第79話 国跡へ集いし者達
この前の話の続きなのですが、最近、職場でも椅子の上、スマホが暗転した一瞬の背後にも人影を見るようになって来ました。本当に一瞬なのですが、黒い塊とか影では無く、人間の女性そのものだと分かるくらいにはパッと見えて一瞬で消えます。神社には結構行っているんですが、本当に何に憑かれたんでしょうか。皆さんもこういう経験とかってありますか?
夜は更けていき、暫くして機械兵がぱったりと現れなくなり、辺りは静止する魔骨兵、疲労で倒れ込む人々、残骸となった機械兵で溢れ返っており、聞こえる音はセンヤとノワルが大剣同士を打ち合う音のみであった。
その戦いに常人の介入の余地は無く、サナは心配そうにセンヤを見つめていた。
そして太陽が登り始めた頃、沈黙をしていた彼らは、沖合から大陸へと再び足を踏み入れ、重厚な機械音と共にその姿を人々の前に現した。
「な、なんだありゃあ……!!」
連戦に次ぐ連戦で疲弊していた冒険者、傭兵の視界に広がるのは、今まで戦っていた機械兵、そして高機動型機械兵、滅銀機械兵、更に驚くべきは高さ5メートル程で重装備を施した、見たことの無い黄金の機械兵が50機程も並んでいた。
それを率いるのは、仁王立ちで巨大な装甲車の上に乗り、真っ直ぐとセンヤ、そしてノワルを見つめる、3mの巨体を誇る青紫色の機将。
『冷血機将』カルマ・トランキリテ。
終わったかのように思えた襲撃は、夜明けと共に現れた鋼鉄の軍勢により、再び始まろうとしていた。
満身創痍の人々からすれば、まさに絶望の夜明けであった。
「……あれは…!」
「ムッ!?新手か!!ドンと来い!!」
センヤとノワルも、大軍を率いて現れたカルマ達に気が付き、戦闘を一時中断した。
視界の端から端まで広がる軍勢に、人々は後退せざるを得なくなり、ジリジリとセンヤ達の方へと追いやられていく。
やがて、センヤとノワルの眼前に到着したカルマは、巨大な装甲車の上から飛び降り、その巨体に見合った重量で地面を割りながら着地した。
「……お初お目にかかる。俺は機械大帝国アンビシャスの三機将が1人、カルマ・トランキリテだ。女王陛下の命により、この国、そして大陸を貰い受ける」
センヤの前に堂々と立ちはだかったカルマは、悪びれる事もなく、それが当たり前かのように宣言をした。
「過程を全てこちらに任せ、自分達は結果のみを受け取るなんて随分と虫のいい話だな」
センヤもそんなカルマの態度に、静かに怒りを滾らせる。
「悪いが、虫の良さを強引に押し通すくらいの強さはある。アンビシャスにはな」
「そう易々とお前達に渡せるほど、俺が背負うと決めたものは軽くはねぇ。来るなら潰すだけだ」
「……残念だ。では、国跡を破壊してでも頂こう。なに、貴様らが消え去った大地で、アンビシャスは更なる発展を遂げる。その礎となる事を誇りに思うといい」
カルマは相当な自信があるらしく、センヤの言葉を聞いてもその態度を崩す事は無かった。
そんなカルマは何かに気が付いたらしく、センヤの背後、ノワルの方へと視線を移した。
すると、ノワルの背後からも魔人の群れが続々と現れ、代表者と思われる三人の魔人が跪いた。
「ノワル様!魔人筆頭、ここに!」
レザール、ムスコロ、シュランゲの三人の筆頭を先頭に、全ての魔人がノワルへと跪く。
筆頭同士で話す時は『殿』だが、流石に本人を目の前にしては『様』を付けるのがルールであろう。
「ムッ!お前達は……………アレだな!えーと………アレだな!」
アレだアレだとは言うが、それがどれかは分かっていないノワル。
レザールは跪いたまま、一向に答えの出る気配がないノワルへ恐る恐る声を掛ける。
「わ、分からなければ正直にそう仰って頂けると有難いのですが…!」
「分からん!ごめんね!!!」ボゴンッ!!
地面に頭をめり込ませ、ノワルはレザールらに渾身の土下座をする。
まさか魔将にそこまでされるとは思っていなかったレザールは、トカゲである為に汗をかかないが、今、冷や汗をかく感覚を理解出来た。
「ノワル様ッッッ!!!あ、頭を上げてください!!!そこまで!そこまでしていただく事はございませんッッ!!!」
「アスワード様からデュラハルド大陸への侵攻の誘いを受け、我々は参上したのですが……」
「ムッ!アスワードはどうした!!」
土下座スタイルからガバッと立ち上がり、キョロキョロと周囲を見渡すノワル。
「ごっ……ご一緒ではなかったのですか!?」
ノワルからの驚きの言葉に、レザールを含め筆頭全員、魔人達も目を丸くし絶句してしまった。
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〜黄昏の城・魔将が集う部屋にて〜
「美味い!やっぱ料理は人間の方が得意だな!これ食うと魔物の肉とかもう嫌だわー。後味とかダンチ」
テーブルの上には、大量のお菓子やら料理などが並び、それをソファの上で口いっぱいに頬張るのはアスワードその人であった。
アスワードはデュラハルド大陸で最初に消し炭にした男から奪っていた金を使い、帰り際に街へと寄り、様々な食べ物を買い込んで来たのであった。
「……やぁ、アスワード。僕も貰っていいかな?」
入口から音も無く現れた中性的な男。
完全な女装をしているチェレンとは違い、彼が身に付けているのは男性ものの服である。
「おー、久しぶりだな。ユイガ……だっけか?食え食え」
「アスワードが僕の名前を覚えててくれるなんて嬉しいよ。うん………本当に」
ユイガと呼ばれた中性的な男は、アスワードが寝転がるソファの向かいに座り、お菓子を食べ始めた。
「うん………懐かしい味。でも珍しいね。君が人間の街へ行くなんて」
「おう、ちょっと用事があってな。…………えーと、なんだったっけか。ちょっと忘れたわ」
気分屋で忘れっぽいイフリートのアスワードの事をユイガは知っていたので、いつもの事だから、とそこは流した。
「ユイガこそ何しに来たんだ?」
「僕は、そろそろまた『種』を撒きに来たんだ。前に植えた『種』もそろそろ『芽』を出すんじゃないかな」
それを語るユイガの目は、アスワードを見ているようで見ていなかった。
瞳孔が大きく開き、まるで自分自身に言い聞かせているようであった。
「ふーん。ま、がんば!」
アスワードは何か思う所があったが、ユイガに色々突っ込むと面倒になるので、軽くあしらった。
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「これまでの経験によると!!十中八九、アスワードは帰ったな!!!ハハハハハハ!!!!」
ノワルは少し考え、アスワードが帰ったと判断し大声で笑いだした。
「わ、笑い事では無いのでは!?」
魔人たちからすればたまったものでは無い。
現にガイネス率いるオーク達が城護によって全滅させられている。
「だからと言って、お前たちもここで負け、死ぬ気などサラサラないだろう!?」
「そりゃそうですが………」
「じゃあ良いだろう!!負ける気も死ぬ気も無いのなら!!勝つか引き分けるかしかないだろう!!!さぁ立て!!あまり首を下げていると落とされるぞ!!」
ポジティブであり、戦闘好きなノワルはこの状況をとても楽しんでいた。
無論、彼も負ける気など1ミリも無かった。
そして、2つの勢力を割るようにして、その間から城護たち、冒険者と傭兵で即興で組まれた連合軍も続々と現れ始めた。
彼らの姿を見て、疲れ果てていた国跡周辺で戦っていた人々も、安堵のため息をついた。
「センヤ様、お待たせいたしました。多少、不覚は取りましたが、各々が担当した領地内にある街、村へ防御策を講じました。手が空いた冒険者、傭兵はそれぞれの得手不得手で30人前後で30部隊に振り分けました」
城護たちが跪き、アッシャーが代表でセンヤへと挨拶、報告をする。
「ありがとう、アッシャー。……ん、ブーケの姿が見えないが」
「生存の確認は出来ているのですが、一切連絡が通じません。センヤ様へと報告するべきかと迷ったのですが、センヤ様は戦闘中だった為に、今ではないと判断をしました」
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〜南東の海岸〜
「…んぅん……………へちま………」
スヤァ………
熟睡するブーケの傍らには、彼女の渾身の力作である大きな砂の城があり、彼女の独特なセンスが際立っていた。
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「そうだ、ブーケの鼓動の状態をレイズヴェルに送る。それで判断できるか?」
「大体の状態は分かるっすよ」
城護の身体状態はある程度把握出来ており、その情報を他の城護に知らせる事も可能だった。
ヴァスターリアの身体を譲り受けてからというもの、頭の容量がかなり増えたように感じる。
知識面でも勿論そうだが、何より5個、10個と同時に物事を考えても、こんがらがる事も無く並行して思考する事が出来た。
なので脳内でのみ行われる複雑な情報共有でさえ、メールを転送するような感覚で行える。
「そちらへと送る。確認を頼む」
「了解っす。むっ……!イフリータ族のこのリズム、そして強さは………」
レイズヴェルの結果を固唾を呑んで見守る一行。
冒険者や傭兵たちも謎に生唾をゴクリと飲む。
「寝てるっす」
男たちは古い漫画のように、一斉に前のめりに倒れた。
決して安心出来る状況では無かったが、彼らは自己責任の元で幾度もの修羅場をくぐってきている為、どんな時でも和やかな雰囲気には乗れるだけの胆力はあった。
「…そうか………じゃあ寝かせとくか」
「申し訳ございません……後でしっかりと、しっかりと言っておきますので………」キリキリキリキリ
アッシャーは眉間にこれでもかと皺を寄せながら、生の虫を丸呑みしたかのような表情で、実際に耳に聞こえるほどに胃をキリキリと鳴らした。
センヤ、カルマ、ノワル。
3つの勢力、それぞれを率いる頭が一堂に会した。
国跡を、そして大陸を巡る戦いが終わりへ向け、今、始まらんとしていた。




