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転生したら第5王子で兵法(孫子)と法家(韓非子)で、無双王を目指す  作者: ひょっとこ、とことこ
北伐 龍は北へ向かう

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150/189

黄金の龍、幼龍と老虎に圧倒される

 扉が開いた。


 その瞬間、アルベルトは、何かを感じた。


 言葉にできなかった。空気が変わった。それだけだった。しかし、確かに変わった。謁見の間の温度が、一瞬で変わった。


 ルークが入ってきた。


 黒い甲冑だった。腰に剣を差していた。首に3連の首飾りが光っていた。金貨、銀貨、銅貨。3枚が革紐で束ねられ、静かに揺れていた。


 しかし…


 アルベルトの体が、勝手に動いた。


 椅子から、立ち上がろうとした。


 自分でも気づかなかった。意識する前に体が反応していた。慌てて踏みとどまった。椅子の肘掛けを、気づけば両手で掴んでいた。


 おかしかった。相手は10歳の弟だった。なぜ体が動く。なぜ、手が震えている。


 目だった。


 ルークの目が…、入ってきた瞬間から部屋全体を見ていた。人数、配置、出口、空気、全部を一瞬で把握していた。その目が、アルベルトを見た。


 アルベルトは息を、止めていた。


 誰も指示しなかった。


 しかし、アルベルトの側近が、膝をついた。


 隣の側近が気づいた。気づいた瞬間には、自分も膝をついていた。


 誰も指示していなかった。誰も声を出していなかった。謁見の間にいた者が、次々と膝をついた。気づいたら跪いていた。なぜ跪いたか、跪きながら自分でも分からなかった。体が、勝手に動いていた。


 アルベルトの側近の1人が、跪きながら小声で「……なぜ俺は跪いているんだ」と言った。


 誰も答えなかった。誰も答えられなかった。


 そして…


 バロックが、片膝をついた。

深く頭を下げた。


 謁見の間にいた全員が、それを見た。


 誰かが「……バロック様が」と、息を呑んで言った。声にならない声だった。先程まで謁見の間を凍りつかせた男が。アルベルトに向かって一歩踏み出しただけで全員の息を止めた男が。片膝をつき、10歳の子供に向かって、深く頭を下げていた。


 8隊長が、 全員、跪いて頭を深く下げた。


 謁見の間が、完全な沈黙に包まれた。


 アルベルトだけが、座っていた。


 アルベルトだけが、立っている者も座っている者もなく、謁見の間で唯一、椅子に腰かけたまま、この光景を見ていた。


 孤独だった。


 この謁見の間で、アルベルト1人だけが、取り残されているようだった。


 ルークが、少し止まった。


 全員が跪いていた。謁見の間全体が、沈黙に包まれていた。


 それから、ルークが笑った。


「やだなあ」と言った。「皆様、遅れてきた者への冗談ですか?」


 空気が、一変した。


 子供の声だった。少し困ったような、柔らかい声だった。その一言が、謁見の間に漂っていた重さをふわりと、解いた。


 ルークが自分の隊長たちを見た。表情が引き締まった。


「お前たち、直れ…」と言った。「皆様が萎縮されるだろう…」


 8隊長が立ち上がった。


 ルークがアルベルトの側近たちを見渡した。穏やかな目だった。しかし、確かな力があった。「どうぞ、楽になさって下さい。お疲れのところを、俺が遅れてしまい、申し訳ありませんでした」


 側近たちが立ち上がった。誰も何も言わなかった。言われた通りに動いていた。


 バロックが立ち上がった。


 アルベルトが、バロックを見た。


 バロックが、柔らかく笑っていた。


 愕然とした。


 先程まであれほど鋭かったバロックが。この謁見の間を完全に掌握していたバロックが…今は、まるで孫を見守る老人の顔をしていた。


 アルベルトは、自分の手を見た。まだ、肘掛けを掴んでいた。


 そっと、離した。


「兄上、お久しぶりです」とルークが言った。


「……よく来た、ルーク」とアルベルトは言った。笑顔を作った。いつもの笑顔ではなかった。自分でもわかっていたが、うまく作れていなかった。


「皆様、着席していただけますか?」とルークが言った。


 全員が着席し、アルベルトも座り直した。


 ルークが前に立っていた。どちらが場を支配しているか。謁見の間にいる全員が、わかっていた。


 アルベルト自身もわかっていた。


 わかっていたから、この場の空気を、何としても取り返さなければならなかった。


「黎明義軍、面白い名前だ。4400名を率いているそうだな」とアルベルトは言った。


「はい」とルークが言った。


「義勇軍であるそなたの軍を我が軍に組み込むことを考えているが、どうだ?」


「兄様、それはお断りします…」とルークは言った。静かに。


 謁見の間がざわめいた。


「理由を聞かせてくれ…」


「この軍に集まった者たちは、黎明義軍の旗の下に来ました。王国軍の旗ではなく、俺の旗の下に来た者たちです。その旗を変えることは、俺にはできません。だから、義勇軍なのです。」


「しかし北伐は王国の戦いだ。お前も王国のものではないか、我が軍と連携した方が効率的ではないか?」


「連携は勿論いたします」とルークは言った。「でも王国軍の旗を掲げて、自分たちの旗を変える様な事は致しません」


「ルーク…」とアルベルトは言った。声が少し低くなった。「それはわたしへの拒絶か?」


「嫌だなぁ兄様、私をいじめないで下さい」とルークは言った。「俺の責任ですよ」


 アルベルトが少し黙った。「では聞く。北伐でお前はどの様に責任を果たすのだ?」


 ルークが答えた。


 迷いがなかった。止まらなかった。


「黎明義軍は、敵の主力と正規軍が正面でぶつかる時、俺たちは側面か後方から入ります。敵が俺たちを警戒すれば正面が薄くなる。正面が薄くなれば正規軍が押せる。正規軍が押せなくなれば俺たちが正面に入る。的に対して何が有用で何が不要か…、そもそも兄上、10歳の私が如きの弱小の軍など、自由にさせておけば良いのです。邪魔だけは致しませんので」


 謁見の間が静かになった。


 アルベルトの側近が「軍には規律と作戦、それに連携も必要ではありませんか、それでは軍が機能しなくなります。」と思わず言った。


 誰も答えなかった。


 アルベルトが、ルークを見た。


 見れば見るほど、わからなくなった。本当に10歳の弟なのか? どう見ても、この謁見の間に立っている者が、10歳の弟に見えなかった。


「バロック殿…」とアルベルトは言った。バロックを見た。「あなたは稀代の勇者だ、軍のなんたるかもご存知のはず、そのあなたも自由友軍で勝手にしてかまわやないと思っておられるのですか?子供の遊びに付き合うつもりでもないでしょう… 戦争なのですよ、判断一つ、連携一つで死にますよ…」


「わしはルーク殿下の臣下、殿下が一緒に死んでくれと言われれば、わしは喜んで殿下となら死にます。それに殿下は俺の仲間を覚えてくれた、それが何より私と私の仲間をここに連れてきたのです。」とバロックが言った。


「それだけで…」


「わしの心が揺さぶられたのだ」


 アルベルトが、また、ルークを見た。


「ルーク…」と言った。


「はい」


「お前は、変わったな…」


 謁見の間が静かになった。


 ルークが、アルベルトを見た。


「……どのように変わりましたか?」と言った。


「わたしには、どの様に変わったのか表現が上手く言えない」とアルベルトは言った。「しかし、王都にいた頃のお前ではない」


「兄上も変わられましたか?」とルークは言った。


 アルベルトが少し止まった。「……どういう意味だ」


「北部遠征で、何かを得られましたか?」とルークは言った。「俺は王都で、ここに来るまでで沢山得ました。兄上もこちらに来て、いや来るまでで何かを得ていると思って…」


 アルベルトが、少し黙った。


「……まだわからない」と言った。今度は、先程より静かな声だった。


 バロックが「殿下」と言った。ルークに向かって。


「10歳らしくないですぞ、皆、そろそろ喉も渇いてきてある。少し緩めんか…」



 謁見の間が、また静かになった。


 アルベルトがバロックを見た。バロックがルークを見ていた。その目が、子供を見守る目だった。


 アルベルトは胸の中に、何かが来るのを感じた。


 嫉妬か…、心配か…、絶望か…、まだわからなかった。なんなのだこの2人の関係は…、アルベルトは迷った。


「上兵は謀を伐つ、次に交を伐つ、その次に兵を伐つ」

ーー孫子ーー


最上の戦いは謀略で勝つ。

ルークは剣を抜かなかった。

バロックは双剣を持っていなかった。

しかしアルベルトは、この謁見の間で、確かに負けていた。

それがわかっているのは、アルベルト自身だけだった。

150話到達によせて…


 お読みいただき、誠にありがとうございます。


 150話…


 2月22日に始まったこの物語が、気づけばここまで来ていました。私自身が一番驚いています。書き始めた時には、こんなに長くなるとは思っていませんでした。いや、正直に言えば、100話まで書けるかどうかも、書き溜めもありましたが、最初はわかりませんでした。


 それが、150話です。


 読んでくださっている皆様のおかげです。本当に、ありがとうございます。



 この章も、中盤まで進みました。


 黎明義軍が生まれ、4400名が揃い、初陣を終えて、今は最前線の街に入っています。バロックが街を3日かけてぶらぶら歩き、第1王子を翌日の昼まで待たせ、猪を5頭担いで官邸に現れ、風呂に入らせて酒を飲んで寝るという暴挙を繰り広げているあいだ、ルークはミア姉様と鍛冶師20名で新兵器の開発をしていました。


 どちらが本当に「仕事をしていた」かは、読者の皆様のご想像にお任せします。


 今回の話数で一番書きたかったのは、「黄金の龍、幼龍と老虎に圧倒される」でした。


 ルークが謁見の間に入ってきた瞬間、誰の指示もないのに全員が跪く。バロックまで片膝をつく。アルベルト兄上だけが椅子に座ったまま、取り残される。


 「このじじい程度の圧に押されるあなたの下にはつけない」とバロックに言われ、完璧な笑顔が崩れて怒りを見せたアルベルト兄上に「ほぅ、その方が王子らしいですぞ」と失笑される。


 そしてルークが入ってくると、そのバロックが、片膝をついて深く頭を下げている。


 アルベルト兄上の愕然とした顔が、書きながら浮かんでいました。


 さて、この物語はまだまだ続きます。


 アルベルト兄上との会談。北伐戦線の実態。シオンの影。エルザとラウルの伏線。バロックがルークに残す課題。そして、大きな戦いへ…


 書くことが山ほどあります。作者は今、ルークたちに毎晩振り回されていますが、なかなか文才がなく、苦しんでいますが、それが楽しいです。


 この先も、黎明義軍の旅にお付き合いいただけると大変嬉しいです。


 もし面白いと思っていただけたなら、感想や評価をいただけると、本当に嬉しいです。一言でも構いません。そしてブックマークをしていただけると次を書く大きな力になります。最近増えて大変に喜んでおります。


 誠にありがとうございます。


 150話、本当にありがとうございました。次の200話目も、そしてそれ以降も全力で書きます。


 ひょっとこ、とことこ でした。


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