第26話 刺客と客人
会社の資格試験は終わったのだ。
合否や結果などは関係ない。
とにかく終わった事が大事なのだ。
なんだか知らんがとにかくヨシ!
センヤは目立ちやすい様、城前に広がる敷地内の、ど真ん中に仁王立ちしていた。
ブーケに城壁を何ヶ所か修復してもらい、炎が灯せるようになった為、夜でも敷地内はそこそこの明るさを確保していた。
この辺りは庭園にしようか、それとも何か別の建物を建てようか。
そんな事を考えていた。
やがて正門から8名程の賊が、ゾロゾロとセンヤの元へと向かってきた。
「…これはこれは新領主様。今晩はゆっくりとお休みになられるご予定では?」
相手は既に、センヤに待ち伏せされていた事を悟り、わざわざ正面から入ってきたのであろう。
先頭を歩く首領と思われる男は、余裕を隠そうともしなかった。
「いや、予定外の客人だろうがしっかり持て成さないと領主、もとい王の沽券に関わるからな。何か手土産でもあるとこちらも嬉しいのだが」
「ハッ、城を買った途端に王気取りか?悪いが土産は無い。俺は逆にお前の首を手土産にしなくちゃあならん」
「俺の首を土産にか。それは余程の相手だろう。あの世の神でもに会いに行くのか?」
「ほぉ。言うじゃねぇの。気に入ったぜ」
賊の首領はセンヤを挑発する。
センヤはそれを冷静に煽り返す。
引くつもりは無いようだ。
…逃がすつもりも無いが。
「まったく………」
センヤは終告げる紅薔薇を背中の鞘から取り出すと、大きな刀身を地面へと突き刺した。
その刀身を左手で滑らせる。
血が黒炎となり、刃の上でメラメラと燃え始めた。
「真血、解放!」
左手をそのまま、頭上へと振り抜く。
センヤの全身が黒炎に覆われ、ソルシエラ戦の時と同じく髪が伸び、色は白、赤へのグラデーションへと変わった。
「…こっちの俺は昼より優しくはないぞ」
「ヒュー…男前が増したぜ、新領主」
首領の男は軽口を叩きながらも、別人のように雰囲気が変わったセンヤを観察していた。
(姿が変わった…?何だ……コイツは…『圧』…って奴か?肌にビリビリ感じやがる……オイオイあの魔人フカシやがったな…?まともな龍種じゃ相手にもなんねーよ)
「テ…テンガイ様ッ!この気配は…!!」
「ビビるな!『天牢雪獄の陣』!」
テンガイと呼ばれた首領と思われる男は仲間達に陣形の指示を飛ばす。
賊達はセンヤの四方を囲み、その上から重なり合わない様に更に四方を囲んだ。
「…『紅魔法』戦いの番外『薔薇園の死闘』…悪いが俺も囲わせてもらおう。お前達には聞きたい事がある」
紅刃の薔薇園がセンヤ、テンガイ達を丸く取り囲む。
美しい薔薇だが、それに触れれば途端に体力、魔力を吸い尽くされ、その場に昏倒してしまう。
「あー!センヤ様『炎の闘技場』真似したー!!使用料取らなきゃ!次ブドーカンもやってね!1500メロだよー!」
「ぶどーかん、だよー?」
(使用料とかあるんだ…)
窓から観戦しているブーケがカテドラルを持ち上げぴょんぴょんと跳ねる。
キリナは内心突っ込んだが、サナや城護たちはそれを軽く流しセンヤを見ていた。
「良いか!ビビるな!どうせ倒せば解除される!何、初見じゃ絶対に躱せねぇ!行け!」
4人で作られた四角形は高速で時計回りに回転し、二重目の四角形の4人も反時計回りに回り始める。
センヤは終告げる紅薔薇を地面に突き刺したまま、腕を組みながら相手が仕掛けてくるのを待っていた。
すると内側の四角形を構成する4人の内、対角線上にいる2人がセンヤの前後目掛けて、日本刀の様な小刀で斬りかかってきた。
キィンッッ!!
「ッ……!な、なんで……」
「さ、刺さったのに…刺さってない…!?」
2人の賊の刃はセンヤの身体を貫通し、火花を散らしながら、お互いがお互いの刃を受け止めていた。
確かに貫通している筈なのに、肉を刺した感触が無い。
そして何より、血の一滴すら流れ出る事はなかった。
目の前で起きた有り得ない事態に、テンガイを除く他の賊たちは数歩後ずさる。
「…悪いな、これも『初見』じゃ見破る事は出来ない筈だ」
ヴォンッ……!
「……あ…」
「嘘…」
前後からセンヤを刺し貫いた2人の賊は、自身に何が起こったかを理解する前に、地面へと倒れた。
終告げる紅薔薇を音も無く高速で振るい、賊2人を切り付けた事を理解出来たのは、センヤ自身と城護たちだけである。
吸血鬼となって身体能力が向上した、サナとキリナでさえ、センヤが軽く腕を動かした様にしか見えなかった。
「リーハ、テリート……こ、殺されたのか…!?」
「む、無理だ……ば、化け物じゃねぇか!訳わかんねぇ!」
賊の悲鳴が上がる。
1人の恐怖は伝染し、他の賊たちも恐怖のあまり陣形を崩し始めた。
「陣形を崩すな!二重目から倒れた2人のカバーに入れ!」
「い、嫌だ…テンガイ様!俺まだ死にたくねぇよ!」
1人の賊が恐怖のあまりテンガイの指示を無視し、『薔薇園の死闘』へと走り出す。
「くっ!こ、こんな薔薇!」
「止めろ!敵の魔法に迂闊に触れるな!」
「…ヒッ…!」
ドサッ……
警告を無視し、薔薇に触れた賊は体力、魔力を瀕死まで吸い取られ、先程の2人と同じく地面へと倒れた。
「クッ…!何らかの魔法で物理攻撃が無効化されている可能性がある!遠距離から魔法攻撃で攻めろ!『迅雷風烈の陣』!久しぶりにやるぞ!」
テンガイの指示で賊たちは作戦を変え、高速移動をしながら全方位からの魔法による、集中攻撃へと戦法を変えた。
「『黒魔法』風の二章!『風迅牙』!!」
荒ぶる風の牙が次々とセンヤに襲い掛かる。
しかしセンヤは二章帯の魔法の殆どを使いこなせる為、効果は薄かった。
ただ視界だけが巻き上がる土煙に覆われるのみであった。
「…諦めろ。お前達の仲間は瀕死だが死んでは………ッ!」
いつの間にか足元に倒れていた2人の賊がいなくなっている。
そして目の前には右手を嵐渦巻く頭上へと掲げ、詠唱を始めるテンガイの姿があった。
「ありがとよ…!終わらせてやるッ!!」
「荒ぶる風の神よ!我に力を貸したまえ!
其れは彼方から始まり終りへと導く奔流である!
其れは風!其れは嵐!其れは刃!即ち破滅を齎す力なり!
白き者共への永劫の破滅を!
落ちろ…!
『黒魔法』風の八章『破迅轟嵐』!!」
掲げていた右手を下へと振り下ろす。
詠唱と共に勢いを増した大きな嵐は、そのままセンヤ目掛けて落とされた。
ゴオォォォォォォォ……………!!!!!!!!
ドォォォォォォォォンッ!!!!!!
「セ、センヤ様っ!!」
「だ、大丈夫なの!?センヤさん!!」
城から見守っていたサナとキリナが、驚きで思わず声を荒らげる。
子供たちも心配そうにセンヤを見つめている。
しかしサナ達とは対照的に、城護たちは無言で嵐の中に消えたセンヤを見ていた。
「ハァ……ハァ……ひっさびさに詠唱からやったぜ……もう魔力切れだ…」
テンガイはその場へと大の字で寝転がる。
賊の仲間達はテンガイへと駆け寄った。
「3人とも、瀕死ですが無事の様です。良かった…」
「いきなり倒れたが……一体何されたんだ…?ま、やった本人はもう粉微じ……」
モクモクと立ちのぼる土煙の中に人影が見える。
まさか、そんな筈はない。
アレを食らって、生きていられる筈がない。
「オイオイオイ嘘だろ……」
倒れたまま顔だけを上げたテンガイと、賊たちは信じられない、信じたくはない、しかしあの場に居た者はアイツしか居ないという、砂煙が晴れるまでの長い数秒間を、絶望と共に待った。
「…魔力は有難く頂いた。しかし、それでもこの威力か。埋め立てが必要だな。全く……仕事を増やすんじゃない」
土煙が晴れ、五体満足のセンヤが現れた。
センヤが立つ場所のみ足場が残り、周囲は直径10m程の大きな穴が空いていた。
そして中心にいた当のセンヤの身体には、かすり傷1つ付いてはいなかった。
嵐を構成していた魔力の大半は終告げる紅薔薇で斬り付ける事により、センヤの身体へと吸収された。
「八章でも無傷かよ…クッソ……あー…ダメだ。つか1歩も動かせてねぇし。降参だ。殺せ。仲間は逃がせ」
テンガイはよろよろと歩き、穴の前へと胡座をかいた。
既に覚悟は決まったという事であろう。
「そ、そんな!テンガイ様!わ、私を殺せ!テンガイ様だけは!」
「俺を!俺をやれ!テンガイ様は駄目だ!」
仲間の賊たちはテンガイの元へと駆け寄り、やれ自分を殺せと、次々名乗り出る。
「バカ!部下に責任取らせる首領が居るか!俺が死ぬってんだから早く逃げろ!」
「…ハァ………調子狂うな……。だが、責任を押し付ける様な奴じゃないのが救いだな」
『アッシャー、居たか?俺から見て緑眼は誰も居なかった』
『いえ、こちらからも確認出来ませんでした』
『分かった。ありがとう』
「…よっと」
センヤはテンガイの横へと飛び移り、テンガイへと手を差し伸べた。
「…は?」
「殺しはしない。俺が聞きたいのはお前の雇い主だ。情報によってはお前は無罪放免だ。聖騎士軍にも突き出さない。だがしかし、何か変な気を起こしてみろ。その時は殺す」
テンガイは呆けた顔をしていたが、直ぐに元の表情に戻り、センヤの手を取った。
「ま、命あっての物種だからな」
「…付いてこい。城で話を聞く」
倒れた仲間達を背負うテンガイの仲間達は、狐にでも包まれた様な、訳の分からないという表情で、センヤに連れられ城へと入っていった。




