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第92話 新たなる始まり



〜前回までのあらすじ〜


アンビシャスの三機将が1人、カルマ。

そして魔王直属の幹部である魔将の1人、ノワル。

彼らを打ち倒したセンヤは、大きな1歩を踏み出した。


そして、センヤを取り巻く人々の心にも、新たなる想いや、誓いが芽生えていた。


そして、センヤとサナの夢の第1歩が、本格的に実現されようとしていた。







アンビシャスにおいて一騎当千の兵士に与えられる地位である三機将、その内の1人、『冷血機将』カルマ・トランキリテ率いる機械兵軍団。

そして魔王直属の幹部である、グリフォンの魔人、魔将ノワル率いる魔人達との戦いが終わり、周囲は賑わっていた。




「センヤ様!!勝ちましたね!!」




カテドラルの話を聞き終えたサナはこちらへと走り寄り、笑顔でセンヤの胸へと飛び込んで来た。

センヤもそれを受け止め、サナを抱き締めてぐるぐると回る。




「サナ……!ありがとう!この戦いはサナのお陰で勝つ事が出来た!」




この戦いはサナの存在が無ければ、センヤがカルマとノワルを倒す事はとても困難だったであろう。

彼女の予知能力と、秘めたる潜在能力の覚醒で解放者となった事により、勝利を掴む事が出来た。

サナに色々と話したい事もあったが、まずはこの勝利を2人で喜びたかった。




ひとしきり、サナと勝利に沸いている所で、テンガイの仲間である一派達と、彼らと同じサイズに合わせたアルム・ルブラが、こちらへと向かってきた。

彼らの表情はあまり喜ばしいものでは無く、その理由はすぐに察する事が出来た。




「センヤ様!テンガイ様とロッシュ殿を知りませんか?」




「待て、リーハ達は一緒じゃなかったのか?」




「厶……坊主はまだ戻ってきていないのか……!しかし安心しろ。契約が切れた気配は無い。まだ坊主は生きている!」




通常、契約者が死した場合や、契約を打ち切られた場合、又は精霊側が契約を破棄した場合等、契約の切れた精霊は、こちらの世界で野放しになる事を防ぐ為に、契約が切れた際は10分足らずで精霊界へと強制送還される事になっている。

契約が切られるかどうかの感覚は、言葉ではなく直感で理解出来る為に、アルム・ルブラはロッシュが死している事は無いと断言出来た。




「途中、テンガイ様が何かを感じ1人で森に残りましたが、数刻経ってテンガイ様が戻らない為、ロッシュ殿が森へと引き返しました。我々とアルム・ルブラ氏は共には民間人の保護を引き続き行っておりましたが、機械兵が全て倒れたのでこちらへと……」




戦いの最中、テンガイの姿は1度も見ていない。

しかしセンヤは彼の実力を認めていた事、そして近くにロッシュ&アルム・ルブラがいた事も加味して、彼は無事だろうと思っていた。

しかし、テンガイは思いもよらぬ姿で彼らの前に姿を現した。




「……センヤよ。坊主を、診てやってくれ」




全身を魔物に爪で付けられた掻き傷だらけにしながら、誰かを背負ったロッシュが現れた。

そして、人々の声で目を覚ました背中の彼は、申し訳なさそうにセンヤへと頭を上げた。




「ハハ、ここまで悪いな爺さん、そして旦那……やられちまった。面目ねぇ……」




「テンガイ……ッ!その腕は誰にやられたッ!?待て!今すぐ治す!ロッシュさん!寝かせてくれ!」




両腕を落とされ、力なく笑うテンガイの姿に、サナや一派の面々は言葉を失った。

テンガイは、ロッシュの手伝いで背から降りたが、横になる前に彼はセンヤの前に跪いた。




「……旦那。俺を噛んでくれ。腕を治してもらう為じゃねぇ。俺は、アンタの魂に惚れた。己の言葉に背かぬ生き方……この男に仕えたいと、心から思えたんだ……!!俺に、その未来を共に見せてくれ……ッ!!」




「テンガイ……!」




「………」




ドサッ……




血を失い過ぎた為に、テンガイは再び気を失い倒れてしまった。

センヤに今の言葉を伝える為に、気力のみで意識を保っていたのだろう。




「テンガイ!その心意気、俺がしっかりと受け取った……!!まずは腕を治す。吸血鬼化は体力を使うからな。少し休んでからだ!」




ロッシュは落とされたテンガイの腕を懐から取り出し、テンガイと共に並べた。

肘と落とされた腕の切断面を確認し、とても繋げられる状態では無い、とロッシュは険しい表情で目を瞑る。

ズタズタにされ、焼かれ、あまつさえ呪いまで掛けられたテンガイの腕を、センヤは見つめる。

確かに繋げられる状態では無い。

普通の人間ならば、傷口をなんとかして縫合したとしても、呪いの影響で腕が腐り落ちてしまうだろう。




「俺がなんとかしてやる……!」




鬼気迫る表情のセンヤが上位の治癒魔法を掛け続けると、焼け爛れた腕の断面は、火傷や呪いを掛けられる前の、元の切断面へと戻った。





(知ってか知らずか……呪いごと打ち消しおった。やはり通常の魔法ですら人間とは一線を画しおる)




「次は接合だが……針と糸が無い以上、『魔糸』の必要性が出てくるな……」




『魔糸』は繊細な技術が求められ、途切れずに一定量の魔力を供給し続ける力と集中力が求められる。

魔力で出来た『魔糸』は痛みを伴わない接合が可能であり、普通の糸より強力である。

糸自体に細菌が付く心配も無く、やがて体内の魔力として吸収される為、抜糸を行う必要も無い。

しかし『魔糸』を使える者は冒険者や傭兵を含めたパーティの治癒専門のメンバーや、医者ですら使いこなすのが難しく、ロッシュはその使い手がこの場にいない事を知っていた。




「アタシが、なんとかします!」




ロッシュが周囲の冒険者や傭兵達に呼びかけようとした時、戦いが終わった事を察したキリナが、息を荒らげながら国跡の中から駆け付けた。




「そうか、普段から針と糸を使っているお嬢ちゃんなら或いは……しかし『魔糸』は並の者が出来る技術ではない。魔力の供給量を間違えると、最悪、縫合した場所が弾けるリスクがある……」




「お医者さんには及びませんが……今、この場にいる人達の中で、アタシが1番、糸と触れている時間が長いと自負しています」




確かにキリナの言う通り、この場に医者はおらず、普段から繊細な針と糸を使っている者もいない。

時間がかなり経っている為、早くしなければ腕が付かなくなる恐れもあった。

吸血鬼化すれば、切断された腕でさえ新たに生え変わる事も出来るが、流石にゼロから元通りにするには1ヶ月以上を要するだろう。




「……キリナさん、難しいと思うが……今、可能性があるのは貴方しかいない。……やってくれるか」




「センヤさん、アタシにやらせて。サナちゃんが勇気を出したように、アタシもやる時はやるから……!」




キリナは殺菌作用のある高濃度の液体回復薬を、手に掛け、同時にテンガイの傷周りも消毒した。

両手とも拳を作り、それを隣り合わせるようにくっ付ける。

その状態から両手の親指と人差し指を摘む形で合わせながら前へと出し、微力な魔力を流す。

そして、指はそのままでゆっくりと両手を離していくと、親指と人差し指の間に、青色に煌めく、蜘蛛の糸程の極細の魔力の糸が現れる。




(上手い……!)




ロッシュは思わず感嘆のため息を漏らしてしまった。

普通ならば魔力を絞り過ぎるあまりに糸すら発生させられないか、もしくは送り過ぎて到底、糸とは呼べない棒のような代物が出来るのがザラだ。

デュラハルド大陸にはつい最近まで魔力が存在しなかった為に、知識では知っていても彼女が練習する機会などありもしなかっただろう。




キリナは魔力で更に針を作り出し、その行動を普段から行っているような、別段、特別な事をしているという事を感じさせず、テンガイの腕を綺麗に接合していく。

あっという間に片腕が接合され、キリナはもう片方の腕へと移る。




(彼らの中で、彼女のみが一番、吸血鬼であれど普通の人間に近いと思っていたが……儂の思い違いのようであった。……恐らく、魔力の繊細な調節にかけては彼女の右に出る者はそうそうおらんかも知れん)




「……終わりました!」




残りの腕も僅かな時間で縫合され、テンガイの腕は前と変わらぬ姿となっていた。

切り裂かれた神経同士を早く繋げる為、センヤは更に上位の治癒魔法を掛ける。




「ありがとう、キリナさん。テンガイは俺が一旦中へ運ぶ。皆は別の負傷者の手当を頼んだ!」




そう言い残すと、センヤはテンガイを抱え、人混みなんてなんのその、と言わんばかりに一瞬で国跡の中へと消えた。




「まったく……勝ったら勝ったですぐにどっか行っちゃうんだから。アカツキ君」




キリサメとアンビシャスへと『宣戦布告』を終えたメロも、センヤが走り去ると同時に皆の元へと合流した。

囚われたカンナを取り戻す為に、一国を敵に回す事も厭わない覚悟だったが、メロにも強力な面々と、新たな国の後ろ盾が出来た事はとても大きかった。




「それがセンヤ様ですから!」




サナは自分の事では無かったが、常に忙しく誰かの為に走り回るセンヤの姿が、とても誇らしかった。

運命だなんて言ったら、別の世界にて志半ばで亡くなった彼に失礼であろうが、サナにとっては、センヤが世界を変える命運を背負っていると思えてならなかった。




「よぉしっ!センヤの言う通り無事な者は負傷者を国跡の中へと運び、治療をしろ!半端だが外よりは幾分マシな環境だ!!」




屈強な大工団の漢達を纏めあげるロッシュは、そのカリスマ性を発揮し、冒険者、傭兵を動かした。

基本的にデュラハルド大陸には冒険者や傭兵は腕に覚えのある男達が多く訪れる。

魔力が少し前まで存在しなかった為に、武器を失った場合や、腕や足を怪我した場合、それはすぐ様、死に直結する。

一発逆転の魔法が放てないのは、それ程までリスクが高く、体格的に一歩及ばぬ女性の冒険者や傭兵からは、デュラハルド大陸は敬遠されていた。

それでも、メロを含めて何名か、そんじょそこらの男達など余裕で打ち倒す女性も幾人かは存在するのだが。

基本的に男社会の為、ロッシュのようなカリスマ性のある漢は、男達から支持を集めやすいのである。

彼らは先導役を買って出たアルム・ルブラに連れられ、中へと入っていった。










「あっ……ロッシュさん、これを……」




ロッシュが男達に指示を終えたのを見計らって、キリナは懐から、布に包まれた何かを取り出し、彼の前に差し出した。

差し出されたそれを受け取り、布を開くと同時に、懐かしさと驚きにロッシュは大きく目を見開いた。




「これは…………?……!?…………な、何故、お嬢ちゃんがこれを……?」




「『心残りを頼む。それと、あの時は悪かった』と……伝えてほしいと、頼まれました。その後、あの人は光に包まれて…………これだけが、立っていた場所に残されていました」




「……そうか…………すまない、お嬢ちゃん……手間、掛けさせたな……」




悲痛な面持ちのロッシュの手の中には、あの男が掛けていたトレードマークである、丸メガネが握られていた。







「…………何が『悪かった』だ……!大馬鹿野郎が……!チェカ!!くたばってからも俺にお前の面倒を見させる気か……!!本当に……大バカ野郎だ……!」




人目も憚らず、ロッシュは声を震わせ涙を流した、

手に持つ丸メガネに涙は落ち、まるで、持ち主であるチェカも泣いているようであった。

亡き友を想い、既に届かぬ言葉を明けた空へと投げ掛ける。




「……チェカ、お前の最期の願い、儂が……いや、俺がしっかりと果たしてやる……!!あの世から見ていろ!!お前がそっちで泣いて悔しがる程に、すげぇ国作ってやろうじゃねぇか!!!」




ロッシュは力強く自身の胸を叩くと、空の果てへと逝った友へ、拳を突き上げた。

果たされなかった願いを、果たす為に。













国跡の中には沢山の人々が居たが、センヤを探すアディッカはすぐに、頭1つ、2つ程、抜きん出ている彼を探し出す事が出来た。




「センヤ殿!」




「……君は、アディッカだな。早々に戦いに巻き込んで申し訳なかった。体力は完全に回復しきっていなかった筈だ」




センヤはテンガイを臨時救護所へと運びこんだ後に、重傷者へと傷の手当を施し、ある程度それが済むと、手の空いた者と一緒に料理を作っていた。

途中、大鷲の精霊ヴャトルに乗ったリリーが現れ、機械兵の殲滅がある程度済み、今は合流した部下の聖騎士軍と共に負傷者の手当を行っていると聞かされた。

センヤも相手の将2人は既に倒した事を伝え、数日後に冒険者連合組合に依頼として、復興作業や機械兵の残骸回収などを頼む旨を伝えて欲しいと、彼女に依頼した。







「いえ、命を救ってもらったんです。このぐらい、お易い御用です!それと……このチケットをお渡しします」




アディッカは胸のポケットから、ごそごそと金色に光るの謎のチケットをセンヤへと手渡した。

そのチケットには、『大丈夫!ワァシが作った魔銃だよ!超めっちゃすげぇ魔銃引換券』という文字に、デフォルメされたお爺さんが笑顔のイラストも描かれていた。

裏面にはリズアニア大陸の地図が描かれており、詳細な場所も記されていた。




「ありがとう。ところで……これは?」




「僕の故郷にいる長老が、魔銃作りの大ベテランの職人なんです。僕らは人間には借りを作ってはならない掟があるんですが、危機を救って貰った場合に、これを渡すように言われているんです」




アディッカは胸ポケットの中から、十数枚のチケットをチラリとセンヤに見せる。

色が水色、銅、銀、金と分かれているが、金色の枚数が少なく、きっと凄いチケットなのだろう。




「成程、君が持っているような魔銃か。ありがたい。ところで、俺は吸血鬼だがそれでも大丈夫なのか?」




「全然構いませんよ!チケットは1枚しか渡せない決まりなので、これ以上は渡せませんが借りはこれだけでは全然返せません。ご用命とあらば直ぐに呼んでください!世界は案外狭いもの、またどこかで会えるはずですから!」




彼は世界中を回っており、思いがけぬ出会いを幾つも経験していた。

なのでこの言葉は決して冗談などではなく、実際に自身の経験に裏打ちされたものであった。




「この恩義は一生忘れません!長老へ報告する為に、僕は一旦故郷のあるリズアニアへ戻ります。それでは!」




「ありがとう、アディッカ!またどこかで会おう!」




アディッカは何度も頭を下げると、港のある方角へと向かっていった。




それから、城護達の手伝いもあり負傷者の救護を終えた面々は、国跡の中で1日を過ごした。

リリーやファテナもある程度落ち着いた現場を幹部に任せ、相互報告のみではなく、現場を確認する為に国跡へとやって来た。

ファテナと契約している子猫の精霊、ジェーニオも一緒だった。

誰彼構わずに暴言を撒き散らすジェーニオだが、センヤを見た彼は、見定める様にジロジロと見た後、「……フン」と一言だけ鼻を鳴らすのみに留まった。

後からファテナに聞かされたのだが、あれは彼なりに合格点に達した時にやるもので、ファテナが初めて出会った時も同じ事をされたらしい。




そして、次の日――――――――




大陸の内部は、大きく動き出した。

センヤはデュラハルド大陸中の村や街などへと赴き、アンビシャスの侵略を許してしまった事を人々へと謝罪した。

当然厳しい言葉も掛けられたが、アンビシャスのやり方が気に入らなかった人々も多く、彼らを退けた力を賞賛する者も少なくはなかった。

アンビシャス敗北と同時に、改めて吸血鬼であるセンヤの存在は、世界中へと広められた。

各国の王や権力者達は、同盟を結ぼうとする者、取り入ろうとする者、警戒する者など、それぞれの思惑が入り乱れていた。

しかし、それらの思惑で、彼らの誰しもが共通していた事は、確実にこの世界の勢力図は、新たなる局面を迎えるだろう、という事であった。




ロッシュ大工団とアルム・ルブラ率いる精霊達は改めて国跡の復興を始め、手が空いている冒険者や傭兵達も日当を貰いつつ整備を手伝い、国跡は急速に発展を遂げ始めた。

そして城護達は並行して、リリーの指示を受けたデュラハルド支部の聖騎士軍と協力しながら、前回より更に詳細な奴隷の所在や情報を集め、大陸内で活動している奴隷商の動きも把握していた。




そして数日後、デュラハルド大陸全ての人々にあるチラシが配られ、街には御触れが立てられた。

それは、新たな国の王になる男が、数日間の猶予の後、全ての家庭と商人から奴隷を買い取るというものであった。











皆さん、1年間お疲れ様でした。

仕事や学校など、大小問わず大変な事は人それぞれあったと思います。

皆さんが来年も無事、健康で穏やかに過ごせる事を心からお祈りします。


そして次回からは、本格的にリズアニア大陸へと舞台が移り変わります。

あまり出番の無かった勇者ソルシエラや、名前だけは良く出ていた聖騎士軍元帥、エトワール。

そして、城護と同じくらい癖のある聖羅十傑の面々も登場します。



……年末は特に忙しかったです……正に忙殺という言葉がしっくり来る程に……。

今日も仕事でしたが、元日の明日からもお仕事です。

皆さんはハネルの分までしっかりとお休みください!

それでは良いお年を!


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