episode_10 罰ゲームの本当の意味 (修正版)
西田さんが俺のことをショッピングに誘った理由は、俺への好意ではなく罰ゲームだった。
俺としては、西田さんになんとか振り向いてもらえるように、あれこれ尽くしたつもりだったものの、全部何も無意味だったのだ。
あと4日で振られる。何をしても結局4日で振られる。
そのことを知ってしまった俺は、あと4日間西田さんとどのように関わっていけばよいかわからなくなってしまった。
月曜日の朝。また今日も西田さんは待ち合わせの電車に乗ってこなかった。
今日も学校を休んでいるのか、それとも俺のことを意図的に避けているのか__
どちらにしろ、多分西田さんもあと4日間俺と関わるのが気まずいのだろう。
俺は1日中、無力感に包まれていた。できない。何も俺にはできない。俺の都合に合わせて世の中は動いていないのだ。
機械的に1日を過ごした。放課後、部活が終わって1人で帰ろうとしていると、3組からまた喋り声が漏れていた。
その声を聞いた瞬間、俺のなかで今までこらえていた何かが切れた。
その声は、聞いたことある声だった。木曜日も、土曜日も、そして昨日も。岡田里奈たち数人の声だった。
西田さんに俺と1週間だけ付き合わせて振るように指示したアイツラの声だ。
俺の気持ちを弄びやがって⋯。一発なにかブチギレてやりたい気持ちになった。
俺は反射的に3組の教室の前に来ていた。そして何を話しているか聞き出そうとして耳をそばだてた。
昨日のショッピングモールのことについて話しだしたらすぐに教室のドアを開けて怒鳴ろうと考えていた。
「あ、あの…すみません。何してるんですか? 」
後ろから女性の声がした。その瞬間、我に帰った。血の気が引いていく音がした。女子5人が教室で話していて、それを外から俺が聞いているという構図。ストーカーだと勘違いされてもしょうがないからだ。
とりあえずなにか言わなきゃマズイと思って、俺は女性に声をかけた。
「あっ、すみません。教室に入りますか?」
「いや、それより、あなた佐藤航さんですよね?香織ちゃん(西田の下の名前) の彼氏のだった」
ーーん?彼氏だった…だと?なんで過去形なのか?あと4日後にふられるが、一応まだ彼氏してるはずなんだけどな…
女性はそのまま続けて言った。
「私、3組なんですけど、香織ちゃんがすごく心配で⋯。ここ数日、学校にも来てないし、なにか知っていますか⋯?」
俺は西田さんに対して何も出来ない。無力の存在だ。その思いが自然と言葉に出ていた。
「俺は西田さんのことがわかりません。無力なんです。それに、あと4日で彼氏でもなくなりますし」
「えっ...」
女性は動揺し始めた。動揺したまま続けて小声で言った。
「えっとその、佐藤君はきのう西田さんのことを振ったんじゃないんですか???」
ーーーは???
ない。そんなことは決してない。確かに小さな小競り合いはあったが…ちゃんと帰りは一緒だったし。
それにそもそも、俺が振るってどういうことだよ。
俺は振られる側なんだぞ。
俺は断言した。
「いや、、そんなことないですよ。帰りも一緒だったですし」
女性は驚いた様子で言った。
「え、本当ですか…?」
「はい」
「ほんとのホントに?」
「本当ですよ」
「本当と書いて本当??」
「あぁマジですよ」
「本当によかった…!昨日別れたって噂を聞いていたものですから。無理なお願いかもしれませんが、私は、佐藤くんにずっと香織ちゃんの彼氏でいてほしいんです」
ーえ?
俺は思わぬ返答にまたもや耳を疑った。さっきはもう振ったの?って聞いてきたと思ったら今度はずっと彼氏でいてほしいだって?
どういう風の吹き回しか。俺はただ振られる運命にあるのに。
「それってどういう?」
聞き返した。
「ここで立ち話していてもアレなので、2組の教室に入ってお話しましょうよ」
女性はそう言って、2組に入っていった。俺もそれに続いて入った。
俺は自分の席に座り、隣の空いている席に女性を座らせた。
「すいません、さっき言ってなかったのですが、私、金田と言います」
金田⋯もしかして、須田の彼女さんか。ということはこの人は西田さんについてなにか知っているのか⋯?
俺はさっきの「彼氏でいてほしい」と言う言葉の真相を聞きたかったので、早速食い気味に聞いた。
「金田さん⋯あの、さっきの"俺に西田さんの彼氏でいてほしい"という発言はどういう意味だったんですか?俺、昨日須田から、次の木曜に西田さんから振られるって聞いて…」
俺がそういうと、金田さんはアチャーという顔をしていた。
「それはすみません。うちの須田が。どうか忘れてください」
「は、はぁ…」
俺は少し引いた。
「もし香織ちゃんが本当に佐藤くんのことを振っちゃったら、その後香織ちゃんがもっと大変な目に合うかもしれないんです」
「⋯え?」
俺は困惑した。
「香織ちゃん、いま里奈たちと揉めてて⋯。里奈たち、仲が悪い人には何でもしちゃうから、今すごくひどいことをされようとしているんです。」
「待ってください、西田さんがわざわざ俺と一週間付き合っているのは罰ゲームのためと聞きましたけど、一週間付き合って俺を振ることが、それで岡田たちの目論見じゃないんですか?」
「それが、里奈たちの思惑は、どうもなんか違うらしくて⋯。里奈たちの真の目的は、木曜日に香織ちゃんが佐藤くんのことを振ったら、香織ちゃんを"1週間で一途な男の子を振った悪女"としてみんなに話をばらまくことらしいんです。佐藤君を振ることで、香織ちゃんのことを貶めようとしているんです」
俺は言葉を失った。岡田たちの陰謀で西田さんは俺と仕方がなく付きあって振ろうとしているのに、いざ西田さんが俺を振っても報われないなんて⋯。あまりにも可哀想過ぎる。可哀想過ぎない⋯か?
「私⋯香織ちゃんが可哀想で仕方がなくて⋯。香織ちゃんがよりひどい目に合わないために、佐藤くんには香織ちゃんと木曜日以降もなんとか一緒でいてほしいんです。お節介なんですけど」
俺は返答に詰まった。西田さんと一緒にいてほしいと言われても、そんなこと不可能な気がしたからだ。
西田さんは岡田の言いなりで俺と付き合っているのだから、だとするとどう説明すれば西田さんは木曜以降も付き合ってもらえるんだ⋯?
「うーん⋯」
ガラガラガラガラ
俺が言葉に迷っていると、扉が開く音がした。
すると、須田が外から入ってきた。
「おっ、佐藤と金田がふたりきり〜?佐藤、もしかして俺の彼女をこっそり取ろうとしていたのか?笑
何やってんだよ、お前も彼女いるだろ笑」
須田が冗談交じりにそう言ってると、金田さんが本気な顔で須田に言った。
「ちょっと、昨日佐藤くんに”木曜日には香織ちゃんにに振られる”とか言ったこと謝りなさいよ。そんなこと言ったら⋯」
えぇ…金田さん須田に対しては全然キャラ違うじゃん…。
「え?あぁ、あれか。悪い悪い。」
金田さんと須田、二人の会話を聞いているとなんだか心細い気持ちになった。
まず、西田さんは俺のことなんか全く気がない。そして俺のことを木曜日に振ろうとしているはず。それをどうやってあと3日間でやめさせればよいのか?
⋯出来る気がしない。こんなの現実的じゃない。
ガラガラガラ_
しばらくすると、須田と金田さんは教室から出ていった。
教室から俺以外誰もいなくなり、物音一つ聞こえなくなった。
俺はなんだか息苦しくなってしまった。




