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転生したら第5王子で兵法(孫子)と法家(韓非子)で、無双王を目指す  作者: ひょっとこ、とことこ
北伐 龍は北へ向かう

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隠れ里の将

山道は思ったより険しかった。

2時間、3時間と歩くうちに道が細くなり、木々が深くなり、陽の光が届きにくくなっていった。


「本当にこんな山奥にいるのか?」とエドが言った。


「エリカが確認したんだ、信じて行ってみよう。」と俺は言った。


「まあいい…」


エドが黙って歩いた。

俺も黙って歩いた。

鳥の声がし、風が木々を揺らした。山道の先に突如集落が見えてきた。


集落は思ったよりも大きかった。山の斜面に沿って50軒以上の家が建ち並んでいた。広い畑が広がり複数の井戸があり、鍛冶場らしき建物から煙が上がっていた。洗濯物が干してあり子供の声がした。山奥にこれだけの集落があるとは思っていなかった。

村の入り口に入ったところで男たちが3名立っていた。50代から60代くらいで体格が良く、目付きが鋭く腰に剣を差していた。一見する限り、普通の村人ではなかった。


「何者だ?」と1人が言った。


「旅の者です。バロックという老将軍にお会いしに来ました。」と俺は言った。


3名が互いに目を合わせた。

「バロック様のことをどこで知った?」


「街で噂をお聞きしました。」


「何のために来たきたのだ?」


「お話をしたいのです。それだけです。」


「子供が何を話したいんだ?」純粋に不思議そうだった。


「実は私たちは、北伐に行きます。仲間が必要でして、バロック様に相談に参った次第です。」


男たちがまた互いを見た。

「理由はわかった。少しここで待っていろ。」と村の奥に入っていった。


15分程して男が戻ってきた。「案内するついて来い。」と言った。


村を歩いた。住民が俺たちを見た。年齢層は高めで老人が多く、40代から50代の男女も多かった。若い者は少なかった。全員が普通の村人の体の動きではなく、鍛えられた人の動きに見え、違和感を覚えた。目が非常に鋭く老人でも背筋が伸び、歩き方が整っていた。


「元軍人の村か…」とエドが小声で言った。


「そうだろうなと思う…」


村の一番奥の家に案内された。

他より少し大きかったが、家に飾りはなく、どことなく質素だった。


庭先には、木の枝が沢山置いてあった。長さも太さも様々な枝が綺麗に並べてあり、打ち込み台のような跡もあった。手入れが行き届いた、綺麗な庭だった。


縁側に、老人が座っていた。


70代だろうか、白髪で痩せていた。しかし骨格が違った。肩幅が広く手が大きく指が太かった。右目には黒い眼帯をしていた。古びているが手入れされていた。


左の目が鋭かった。深かった。何かを見通すような目だった。70代の引退した将軍の目ではなかった。まだ、現役の目をしている様に感じた。


「坊主、こちらに来て座れ…」と老人が言った。


俺とエドは縁側の前に座った。


「バロック様ですか?」と俺は言った。


「そうだ。お前は誰だ?」


「ルーク・ヴァルト・レギナルドと申します。王国の第5王子です。」


バロックが少し目を細めた。

「王族のおぼっちゃまが、なぜこんな山奥の場所に?」


「実は、私どもは北伐に行きます。その為に仲間集めが必要です。その為にもありますが、街で噂を聞き、バロック様にお会いしたくて参りました。」


「北伐か…、今、王国の重要戦略の一つだわな…。ところで2人で来たのか?」


「こちらの者はエドと申します。私の側近です。ここへは、エドと2人で来ました。本隊は別の場所にいます。今は1500名になりました。」


「……1500名」またバロックが目を細めた。「どこから集めたんだ、その人数を…」


「私が統治している街より、こちらに来るまでの道中の山賊と盗賊と元傭兵です。」


バロックが、少し笑った…

久しぶりに笑ったような錆びた笑い声だった。「山賊と盗賊と元傭兵を率いて北伐に行くか。面白い王族もいたものだ!」


「面白いと言っていただけて嬉しいです。」と俺は言った。


バロックがまた少し笑った。それから俺を見て言った。


「……俺のことは、おじじとでも呼んでくれ。老将軍とか、バロック様とか呼ばれると、なんか窮屈でいかん…」


俺は少し驚いた。

しかし、すぐに頷いた。


「わかりました。おじじ殿」


「うむ。」とバロックが言った。

「この村の子供たちは全員が孫みたいなもんでな、子供にはそう呼ばせておる。」


その言葉が縁側に、静かに落ちた。


お茶が出てきた。村の女性が黙って置いて黙って下がった。


バロックがお茶を飲んだ。

俺もエドも続いていただいた。庭先の木の枝が風に揺れた。


「家の中に双剣がある。毎日手入れをしている」とバロックが言った。「しかし、今は木の枝で素振りをするくらいしかしていないのだよ。」


「なぜ木の枝を使うんですか?」


「双剣を持って戦場で戦うには背中を預けれる仲間が必要なんだが、右目と一緒に俺は無くしてしまったのだ…」とバロックが言った。

「そうだな無くして30年程になるのかの…」


庭先の枝が、また揺れた。

バロックがお茶を一口飲んだ。それから山の方を見た。


「まぁ、今ではこんななりではあるが、昔は剣を奮って戦場に出ていたのだ。ある戦いで大将軍として最大の勝利を掴んだ、その翌日だった…」


バロックが話し始めた…

ゆっくりと、一言一言を確かめるように…


「当時の俺は40代だったかな、王より「黒鉄の双嵐」という二つ名を賜い、2度の最大武勲を得て名誉伯爵になっていた。その頃の俺は負けたことがなかった。勝ち続けていた。その驕りが、全てを壊した…」


俺たちは、黙って聞いた。


「俺の下に5名の将軍がいた。全員が本当に優秀で俺の背中を常に安心して預けれる存在だった。それぞれが100名の精鋭部隊を率いていた。レオン、マルク、ハンス、テオ、カール、 5名と500名の部下たちが、俺の軍の核だった。」


バロックが自身の右目の傷跡に、わずかに触れた。


「大きな戦が終わった。俺たちは当然ながら勝った。毎度毎度の完全な勝利だった。敵軍を壊滅させ、王都への道を確保し、主力部隊は先行させ、俺の側近の1500名程で、誰もが勝ち誇り、自分に驕り、勝利に酔っており、バカみたいに調子に乗っておった。俺も大将軍などと言われてバカであった。勝利の酒を飲み、部下たちを労い、翌日は国に凱旋して休息だなどと言って馬鹿騒ぎしていま。」


バロックの声が少し変わった…

変わったというより、何かが重くなった。


「レオンが俺のとこに来て、『敵の残党がおる様です。数は少ないですが、何やら動いておる次第です。一応警戒を、あるいは先に殲滅しておきましょう。』と言った。俺はそんな部下の忠言を聞かず笑った。笑って、『明日でいい。今夜は休め』と言った。」


静かだった。


「奇襲が来たのは、夜明け前だった。その忠言してくれた報告の敵の残党だった。数は少なかったが、俺のいる場所を知っており、俺だけを狙ってきた。俺を殺せば戦略的に意味があると判断していたんだろう、完全に狙われたのだ…。そして、俺のいる場所を知っていたのは、内通者がいたからだった。勝利の祝いの席に、内通者が紛れ込んでいたのだ。」


バロックが左目を閉じた。


「気づいた時には、囲まれていた。俺1人だけだった。剣を抜いた。戦った。しかし多勢に無勢だった。右目に矢が来た。それで俺は倒れたのだ…」


俺は動かずに聞いていた。

エドも動かなかった。


「次に気づいた時、 俺は生きていた。レオンが俺を担いで走っていた。周りで剣の音がしていた。叫び声がしていた。『大将軍を逃がせ!』という声が聞こえた。マルクの声だった。ハンスが前で戦っていた。テオが後ろを守っていた。カールが右を走っていた…」


バロックの声が、また重くなった。


「全員が…、俺の掛け替えの無い友が…、こんなバカな大将の俺を逃がすために必死で動いていた。奴らの掛け替えの無い精鋭の500名の部下たちも同じであった。全員が俺を囲んで、俺の為に剣を振っていた。自分たちにではなく、俺の命の為に必死で戦ってくれたのだ。」


「それで、その後、どうなったのですか?」と俺は言った。


「俺は逃げた。皆と一緒に逝けば良かったものを、俺は生き残ったのだ。」とバロックが言った。「レオンが俺を安全な場所まで運んで、敵へと戻っていった。俺を安全に逃がす為、軍を逃がす為、戦場に戻っていった。それが、レオンを見た最後だった…」


庭先の木の枝が、風に揺れていた…


「後で聞いた。5名の将軍が全員死んだと…。500名の部下たちも、あやつらと共に全員死んだと…。俺とその他の兵を逃がす為、あいつらが犠牲になったのだと…バカな俺を無価値な俺を逃がすために、貴重な友を…、変え難い戦友である505名を、俺が死なせた…」


その数字が…、 縁側に落ちた。


505名…


俺はその数字を、胸の中で繰り返した。


「俺が悪かったのだ。レオンの進言を聞いてきちんと聞いていれば奇襲は防げた…。少しでも警戒していれば、主力部隊を先行させず内通者を見つけられた…。あの夜、俺が『明日でいい』などと言わなければ、505名は死ななかった。わしの掛け替えの無い5名の将軍も、500名の部下たちも全員、俺のバカな過ちで、みんな先に死んでしまったのだ…」


バロックが山の方を向いた。


「以来、俺は将軍として動けなくなった。変えがたい友5人と500名を死なせた、この俺が…、また誰かを率いる資格があるのかと、ずっと思ってきたのだ…」


俺は、バロックを見た…


その横顔には、悲しい30年分の重さがあった。


「おじじ殿…」と俺は言った。


「なんだ…」


「もう一度5名の将軍の名と、その他の500名の部下たちの名前を教えてもらえますか?」


バロックが俺を見た。「……全員か?505名の名前を、お前が覚えられるのか?」


「覚えます」と俺は言った。「俺は1500名の部下の名前を全員覚えています。その505名も覚えていたいのです。必ず覚えられます。」


バロックが、少し黙った。長い沈黙だった…


「……名前を覚えて、どうする?」


「どうするわけでもありません。ただ彼らを忘れない事、誰かに覚えていてもらう事が大切だと、弔いになると思いまして…」


バロックが俺を見た。長く見た…。

それから静かに言った。


「5名の将軍は、レオン、マルク、ハンス、テオ、カール。500名の名前は、俺が全員覚えている。今夜、お前に伝えよう…」


「ありがとうございます」と俺は言った。


「礼はいらん」とバロックが言った。

「今夜は村に泊まれ。全員の名前を伝える。お前が覚えてくれるなら、それだけで、十分だ…」


バロックが山の方を向いた。その目が、 少し、揺れていた。


「孫が増えたみたいだな」とバロックがまた言った。今度は独り言のように…


俺は、少し笑った…。


「人主の患いは、信ずる者にあり……信ずれば則ち制せられる……」

ーー韓非子ーー


バロックはレオンの進言を聞かなかった。

信じていたが、聞かなかった。

その違いが505名の命を奪った。

そしてその重さが、30年間ずっと…

バロックの胸の中にあった…

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