将、軍令を示す
どうも、作者です。
ついに来ました。私が待ちに待った話の開幕です。
王都での修行も最終週に入りました。
ルーク、ミア、エドの3名が王都で過ごした6ヶ月間、色々とありすぎて作者も整理が追いつかないくらいです(笑)。
今回は、冒頭から少し雰囲気が違うと感じていただけたでしょうか。王とある人物の会話から始まります。この二人が何を話しているのか、なぜこの場面が冒頭に置かれているのか……、読み進めていただくとわかります。
そしてルークに下される王令。「研修の総決算」という言葉の意味が、この五話・六話で明らかになります。
王都最後の週、ルークが動きます。
お楽しみに!
その朝、王宮の奥で2人の男が話していた。
エドワード三世。そしてハイルベルク侯爵…
正式な謁見ではなかった。
記録も残らない、侍女も控えていない、王の私室に近い小部屋で、2人だけで、茶を飲んでいた。
「……軍令の件だが」と王が言った。
「確認しておきたい…」
「はい」とハイルベルク侯爵が言った。
「王令にて軍令を発した場合…、その軍令を受けた者は、軍を預かった「提督」として絶対の権限を持つ。王令にて取り消さない限り、提督の命令は軍に帯同する全ての者に対して「絶対」である。これは正しいか?」
「その通りでございます。古来よりの軍律にて定められております。王令あっての軍令、軍令あっての提督、提督あっての軍。この順序は誰も覆せません…」
王が少し、口角を上げた。
「ならば問題ない!」
ハイルベルク侯爵が茶を一口飲んだ。
「……陛下。ミアのことは、感謝しております。」
「礼はいらん。あれは国の話だ。」
「それでも」と侯爵が言った。
「父として、礼を申し上げます…」
王が、少し黙った。それから言った。
「…第三段階だな。」
侯爵が「はい」と言った。
静かに、しかしその目が、少し遠くを見ていた。
「1度目は、 己が王を目指した時だった。二度目は富国強兵、他国へ領土を広げた時だった。そして今度は……」
「後進が、動き始めましたな…」と侯爵が続けた。
二人が、少し笑った。声を出さずに、笑った。
「いや」と王が言った。
「後進ではなく、そうだな父となったんだな、我々も…」
侯爵が「左様でございますな。」と言った。
部屋に、静かな時間が流れ、笑い声が微かに聞こえた。
二人の男が、茶を飲んでいた。それだけだった。
長い年月が詰まっていたのだ。
午前、ルークは法務省のエルゼ卿のもとで研修を受けていた。
いつも通りの午前だった。
書類の確認…
法令の解釈…
エルゼ卿が5年間一人で抱えてきた矛盾を、1つ1つ整理していた。
今日は先日の傷と疲労を癒す為、エドが廊下に控えていた。
ミアは謹慎中だった。
そこへ、扉が開いた。
王令使者だった。
正装、王家の紋章、手に巻物を持っていた。
使者が部屋に入った瞬間、全員が動いた。
エルゼ卿が立ち上がり、書記官たちも立ち上がった。
そして全員が床に膝をついた。
ルークも平伏した。
使者が巻物を広げた。
「王令を伝える。第5王子ルーク・ヴァルト・レギナルドに命ずる。本日、午後の陽が天頂に達した刻……」
使者の声が、静かな執務室に響いた。
「王国軍大演習訓練場において、軍事・軍略訓練の模擬実施者として、またその際の提督として任命する。軍令は王令に基づき発動され、訓練場における全ての者に対して絶対の権限を持つ。」
誰も顔を上げなかった。
「尚、付け加えて陛下よりのお言葉をお伝えする。」
使者が、一息おいた。
「研修の総決算として、我の意図を組み込み、見事、我の課題を達成せよ。内政にも外政にも軍勢にも、我が国がいかに強き国かをその小さな力と体でも、示してみせろ。」
部屋が静まり返った。
使者が巻物を閉じ、「以上」と言った。
足音が遠ざかった…
しばらくして、エルゼ卿が顔を上げた。
書記官たちが顔を上げた。
全員がルークを見た。
ルークが立ち上がった。
「午前の研修は以上で…」とルークは言った。「エルゼ卿。今日のことは、記録に残して下さい。」
エルゼ卿が「……承知しました」と言った。
その目が静かだったが、何かが宿っていた。
廊下に出るとエドが待っていた。
「聞いた」と言った。
「あぁ…」とルークは言った。
「行くか!」
「行く!!」
二人は、廊下を歩いた。
午後、陽が天頂に達した頃、王国軍大演習訓練場に、人が集まっていた。
広かった。王宮前の訓練場とは比べものにならなかった。石畳の広場、四方を高い壁に囲まれた場所。普段は王国軍の大演習が行われる場所だった。
五百人隊長クラス以上の将軍、副将軍、隊長たちが整列していた。
その数、優に300を超えていた…
甲冑が陽の光を反射し、槍と剣が並んでいた。
そして別の一角に、文官たちが集められていた。
ランツ伯爵、ベルナー卿、クラウス卿、ヴォルフ卿、財務省の顔が全員揃っていた。
エルゼ卿とハーゲン卿も呼ばれていた。
文官たちが、ざわついていた。
「……なぜ我々がこのような場所に?」
「余興への参加とは聞いたが…」
「軍の演習に文官が呼ばれるとは、今までにない事だ…」
ランツ伯爵が周りを見渡して、小さく笑った。
「……王の余興とやら、どんなものか見せてもらおうか。」
その言葉が、周りの文官たちにも広がった。
そこへ上座に、父王エドワード三世が姿を現した。
正装で、王冠をつけていた。
300を超える将軍たちが、一斉に平伏した。
地響きのような音が、訓練場に響いた。
文官たちも、慌てて平伏した。
父王が座った。
フリッツが、前に出た。
「皆様。本日は王国軍大演習に先駆けて、王の余興として特別模擬訓練を執り行います。本訓練の実施者は、第5王子殿下にございます。王令に基づく軍令が発動されております。訓練場における全ての者は、殿下の指示に絶対に従っていただきます様、お願い申し上げます。」
将軍たちが、静かに顔を上げた。
ルークが、前に出た。
訓練場の中央に立ち、300百を超える将軍たちと、文官たちと、父王の前に、10歳の王子が立っていた。
誰も声を出さなかった…
ランツ伯爵が、小さく笑った。
「……子供が将軍たちの前に立つとは、王も人の親というわけか…」とベルナー卿に耳打ちした。
しかし、将軍たちは笑っていなかった。
300の将軍たちが、静かにルークを見ていた。王令を受けた提督を…
「では、只今より軍令訓練を行います。」とルークは言った。
「国の官吏として、命令に従えるかどうかを確認します。文官の皆さん、整列してください」
将軍たちの前で、文官たちが整列した。
最初の訓練が、始まった。
「上に好む所あれば、下は必ずこれに甚だしき者あり」
ーー韓非子ーー
上が好むものを、下は必ず過剰なまでに実行する。
王が望んだのは、国の強さを示すことだった。
ルークはその意図を、この訓練場で体現しようとしていた。
300の将軍たちが見守る中で…




