第23話 昼は領主で夜は王
寿司ネタは蒸し海老が好きです。
赤龍を瞬殺したセンヤは、一部始終を見守っていた街の人々に囲まれる。
そしてチラシ?を持った街のおじさんから、貴方が『新領主』だ!と言われたセンヤは頭上に『?』を4つほど浮かべていた。
「俺が『新領主』…?」
「えぇ!今朝、聖騎士軍の支部長殿から手紙が住民達の元へ届いたのです!……正直な話、聖騎士軍の方々では領主の代役は満足にこなせているとは言い難い現状でありまして…」
聞いていない、とはとても言えない雰囲気だ。
後に聞いたのだが、この大陸は三大陸の中で最も戦闘が起こっている地域なので、魔王復活に伴い、街の結界はあれども魔物がより強くなる事を恐れ、街を統治していた領主達は一斉に、人類が統治するリズアニア大陸へと逃げ出してしまったらしい。
なのでデュラハルド大陸に存在する街、村などの領主は聖騎士軍が代役を務めていた。
この件はきっと、ファテナがクビになる前に何かかしらの根回しをしていたのであろう。
一見やる気のなさそうなファテナだが、その辺は中々切れ者である。
「あ、あぁー…そういえば確かに、話は聖騎士軍から伺っていた。…すまない、新米故に分からない事が多くてな…領主の役割を教えてくれないか?」
何とか誤魔化すが、どのみち何をするか分からないので、オジサンに聞いてみる事にした。
「なんと!聖騎士軍の方々はセンヤ様に任命するだけ任命して丸投げとは…」
男性はやれやれとジェスチャーをし、センヤに領主の説明をし始めてくれた。良いオジサンである。
「まずは今回のような街の守護です。現状、聖騎士軍は魔物との戦いに追われ、人員がとても不足しているのです。普通なら街を統治する領主様が警備隊等を組織し、街を賊や魔物から守護するのが決まりとなっています」
「しかし人不足の聖騎士軍は『冒険者連合組合』に全てを丸投げ。冒険者たちは実力はあるものの統率が取れない、肝心な時に街に居ない等の問題が…」
「そして商人以外の住人や雇われは給料の5%。商人は売上の10%を領主様へ税を納めます。そしてその税の80%を聖騎士軍を介し世王へ。残りの20%で街をよりよく住みやすくして欲しいのです。領主様はその分、税とは別にリズアニア大陸の世王から毎月報酬が出ます」
「なるほど」
「その他の業務としては争いの仲裁、街で発生した様々な問題の解決などなど……少々表現が悪いですが街の細々とした雑務ですな」
「ふんふん……よし、分かった…ん?」
(…視線?)
初老の男性の言葉をしっかりと手帳にメモする。
しかしその途中、民衆の中に混ざる異質な視線が、1つこちらに向けられている事に気づいた。
「ん、申し訳ない。最後にもう一度、内容を確認したい」
「えぇ、構いませんとも!業務内容がそれなりに多いので1回では覚えるのは難しいですよね」
メモ自体は既に終わっているが、視線の主を探す為にもう一度男性には説明を頼んだ。ごめんオジサン。
(………)
(……)
(…見つけた)
視線は…2つ。
遠くから飼い主の帰りを待つ子犬のような目を向けるサナ、そしてローブを目深に被る者……ローブの奥の表情を窺い知る事は出来なかったが、チラリと緑色の瞳が光に反射したように見えた。
この人々が集まる場所において、人が重なり合って通るのが困難、しかし視界はしっかりと確保、仮に気付かれたとしても直ぐに路地裏へと逃げ込める場所をキープしている。
(俺を観察している…目的は何だろうか。…さっきの機械か?結界を破った赤龍の件と謎の機械…そして俺を観察する者…無関係とは思えない)
相手はセンヤに存在を気づかれた事に気付いていない。
別段日差しが強い訳でも無いのに、あれ程ローブを目深に被る意味も無い。
しかしセンヤが正体を探ろうとすると、何かに意識が阻害される。
あのローブの効果だろうか。
余程、何か事情があって人目に付くのは避けたいのだろう。
恐らくセンヤが怪しい素振りを見せれば、警戒心の強い相手は一目散に消える筈だ。
なので敢えて隙を作る事にした。
「…よし、ありがとう。『俺は山の上の荒城に居る』。あそこは俺が買い取ったんだ。前領主の領主館への荷物の移動は近々行おうと思う。」
「今日中に済ませたい急ぎの用がある者は、申し訳ないが日が昇っている内に城へと来てくれ。少しくたびれた。『今日の夜はゆっくり休みたい』」
センヤのその言葉を聞いたローブの者は、求めていた情報が得られたのか、ふらりと街の路地へと消えた。
(…行ったな。アタリだ。これでもかと言わんばかりに『餌』を撒いたからな。来るなら今夜だ。話だけでもとは思ったが…戦闘は避けられなさそうだ)
「では。今日はこの辺りで失礼する。赤龍の鱗や肉、骨は好きにするといい」
センヤのその言葉に商人たちは我先にとアリのように赤龍へ群がった。
サナの方へと向かう途中、『冒険者連合組合』なる団体に所属する傭兵や、冒険者達から、パーティを組んで欲しいと声を掛けられたが丁重に断った。
「サナ、悪いな。待たせた」
「いえ!センヤ様が無事なら何も問題ありませんよ!」
「サナも無事で良かったよ」
ラグディスの奥、聖騎士軍が建てた鉄格子の門は常に開け放たれていた。
鍵を掛けたいのだが、鍵は聖騎士軍が持っている。
仕方が無いので夜襲が来る今夜も平常時と同じく開けっ放しである。
油断は禁物だが、センヤ&城護sを相手にまともに戦えるのは勇者ソルシエラくらいであろう。
城へと続く森の中の階段をサナと登る。
サナの話を聞きつつも、センヤは絶えず周囲へと意識を向けていた。
『アッシャー、聞こえるか』
『はい、センヤ様。如何致しましたか?』
通常の城護は『デュラハルド』が統治している場所にのみ移動が出来る。
その制約に縛られるが、その分城護たちは絶大な力を得ている。
しかし行動の制限が掛かる代わりに『デュラハルド』が統治している管轄内においては、どれだけ離れていようと、王と城護たちで『念』での会話が可能となる。
城護の中でも『主護』を司るアッシャーは、例え行動範囲外であろうと、王を中心として、半径30メートル以内へ転移が可能となる。
『念』での会話も王のみを対象としては、個別に回線を持ち、距離も無制限に可能である。
センヤはサナに気付かれないよう、アッシャーに『念』で支援を要請した。
『街で色々あってな。詳細は省くが今夜、恐らく城に夜襲がかかる。話し合いでは済みそうに無い』
『人でしょうか。それとも魔物でしょうか』
アッシャーは如何なる時でも冷静である。
それは絶対的な王への信頼の証でもあった。
『それは判断が付かなかった。恐らく目深に被っていたローブに何かかしらの効果が働いている。しかし緑の眼を確認する事は出来た』
『分かりました。夜襲があった場合、1人ずつ照会しこちらでも確認します。敵の規模は不明ですが、城護で迎撃しましょうか?』
『いや、俺1人で迎え撃とう。警戒されても困るしな。俺や勇者と同格の者などそう居ない。城護は他の皆を頼む。裏手から城に侵入する者が現れる可能性もある』
『かしこまりました。その場合の侵入者の生死は?』
『なるべく殺さないでくれ。…俺もそうするが、やむを得ない場合はその限りではない……。城まであと10分程だが、空から警護を頼む』
グェネリロの件と、ヴァスターリアの意識が溶け込んだ事により、センヤは多少なりとも覚悟が芽生え始めていた。
『承りました。3秒後にそちらへ向かいます』
今の所、何者かに尾行されている気配は感じないが、念には念だ。
空からアッシャーの護衛を付ける事にした。
すると3秒後、木々を超える高さの位置にアッシャーが現れて、センヤ達の頭上をゆっくりと旋回し始めた。
『センヤ様から100m以内に人影は確認出来ませんでした。引き続き警戒を続けます』
『ありがとう。アッシャー』
「それでですね、子犬ほどの大きさのゴキブリがですね…」
サナは階段を登り始めた辺りからずっと身振り手振りをしながらゴキブリの話をしている。
何故そんなにゴキブリについて熱く語れるのだろうか。
「…サナは好きなのか?ゴキブリ…」
「えっ普通に苦手です」
(苦手なのか…いや好きって言われても困るけども…)
「あっ…うん…だよな…」
サナのゴキブリトークは城に着くまで続いた。
さて、今夜も忙しくなりそうだ。




