chapter23 日常への侵食 逃亡
「いただきます」
「はい、召し上がれ」
アノマスからログアウトし、その足で1階へ降りるとちょうど母さんが夕飯をテーブルに並べているところだった。
19時には降りるという俺の言葉を信じてのことだろう。遅れていたらと思うと罪悪感が物凄かった。
良い香りを漂わせるビーフシチューを一口含むと、その美味しさに自然と口角が上がった。店で食べるものも良いが、やっぱり慣れ親しんだ母の味が一番である。
「美味し?」
「ん」
「今日のは特に自信作なのよ~。琴葉ちゃんも食べれたら良かったのに」
「姉貴は姉貴で良いもの食ってんだろうよ」
「迷惑かけてなきゃいいけど……」
「その辺りは大丈夫だろ。外面……猫被りは大の得意だし」
余所行きの姉貴はとにかく猫を被る。少なくとも俺は外で姉貴がボロを出した光景を一度も見たことが無い。まさに誰が見ても完璧な存在を演じられるのだ。
(家でもそれなら尊敬の眼差しを向けれたのかもしれんが……ん?)
人には裏の一つや二つがあるもんだよな。と、そんなことを思いつつ、何となしにテレビに意識を向けた。
姉貴が居る時はバラエティ番組一択の我が家も、今だけはニュース番組を映してある。そのニュースの中で、ふと気になることが――。
『――警察の調査によりますと、既に53名の方が亡くなられているとのことです。中には有名なプロゲーマー、配信者も含まれていることが明らかになりました。
死因については明らかになっていないものの、いずれもVRゴーグルを装着している状態で亡くなられていたことから、今回の件と密接な関係があるとして警察は捜査を続けていくとのことです』
『やっぱりね、常々僕が言ってたように、VRゲームは危険なんですよ。今回のことでそれがハッキリしたじゃないですか。
早急に規制をかけなければ、もっと被害者が増えることになりますよ』
『まだそれが原因とは断定されていませんが……』
『全員がVRゴーグルを付けていたなんて偶然が起こると思いますか?』
『もしくは第三者による犯行で、疑いの目をVRに向けるための偽装工作の可能性も捨てきれません』
『警察の発表では、被害者の遺体を調査したところ、外傷はもちろん、VRゲームと関わりの深い脳にも異常は見受けられなかったとされています』
『原因不明、ということですね』
『いやいや! どう考えたってVRゲーム……いえ、機器が原因でしょう!』
『警察は今後も原因究明の為の調査を続ける方針です。何が原因であれ、いずれは分かることでしょう』
……マジか。現在進行系でVRゲームにどっぷり浸かってる身として、めちゃくちゃ刺さるニュースだ。
53名死亡って……しかも全員がVRゴーグル装着? あの偉そうなコメントしてたオッサンに同調するわけじゃないが、確かに無関係と言い切るには無理がある話だ。
「怖いわねぇ。三春、あんまりゲームをやり過ぎちゃダメよ?」
「流石に死ぬまで追い込むほど馬鹿じゃないって。VRゲームで死ぬとか常識では考えられない時間遊ばないと起こり得ないし」
「それはそうだけど……お母さん心配だわ」
「先に逝くほど親不孝者になったつもりはないぞ。心配し過ぎ」
「そう? なら、いいんだけど……」
しっかし53人……ゲームのイベントに参加した所謂ガチ勢が、寝る間も惜しんでぶっ続けのプレイをした結果。てのが一番有力候補ではある。
でもそれなら、確実に脳に負担が掛かるはず。それこそ、そんな大惨事を起こしたゲームタイトルが報道されてないのはおかしい。
それが無いってことは、他の要因があるのか、単なる警察の見落としか、或いは本当に第三者……つまり殺人か。
まったく穏やかじゃないねぇ。
「ごちそうさま」
「あら、もう食べたの?」
「ん。ちっとやることあるから」
「勉強、てわけじゃなさそうね~」
「流石母さん。分かってるな」
これで俺が成績クソ悪生徒なら母さんからお小言の1つや2つあるのだろう。しかし最低限の学力は確保しているからこそ自由にさせてもらっている。
その辺の課題、清鷹は俺と同じく問題なし。小春はかなりヤバイらしいが……アイツ大丈夫かよ。
「洗い物置いとくわー。んじゃ」
「あんまり夜更ししちゃダメだからね~」
「はいよー」
リビングを出ていく際にそんな注意をされたが、もちろん約束は出来ない。何せ明日は休みだ。今日夜更ししないでいつやれと言うのか。まぁ基本的にいつもやってんだけど。
足取り軽く部屋へと戻り、VRゴーグルを手に取る。再びアノマスの世界へ浸ろうとした時、不意にニュースの内容が頭を過ぎった。
しかしそれも束の間。夜更し程度でどうにかなってるなら、とっくに俺は死んでるだろうと結論付けて、迷わずゴーグルを装着した。
「起動」
意識は溶けて闇の中へ。さぁ、続きといこうか。
(……よし、まだ寝てるな)
無事にログイン後、上体を起こして前を見てみるとケルファとロロは未だ夢の中だった。そうだろうと見越して早めに帰還したわけだが、この様子ならもうしばらくは目を覚まさないだろう。
ならばどうする? 決まっているだろう。
(ソロ探索と洒落込もうか!)
元より俺のプレイスタイルはソロ攻略。いつまでもパーティ行動では調子が出ないのだ。NPCであるケルファやロロとの絆とやらも、今回の件でそれなりに築けていると仮定すれば多少の単独行動は許されるだろう。
そうと決まれば早速……と、その前に確認しなければならないことが1つ。
メニュー画面からパーティの項目を選択し、ケルファとロロを外せるかどうか試してみた。
『 メインクエスト進行中のため、パーティの解散はできません 』
しかし返ってきたのはシステムからの無情な一言。
(やっぱそうだよなぁ)
となると気になるのは、パーティを組んだままだと行動範囲はどの程度まで許容されるのか。理想は無制限だが……試してみないと分からないな。
(ものは試しだ)
2人を起こさないように慎重且つ素早くその場を後にする。そのまま真っ直ぐに墓所の中へ侵入。もう大丈夫だろうというところまで来たら、只管に駆けて駆けて、一気に墓所の奥へと進んだ。
道中で敵をチラホラ見かけるものの、もはや狩っても旨味が無いスケルトンとグールばかり。いたずらに武器の耐久値を下げるだけなので、ポイントが手に入らない雑魚との戦闘は極力避けるべきだ。
幸い奴等は高い場所には登ってこれないらしく、見つかっても高所へ移動すれば苦も無く撒ける。それに、新しく覚えたパッシブスキル『闇ノ衣』を活用すれば、鈍臭い奴相手なら余裕で目を盗んで行動できる筈だ。
行けども行けども変わらない景色の中で、痺れを切らした俺は壁蹴りで建物の屋根へと登った。下からダメなら上より探せってな。
(うーん……お? 結構離れたな)
遠くに薄っすらと見えるのはセーフエリアである地底湖。それなりの距離を走ってきたにも関わらず、パーティメンバーから離れ過ぎているといった警告文も表示されない。メニュー画面を確認してみても、しっかりと2人はメンバーのままだ。
(ありがたいね。これなら気兼ねなく探索に集中できるってもんだ)
目の前に宝があり、いざ取ろうとして『メンバーから離れ過ぎています』でお預け食らうとか勘弁だからな。
そうして屋根伝いに探索を続けることしばらく。ふと屋上に設けられた小屋を発見した。
周りの建物とはまったく違う朽ちかけた木造の小屋。物置……にしては作りが雑だ。どちらかと言えば子供が作ったような秘密基地に近いだろうか。
「お邪魔、と。意外と広いな」
大人2人くらいなら泊まれそうな広さ。壁には子供の落書きらしきものがビッシリと描き込まれ、床には朽ちた紙切れが散乱している。そして小屋の片隅、毛布のような物が置かれたそこには……小さな白骨死体。
「察するにここを利用してた住人か。大きさからして子供……安らかに眠れよ。南無」
なんて、ゲームの中の死体に祈りを捧げても仕方ないんだけどさ。それこそこういう光景は腐るほど見てきた。アノマスに限らず、死体なんてもんはVRゲームをやってると見慣れてくるもんである。
「何か使えるもんは無いかな~っと」
死人に口なし。もはや骸となった今、生前使っていた物は必要ないだろうと小屋の中を物色開始。
と言っても出てくるのは子供が集めそうな物ばかりで、これといってレアなアイテムが出てきそうな雰囲気は無い。
床に散らばってる紙切れには主に落書き。たまに文字も書かれているが、重要そうな情報は確認できなかった。というか地味に凄いのが、この紙切れに書かれてる文字だ。
(知らない言葉なのに理解できる。頭の中で勝手に翻訳されてるような……気味悪いな)
他のゲームなら、こういった資料系のアイテムには日本語表記で情報が記されており、目で読むのが一般的だから、この仕様には驚きだ。世界初と言っていいんじゃないか? いったいどんな技術で作られてんだか。
(おかあさん、さびしいよ。どこにいるの。てがいたい、あつい、くるしい……うぅむ、この子がヤベェ状態に晒されてたってこと以外はサッパリだな)
チラリと白骨死体に目をやり、ゲームとはいえ小さな子供が酷い目に遭ったと考えると少しばかり心が痛んだ。
「ん?」
ふと、白骨死体の下――正確には毛布の下にチラリと何かが見えた。
「ちょいと失礼」
毛布ごと退かしてはぐってみると、現れたのは不自然に浮いた木の床。物を上に置かなければ一発でバレそうな違和感だ。
十中八九、何かを隠してる。そう確信した俺は、遠慮なく力任せに床を引っ剥がした。
出てきたのは埃を被った小さな箱。表面の埃を払い除けると、拙い文字で『たからもの』と書かれていた。
(文字通り死ぬまで守ってた宝か。頂いちまうのは罪悪感が……いや、でもまぁゲームだしなぁ)
チクチクと良心にダメージを受けるのを感じながらも箱を手に取り、中を確認してみる。そこには、錆びついた指輪が1つに液体が入った小瓶が1つ。そして手紙らしき物が一通。
逸る気持ちを抑えてまずは手紙から。
『エルちゃん。お誕生日おめでとう。これはパパとママからの贈り物よ。
これはね、闇の精霊様の加護を受けた、とっても神聖な指輪なの。きっとエルちゃんのことを護ってくださるわ。肌身離さず持っていてね。
お仕事でいつもひとりぼっちにしちゃってゴメンね。でも、パパとママはエルちゃんを心から愛しているわ。今度、3人で出掛けましょう。エルちゃんが行きたいところに行きましょうね』
(ぐおぉぉぉ……これ貰ってくの忍びねぇぇぇ……!)
いやいや、これゲームだから。心を鬼にして貰うのが基本だから。今までだってそうしてきただろ俺!
そう、悪いのは無駄にリアルなアノマスであって俺ではない! そうとも!
などと自分を正当化しつつ手紙を折り畳み、罪の意識から逃れるように小瓶の方へと意識を向けた。
「そんでこれは……」
『 闇の聖水 』
"闇の精霊の加護を受けた聖水。服用すれば宵闇系統のスキル、魔法の威力が強化される。光刃属性である対象への使用は推奨されない。また、何らかの封印解除に用いる場合も……"
ほー? これはこれは。しっかりとお宝だ。
聖水と呼ばれるアイテムは他ゲーにも存在している割とメジャーな物だ。効果は一定時間敵を遠ざけるとかな。
だがアノマスの聖水は少なくとも用途が3つ存在すると解釈していい。自身へのバフ効果に、光刃属性持ちへの使用は特効、か? そんで封印解除にも使える鍵的な役割。それに――。
(闇の聖水ってことは、当然他の属性の聖水もあるわけだ。こりゃ戦略の幅が広がるな)
使い方次第で化ける代物だ。効果の程によっては、できれば全属性ストックしておきたいところだな。状況によって使い分けられるアイテムの存在は、どのゲームにおいても貴重である。
(さてお次は)
闇の聖水をインベントリにぶち込んで、今度は指輪の方を調べてみる。
『防魔の指輪』
"魔法による干渉を和らげる効果を持つ"
(んー??? 装備品っぽいが、これはつまりどういうことだ……?)
和らげる……魔法に対する防御力が上がる という解釈でいいのか? いや、だとしたらもっと分かりやすく表記するはず。
これだけ作り込まれてるゲームで、テキストは手抜きなんてのは考えられない。だから、他にも何か効果があるのは間違いないだろう。問題はそれが何なのかだが。
「……魔法が関与してる事象なら、例外なく弱体化させる的な? いやそれは流石にぶっ壊れ過ぎるか。
ん~、でも確か俺のキャラって魔法攻撃に弱い筈だから、それを補う救済措置って可能性も捨てきれないよな」
うんうんと悩んでみるが分からない。用途がハッキリしない装備品を身に付けるのは少々抵抗がある。
前にシャドダンでクッソ分かりにくい説明のアクセサリーを身に付けたら、物理攻撃を0にして魔法攻撃を超強化する物でしたってことがあったからな。
当然、物理特化型ビルドだった俺が痛い目を見たのは言うまでもないだろう。あれ以来、いまいちハッキリしない物は無闇に装備しないと誓ったのだ。
(名残惜しいが、この指輪の装備は保留ってことに……あ、そうだ指輪と言えば)
謎の指輪をインベントリにしまった後、不意に思い出した。インベントリから取り出したるはまたしても指輪。
防魔の指輪ではなく、キャラクリの際にボーナスアイテムとして受け取った隷従の指輪だ。
完全に頭からすっぽ抜けてた。1匹限定ではあるものの、倒した敵を仲間に出来る貴重な装備品だってのに忘れちまうとは……うん、これもリアル過ぎるアノマスが悪い。そういうことにしておこう。
今考えたら、鉄のスケルトンも仲間に出来てたかもしれないんだよなぁ……勿体ねーことした。
「こいつは装備しておこう」
同じ過ちを繰り返さないよう、しっかりと指輪を装備。指に嵌めるだけで装備した扱いな点も、いちいちメニュー画面を開かないでいいから助かる仕様だ。
「さて、と。悪いな、お前の誕生日プレゼント、使わせてもらうぞ」
もう小屋の中には何も無い。去り際にもう一度だけ白骨死体に手を合わせて、外へと出た。
「次はどこを探索するか。建物内をしらみ潰しはダルいし、重要そうな屋敷とかあれば助か……おーん?」
スケルトンやグールが闊歩する地上で屋内を探索し続けるのは少しばかりリスクが伴う。もちろん、それでも生き残る自信はあるが、得る物が無ければただの無駄骨。
奴等を倒しても旨味は無く、入った屋内にアイテムが無ければそれこそ意味が無い。となれば探索ポイントを絞って巡るべきだ。
と、そう考えながら辺りを見渡していると、何やら遠くに気になる建物を発見。他の物よりずっと大きく、掲げられた十字架から察するに恐らく教会。
「世のゲーマー曰く、聖なる場所には回復アイテムが配置されがち。行ってみる価値しか無ぇな」
現状、メインの回復アイテムは暗黒キノコだけ。戦闘中にモグムシャーしてる暇なんぞ無いのだから、それ以外の回復手段は早めに確保したいところ。
「っ!!?」
そうと決まれば早速――と、足を踏み出そうとしたその時。薄ら寒い何かが背筋を駆け巡り、俺はその場で硬直してしまった。
恐怖デバフ? いや、この感覚は違う。これは単純に急激な気温の低下によるもの。そしてその原因は、今俺の背後に居る何者かによるものの可能性が高い。
即座に片手剣を装備して、恐る恐る肩越しに振り返り……それと、いや、それ等と目が合った。
「ア……ァ……」
「どわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!?」
半透明な腐った体をゆらゆらと揺らしながら、空中を漂う敵。直感でケルファが言っていたレイスだと理解したが、そのふざけた数に思わず俺は駆け出してしまった。
優に100体以上。いやもっと多いかもしれない。そんな数のレイス……つまり幽霊が、俺のすぐ後ろにまで迫ってきていたのだ。
流石にこれはビビった。むしろビビらない奴居ないだろ。もちろんビビった理由はそれだけじゃない。
「うひぃぃぃ! やっぱ追ってきますかそうですよねー! もしかしなくてもさっきの指輪、フラグだったのかー!」
「「アァァァアアァァァ……!」」
「うるせー! その数で大合唱するな! お前等の相手なんざしてられるかよ!」
最も苦手とする相手はどんな奴だ? そう問われたら俺は迷わずこう答える。
物理攻撃が効かない奴だ、と。
「どうせお前等も物理お断りのクソ仕様なんだろ! 分かるぜ俺には! 他ゲーで嫌ってほどイライラさせられてきたからなぁ!」
「アァ……!」
「あっぶね! ほれ見ろやっぱりな! 当たり前のように壁貫通してんじゃねぇよクソ共がぁぁぁっ!!!」
全速力で駆け抜ける。それでもレイス共はつかず離れず……いや、むしろ俺より速くピッタリとついて来やがる。障害物を利用してあちこちに跳び回りつつでなければあっという間に追いつかれるだろう。
ポイントで脚力を強化しておいて正解だった。でなきゃ今頃あれに飲まれてたぜ。
屋根から地上へ降り立ち、壁やら何やら、時には地上を闊歩する敵すらも利用してパルクールで駆け抜ける。それでも奴等はお構いなしに壁を貫通して追ってきやがる。
あれ見て物理攻撃効くと考えるようなバカは居ないだろう。少なくとも、今の状態で戦うのは絶対に間違っている。
だから駆けた。只管に駆けた。目的地に向かってこれ以上ないってくらい必死に駆けて、駆けて、駆けまくって。そして――。
「とぉりゃあぁぁぁぁぁぁ!!! っ……どうだ!?」
目的地である教会の敷地内へ文字通り転がり込んで、振り返って身構える。これでダメなら一か八かの勝負を挑む他無かったが……どうやら、思惑は当たってくれたようだ。
あれだけしつこく追ってきていたレイス共が、まるで見えない壁に阻まれるように動きを止めた。
奴等が止まっているのはちょうど道と教会の境目。シャドダンの仕様を信じての博打だったが、結果は俺の大勝利。
「はっ! やっぱな! おいおいどうしたよ! そんだけの数揃えといて教会が怖ぇってか!? 情けねーなおい!」
入ってこれないのを良いことに言いたい放題である。だがこれくらい許してほしい。いきなり追われる立場にもなれば、文句や煽りの1つや2つあって然るべきだと思うよ俺は。
「アァ……ァ……」
「さぁて、どれどれ。……あー、やっぱり物理攻撃効かないのな。あっぶねー」
本当に攻撃は通用しないのか。それを確かめる為にもレイスへと近付き、長剣をインベントリから取り出して安全地帯から試しに突いてみた。
思った通り手応えは皆無。刃先はレイスの胴体をすり抜けてしまった。
「ホントどのゲームでもお前等には肝を冷やされるわ。……あ? おぉ凄ぇ、凍ってる」
引き抜いた長剣の刃先を見てみると、レイスの体に触れていた部分が凍っていた。こんなとこまで細けぇのな。アノマス、恐ろしい子。
「……しっかし、どうするよこれ」
凍った長剣をインベントリに戻し、改めてレイス共を見上げて呟いた。てっきり逃げ切れば勝手に霧散してくれるのかと思ってたのに、入口はレイスでギューギュー詰め。さしずめリニューアルオープン前の人気店に群がる客だ。
試しに教会の敷地内を移動してみるが、レイス達も同じく移動して出口を塞いできやがる。トップスピードで駆け抜ければ脱出自体は出来そうだ。しかし逃げられたとして、結果は変わらず再び追いかけっこが始まるだけだろう。
ログアウトも当然……出来ない。要するにこの教会で何かをしなければ出られないってことか。
「教会が安全かもって思考に至らないと延々と追い掛け回されるわけか。初見殺しだな」
やはりどんなゲームにおいても経験が物を言う。初めてのゲームがアノマスだったなら、レイスに飲まれて死んでたんだろうな。……いや、最初のスケルトン戦でやられてるか。
「そんじゃま、とっとと探索しますかねぇ」
とにもかくにもレイス共をどうにかしなくては。ということで、俺は一番怪しいであろう教会内へ真っ先に足を踏み入れた。




