第22話 泡とは。
「ハネルさん、少し良いかな?」
「なんでございましょう」ざわざわ…
「〇〇さんと◇◇さん、インフルでダウンだって」
「へぇ、それは大変でございますねぇ」
「分かってるね?」
「ハハハ……ハハ……本気ですか?」
「はい」
「あっしのお休みは…?」
「ハハハ」
〜荒城、屋根〜
「は〜…かったりっすね〜…お?」
屋根の補修に飽き、寝転がっていたレイズウェルは戦闘の気配を感じ、麓の街、ラグディスの入口へと目を凝らす。
そこには赤龍と、主であるセンヤの姿があった。
「ほぇ〜龍種じゃないすか。んで、戦ってるのはセンヤ様。……余裕っすね余裕。ここから観戦するっすか。お菓子が無いのが悔やまれるっす」
真面目なアッシャーの目が届かない事を利用し、レイズウェルは観戦という名のサボりを始めた。
「グオオオオオオオ!!!」
(…炎!まずいぞ、街が燃える…!)
赤龍が吼え、口から炎を吐こうとする……が、火の粉が少し出るのみで、その口から炎が放たれる事は無かった。
「炎が吐けないのか…?」
赤龍の動きに何か違和感を感じる。
まるで、炎が吐けないのでは無く、吐けなくさせられているようだ。
誰の意図だろうか。
赤龍が炎を吐かない事によって誰が、何の得になるのだろうか。
しかしそれを考えている暇は無かった。
「オオオオオオオオオオ!!!」
(ステップで躱して……ん、やれる…!)
火が吐けない赤龍はスタイルを変え、急降下を仕掛けてセンヤの身体を丸ごとワシ掴もうとする。
センヤはそれをステップで回避し、逆に赤龍の右足の爪を掴んでやる。
「…ウォォォォラァァッッッ!!!」
「オオ……オオオオオオオオオオ!!???」
ドォォォォォォォンッッッッ!!!!
飛んでいた赤龍の爪を掴み返し、そのまま片手で地面へと赤龍を思い切り叩き付けた。
折れた骨が内蔵の致命的な場所に刺さったのか、赤龍は少し苦しんだ後、目を見開いたまま動かなくなった。
「……なんだ?」
顔の側面を下にして倒れた赤龍。
先程はよく見えなかったが、顎下の窪みに何やら機械のような、どう見ても自然発生はしないであろう人工物が埋め込まれている。
謎の機械は一定間隔で点滅していたが、少しして完全に機能を停止した。
不審に思ったセンヤは機械を引きちぎり、赤龍の血を払う。
その際に大量の出血が伴った為、余程しっかりと埋め込まれていたのだろう。
これが赤龍が炎を吐けなかった原因だろうか。
後で調べる為にコートのポケットへと仕舞った。
〜城の屋根〜
「えっもう終わったっすか!?終告げる紅薔薇使ってないじゃないすか!脳筋オブ脳筋っすねセンヤ様!」
「やっぱり漢は拳で語り合う的な?」
「わっ!ぶ、ブーケも来たんすね」
レイズウェルの隣にはいつの間にか双眼鏡を持ったブーケが居た。
更にその横にはオロオロと周囲を伺うウェンゲージの姿もあった。
「いやいやいや3人も来たら流石にまずいっすよ…」
「わっ、私は普通に直してたのにブーケちゃんが『レイズウェルがサボってる気がするから私達もサボろう』って……」
「なんでウチのサボるタイミング完璧に把握してるんすか怖っ…」
ブーケの異常な直感にドン引くレイズウェル。
しかし、その後ろに立つ人影に気付いているのは、ブーケではなくウェンゲージであった。
「あわわわわわわわ…」
「泡ってなんすかね」
「液体もしくは個体がその中に空気などの気体を含んで丸くなったものらしいよ。…もしかしたら私たちが生きているこの世界も、刹那に空を漂う泡の中にのみ存在していて、数秒後には泡も世界も何事も無かったかのように消えてしまうかもしれない…」
「わざわざそれっぽい難しい言葉を使わなくて良いっすよ……泡。その辺はネレイスのジューンが得意分野っすね。アッシャーが水回りを直せば復活するんじゃないすか」
「はい。只今名前が上がったアッシャーは私です。…3人共、何をしているんですか?」
「あっ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
巨大な赤龍を地に叩き付け、5分も掛からずに討伐したセンヤ。
民家に隠れていた住民や、離れた場所で見ていた商人達は口をあんぐりと開けたままセンヤを見つめていた。
「み…見たかよ…龍種、かつ巨大級を…」
「…………すげぇ……なんだアイツ…」
「バケモンをバケモンが倒しやがった…」
「ん?そういえば今朝郵便受けに入ってた紙に…」
センヤは結局使わなかった終告げる紅薔薇を背中へと近付ける。
すると再び黒炎が現れ、瞬時に鞘となり剣を収納した。
一息つくセンヤの元へ、続々と人々が駆け寄ってきた。
「そ、そこの若いお方……名前をお伺いしても?」
皆より1歩前に出ている初老の男性が、片手にチラシのような紙を持ちながら、センヤの名前を尋ねてきた。
「…センヤ・アカツキ・デュラハルドだ。それより負傷者は居ないか?手当が必要な者は来てくれ」
「こ、この子を……建物の倒壊に巻き込まれて…」
民衆の壁が開き、母親と思われる女性が、気を失った男の子を慎重に抱きかかえながら、センヤの元へとやってきた。
見ると男の子の片足が不自然な方向に曲がっている。
倒壊のショックで気を失ったらしく、痛みにはまだ気が付いていない様だ。
「これは…恐らく骨折だな。『紅ま』…んんっ!…ゴホン、『白魔法』治癒の五章『身体回復』」
うっかり吸血鬼限定の紅魔法を使う所だった。
咳払いをし、改めて治癒属性の白魔法を男の子の足に使用する。
センヤは紅、白、黒の全てを使う事が出来るが、紅、黒を使おうものなら周囲の人々が引き気味に数歩後ずさるであろう。
青色の光に包まれた男の子の足は、少しして光が消えると、元の正常な位置へと戻り、アザも消えていた。
「これで大丈夫な筈だ。だが俺は医者じゃない。念の為に医者にも連れていくといい」
「ありがとうございます…!」
母親はセンヤに深く頭を下げると、再び男の子を抱きかかえて医者の元へと向かった。
(オイオイ…『治癒の五章以降は医者要らず』だぞ……ガキ連れてった医者が泣いちまう…)
(見ねぇ面だが俺含めて『冒険者連合組合』の連中は喉から手が出るレベルで仲間に欲しいだろうな……後で勧誘してみるか…)
周囲の人々は様々な思いを張り巡らせながらセンヤを見ていた。
一番最初に話しかけてきた初老の男性は、チラシとセンヤの顔を交互に見て、何やら納得したようだ。
「やはり、貴方様がセンヤ様ですな!お話は伺っています。是非ともラグディスの『新領主』として、暮らしやすい街にして頂きたい!」
「…領主?俺が…?」
センヤは男性が発した意外な言葉に目を丸くした。




