2.妖怪活動
「まさか自分が妖怪に転生するなんて………しかも異世界」
あまりにも嘘のような出来事すぎて、まだ実感が湧かない。
「そもそも俺は、一体どういう妖怪なんだ?」
黒い靄のような見た目の妖怪なんて知らない。
もっとこう、鬼とか龍とか河童とか……いや、河童は嫌だな。
ともかく!できれば有名なやつが良かった。
軽く調べた感じだと、靄のような見た目通り、どうやらこの身体には当たり判定がなしく、できることといえば空中を漂うことと、声を出すことくらいだった。
………ん?待てよ。
もしかしてこれ、呼子とかいうやつなのでは?
声の妖怪といえばそれしか思いつかない。
他に妖怪のヒントがあるとするなら………。
―――――
名前:無し
種族:妖怪
妖力:10
スキル:《虚像顕現》
―――――
「やっぱりこの、『スキル:《虚像顕現》』だよな」
文字通り考えるなら、虚像を顕現させる能力なんだろうが………。
「うーむ、さっぱり使い方がわからん」
存在しない首を傾げる。
ひとまずスキルの事は後回しとして、何をするのかだが……。
まあひとまず呼子っぽいことでもしとこう。
呼子がどんな妖怪なのかあまり知らないが、とりあえず声で人を脅かしとけば大丈夫だろう。
違ったら違ったときだ。
「よし、やるぞ!」
気合を入れて空に飛び立つ。
もちろんあのうさぎは放置である。
俺に攻撃してきたのが悪い。というか、そもそもこの身体ではどうすることもできないしね。
◇◇◇◇◇
しばらく飛んでいると遠くの方に街が見えたので、そちらの方向に向かう。
すると早速。
「居た」
腰に剣を下げた細身の男が何やら葉っぱを採取している。
初めてみるが、あれが冒険者ってやつなのだろう。
薬草採取とかの依頼なのかもしれない。
にしても思ったより地味だ。
コスプレした男が、町内会の草むしりに参加したみたいな。
「こんばんはー!」
あ、やべ、間違えた。
地味すぎて普通に声かけてしまった。
「誰だ?」
男がこちらに顔を向けるが、もうそこにはいない。
男は不思議そうに辺りを見渡していた。
……もう、このまま続けて驚かそう。
「おーい!」
もう一度声をかける。
男はすぐに声の方向を見るがもうそこに俺はいなかった。
「おーい!おーい!おーい!」
俺は四方に移動しながら声を上げる。
「ッ!?な、何なんだよ!これ!」
男はそう叫ぶと、逃げるように立ち去っていった。
「よし!完璧。俺って妖怪のセンスあるかも」
最初にしてはだいぶ上手くできた気がする。
「この調子で次に行くぞー!おー!」
――こうして俺の、妖怪としての活動は始まった。
◇◇◇◇◇
次の獲物を見つけたのは、それからすぐだった。
「むむむ?あれは?」
目の前では四体の緑色の化物と二人の冒険者が戦っていた。
化物たちは身長一四〇センチほど。ボロボロの布を纏い、手にはそれぞれ粗末な棍棒を握っている。
「も、もも、もしかしてあれは!ゴブリンというやつでは!」
初めて見るゴブリンに少し興奮していると、それを遮るかのように―――
「グギャア!」
ゴブリンの叫び声が響いた。
次の瞬間、ゴブリンたちは一瞬で切り伏せられてしまった。
「うっわ…グロい………」
思わず引いてしまったが、妖怪になったからか、明らかにこういうものへの耐性がついている気がする。
まあ、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
俺の目的はこの冒険者だ。
「おーい!」
気を取り直して、早速俺の仕事を始める。
やる事は先ほどと一緒だ。
「おーい!おーい!おーい!」
そう叫びながら周りを回る。
側から見れば完全に変なやつだが、俺は真剣だ。
冒険者達も最初は気にしていなかったようだが、次第に違和感を覚えたようで、武器を構える。
「い、一体何が起こってる!」
「知らん!」
二人は互いの背中を預けるようにして立ち、周囲を警戒し始めた。
それから何度か繰り返してみたが、二人が逃げ出す気配はない。
「うーん、どうしようか」
一度声を出すのをやめ、考える。
このまま続けても意味がなさそうだ。
「あ、そうだ!」
俺は最後に、自分の体のモヤを集め、人型にする。
しばらくして、何も起こらないことに安心したのか、冒険者たちの警戒が少しずつ緩んでいく。
その隙を見て、俺は音もなく二人へと忍び寄った。
そして――
「おーい!!!」
大声で叫ぶ。
「「うわっ!?」」
二人の冒険者は驚き、反射的に剣を振りかざした。
だが、俺の体は剣をすり抜けるように霧散し、そのまま宙へと飛んでいく。
「おおー!」
思わず感心してしまう。
やっぱり、この体って便利だな。
最後の脅かしを終え、満足した俺は、また次の獲物を探し始めた。




