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転生したら第5王子で兵法(孫子)と法家(韓非子)で、無双王を目指す  作者: ひょっとこ、とことこ
三年の刃、静かに研がれる

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初陣の後、ミア姉様の暴走 休日番外編

討伐の翌日は…休みだった。


フリッツが珍しく「明日は自由にしていい」と言った。

全員が顔を見合わせた。

フリッツの口から「自由」という言葉が出たのは、修行が始まって初めてだった。


ヴォルフガングは右腕の傷があるので宿舎で休んでいる。

残り9名が朝食の後、食堂のテーブルを囲んでいた。


「街に行こう、まちに〜でよ〜!!」


ミア姉様が言った。

全員がパンを口に運ぶ手を止めた…


……朝食が始まって30秒だった。

……誰もまだ何も言っていなかった。


「……ミア姉様。今、朝食の途中です。」


「食べながら決めればいい!」


「食べながら決める話ではありません…」


「街! 市場! 買い物!!」


三回言った。

しかも段階的に短くなった。


ラウルが「いいな!」と言った。

クルトが「飯食いたい!!」と言った。

ニコラスとマルティンが顔を見合わせて静かに頷いた。


エドが…少し間を置いてから「……行く」と言った。


エドが自分から「行く」と言った。

それだけで、今日はいい日になりそうだった。


ヴィクターが静かに手を挙げた。

「……護衛の人数は?」


「いらない!」とミア姉様が即答した。


「殿下がいます」とヴィクターが言った。


ミア姉様が一秒止まった。

「……二名で!」


「五名必要です。」


「三名!」


「譲って四名です…」


「……三名半!!」


全員が黙った。


三名半とは何か?

誰も聞かなかった…

聞いてはいけない気がした…


結果として、結局全員で行くことになった。


「デートさせてよ…、可愛い弟とのデート…」


…………



街は、にぎやかだった。


王都の外れにある市場だった。

食料、布、陶器、薬草、香辛料、武具の端材。

ありとあらゆるものが並んでいた。

人の波と、怒声と、笑い声と…値切り声が混ざっていた。


ミア姉様が、目を輝かせた……


…まずい。

……この顔を知っている。

………玄狼衆のオークションで初めて会った時と同じ目だ。


「ルーク! あそこ!!」


走った。

俺たちが追いついた時には、ミア姉様は果物の露店の前に立っていた。


「おじさん、これいくら?」


「1個銅貨3枚だよ嬢ちゃん!」


「2枚にして!!」


「無理だよ…」


「じゃあ5個で10枚!」


「……まあ、わかった、それでいいよ!!」


「よし、10個で18枚!!」


「ちょっと待って…」


店主が計算し始めた。

ミア姉様が笑顔で待った。


「……十個で十八枚。……しょうがないね、持ってって!」


「やった! じゃあ20個で!!」


「嬢ちゃん!?」


…勢いで2倍にした。

……店主が頭を抱えている、本当にごめんなさい。

…………俺も頭を抱えたい。


「……ミア姉様。二十個の果物をどうするつもりですか?」


「みんなで食べる!!」


「9人で二十個は多すぎます!」

「ヴォルフの分もあるから10人、あと毎日食べれば5日で終わる!」


「ここから宿舎まで誰が運ぶのですか?」


ミア姉様がラウルを見た。


ラウルが「……な、なんで俺を見た?」と言った。

ミア姉様が「頼もしそうだから!」と言った。

ラウルが「まあ…持つけど…」と言いながら袋を受け取った。


…ラウルがあっさり陥落した。

……「頼もしそう」の一言が効いた。

………ミア姉様は人の扱い方を知っている。


…………



次は布の店だった。


ミア姉様が青い布を手に取った。

「これ、ルークに似合いそう!」


「俺には要りません。」


「絶対似合う!!」


「要りません…。」


「…じゃエドに似合いそう!!」


エドが無言で一歩後退した。


「……エドに布を買ってどうするつもりですか?」


「似合うから!!」


「それは理由になりません…」


「似合うのに着ないのは損だから、それは損するの!」


「損得の話でもありません!!」


ミア姉様が店主に向き直った。

「おじさん、この布1反いくら?」


「銀貨2枚だよ。」


「高い。1枚半!!」


「…無理だよ。」


「じゃあ端切れも一緒につけて二枚!!」


「……端切れはつけるよ、お嬢さん圧が強いから…」


「やった! じゃあ三反!!」


「嬢ちゃん最初から三反買うつもりだったろ!?」

店主が鋭く見抜いた。


ミア姉様が少し笑った。「ばれた?」


「ばれてるよ!!」


「じゃあ2反半」

「半反って何だよ! 3反買ってよ!!」


ラウルが俺に小声で言った…

「……これ、毎回こうなのか?」


「……全力の時だけです。」


「これが全力なのか?」


「最大出力です…」


クルトが「怖い…」と小声で言った…

ニコラスが「すごい…」と小声で言った。

マルティンが「あの店主、よく耐えてる」と小声で言った。


ヴィクターが静かに言った。

「…情報収集と交渉術は、実戦に近い、勉強になります。」


……ヴィクターが何かを学んでいた。

……学ぶ場所が違う気がするが、間違っていない気もした。


最終的に、布二反と端切れ三枚と、なぜか小さな陶器の置物がついてきた。

店主が「もうなんでもいいや…」という顔をしていた。


…………

ごめん、店主さん… 諦めて…あなたが正解だから…



食事処に入った。

凄く疲れた…


八人で長テーブルを囲んだ。

肉と野菜の煮込み、黒パン、スープ。

学院の食堂より少し荒削りで、しかし温かかった。


クルトが一口食べた瞬間、目を見開いた。

「うまい!!」


「本当に?」


「本当にうまい。量もある。最高だ!!」


クルトが二口目、三口目を食べた。

気づいたら半分なくなっていた。

ニコラスが「早すぎる!」と言った。

クルトが「競争じゃない、本気だ!」と言った。


ラウルが笑い声を上げた。


エリカが静かにスープを飲んでいた。

しかし口元が、わずかに緩んでいた。


エリカが笑いをこらえている。

修行中には1度も見なかった顔だ。


ミア姉様が俺の隣に座っていた。

「ルーク、食べてる?」


「食べています…」

ちょっとだけ解放して下さい…


「ちゃんと食べてる? 考え事しながら食べてない?」


「……食べています。」


「顔が考え事してる顔」


「……どういう顔ですか、それは…」


「眉間にしわが三本あると考え事してる顔!」


「数えていたのですか?!」


「いつも数えてる!」


誰のせいで今回なってると…

しかも、いつも数えられていた。

知らなかった。


ラウルが「そうそう、殿下いつもその顔してる」と言った。

クルトが「飯食う時くらい休め」と言った。

ニコラスとマルティンが同時に頷いた。


エドが…黙ったまま、俺の皿にパンをもう一切れ置いた。


…無言だった。

……説明もなかった。

…………ただ、置いた。


「……エド。これは?」


「食え…」


「俺の分は足りています。」


「いいから、食え…」


二回言った。

エドが二回言うのは珍しい。…


俺はパンを食べた。


ミア姉様が「えっ、エド君がそういうことする!?」と小声で言った。

ラウルが「新鮮だな」と小声で言った。

クルトが「俺も殿下にパン渡せばよかった」と言った。

ニコラスが「今から渡せ」と言った。

クルトが自分の皿からパンを取った。


「殿下、どうぞ!」


「……俺は足りています。自分で食べて下さい。」


「エドに習って!」


「エドは習うものではありません…」


エドが「うるさい」と言った。

クルトが笑いながらパンを口に戻した。


…………


休めない、気が休まらない…


食後、広場に出た。


大道芸人が火を使った芸をやっていた。

子供たちが歓声を上げていた。


ラウルが何かを思いついた顔をした。

「……俺、やってみたいんだが。」


「何をですか?」


「火の輪くぐり!!」


「…………なぜ?」


「なんとなく…」


「「なんとなく」で火の輪をくぐろうとするな!」


「いけそうな気がする!!」


「気がするだけです…」


「やってみなければわからない!」


「やる前からわかります。やめてください!!」


ラウルが大道芸人に話しかけに行った。


…聞いていなかった。

……完全に聞いていなかった。


大道芸人が笑顔で頷いた。

ラウルが助走をつけた。


跳んだ。


輪の上端に足が引っかかった。

輪が倒れた。

火がついたまま地面を転がった…

観客が一斉に2、3歩後退した。

大道芸人が素早く消した。


広場が…静かになった。

その後に大爆笑に変わった。


ラウルは無事だった。

ただし眉毛が少し焦げていた。


クルトが腹を抱えて笑い始めた。

ニコラスが「大丈夫か」と言いながら笑っていた。

マルティンが「予想通りだった」と言った。


エリカが小声で「…馬鹿だ」と言った。

しかし、しっかり笑っていた。


エドが無言でラウルを見た。

それから、小さく、一度だけ鼻を鳴らした。


エドが笑った。

表情はほとんど動かなかった。

しかし確かに、笑っていた。


ミア姉様がラウルに駆け寄った。

「ラウルくん! 眉毛!!」


「……焦げた?」


「左が半分ない!!」


「えっ?!」


「えっじゃない!!」


ラウルが顔を触った。

「……片方だけ焦げるものなのか」


「そういう問題じゃない!!」


ミア姉様が本気で心配していた。

怒りと心配が混ざった顔だった。

人のことを本気で心配できる人だ、この方は。


クルトがまだ笑っていた。

「……クルト。笑い事じゃない」と俺は言った。


「笑い事だろ」とクルトは言った。


「笑い事ではありません…」


「いや笑い事だって」


ラウルが「俺も笑い事だと思う」と言った。


「当事者が言うな…」


…………



それからミア姉様が、急に立ち止まった。


「あっ」


全員が止まった。


ミア姉様が、路地の奥を指さした。

「……あの店、何屋さんだろう?!」


薄暗い路地の奥に、小さな店があった。

看板に何かが書いてあったが、遠くて読めなかった。


「行ってみよう!」


「なぜですか?」


「気になるから!!」


「気になるだけで路地に入るのは危険です…」


「エドがいるから大丈夫!」


エドが少し困った顔をした。

エドが困った顔をするのも珍しい…


ヴィクターが「一応、確認してから入るべきです」と言った。

ミア姉様が「じゃあヴィクターが先に確認して!」と言った。

ヴィクターが「……なぜ私が? さっきエドに…」と言った。

ミア姉様が「頼りになりそうだから!」と言った。

ヴィクターが「……行きます!」と言った。


…ヴィクターも陥落した。

……ミア姉様の「頼りになりそう」は万能だ…

…………国が滅ぼせそうだ。


ヴィクターが路地を確認して戻ってきた。

「……骨董品店でした。怪しいものはありません!」


「やった! 行こう!!」


骨董品店の中は、狭くて、埃っぽくて、しかし不思議なものが溢れていた。

古い地図、錆びた剣の柄、謎の陶器、剥製、怪しい薬草の束…


ミア姉様が、目を輝かせた…

…また輝いた。

……さっきより輝いている気がする。


「おじさん! これいくら?」

謎の球体を手に取っていた。


「ああ、それは魔導具の残骸でね、飾りにしかならないけど500枚だよ」


「50枚!」


「お嬢さん、さすがに無理だよ…」


「100!!」


「300枚だよ…」


「150枚!!」


「250枚だよ、半額だし。」


「200枚!!」


「……230枚、上手だね…困った困った…」


「200枚!!」


「……もうそれでいいよ…」


店主が疲れた顔をした。

本当に申し訳ない…


「……ミア姉様。それは何ですか?」


「魔導具の残骸!」


「何に使うのですか?」


「知らない、飾る!」


「飾るだけですか?!」


「飾るだけだけど、かわいいから!!」


…かわいいかどうか、俺にはわからなかった。

……錆びた球体だった。

しかし、ミア姉様が「かわいい」と言った以上……

かわいいのだろう、俺にはわからない.


エリカが小声で「…何に見えるの、それ」とミア姉様に聞いた。

ミア姉様が「星みたいでしょ!」と言った。

エリカが「……少しわかった」と言った。


クルトが「俺にはただの錆びた球だ」と言った。

ラウルが「俺も」と言った。

ニコラスとマルティンが無言で頷いた。


エドが、球体を1秒見た。

それから何も言わなかった。


エドの「何も言わない」は肯定に近い気がした。

そう思うのは俺だけかもしれない。


…………



帰り道、全員の手に何かが増えていた。


ミア姉様:果物二十個(袋)、布二反、陶器の置物、魔導具の残骸の球体、香辛料の小瓶三本、帽子一つ。


「……ミア姉様。帽子はいつ買いましたか…?!」


「さっき!」


「さっき、というのは?」


「みんながラウルの眉毛を見ていた時!!」


…隙を突いて買い足していた。

……戦術的な買い物だった。


ラウルが袋を三つ抱えていた。

「……なんで俺だけこんなに持ってるんだ」


「頼もしいから!」


…その言葉に何度騙されたか


クルトが自分の荷物を見た。

クルトの手には串焼きが三本あった。

「……クルト。それはいつ?」


「ラウルの眉毛の時!!」

全員があの瞬間に動いていた。


エリカの手には小さな薬草の束があった。

「……エリカも買いましたか。」


「…殿下のために。消毒に使える…」


俺は少し止まった。

「……俺のためですか?!」


「昨日、肩を掠られていたから…」


エリカが俺の肩のことを、覚えていた。

何も言わずに、薬草を買っていた。


ヴィクターが前を向いたまま言った。

「……私は何も買っていません」


「それでいいです…」


「……骨董品店の古地図が気になりましたが、自制しました。」


「ヴィクターが古地図を欲しがるとは思いませんでした。」


「情報として価値があります。」


「次の休みに買いに行けばいいです。」


「……次の休みもあるのですか?」


「フリッツに頼んでみます。」


ヴィクターが、わずかに目を輝かせた。

ヴィクターにも、こういう顔がある。


エドが、無言で歩いていた。

手には何もなかった。


「エドは何も買わなかったのですか?」


「……いらなかった。」


「何か気になるものはありましたか?」


エドが少し間を置いた。

「骨董品店の剣に付ける根付…」


「買えばよかったのでは?」


「……金がなかった」


「買ってきなさい、せっかくですし。」


エドにお金を渡した、俺を一瞬見た。

何も言わなかった。

急いで店に飛び込んで行った。


嬉しかったのかもしれない。

エドがそういう顔をするとは…

しかし、歩幅は、確かに広くなった。


…………



宿舎に戻ると、ヴォルフガングが入口で待っていた。


「……遅かったな!」


「ヴォルフ! これ! お土産!!」


ミア姉様が果物の袋を押し付けた。

ヴォルフガングが袋を受け取った。

果物が20個入っていた。


「多い……」


「みんなで食べる!」


「…俺、まだ右腕が…」


「座って食べれば大丈夫!」


ヴォルフガングが、少し笑った。

「……ありがとうございます、ミア様。」


ミア姉様が満面の笑みになった。


そのまま全員が食堂に集まった。

果物を切って、皿に盛って、10人で食べた。


ラウルが焦げた眉毛のまま果物を食べた。

クルトが串焼きの残りも食べた。

ニコラスとマルティンが静かに笑っていた。

エリカが、今日初めて、声を出して笑った。

小さな笑い声だったが、確かに笑い声だった。


エドが、果物を食べながら、窓の外を見ていた。

剣に付いた根付をさすりながら…


しかしその顔は、いつもより少し、柔らかかった。


戦場では見られない顔が、ここにある。

これが仲間、というものかもしれない。


ミア姉様が魔導具の残骸の球体をテーブルに置いた。

「ほら、星みたいでしょ!」

ラウルが「やっぱりただの錆びた球だ」と言った。

クルトが「同じく」と言った。

ヴォルフガングが「…少し星に見える」と言った。


ミア姉様が「ヴォルフわかってる!!」と叫んだ。

ヴォルフガングが少し驚いた顔をした。


ヴォルフガングが、ミア姉様に「わかってる」と言われた最初の人間になった。

本人はまだ意味がわかっていないかもしれない…

それは大変なことになるのだよ…


笑い声が、食堂に満ちた。


フリッツの「自由にしていい」という一日が、暮れていった。


剣の修行でも、作戦の立案でも、討伐でもない。

ただ街を歩いて、飯を食って、笑っただけの1日。

しかしこの一日が10人の間に、何かを作った気がした。


言葉にはならない、しかし確かにある何かを…

みんなのヒロイン、ミア姉様の暴走モードです。

結構今まで真面目なとこが続いていましたが、とうとう…

いや、待ちに待った形で、防波堤が決壊致しました。


怖いですが、読者の皆様に大変感謝しています。

こういった、暴走もご理解いただき、評価、感想、頂きますと、大変に励みになります。

面白いと思った方々はブックマークもお願い致します。


今回の回が99話目、決してストレス発散等ではございません。

温かい目で宜しくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
【10人の朝】から(o≧▽≦)ノ面白くて一気にココまで読んじゃいました♡ (※途中で感想書く時間も惜しみ《修行》の様子や突発的な《討伐任務》等、夢中で拝読♪) ココ(休日)に来てw(*´艸`*)一気…
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