崖の細工
高台への道は、静かであった。
ヴィクターとエリカが2人で登る。兵は一才連れていない、目立たないように…
アルベルト兄様が落ちた崖…
細い道、両側が岩、足元が不安定、眼下に敵陣が見える場所…。偵察に最も適した場所である事から、アルベルト兄様も来たのであろう…
だから狙われたかもしれない…
崖の縁に着く…
エリカが膝をついて、岩を見る。辺りを見渡し、手で触れる。
「……ヴィクター」
「何だ、何か見つけたか?」
「ここだな…」
ヴィクターも近づき、同じく膝をついた…
そして岩肌を見た…
外側から見れば、普通の岩…
何もおかしくないが…エリカが横から見た…
内側が、何かで削られている。人の手で…
道具を使って、外からは見えない角度から内側だけが薄くなっている…
「人の手で行っただろうな…」とエリカが言った。
「計画的に、いつ仕掛けられたのか…」とヴィクターが言った。
「察するところ… アルベルト殿下が偵察に行くと決めた日、あの軍議の夜でしょうね…」とエリカが言った。
「それ以外にはないでしょうね…、あの夜のうちに仕掛けられていた…」
「軍議に参加していた者の中、あるいはそれを知り得ている者の中に…」
「いるでしょうね…」とエリカが言った。
「内側の人間か…」
2人が、顔を見合わせた…
崖の下は、とても深い…
翌日、ルークへの報告が上がる。
「崖の岩に細工がありました…」とヴィクターが言った。「内側を削り、人が体重をかければ崩れる仕掛けでした。外からは見えません。発見するには、膝をついて横から見なければわからない次第です…」
「専門の技術だな…」とルークが言った。
「はい。あの手の混み様…、素人の仕事ではありません。道具も必要、時間も必要、あの夜の軍議が終わった後…、誰かが動いている…」
「軍議の参加者は…」
「16名です。将軍クラスと、その側近が含まれます…」
「その中に…」
「指示を出した者がいると思われます…」とヴィクターが言った。「しかし、直接手を下した者は必ず別にいるはずです。崖の細工はそれ自体が専門技術…、外部の者を使った可能性が高い…」
「ブレスト側ではないと?」
「はい。ブレスト側がやるなら…、そうですね、もっと直接的な手段を取りますかね。これは王国の内部から動いた者の仕業です…」
ルークが黙った。
「ヴィクター、絞り込めるか……」
「すこし、時間を下さいますか…」とヴィクターが言った。
「ですが、必ず…」
「宜しく頼んだ…」とルークが言った。
「壁に耳あり、闇に目あり…、権謀は必ず跡を残す…」
ーー韓非子ーー
どんな謀も、必ず跡を残す。
崖の細工も見つかった。
跡を残したのは細工だけではない。
動いた者が、必ず痕跡を残している。
ヴィクターとエリカが動き続ける。




