第20話 ダンジョンの合同調査①
まさかこれほど応募者が殺到するとは想像していなかったようで、ギルドの職員がポカーンとしている。
さっきまでギルド内で冒険者達が依頼書の取り合いをしてたけど、これじゃあ埒があかないと今度はくじ引きを始めた。
合同調査依頼の枠は三つだが、その一枠は異変の報告者だから、というそれらしい理由で俺達が入ることになっている。なので、あと二枠を現在ギルドにいる10パーティーで取り合っているのだ。
そして、枠を得た2パーティーにはそれぞれ一人ずつ新人が入る予定だ。
新人の冒険者二人も、くじ引きの様子を見守っていた。一人はなかなか気合が入った髪型の青年。剣を背負って軽鎧を装備している感じ、剣士かな。
もう一人は金髪で碧眼、耳が尖っている長身の女性。エルフか。弓を背負ってるから弓士だろう。
一緒に調査に行くメンバーだ。挨拶しておくか。俺とリーナは新人の二人に近づき話しかける。
「やあ、こんにちわ。俺はアランで、こっちはリーナ。一緒にダンジョンの調査に行かせてもらう予定だ。よろしく頼む」
「よろしくお願いしますっ!」
俺とリーナがそう挨拶すると剣士の方が、
「おう! 俺はオーウェンってんだ! 剣の腕じゃあ誰にも負けねぇ、よろしくなっ!」
気合の入った声でオーウェンが挨拶する。俺をチラッと見た後は、ずっとリーナとエルフの方を見ながら喋ってた。こいつ分かりやすく女好きだな……。
「初めまして。ユリアと言う。弓と少し魔法を使う。宜しく頼む」
エルフの女性、ユリアが小さくお辞儀をして挨拶する。よく見るとかなりの美人。髪もサラサラと絹糸のようだ。しかし目の奥に何か暗いものを感じるのは俺だけかな。
まっ、誰でも何かしら過去はあるよね。リーナも何かあって単身カナディアの町まで来たんだろうし。もちろん、細かいことは聞かないけど。
くじ引きが終わって、やっと調査に行くパーティーが決まったらしい。片方はダンジョンの中で俺が話しかけたパーティーで、もう片方は知らないパーティーだ。
前者のリーダーがこちらに近づき話しかけてきた。
「ようお二人さん、昨日のダンジョン以来だな。俺の名はローガン。今回の調査依頼に参加することになった、宜しくな」
低く力強い声だ。体つきは筋骨隆々って感じで、体のあちこちに傷跡がある。ベテランの冒険者だな。続けてローガンの仲間達も挨拶しようとしたが、もう片方のパーティーがそれに割り込んできた。
「おう、お前ら! 俺達はこのカナディアで唯一のB級冒険者パーティー【ウルフドッグス】だ! そして俺様がリーダーのマックス! 最強の俺達が参加するんだ、安心して良いぞ!」
でかい声だなぁ。全身灰色の毛に覆われていて、その上から軽鎧を身につけている。狼の獣人のようだ。【ウルフドッグス】って狼なのか犬なのかよく分からん名前。
「ほお、それは心強い。宜しく頼む」
「なぁ、この合同調査のリーダーは誰だ? まさかお前じゃあねぇよなぁ?」
挨拶を返した俺を、狼の獣人がジロっと睨みつけて言う。
「まだ決まってないぞ。誰かやりたい者はいるか?」
「おいおいそんなもん、【ウルフドッグス】のリーダーである俺様しかいないだろう!」
マックスが踏ん反り返って言う。【ウルフドッグス】のメンバーも、ちょっと呆れた風だがとりあえず頷いてる。
「俺達もマックスで良いと思うぞ」
ローガンのパーティーも同意するようだ。新人の二人もリーナも頷いてるし、問題なさそう。
「分かった。全員OKのようだし、それで良いんじゃないか」
「ふんっ、当然だ。任せておけ!」
こうしてダンジョン調査のメンバーとリーダーが決まった。また新人はオーウェンがローガンのパーティーに、ユリアがマックスのパーティーに入ることになった。
ちなみにオーウェンは、自分とタイプが似て強そうなマックスに憧れ、そっちのパーティーに入りたがったが、戦士が二人いてもしょうがないと言うことで拒否されていた。
マックスは早速ダンジョンに行きたがったが、俺とローガンは準備が必要だからと、出発は午後にするよう頼んだ。
「チッ、しょうがねぇ。午後またここに集合だ!」
そう言い捨てて、狼の獣人とそのパーティーはギルドを出て行った。
「やれやれ。あいつは冒険者としちゃあ優秀な部類なんだが、性格がちょっとなぁ」
ベテランのローガンが誰とも無しに言葉を発する。しかし若き戦士オーウェンは、
「いいや、多分マックスさんはすげえ強えから、自信満々なだけだと思うぜ! 俺もああいう男になりてぇなぁ!」
などと言いつつ、今度はローガンのパーティーにいる女性メンバーをチラチラ見ている。こいつ節操ないなぁ……。
「じゃあ俺達は準備を始めるから、また後でな。新人! お前も着いて来い!」
「おっ、おう!」
ローガンの指示にオーウェンが慌てて返事をする。彼らもギルドを出て行った。
じゃあ俺達も、とリーナに声を掛けようとした時、ユリアがまだ残っていることに気づいた。
「ユリアはマックス達に着いて行かなかったんだな」
「ああ。突然ギルドを出て行ってしまったからな。どうしたものか」
俺がそう声を掛けると、至って冷静な表情でユリアが答える。
「俺達もこれから準備を始めるから、君も着いてこないか? 何かしら参考になるかも知れない」
俺が提案すると、ユリアが
「……良いのか? 是非お願いしたい」
と小さくお辞儀をする。随分と礼儀正しいな。エルフってこんなんだっけ? いや、アメリゴで会ったエルフは結構高飛車な感じだったぞ。
そんなことを考えつつ、皆を連れてギルドを出た。
早速冒険の準備だ。前回のダンジョン攻略の反省を活かし、防具屋で雪原でもしっかり歩けるブーツを購入した。
リーナの防具もいくつか買っておく。ちょっと知力が上がる魔道士の服とローブだ。あと、オーロラ=レインディアの毛皮で装備が作れないか聞いたら、作れるらしいので頼んでおく。何日か時間が掛かるらしい。
続けて魔道具屋に寄ったが、スクロールがかなり品薄だった。これでも入荷したばかりで、少し前までは品切れだったらしい。前回同様、使えそうなスクロールを買っておく。最後に食べ物の調達。万が一長期になった場合も考慮して保存食と、今日食べる軽食類だ。
そんな俺達の準備を見て、ユリアも自分で必要と思ったものはちょこちょこ購入してた。
町を歩き回っている間、ユリアとリーナはお互い歳も近いせいか和気あいあいと会話してた。なんか随分仲良くなったみたいだね。
午後になったのでギルドに戻る。俺達が一番乗りで、少し待っているとメンバーが全員揃った。マックスが仕切り、早速ダンジョンへ向かう事となった。
ダンジョンの調査が始まった。10階までの道のりは順調そのもの。マックスもローガンもこのダンジョンに精通しており、途中出会ったブラックムースを倒して素材を集めながらもどんどん進む。
ローガンのパーティは良いが、マックスのパーティーは魔物の解体とか素材の収集とか、新人への教育がいまいちだ。これはマイナスだな。オリビアにチクろう。
10階に到着すると、昨日俺達が溶かした雪は全て元に戻っていた。早速ブーツに履き替えて、探索を開始する。オーロラ=レインディアは復活してなかったが、下の階層からビッグトロールが登って来てるらしく、10体ぐらいフロアをうろちょろしていた。
「おいおい、本当にいやがるぞ。どうなってんだこりゃあ?」
ローガンが愕然としている。
「おいおい皆、臆したか? 誰も行かないなら、俺から行かせてもらうぜ!」
女の方をチラチラ見ながらそう言い、オーウェンは敵に向かって走り出した。
「おっ、おい!」
ローゼンの呼び掛けも虚しく、オーウェンはビッグトロールに近づいて行く。しかし次の瞬間、敵に棍棒で「スコーン!」と吹っ飛ばされた。
「あいつ、弱いだけじゃなくアホだな……」
ローゼンは呆れて言う。そしてパーティメンバーと、オーウェンを吹っ飛ばした敵に向かって行った。
マックスのパーティーはと言えば、すでに他のビッグトロールをどんどん始末していた。さすがB級の名は伊達じゃ無いようだ。ユリアも後方から弓で戦いを援護している。彼女は中々戦い慣れてるな。
「俺達もあそこにいるビッグトロールを倒すか」
「了解ですっ!」
俺とリーナはそんな会話をして、敵に近づき戦闘を始めた。と言いつつ、リーナのサンダーボルトで瞬殺だったが……。
リーナにはこの前『解決報酬』で手に入れた雷角の杖を渡してあるが、この杖はどうも雷魔法の威力を上げる効果があるらしい。ビッグトロールが消し炭になっちゃった。
リーナが「うわぁ……なんですかこの杖……?」とちょっと引き気味に呟く。すまん、俺にも分からん。
オーウェンは仲間の回復魔法で意識が戻ると、ローガンにこっぴどく怒られてた。次やったらパーティーを首にすると言われて「すんませんでした!」と平謝りしてる。
その後少ししてあらかた敵が片付いたので、マックスの指示で俺達は11階層へと向かった。
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