chapter22 オリネコ
「ナナシ様、改めて感謝致します。同時に、斯様なことに巻き込んでしまい誠に申し訳なく」
試合も終わり、食事も終えて、ようやく本当の意味で一息つけた頃、ケルファから頭を下げられた。
あれだけ泣いていたのが嘘みたいな変わり様だ。抜けてるとこはあれど、基本的に律儀でしっかりしてんだよなぁコイツ。
「ギスギス姉妹に挟まれるのが嫌だったから提案したまで。言ってみれば自分の為だ。礼を言われることじゃねーよ」
「だとしても、結果的に某とロロのわだかまりは消えました。ずっと思い悩んでいたのは何だったのかと、そう不思議に思えるほどアッサリと……ありがとうございます」
「大したことしてねーのは本当だけどな」
「とんでもない。むしろナナシ様の言葉であったからこそ、ロロも某と拳を交えようと決めたのでしょう。他の者ではこうはいかなかったと思いまする」
「そういうもんかねぇ」
「えぇ、深く感謝致します」
グール共との戦いの中で見せていた陰りは今やもう無い。憑き物が落ちたと言うべきか……晴れやかな表情で、どこか雰囲気も柔らかいものに変わっていた。
そんでもう1人の当事者はといえば……。
「むにゅ……闇人様ぁ……」
「あれの後によく寝れるなコイツ」
「ははは。ロロは寝付きが良い故」
言いたいことも言えて、グール肉を腹いっぱい食って、気付いたら寝こけていた。こういうところは歳相応って感じなんだが……マジでコイツ大丈夫か? 結局グール肉ぜんぶ平らげちまったし。腹壊してても不思議じゃねーんだけど。
(まぁ小うるさいのが1人減って有り難いが)
だらしなく涎を垂らすロロを尻目に、メニュー画面を表示してスキルツリーへ。食事をして空腹値も満たしたのだから、次にやることと言えばやはりこれである。
(おほー、グールとグールイーター分のポイントで結構貯まったな~。取得制限が無けりゃ3000ポイントくらいあった勢いだ。実際は1100ちょい。
あの強さの鉄のスケルトンが100ptだったことを考えると、やっぱグールイーターってレアエネミー扱いなんじゃねーかな。ポイントに困ったらとりあえずアイツ探して狩れば当面は困らなさそうだ)
弱点と攻略法も既に分かっているのだ。次は瞬殺できる自信がある。
「さて何から取得していくべきか」
「……? あぁ、例の強化ですか?」
「お、飲み込みが早いねぇケルファくん」
「む、某は雌です」
「いやそんなクソ真面目に受け取られても……」
こういうところは融通効かないのな。まぁゲーム内NPCがリアルの人間と同じノリしてたら違和感ハンパねーだろうし、いいけど。
「ここはセーフエリア――あー、安全地帯だし、今のうちにお前も寝とけよ。どうせ普段からロロが心配で禄に寝てないんだろ」
「よ、よくお分かりで」
「そりゃそうだろ。俺はスキル振りでしばらく手が離せん。休める時に休めよ」
「……承知。ではお言葉に甘えて休ませていただきまする」
「おう」
きっと少し前までのケルファなら、なんだかんだと理由を付けて起きていただろう。ロロとの関係改善で緊張の糸が切れたように、アッサリと横になって寝息を立て始めた。
NPCの体調の心配までしてあげるなんて名無しくんやっさし~! ……なーんてな。ぶっちゃけ口実である。
グールイーターというレアエネミーが存在していることが分かった以上、現状でのスキル振りを無駄に慎重にしなくてもよくなった。これはデカい。
今後必要になってくるステータスアップ系はもちろん、その他攻撃スキルに汎用スキル。パッシブスキルとポイントを惜しげもなく使用。そしてそれが功を奏して嬉しい発見もあった。
(おっ、闇ノ一閃! 前に選ばなかった攻撃スキルも候補に出てくるのか! こりゃ助かる!)
それはつまり、攻撃スキルの厳選をシビアに行わなくてもよい何よりの証。もちろん全てのスキルが闇ノ一閃と同じく再度現れる確証は無いが、こうして前例が出来た以上は希望が持てる。
更に選択の幅が広がったと言ってもいいだろう。当然、今回は闇ノ一閃を習得だ。攻撃スキルは多いに越したことはない。手札の多さは生存力に直結するからな。
特に、この先も恐怖心デバフを仕掛けてくるエネミーは出てくるだろうし、その時に攻撃手段の少なさが仇となったら目も当てられない。
ステータスアップ系は筋力、脚力に全振り。防御よりも動きやすさ特化で全部避けるスタイル。防御は可能な限り全部パリィで補う。それが出来るのがシャドダントッププレイヤーである。
避けきれない攻撃に関しては……やっぱ蘇生アイテム頼りになるか。状態異常を回復するアイテムも必要になってくるだろう。いくらこのキャラに耐性があるとは言え絶対ではないのだ。
状態異常で死ぬなんてしょーもないことにならない為にも、これの対策も急務だな。
(うし、まぁこんなもんか)
たっぷりとポイントを注ぎ込んでステータスの大幅強化。そして新スキルの取得。中でも特に恩恵がデカそうなのが、パッシブスキルの『闇ノ衣』
効果は、非戦闘状態の敵から見つかりにくくなり、また暗闇では完全に気配を消せるという優れもの。
狩れば狩るほどポイントが貰える仕様なら不要のスキルだが、取得上限がある以上は極力戦闘は避けるべき。アイテムが不足してるなら尚更役に立つ。
もちろん戦闘回避用ってだけでなく、気付かれずに奇襲しやすくなったという点でもかなり有用なスキルだろう。
戦闘の幅が広がるのは良いことだ。使えるもんは使ってかないと詰む。シャドダンで嫌というほど学ばされた教訓である。
(さって、取るもん取ったし一旦落ちるか)
チラリと見れば時計は19時ちょい前。ちょうどいい時間だ。今回はタイマーの出番は無かったな。
こっちはこっちでリアル飯を食わねばならないので、手早くログアウトを選択。続きは飯を食ってから。
(なるべく早く戻らねば。試したいこと山の如しってなぁ。ひひひ)
我ながら気持ち悪い笑みを浮かべ、間もなく意識は闇へと落ちた。
――……。
「やばっ! もう予定の時間過ぎてるー! 配信配信!」
時刻は19時を少し過ぎた頃。うちこと織音 小春は慌ただしく配信機器の立ち上げを急いだ。
問題なく起動したことを確認して、VRゴーグルと同期後すぐに装着。意識は闇の中へ溶けていき、次に視界が開けた時にはゲーム画面が広がっていた。
「ログイン……おっけ。わぁ……!」
うちが今ハマりにハマってるゲーム。グロリアス・オンライン(通称グロラン)の世界に飛び込んだ直後、イベント仕様にカスタマイズされたロビーがうちを出迎えてくれた。
いつもより賑わいを見せているロビーの中をぐるりと見渡して、至る所をスクショした。全部SNS行き確定だね。
今日はグロランが発売されてから初めてのイベント開催日。普段は戦いメインのグロランも、今日からしばらくはレースメインのモードが追加される。
自分がカスタマイズした機体で何でもありのドンパチ大レース、という紹介の元に公開されたPVを観てから、ずっとやりたくてしょうがなかった。
三春を貶すクソ……こほん。おバカさん達のせいで頭に血が上って、配信時間をスッカリ忘れてたのはここだけの話。
(っと、撮影もいいけど)
表示させたメニュー画面のオプションを開き、配信モードをONに切り替える。すると、どこからともなく小さなカメラ付きドローンが現れた。
キャラの斜め後ろから付かず離れずで撮り続けてくれる便利機能。配信者にはありがたい仕様だ。
(よし、配信開始。コメント表示もON)
ここからは織音 小春じゃなくて、オリネコモード。そう、何を隠そううちはそれなりに実績のある配信者なのだ! なのだー!
……なんて、それを隠してたのに三春と清鷹にはバレてたけど。もしかしたらこの配信も見てるかもしれないし、下手な発言は控えないと。
変なこと言ったら三春にお仕置きされるもんね。……まぁ、それはそれで悪くないけど。別に変態さんなわけではないからあしからず。
視界に表示された視聴者の数が直ぐに一万人程となったのを確認して、うちはカメラの方へと振り向いた。
「やーやー皆の集おつねこ~! 今日は待ちに待ったイベントだー! ついに来たねー!」
お決まりの挨拶。初めての時のぎこちなさは何処へやら。今では自然と出来てしまう挨拶に我ながら成長したものだと感心するばかりである。
『おつねこー!』
『おつねこ! 待ってたー!』
『オリネコちゃんおつねこー! 自分も今ログインしてまーす!』
『キター! 今日も可愛い!』
挨拶をした途端、ブワッと一気にコメント欄が賑わい始めた。にゅふふ、あの頃では考えられないくらいリスナーも増えたな~。感謝感謝。
「本日もやっていくぞグロラン! って感じで、いつもならこのまま戦場へレッツゴーなんだけど、皆も知っての通り今日からイベント!
今日はそっちをしゃぶり尽くす勢いで遊んでいくよー! あ、皆はもう遊んだの?」
『めっちゃ面白いよ』
『猛者に轢き殺された~。それもまた良し』
『オリネコちゃんもレース用の機体組んだ方がいいよ。戦闘前提のだとまず勝てない』
「ふんふむふむふむ。もうプレイした人も何人か居るんだ。機体の組み直しか~。
ん~……でも1回は愛機と一緒に飛ばなきゃ損じゃん? 共に数え切れないくらいの死線を潜ってきた相棒だからねぇ」
『だよねー!』
『オリネコちゃんのそういうとこ好き』
『今マッチングすればオリネコとワンチャン競えるんじゃね?』
『組むなら速度だけじゃなくて装甲も強化した方が良さげ。紙装甲だと攻撃1発食らっただけでとんでもない方向に吹っ飛ばされるから』
『経験者は語る』
『よかった仲間が居た』
『突貫工事で組み上げた機体が一瞬でバラバラになった苦い思い出』
『あと普段から高速戦闘やってないと高確率で酔う』
『それな。カーブで曲がりきれずに建物ぶち抜くこともあるあるだぜ』
視聴者の皆とちょっと会話をしただけで、いろんな情報が流れてくる。やっぱり実際に体験した人達の意見は貴重だね。重みが違うってやつ? いつも助けられてるんだよね~。
「ね、ねっ! ちょ、あれオリネコちゃんじゃない!?」
「え!? うわマジだ! 初めて同じロビーになった!」
「おっとと、流石にロビーで話し込んでちゃ目立つな~。すまぬ皆の集、格納庫に行くまで暫し待たれよー!」
『はーい!』
『急に古臭い喋り方w』
『是非とも機体組みの様子を見たい』
グロランのロビーは共有スペースだから、他のプレイヤーに見つかることもこれまでに何度かあった。
1人の時は別にいいんだけど、配信してる時とかフレンドと一緒にプライベートで遊んでる時はねぇ……これが有名になるってことなんだね、ほろり。
極稀にしつこくつきまとって来るファンも居る。なかなか引き下がらないから仕方なくログアウトすることもしばしば。
そういう厄介事があるから、三春も自分を売り込もうとしないのかな。……ううん、きっと三春は純粋にゲームを楽しみたいだけ。
"せっかくゲームやってんだ。余計なことで気を取られてたら勿体ねーだろ。今を楽しめよ小春"
なーんて、昔言われたあの言葉にはキュンキュンきちゃったもんだよ。特にあの頃のうちは色々と荒んでたし、余計に染みたな~。
「うっしゃ到着! 1日ぶりだね我が愛機、春鷹3号!」
ロビーを抜けて建物の中へ。少しばかりのロードを挟んで到着したのは、個人スペースである格納庫。
ここならどれだけ騒いでも周りに迷惑をかけることもない。目の前に悠然と佇む青と黒のカラーリングで整えた愛機を見上げて、少々大げさに両手を広げた。
『お決まりの展開w』
『相変わらず清々しいくらいの近接特化型武装だなー。脚部にパイルバンカーとか変態過ぎ』
『そりゃオリネコと言えば近接戦だし』
『そういえば機体の名前の由来とかあるの?』
『初見です』
おーおーコメントも盛り上がってるね~。うちの愛機も皆に受け入れられてるようで何より何より。
「初見さんいらっしゃーい! まぁのんびり楽しんでくれたまえよ~。
名前の由来はね~、リアルで仲良しな人達が関係してるとだけ言っておこう」
もちろん、由来はうちと三春と清鷹から来てる。
春はうちと三春、鷹は三春と清鷹、3号は3人組を表してるのだ。身バレが怖いから詳しくは言えないけど、そこは許してほしいなリスナー達よ。
『オリネコのリアル……自分、気になります』
『第一印象から決めてました!』
『付き合ってください!』
『よろしくお願いします!』
『お前ら仲良しかww』
『息合い過ぎワロタ』
「あっはははは! 流石うちのリスナー達はは訓練されてるだけあるねー!」
でも残念。既にこの身と心は三春のものなのだ。……全然伝わってくんないけど。ホントにもう三春はっ、うちがあんなにも分かりやすくアピールしてるっていうのに、いつまでも子犬扱いなんだもん! 失礼しちゃうよね!
そういうとこも好きだけど! 好きだけど、もう少しさー!
『遠距離武器って使わないの? 小型レールガンとか割と使いやすくてオススメだけど』
『遠距離初心者はテミライフルから入るべし。弾速速いし弾持ちも良いからバラ撒いててもある程度当たる』
「んー、情報はありがたいけど、うちは遠距離武器使う予定無いんだよね~。使えはするよ? でもやっぱりうちは近接極めたい派だからさ~」
『他ゲーでも近接メインだもんね』
『確かにグロランに限らずオリネコが遠距離武器使ってるとこ見たことないわ』
『何か拘りでもあるの?』
「そりゃああるよ。うちが心から憧れてる人がね、基本的に近接戦闘しかしない人なんだよね。
その人みたいに……というか、その人の隣に立ちたいから近接頑張ってる感じ」
『へー、初耳』
『配信者?』
『知ってる人かも』
「んー、あははっ、そこはノーコメントで」
ここで馬鹿正直に三春の存在を出したらどんな騒ぎになるか分からない。……いやぁ、でも今更かなぁ。これまでも何度か名前は伏せて三春達のこと話してたし。
(あ、そうだよすっかり忘れてた!)
三春のことを考えているうちに、イベントのことで完全に頭からすっぽ抜けていた重要事項を思い出した。
ふい~、危ない危ない。忘れてたなんて言ったら三春に何をされることやら。元はと言えばお前が持ってきた話だろうがー! って感じで怒るのが目に見えてるよ。
……そう、イベントはもちろんだけど、今日のメインは宣伝。シャドダンで三春が影の王と再戦し、チートの疑いを晴らす為の復讐劇。
証人は多ければ多いほどいい。だから、決行日が決まるまではトコトン宣伝していく所存だ。なんてったって、あの三春がうちを頼ってくれてるんだから、それに応えないで何が正妻かってね!
「そうだ皆っ、今日は配信の最後に重要な宣伝があるから、見逃し厳禁なのだぜ?」
さぁ、始めようか! 待っててね三春。びっくりするくらいの視聴者を引き連れて行ってあげるんだから!
――……。
「うなー! やっぱダメだー!」
春鷹3号でレースイベントを何度かこなした後、うちは格納庫の床に寝転がって叫んでた。
理由はもちろん、勝てないから。悔しいから新しい機体を組むことも後回しにして何度も何度も挑戦したけど、結局1位を獲ることは出来なかった。
他のプレイヤー速いんだもの。背面パーツほぼブースターで埋めてる変人も居たし。ロケットスタートした後で制御できずに盛大にコースアウトしてたけどさ。あれ見て笑わない人いるのかなぁ。
『むしろ近接特化装備で何で2位まで食い込めるんだよw』
『相変わらずのバケモノ機動で草』
『オリネコちゃんの操縦技術が既にキモい領域にまで行ってる件について』
「誰がキモいだ! 芸術的と言え芸術的と!」
相も変わらずコメント欄は好き勝手言いたい放題だ。もちろん悪意あるコメントじゃないのは分かってるから、本気で怒鳴ったりはしない。
『確かに追い抜かれそうになってた時のサマーソルトパイルバンカーは痺れた。あれこそ変態機動』
『あれマジでどうやってんだwオリネコちゃん今度操縦席内も映してよ』
『サマーソルト自体はそこまで難しくないが、高速移動中にタイミングを合わせ、且つ足に装備させたパイルバンカーを的確に弱点へぶち当てることも加味したらとんでもねー難易度や』
『まさに神業』
『何でプロゲーマーとして食ってないのオリネコ氏w』
「はっはっはー! これこれそう褒めるでない皆の集~。セクシーポーズしか返せないぞ~?」
『アバターのセクシーポーズ見せられてもな……』
『リアルオリネコちゃんでお願いします』
『異議なし』
『異議なし』
『異議なし』
『お前らww』
「うちはそんな安い女じゃありませーん」
まったくもう、ちょっと油断したらすぐそっち方面に話題を持っていこうとするんだから。その積極性をぜひ三春にも分けてあげてほしいものだよ。
うちも三春も高校生だよ? 多感な時期な訳だよ? そりゃあ恋愛とかにも当然関心を持つ年頃だよ?
なのに三春ってば枯れ過ぎなんだよ。このままだと独身街道まっしぐらだろうから、早いとこうちが捕まえてあげないとなのに……んんっ、そうじゃなくて。
『そういえば宣伝があるって言ってなかったー?』
「おっと、危ない危ない。また忘れそうになってたよ。ありがとね~」
レースで負けた悔しさも、機体を組み直さないといけないことも一先ず置いておく。軽やかな動きで立ち上がり、咳払いを一つ。うちはドローンの正面に立ち、至極真面目な表情でその言葉を口にした。
「……皆はさ、シャドダン知ってる?」
『シャドダン???』
『あー、あの高難易度ゲームね』
『知ってる~』
『開始1時間で投げたゲームだわ。死にクソゲーで有名だよな』
む……クソゲーって言われるのはちょっとカチンと来るものがあるなぁ。まぁでも無理もないよね。うちはシャドダンやる時は配信しないし、配慮の無いコメントがあっても仕方がないことだ。
それよりも、流れていくコメントを見る限りでは結構な数の人が認知してるっぽい。ある意味では有名作品だし、これは想定内。
「じゃあ次に、ネットニュースにもなった影の王ソロ討伐について知ってる人は?」
回りくどい聞き方はせずに、真正面から聞いてみた。その問いに対する反応は、ソロ討伐が達成されたという驚きが大部分を占めていた。
ほとんどの人は影の王自体に挑めていないっぽかったけど、動画で知っている人も多いらしく、あの強さを認知しているからこそ驚いている感じだ。
これも想定内。……問題は。
『あー、例の名無しとかいうチーターねwしょーもないよなw』
「……」
嫌な予感は当たった。うちのリスナーにそんな人は居ないと思いたかったけど、現実は非情だ。
次々に流れていくコメントの中に見つけたその一文に、うちの心が自分でも驚くほどに冷えていくのを感じた。次に湧き出てきたのは怒り。
危うく噴火しそうになるのをグッと堪えた。うちはこれでも配信者。ここで感情任せに怒鳴ったらそれこそうちと、そして三春の株を落としてしまいかねない。
冷静になるんだ。いつか三春も言ってた。ヤバイ時ほど冷静になれって。
……でも、まぁ? 多少は怒っても許されると思うんだよねぇ~。
「何を根拠にチーターだって決めつけてるのかな? シャドダンがマルチ前提の難易度だから? 影の王が理不尽大魔王だから? それとも自分じゃ勝てなくて妬んでるから?」
『お?』
『どしたどした!?』
『オリネコちゃんご乱心。ってかマジで怒ってる……?』
んん……ダメだ。ついつい出し過ぎちゃったかも。そう分かってても、一度漏れ出した感情はなかなか引っ込められないもので、言葉が次々に飛び出してくる。
「その名無しって人ね、うちの知り合いなんだよ。ゲーム内じゃなくてリアルの。
誰よりも名無しの人となりを知ってるから、チートなんか使ってないってうちは断言できる。全力でゲームを楽しんで、攻略する為ならどんな努力だって惜しまない。そういう人なんだよ。
その名無しが、努力の末に勝ち取った勝利に根拠も無くチートだ何だのとケチを付けられてる。しかも本人だけじゃなくて家族のことまで悪く言われてるんだ。
うちは許せないんだよ。本当に、ここ最近で一番怒ってると言っていいかも」
『気持ちわかるよ』
『胸糞過ぎ』
『仮に自分の立場だったらショックでしばらく立ち直れないな。半端な難易度のゲームならまだしも、あのシャドダンでの功績を否定されたらキッツいわ』
『ていうかソロ討伐とかヤバくね? 確か初ボスすらソロお断りゲーだよな?』
『名無しってホントに人間か?w』
『あの、オリネコさん。チーターは言い過ぎました、すみません……』
色々と言いたいことのあるコメント達だけど、一つ一つに答えてたらキリがない。ので、ちょっと強引とは思ったけど、ここで大きく両手を打ち鳴らした。
「とまぁ! うちがどう思ってるか理解してもらったところで、本題!
いつやるかはまだ未定なんだけど、その名無しが疑いを晴らす為にと、今一度影の王と再戦することになったのだよ!
うちにはその様子を生配信してほしいって依頼されてね。だから今日集まってくれた皆にも是非とも証人になってほしいんだ!
メインは疑いを晴らす為だけど、言い方を変えればこれはビッグイベントだよ! なんたって、うちなんか足元にも及ばないトッププレイヤーの名無しが、攻略不可能とまで言わしめた影の王ソロ討伐をもう一度やろうって言うんだから!」
これでいいのか。こんな伝え方で正解なのか。それは分からない。だけど全力で伝えたいことをぶちまけた。
最悪これでオリネコの評判が落ちても構うものか。どんな形であれ三春の疑いが晴れるのなら、うちはオリネコとしての自分だって売ってやる。
そうだ。うちを救い上げてくれた三春の為なら、うちは何だってやるんだ。それが恩返しになるのなら。
「さぁ皆! このことを広めておくれよ! 出来る限り盛大にね!」
『なんか分からんが面白そう』
『おいちょい待ち! 今調べたら名無しって奴シャドダンの全ボスソロ討伐達成してるぞ! エグ過ぎるだろ!』
『チート無しの実力だとしたらマジモンのバケモノじゃん。影の王戦経験者として理不尽さは身に染みてるから、そいつ誇張無しで世界一かも』
『こんなのが無名って世の中こわぁ』
『チートに馬鹿ほどうるせぇ運営がランキングに残してる時点でお察しなんだが、オリネコとしても譲れないもんがあるんだろうな。拡散は任せろ。得意分野だ』
『どうせならもっと大々的にやろうぜ! とりあえず兄貴に報告するわ!』
『範囲狭ぇよアホw』
『それなw』
お、おぉぉ……! どうなることかと思ったけど、予想以上に皆乗り気だ! 否定的な意見は今のところ見えないし、これはひょっとしてひょっとするかも!
いよっし! ここはもういっちょ、盛り上がる一言を!
「皆でみは――けふんっ、えふんっ! 名無しを~……や、え~っと、うちの推しを全力応援するぞー! おー!」
『締まらねぇw』
『ここぞという時にやらかす。それがオリネコクオリティ』
『みは?』
『オリネコの推しは俺達の推し。任せろ我が主よ』
『みはってなんぞ?』
『名無しの本名の可能性……』
『やっちまったなぁ!』
ひ~~んっ! 最後の最後でやっちゃったぁ~! これ三春に知られたら後で何言われるか分からないよ~!
三春が見てませんように! ついでに清鷹も見てませんように!
結局その日は最後までグダグダで終わってしまった。
でもまぁ、目的は達成した。……そう、思いたいところ、かな。あはは。




