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第25話 ベリー・ベリー・ウェルダン

夜は戦いである。

布団の暖かさと、トイレへ行きたいという感情が関ヶ原ウォーを始めるのだ。


しかし布団軍が勝つ事は無い。

何故ならトイレ感情軍の敗北は即ち、伊能忠敬も無言になる地図の完成が約束される為である。


きっとそれこそが新しい地図で一本満足(違う)




「わっ…!お城が…!で、ですが…」



「す、凄いな………そしてこれは?」




センヤとサナが城へと着くと、外壁はともかく、階段を含めて内部は最早新築と言えるレベルで、様々な部屋が補修されていた。

城の内部だけなら残りは3割程だろうか。




そして玉座の広間では使用人服、所謂メイド服に着替えさせられた、レイズヴェル、ブーケ、ウェンゲージ…そしてファテナの姿があった。




4人の前には、鬼の様な表情のアッシャーが仁王立ちしており、勉強をしている子供たちは、自分が怒られている訳では無いのにブルブルと震えながら問題を解いていた。

よくよく見るとキリナさんも何故かメイド服を着ている。何故。

後に理由を聞いたら「か、可愛かったから…」と顔を赤くして答えてくれた。




「…センヤ様に何故こうなったか、右から順に述べなさい」




一番右はガーゴイルのレイズヴェルだ。




「えー……屋根の修理が飽きたとこに、センヤ様が龍種と戦ってたんで…ほんのちょこーーっと観戦したんすよね。そしたら後ろに怖いのが居たっす。おー怖」




レイズヴェルは特に反省していなさそうだ。




「なんかね。レイズヴェルがサボってる様な気がして屋根に登ったら本当にサボってたんだよね。あ!私も観たよ!龍種倒すの!」




ブーケは無邪気だが、恐ろしいニュータイプのような勘を持っている。




「ブーケちゃんが『レイズヴェルサボってる様な気がする』って言い始めて連れてこられました…」




ウェンゲージは完全にとばっちりである。




「いやー…『働きたくない』ってアタシの気持ちをストレートに伝えたんだよ。そこの片眼鏡に。お堅いメガネで堅眼鏡ってか。ハハハハハハ」




歳不相応の格好をしたファテナは自身のギャグでブーケと共に爆笑している。

アッシャーは深いため息を吐き、センヤの方を向いた。




「センヤ様、今日の夕飯は多少脂っぽいですが年増女の人肉は如何でしょうか?」




「オイ聞こえてんぞ堅眼鏡」




「私は『貴方の肉』とは一言も言っていませんよ。……自覚はあったんですね…フッ」




アッシャーはどちゃくそ性格の悪そうな笑みを浮かべた。




「オーーイ兄ちゃん!!!!!ワイバーンのステーキとか良いぞーーー!!!!食った事無いけど!!!!!多分めっっちゃくちゃ硬ぇけど!!!!!!絶対硬ぇけど!!!!!毒とか入ってそうだよね!!!!!ね!!!!!」




ファテナは歯をギリギリと鳴らしながらガンをつけ、アッシャーに詰め寄るが、アッシャーは片手でファテナの頭を掴み、近寄られるのを拒んでいる。




「あらぁ〜アッシャーにお友達が出来るなんて!お母さん嬉しいわ!」




「たぶん。ちがう…からん」




奥から新たに蘇った城護がやってきた。




1人は太っているという訳では無いが、男を惹き付ける豊満な身体に、真っ青な髪を伸ばし、肝っ玉母ちゃんという風体である。

もう1人は逆に、出会った時のサナを超えるほどにガリガリであった。

灰色の大きなツインテールが重そうに揺れている。

それよりも気になるのが露出度。

白い骨がギリギリ大事な箇所を隠しているが、最早全裸である。




「『水護の抱擁(ヴァッサ)』ネレイス、ジューン。ここに。また皆のお母さんを出来る日が来るなんて……ヴァスターリア様はあまり甘えてくださらなかったから……センヤ様は甘えてくれても良いのよ?」




「『墓護の輪廻(めびうす)』すけるとん、かてどらる。ここに。おうさま、ひさしぶり……からーん……なんだか、すこし、わかくなった?」




「ジューン、カテドラル。2人は生活や兵力の観点からとても重要だ。また宜しく頼むよ。ところでファテナさん、聞きたいんだが……俺が新領主というのは、ファテナさんが聖騎士軍をクビになる前に裏で手を回したのか?」




アッシャーに頭をワシ掴みされた状態で、ファテナはグリンと首を回し、センヤの方を向いた。




「半分正解。もう半分は後任に任せたんだ」




「後任?」




「アタシが支部長だった頃に副支部長やってた奴でさ。硬眼鏡みたく真面目だからアタシの事はそんなに好きじゃなかったみたいなのよ。クビになる前に『これだけやっといてくんない?』って言ったらやってくれてたみたいで安心したよ」




「ほぉ……よくこんな突拍子の無い手続きを…」




「ほんとそれ。だから半分。賭けみたいなもんだからな。『酔っぱらいよりいい加減な素面』って異名を持ってるんだアタシ」




ファテナも自分なりに仕事はしていたようだが、異名を聞くにやはりというか素行は悪かった様だ。

センヤは逆にその素行の悪さに救われたのだが。




「さて…話は変わるが、アッシャーから話は聞いているな?」




皆に夜襲の確認を取る。

道中では不安だったので、城の敷地内に入ってから、サナにもこの事をを伝えた。




「皆は普段通り過ごしてもらって構わない。しかしあまりバラバラに行動はしないでくれ。相手を警戒させない為に迎撃は俺一人で行う」




「私とカテドラルちゃんはセンヤ様の戦闘を観るのは初だから楽しみね!」




「ほね、いい?」




カテドラルのツインテールが犬のしっぽの様に揺れている。

表情もなんだか、ふんふんキラキラと期待しているようであった。




「カテドラル、すまない。俺はあまり人を殺すのを良しとしないんだ。骨はあまり期待できない」




「ほねだめ?」シューン……




カテドラルのツインテールがしゅん…と下へ下がる。

どちらかと言うと、カテドラル側が猟奇的なお願いをしているのに、何故かこちらが申し訳ない気分になる。




「……その内、魔物や動物のなら取ってこよう」




「やった」




「カテドラルちゃん良かったわね!」




ジューンがカテドラルの頭をよしよしと撫でる。




皆、目の前で行われるやり取りを眺めていた。

いつの間にか、周囲の空気がなんだか間の抜けたものになっている。

アッシャーは先程より、大きなため息を吐いた。

マイペースな城護たちを纏めなければならないのだ。もうストレスがマッハである。




「…なんだか叱る気も失せました…ジューン、カテドラルを含めて、各自、自身の担当する持ち場へと戻りなさい。センヤ様、それで構いませんか?」




「あ、あぁ。…アッシャー、あまり無理をしないでくれ」




「お心遣い、痛み入ります。ですがまだ平気です。ヴァスターリア様の頃は更に……いえ、申し訳ございません。忘れてください」




アッシャーは自分で言い出して頭を抱えた。

センヤが実際に言葉を交わしたのは短時間だったが、確かにヴァスターリアの性格は、破天荒というかワイルドというか……荒々しいものであった。




「センヤ様、王の私室を修復しておきました。そこでお休みになってくださいませ。広間もそろそろ本来の機能として使用しなければ。二階の使用人室もある程度修復しておりますので、キリナ様とお子様方、サナ様もそちらをお使いくださいませ」




「あぅ…ありがとうございます。アッシャーさん」




「えー!兄ちゃん達と寝るのも楽しかったのに!」




「家族ってそんな感じだよね!ずっと皆で一緒っていうかさ!」




「こーら、センヤさん困っちゃうでしょ!」




サナの表情が曇る。

子供たちも残念そうにしている。

キリナさんも残念そうだったが、ここでワガママを言う程子供では無かった。

確かに、こうやって皆でベッドを並べて寝るのも悪くはなかった。

しかし王である以上は、その辺の線引きも必要であろう。




「…サナ、そして皆もたまには来て一緒に寝てもいいんだぞ?」




「セ、センヤ様……良いんですか?」




「俺も1人で寝るのは慣れてないんだ。あんまりな」




正直、1人で寝るのはとても嫌いだった。




元々、両親が亡くなる前は家族3人で布団を敷いて川の字で寝ていた。



親戚の元を転々としている頃は、毛布一枚だけ渡されるだけでも有難かった程だ。

外に出すのは流石に周囲への体裁が悪いのか、外に出される事は無かった。

しかし冬に毛布も何も与えられず、廊下で寝かされた時は死ぬかと思った。

寒さと悲しみ、悔しさで身体を震わせて何日もの夜を過ごしたのは、今でも忘れられない。



爺さんの元へ来てからは、再び布団を並べて眠った。

隣に人がいる事、そして何より布団で眠れるという事が、ここまで幸せだという事を千夜は心から知った。







「ヒュー…兄ちゃん大胆だな……アタシ流石にまだ抱かれるまでは……」




「…なっ!ち、違う!これはそういう意味じゃない!意味を曲げるな!」




ファテナが茶化してくる。

確かにそういう意味に捉えられても仕方ないだろうが、これではセンヤが皆の前で最低な発言をしてしまった風になってしまう。




「ねーねーお姉ちゃん。なんでお兄ちゃん顔真っ赤なの?」




「…ハハハ、何でだろうねぇ?」




(こういうの皆にいつ教えよう……そ、それと寝るっていうのはベッドで別々…?それとも添い寝?ど、どっちだろ…アタシも良いのかな?うぁー…アタシももう少し正直に言っとけば良かったー!)ドキドキ




キリナはそれとなく誤魔化すが、保健体育的な内容を、いつ子供たちに教えるかという難題を抱える羽目になった。

しかしそれ以上に別の事が気になってしまう。






もう一度言うが、夜襲が来るのである!!!!!!




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