第54話 鬼の誤算と運命の大司祭
展開が遅くとも、書きたい。
「……予想より大幅に早い侵略だ、それ程までにこの大陸が欲しいか!アンビシャス……!」
情報が届いたのは十数分前。
主要メンバーに集合を掛け、拠点の机に広げた地図で、被害を受けた箇所を大急ぎで確認する。
……多い…!
流石にこれは誤算だった。
国跡はまだ5分の1程しか完成していない。
予想では半分程が出来上がった頃に、念入りな準備の上こちらに襲撃を掛けてくると踏んでいた。
しかし建設から数日、あちらも準備が整っている訳が無い。
それを承知の上で侵略を開始したのだ。
急いでいるのか、それとも舐められているのか。
「カテドラル、こちらも『魔骨兵』の用意だ。この大陸全体に行き届く様に頼む。魔力は好きなだけ使ってもらって構わない。足りなければ俺のを使ってくれ。人のは禁止だ。終わり次第自身の領地へ」
「からん」
幸い、カテドラルはまだ幼い為、大陸の端にある1番小さい領地をあてがっていた。
まだそこまでは機械兵たちの手は及んでいない。
「カテドラルを除く他の城護は、すぐに自身が担当する各領地へと戻ってくれ。テンガイ達は一派全員纏めて行動してくれ。敵の実力は未知数だ。並の人間では太刀打ち出来ない可能性もある。その場合はすぐに引き返し、俺に情報を伝えてくれ」
「メロと俺はここの防衛だ。良いか、自由無き輪廻が見えたらすぐ俺の元へ来てくれ。サナとキリナさんはこの拠点で待機だ」
「「「仰せのままに」」」
一刻を争う自体に、センヤは全員に素早く指示を出した。
普段見せているおふざけは一切無しに、城護たちはすぐに行動を開始し、拠点を後にした。
「……儂も行こう」
それまで黙って話を聞いていたロッシュは、おもむろに口を開いた。
「……ロッシュさん?」
ロッシュとアルム・ルブラ達には、簡易的な防壁の設置を頼もうとしていたのだが、なんと彼は戦うと言い出した。
「なに、儂は生涯現役。そして大工団の連中は、儂が全幅の信頼を置いている奴しかおらん。儂は単なるまとめ役だ」
ロッシュに乗っかるように、人間サイズに縮んだアルム・ルブラは挙手をした。
「吾輩もだ。『ルブラカンパニーに在籍する精霊は、全員が一流のプロフェッショナルです』が売り文句である。吾輩一人抜けても問題なかろう」
正直、距離感が近くなっても、どこから言葉を発しているのか分からない。
口らしき物が無い。マジで無い。本当に。
「ルブラさんも……しかし、ルブラさんはともかく、ロッシュさんは武器らしい武器は……」
「その点は問題ない。吾輩を含め、精霊はこちらの世界では存在に『揺らぎ』が生ずる。それ故に巨大な者も、通常の人間サイズまで小さくなる事も可能だ。それを利用し、我々は文字通り『武器』となる事が出来る」
そう言うとルブラはぐにゃりと巨人である姿を変え、ロッシュの右腕に光を放ちながら、巨大な鉄腕となり装着された。
『この通りだ。百腕分の力が込められている。パラツオ家の人間なら誰でも使いこなせるぞ』
鉄腕がピカピカと光り、アルム・ルブラの声が聞こえてくる。
日曜朝の戦隊、ライダーものの玩具のようである。
「机上の話は終わりだ、一刻を争う。坊主ら、行くぞ。遅れるな!」
ロッシュは拠点のドアに手を掛け、テンガイ一派に顎で合図をした。
「ゲェー……じゃ、じゃあ旦那、ちょっと俺らで老人の介護してきますんで……」
「馬鹿め、坊主らより儂の方が万倍強いわ!」
ロッシュに連れられ、テンガイ一派は自身達が担当する領地へと走り出した。
「すまない、頼んだ。皆……!」
センヤは残る大工団の熟練者、同じくルブラカンパニーの熟練者達に、これからの動きを指示した。
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〜リズアニア大陸、バンデッタ…大聖堂〜
大聖堂にはリラ、そして聖騎士軍の部隊の1つ、密偵部隊統括の男が、2人でなにやら話をしているようだった。
「リラ様、アンビシャスから大規模な派兵を確認しました。デュラハルド大陸に新たに出来る予定の国、そして大陸1つを手に入れる事が目的の様ですが……現地の聖騎士軍たちも、機械兵相手に応戦しているようです」
「我々もこちらから援軍を向かわせ、新しき国を援護、お互いに友好国として関係を築くのが最適解かと思われます」
確かに、友好的な関係では無いアンビシャスが力を付けるのはあまり好ましい事ではない。
機械兵やその他の兵器の量産体制が整えば、下手をすればバンデッタやその派閥諸国に大規模な統一戦争を仕掛ける可能性がある。
援軍を向かわせ、吸血鬼の国に恩を売り、こちら側の派閥に迎え入れる事がベストだ。
あわよくばあちらの大陸に、もう1つ国を興す事も出来るかもしれない。
しかし……
「……放っておきなさい。こちらだって無駄な血を流す余裕はありません。先ず優先されるべきは、リズアニアに出現した魔の者を退ける事です」
「……かしこまりました」
聖騎士軍の密偵統括は、大聖堂を後にした。
今は勇者でさえ出払っており、今、ここにいるのはリラのみである。
最近は魔人どころか、『魔将』もこちらへと度々現れるようになった。
「……馬鹿ね。あの女は。たかがヒト風情が吸血鬼に敵う筈が無いでしょう。貴女と、貴女の母上は違う……貴女は、器じゃない」
あぁ、本当に…………哀れ。
繋がるから、縛られる。
期待に応えようとして、見失う。
自分を、未来を、存在を。
窓際に歩み寄り、空を見上げる。
雲一つない蒼空を見ると、全てが、嘘のようだ。
バンデッタも、アンビシャスも、戦争も。
窓越しにゆっくりと手を伸ばすが、蒼空には届かない。
血管が薄く透けているのが見える。
私は、私という、リラ・キールという人間が生きていると自覚する。
リラのみが着用を許される大司祭の装束は、白を基調としており、芽吹きの意味を込めて薄緑色の装飾が施されている。
両肩の生地は薄く透けており、あまり外に出る事の無いリラの、細く白い肌が薄く見えた。
伸ばしたままの左手の袖が、ゆっくりと肘まで降りてきた。
雪のように白く、触れれば壊れてしまいそうな腕。
しかしそこには、剣と、それに巻き付く花、植物の刻印が刻まれていた。




