかい、なら好きにしな。俺の仕事は往復も含まれる、しばらくはここに居るから、帰りたくなったら声掛けな」

「ああ」

元々俺は逃げる必要が無い。だが、盗賊を逃がさなければ、【ナレッジラウ】の裏切り者という元の世界へ帰るための手がかりを掴めない。そのために俺ができることは、あの国以外の土地へ来るしかなかった。

マザーが俺達を野放しにしているのはきっと、金にならない相手にこだわらず、いざとなったら同行している船主にでも捕まえさせるぐらいに思っているのだろう。

「行こう」

だから、今は与えられた時間を使って俺が帰るための情報を盗賊に聞き出すしかない。そう思いながら船から降りる盗賊に向かって言った。

「行こうってどこに? ここは国ではないってだけでマザーが管理する島だろ」

盗賊が言うそれは初耳だった。そもそも数日時間がかかる予定で、結構な距離が離れているものだと思っていた。

だから、思わず船主の少年の顔を見てしまう。

「他人の方が知ってるってのはどうなのかね。この島は食料調達の島だ。人はいなし、いたとしても虫か動物、後はどっかから逃れてきた犯罪者ぐらいだな。だから定期的に人売りが調べに来るんだ」

嫌味を一つ入れ、教えてくれる。

「っち、どの道マザーが見逃してくれない限りはどこに居ても同じか」

盗賊がそう言い、島の中へと勝手に進んで行ってしまった。

「おい、まて! あ、俺は戻るからそこにいてくれ」

「ああ」

やる気のない船主の少年を置き去りに盗賊の後を追いかけ島の中へと俺も入っていった。

一人、島の沿岸に残された少年は、適当に昼寝でもして過ごそうとロープを岩場に括りつけようとしたところで、

「あ? そういやぁ客が一人この島に来てたな。……まぁどうでもいいか」

そうして、船主の少年は眠りに着いた。

盗賊がどんどん奥へと行ってしまい、次第に海から森の深くへと風景が変わっていく。

そして盗賊がようやく止まり振り返ると、

「いつまで着いてくるんだよっ!」

「はぁ?」

逃がせ、と言ったり、着いてくるな、と悪態を吐かれると意味が分からなくなった。ただでさえマザーの許可を取らず、戻ってから何を言われるか分からない状況に追いやられている事で俺はむかついた。

「お前が逃がせって言ったんだろうがっ!」

「はっ、従業員であるお前が私を連れ出せるのはここまでだろうがっ。後は一人で逃げた方がマザーの手から逃げれるんだよ!」

確かに言っている事は正しい、だが、それならそれなりの態度ってものがあってもいい。なにより、俺は善意だけで盗賊を逃がそうとしたわけじゃない。

「だったら、俺の世界に行こうとしている奴の事を教えてからにしろよ!」

それが一番の目的だ。

だったのだが、盗賊から言われた言葉は、

「そんなもの知るかっ」

さすがにキレた。

「てめぇ、ふざけんなよ」

ドスの聴いた声で盗賊に近づいていく。我慢の限界だ、例え女だろうと手加減できそうにない。例え殴ることはしないとしても、マザーに突き出すぐらいの覚悟はしてもらう。

「俺が知っている事は、依頼してきた奴がアグリって言う【ナレッジラウ】の副守備隊長ってことと、そいつがそれらしい話をしていたってことぐらいだ。詳しく知りたかったらそいつを当たるんだな」

俺は知らない名だった。だが、副隊長と言うくらいだからローヤルなら知っているだろう。そして、そいつが裏切り者の正体。

「ああ、そうだ。これ以上因縁を解消するためにももう一つ思い出したことを教えてやる。だから、私の事はマザーには黙っておけ、いいな」

素直には頷けない。だから、

「話し次第だ」

「ふんっ、私が知っている限り、アグリって奴の他に裏切ってる奴は大勢いる。アグリって子悪党は国の乗っ取りを企んでいるようだけど、メイクスの世界ってものには興味がなさそうだった。だからメイクスの世界を探している奴はその中の誰かだろうな」

たらい回しになっている状態に嫌気がさしてくるが、突き止めない事にはしょうがない。

「分かったならいいだろ。俺は行くから――な、なんだ……あれ?」

もう要件も済み、盗賊がどこへ行こうと俺には関係なくなろうとした時、盗賊が今まで移動してきた方角を見て化物でも見るような驚いた表情で指を指した。

一瞬、何か騙そうとしているのか感じた俺だったが、今更そんな小細工をする意味がないし、あまりに深刻な態度、指した指が震え恐怖に侵されている姿は嘘とは思えなかった。

俺は後ろを振り返り、その『何か』に視線を向ける。

「え?」

本来俺が持つ日常にあるべき存在、だが、この世界では色めきだって違和感が浮き彫りになるその姿に一歩退いて驚きを声に出した。

「どうして……」

なぜ軍服姿なのかは知らないが、それは紛れもない俺の世界にいる人間の姿。

驚きが次第に歓喜へと変わる。俺と同じようにこの世界に来てしまった人間だと疑わなかった。

――その人間が話しかけてくるまでは。

「ふふ、その反応だと実験は間違いなく成功しているようですね。メイクス、いえホタルさん、私ですよアバン・ノーリッジです」

一瞬で混乱した。

盗賊の話ではアグリって男以外の犯人はメイクスの世界へ行こうとしている、メイクスに興味がある人間。そして、目の前に現れたノーリッジさんは現実世界の姿で現れた。

つまり、裏切り者はノーリッジさんっていうことになる。

「なんであんたが……」

あれだけ俺の話を楽しそうに聞いてくれて、親切な対応で俺を見ていてくれた人が裏切り者の仲間だったことに落胆が隠せない。

「さて、お話をしていただけますか?」

頭の中でいろんな感情が駆け巡った。

とにかく訳が分からなくなった俺に盗賊の声が届く。

「奴はヤバイ。勘がそう言ってる」

怯えた様子の声に、目の前で敵となって現れたノーリッジに向かって俺は考えもなしに飛びかかっていた。

「困りましたね。冷静な判断をしてほしかった。できれば【自由な国】の予想外を期待していたのですが」

マザー達の前に現れた事は今知った、だが、何をしたかまでは分からない。ただ分かることはノーリッジという男が、裏切り者で、何かしたのならばそれは悪い事でしかないということだった。

「うぁわああああああああああああっっっ!」

殴りかかっていたはずの俺は気づいていた時には地面に転がっていた。

不可解な現象、これを俺は知っている。

ノーシと出会った際、そして絵本で描かれている通り、メイクスと呼ばれる俺の本来の姿の存在には、この世界のモノは触れることはできない。だから、ビューイが飛びかかってきた時のように磁石が反発するように弾かれていた。

「少しは冷静になれましたか? まぁ、冷静でなくとも聞いてもらいます。あなたにとっても興味がある話ですよ。まず、私がこの姿になる方法の種明かしですが――」

説明に必要と胸ポケットから、薄い透明がかった手袋と、液体の入った小瓶を取りだした途端、予期せぬ人物が俺と同様の理由で弾かれた。

「ぐぁっ」

ノーリッジから疑問があがる。

「なぜ、あなたが……? ――っ!?」

そして、ノーリッジは気づいた。取り出した物が二つとも手から無くなっている。無くなった物を探し、在りかを見つけた先に倒れながらにやりと笑みを浮かべる盗賊の姿があった。

「へっ、逃走するにも金が要るんでね。本は無くなったが、これは価値があるだろうな」

驚いたのは真実、だが、混乱している俺にどれほどの危険があるのか確かめさせるために煽ったのは演技、瞬時に判断し本領を発揮した盗賊は立ち上がると迷うことなく逃げ出した。

「まてっ! くっ、これでは時間がっ」

ノーリッジが盗賊の後を追っていなくなる。その間に俺は自分の置かれている状況を頭で整理して、立ち上がった。

盗賊を追いかけるのは必然だ。なぜなら、あれは元の姿に戻るための道具だと明かされている。それにだいたいの事はおおよそ見当がついた。

だからやるべきことはノーリッジよりも早く盗賊を捕まえ、盗まれたものを俺が手に入れること。その為に、

「いくら姿が現実のものになってもノーリッジは老人だ。追い付く意味でも俺の方が有利、だけど完全にこの世界に慣れた俺の体力で盗賊に勝てるのか……」

むやみやたらに追いかけないのは、盗賊がまだこの島から抜け出す方法がないかだ。【自由な国】程広くはない島で、逃げ道はさほど多くはない。最悪、海へ飛び込んで逃げる可能性はあるが、それならそれで船を使って追いかければいい。

問題は捕まえ方だ。

すでに一回取り逃がした経験があり、あの時捕まえたのはマザーの手。それだけの作戦がない事には捕まえられない。

だが、急な出来事に準備もなければ考えている時間もそんなにはなかった。

「結局、単純に追いかけるしかないのか」

頭を使うだけ使って良い案が出なかった俺は、結局走るべくどの方向へ進むか検討を付ける。せめて周り込めるかどうかぐらい試しながら行くしかない。そう思ってスタートを切ろうとした時だった。

近くの木々が音をたてて動いた。

「おやおやおやおや、メイクスさんではないですか?」

草むらから草木を体中に付け出てきた人物はあの時の客だった。宿屋でマザーに喧嘩を吹っかけるような真似をし、そして気味悪いウインクを俺に投げてきた男性。

「どうしてあんたが、ここに」

そういうと男性客は今までの経緯を見ていたように、

「盗賊を捕まえるのならば、いい方法がありますよ」

そう言ってまたウインクを投げてきた。

「うっ」

さすがにひいてしまった俺だったが、頼るしかなくお願いするのだった。



のほほんとした雰囲気を持つ男性客は走ることなくのんびりと歩き続け、俺は焦りでイラつき始めていた。

「あのさ、あんた――」

「おやおやおやおや、そういえば名を名乗っていませんでしたね。(わたくし)はダフルと申します」

「俺は火村蛍っ」

文句を言うにも手伝って貰っている立場で、一応はあの宿屋の客、どうにか感情を抑えながら何度目かになる自己紹介を済ませた。

すると、

「ふふふ、焦らなくとも大丈夫ですよ」

俺の態度から胸中を悟ってそんな事を言ってきた。

「この島には先日私が仕掛けた罠がございます。本来この島に生きる動物を調べ、万が一怪我などをしていた場合治療をしているのですが、動物のように無暗に動き回ると人間であろうと引っかかってしまうでしょう」

「引っかからないって言う保証は?」

「ふふ、ありませんね」

「だったら――」

「でも引っかかってしまうんですよ。人間もまた動物ですからね」

「はぁ?」

「私も無暗に罠を仕掛けているわけではございません。動物の習性を考え、本能で行ってしまう行動の先に罠を仕掛けているのです。例えば、人はとっさの判断の時左を選んでしまう、そのようなものです」

「なんであんた……あいや、ダフルさんはそんなことを?」

興味本位というよりも怪しすぎる行動に、俺にだけ向けられてきた視線を事前に知っておきたくなった。なぜなら、知っておかないとそっちの気のある人だったらできるだけ距離を離して歩きたい。

「おやおやおやおや、警戒心を持たれてしまいましたね。それに言い忘れていました。私は研究者なのです」

「研究者?」

「はい。主に動物に関してです。それと、これも話しておいた方がよさそうですね。この研究をする前はメイクスに関しても調べていました。だから宿屋でホタルさんを見ていたのです。それに及ばずながら手助けという意味でもあのイベントの賭けを煽るような真似もしました」

それがあのウインクかよ、と思う。しかし、ノーリッジの事もあり、そういった類の研究者に疑いを持ち始めている。一緒に行動をしていいものか、思考しようと脳が働く前に、

「ですが、私は挫折してしまいました」

「挫折?」

「はい。未知という誰しもが興味を抱かれる課題は、時が立てば経つほど研究者には不安を与えます。そして私はその不安に押しつぶされてしまったのです」

「それで動物を……」

「はい。動物はすでにいますし、新種なんかを見つけた時はそれと同様の喜びがございます。メイクスの研究も無駄になりませんでしたし」

メイクスも動物には変わりない。

「だけど、ダフルさんは俺を偽物だとは思わなかったんですか?」

「そうですね……、はい、偽物だと思いましたし、今でも疑っていますよ。しかし、研究者にもその者がメイクスかどうかなんてことは調べてみないと分かりません。ですが、その者を調べる前にいなくなられたり、お亡くなりになられると調べる事すらできなくなってしまいます」

そこまで言うと俺の瞳をじっと見つめてきた。それが、気味が悪いんだと、言いたくなるが、その意味に気が付くと思わず声を出してしまう。

「そうか、」

「ええ、おそらくノーリッジさんもそうしていたのでしょうね。あの国にいるローヤルさんはすぐに手を出すと有名でしたから」

それであんな回りくどい方法で俺をメイクスかどうか調べたのか。

「――っていうか、あんたさっきかなり前から覗いてたな?」

「ふふふ、ダフルです。動物などを観察する時の癖で気配がすると息を殺してしまうんです」

怪しさに限りがない……。

「ついでに訊いてもいいか?」

「何でしょう?」

「ノーリッジはメイクスの姿になった。それってどうやったか分からないか?」

そういうと顎に手を当て少しの時間考える。もしかしたら、ノーリッジからそれを聞き出すよりも簡単に元の姿に戻れるかもしれないと少しは期待を込めていた。

「申し訳ありませんが、私には分かりません」

「ま、そうだよな」

「ええ、ノーリッジさんはあの国の王の側近としても有名ですが、メイクス研究者の第一任者としてもかなり有名なのです。だからこそ、覗いていた私も驚きました」

それは、この世界で俺の世界の姿に辿りついた当たり納得できる。そして、そこまで辿り着いたノーリッジは俺の帰り方にも辿りついた可能性を秘めている。

「おやおやおやおや、希望に満ちた表情ですね」

「そんなことまで分かるんですか?」

表情を強張らせたつもりで、どちらかと言えば決意をしたつもりだったのが、ダフルさんには心の深層まで見破られてしまった。メイクスの研究を諦めたと言っても十分すごいと感心したのだが、

「ただの勘です」

俺は苦笑いしかできなかった。

と、そこに、

「おや?」

突然足を止め、歩いてきた方角からもう少し東の方向に視線を向けてダフルさんが立ち止まった。

「なんだ?」

「どうやら捕まえたようですね」

「え?」

「聴こえませんでしたか? 女性の悲鳴があちらの方角から、それもそんなに距離は離れていません」

「地獄耳だな」

そんな耳を持っているなら、覗いていなくても会話ぐらい聴こえていそうだ。

「行きましょう」

「ああ、」

ようやく走り出す、そう思ってダフルさんが先頭を一歩踏み出した。

スボッ!

そんな音と共に俺の視線からダフルさんが沈んだ。

「おやおやおやおや、またやってしまいました。飛びガエルという縦長の動物を捕まえる罠をこの辺に仕掛けていたのでした」

そういえば、この人と初めて会った時ずぶ濡れだったことを思い出した。あの時も自分の罠に引っかかった後だったのか……。

「抜け出すまで時間が掛かりますので先に行っていてください。あちらの方向です。どのみち私のお迎えの船が来る予定は夜になっていますし、それまでこの島に残りますので」

なんというか間抜けな姿を放っておくのは申し訳ないと思うも、今は一刻を争う。だから、お言葉に甘えて、先を急ぐことにした。

「すいません、じゃあ行きます!」

「はい。頑張ってください。あ、そうだ、」

「はい?」

いざ走りだろうと何かを思い出したように呼び止められる。

「ノーリッジさんは母国愛がある人でした。なぜ、あのような事をしたのでしょうか?」

「さ、さぁ?」

そんな事を考えるよりもやるべきことがあるだろうと思いながら、俺はダフルさんを見捨てて教えられた方向へ走り出した。

そして、辿り着いた先には、網の中でジタバタと足掻く女盗賊が木に吊るされていた。

「間抜け」

見上げながら侮辱してやると、ようやく盗賊は俺が下にいることに気が付いた。

「うるせぇ、てめぇだって草だらけじゃねぇか!」

ここまで辿り着くまでに俺もいくつかの罠に引っかかりそうになった。その所為で足が泥に嵌ったり、大量の枯葉に埋め尽くされそうにもなった。だが、それを掻い潜りこの場にいるのだから、盗賊よりはマシだ。

「いいから、助けろ!」

「分かりきってる事言わせるなよ」

俺が女盗賊を追いかけてきた理由など一つしかない。ノーリッジから盗み出した、俺が元の姿を取り戻すための道具が目的だ。

「ちっ、ほらよ。これでいいだろ」

意外にもあっさりと盗賊がその二つを落としてきた。

俺はそれを確かめる。

「さすがに自分の状況は分かってるんだな」

ここで盗賊が渋ってもメリットが無い。元の持ち主が追いかけてくる危険な状態で、罠から抜け出せないでいる以上、俺に見捨てられるのはいずれ捕まってしまうという事だ。

「いいから、早くしろよ! あんな化物に二度も会いたくねぇ!」

「分かったから、ちょっとまってろ」

下ろすぐらいはしてやろうと網から繋がれたロープを探し、木に結ばれている部分を解いてやる。そのまま落ちるのはさすがに危険だけど、高さ的にも下から抱えることぐらいはできる。

仕方なくロープを解いくと急いで盗賊の下に回り込むと、どさっ、と俺の腕の中に盗賊の女が落ちてきた。

「な、何してんだお前っ!?」

すると、突然慌てふためきだした。

「なにが? 受け止めないとさすがに危ないだろ」

「そ、そうか」

面倒くさいと思いながらも説明してやると今度は、大人しくなる。

「メイクスは変な存在だな。普通、盗賊相手に優しさなんて持つ奴いないぞ」

それには答えなかった。その行為は俺が育った環境がそうさせたことで理由など持たなかったからだ。

黙ったまま、俺は網で絡まり蹲った盗賊を静かに地面に下ろしてやる。このままでは逃げ出すにも網から抜け出せそうにもないので網に手を掛けると、

「おおおおおい、ち近くないか?」

絡まった網を見る為にも、顔を近づけるのは当たり前の事だった。それなのに、また慌てて噛み倒す女盗賊は明らかに挙動不審だった。しかも顔を赤くし、犯罪者の姿はまるっきり失われている。

「少し黙ってろよ。集中できない」

「お、おう」

俺は細かい作業はあまり得意ではない。こういった場合ハサミで切るか、手先の器用な太陽任せだった。だから、目を細めながら集中していた。

そんな時、ふいに盗賊が不思議な事を言う。

「お前、なんで笑ってるんだ?」

突然、そんな事を言われ自分の顔に手を当てる。

すると、確かに俺は笑みを零していた。

「ああ、そうか」

そして、徐に盗賊に思い出話をするように話し始めていた。

「最近元の世界の事思い出すこと減ってきてたからな。思わず、元の世界の友達の事を思い出したら、笑えてきた」

そうだった。俺は元の世界に帰りたい。最近では、目的は覚えていても、理由まで考える事が無くなっていた。だから、思わず懐かしくて表情が緩んだんだ。

「手伝おうか?」

急に盗賊からそんな事を言われ、思い出に耽っている所から素に戻った。

「イカれのか?」

あまりに当たり前に言うもんだから、冗談だと思ったのだが、盗賊はハッとするように自分が口にしたことを驚いてからいつもの表情に戻す。

「う、うるせぇっ!」

反応から案外真剣に言ってくれたものだと知った。こんな形で盗賊と距離が近づくとは思っていなかったが、純粋にその言葉は嬉しかった。

「ありがとう」

「うっ……、あああっ、くそ! こんな俺は俺じゃねぇ! そういやお前の名前はなんだ!」

今更だなと思う。今まで俺の名前なんていろんなところで聞いていただろう。

「火村蛍」

「ホタルだな、覚えた。私は、グレイだ。ちゃんと覚えろ」

「なんなんだ?」

「ホタルが帰るのを手伝ってやるよ」

それは嬉しいが、

「そんなことより、逃げる事考えた方がいいんじゃないか?」

「だからっ、お前が帰る世界に私も逃がせって言ってんだよ!」

なるほどね、と思わず納得してしまった。

「どうでもいいけど、俺をメイクスだって信じる人がまた増えたな」

色々な形で信じてもらえるのは嬉しいけど、ノーリッジがあの姿になってしまった以上、いずれ誰もが疑えなくなる。そしてノーリッジを敵として立ち向かうためにも仲間が多いのは心強い。

「ふんっ、逃げる為にもさっさと解けよっ」

「じゃあ話しかけるなよ」

ロープをいくつか解き集中している途中、

「そういえば、明確に帰るために手伝って貰うの初めてかもしれないな」

そんな事を呟いた時だった。

「ホタルッ後ろだ!」

――その瞬間が急に訪れる。


「手伝う? その必要はなくなりますよ」


当たり前だと思っていた姿の人間が間近に現れ、その影が俺達を飲み込んだ。

「――――うぁわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!」

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