第21話 地脈の活性
お年玉の袋を開けてため息をつかないで親戚の子供たち。
街全体が、なんだか今日はザワザワしている。
「聞いたか?最近、結界を破って魔物達が村を襲う事件が何件も起きているらしい」
「あー、それな。昨日急に地脈が復活したからなぁ…そりゃ魔物も力を付けるだろうさ」
「今朝も小規模な村が幾つか襲われたらしいし。…そろそろ、このナマクラも買い替え時か。死んでから後悔したんじゃ遅いしな」
「お、そんなお前に朗報。今日の午後に『ヤヤガ行商』がこの街に来るらしいぜ。俺は防具を新調するかな」
「マジか!あそこ、魔物の珍しい素材使ってるから武器も防具もスゲーオシャレなんだよな。よっしゃ!ツイてるぜ」
「…」
ラグディスの街へと、頼まれた資材を買いに来ているセンヤとサナ。
街の人々が口々に話している『魔物の侵入』。
歩いているだけでもう10回以上は耳にしたであろう。
そして戦士や傭兵達は、それの他にも『ヤヤガ行商』なる別の話題で盛り上がっていた。
昨夜、センヤは真血に目覚めた。
それと同時に、この大陸全体の地脈が再び活動を始め、豊潤な魔力が溢れ出したらしい。
そのせいか魔物の活動が活発になり、結界の弱い村は、魔物の侵入を許してしまう事件が頻発しているというのだ。
その豊潤な魔力を、大陸全土からこの身体に千年間吸収していたというのだから恐ろしい。
その結果が、真血を解放した状態で『夜』であれば、相手の攻撃を全て受け付けないという、控えめに言ってありえないレベルの反則技をやってのける能力を生んだ。
「…なんだか申し訳ないな」
ヴァスターリアが復活する為とはいえ、千年間も不便な生活を人々に強いてきたのだ。
昨夜の発言を省みるに、ヴァスターリアはかなりの強欲だったようだ。
その点は千夜とは真逆の性格だ。
後半の『ヤヤガ行商』も気になるが、終告げる紅薔薇以上に強い剣は無いだろう。
なんてったってあの勇者が姉妹剣を使っているくらいだ。
防具は是非とも身に付けたいが、羽を出せる様に改造しなければならない点で、断念した。
職人が作ったものは、ベストな形状を保っている為、下手に弄れば全てが駄目になるからである。
「ギュラン膏、リリバナ製の杭。とりあえず頼まれたのはこの2つだけか。皆におやつも買っていこう。サナ。何かリクエストあるか?」
「モルモル焼きが食べたいです!」
「お、良いな。それにしよう」
モルモル焼きとは大判焼きの様なものである。
中にはチーズやクリーム、ジャムなどが入っており、センヤも気に入っていた。
「たっ…たッ……大変だァッ!!!」
その時、大慌てでこちらへと走ってくる若い男の姿が見えた。
何やら大声で何かを叫び、それを聞いた人々も急に慌て始め、こちらへと向かってきた。
「落ち着いてくれ。どうしたんだ?」
「まっ魔物だ!ラグディスの結界が破られたんだ!」
「魔物だと!?」
話には聞いていた魔物の存在。
魔王と王とし、人々を絶滅させ地上を制圧するのを目的とした勢力。
センヤはまだお目に掛かった事は無かった。
それ以前に、恐らく魔物より恐ろしい勇者と一戦混じえている。
ゴクッ…ゴクッ…
コトン…
「フッ…魔物如きで慌てるんじゃねぇよ…店主、支払いはこれで。なぁに、釣りは要らねぇよ」
鋼の鎧を身に付けた、歴戦と思われるダンディな髭の戦士が、「フッ、そんなの日常の延長さ」と言わんばかりに、優雅に屋台のテーブルへコップを置き、店主へと支払いを済ます。
「哀れな魔物だ…サイズは?大猪の大型級か?…この、ダン・ディーノが華麗に切り捨てよう」
しゃきんっ!
「おぉ〜……」
ダンディ髭戦士のダン・ディーノは腰から切れ味鋭い剣を抜く。
周囲の人々は髭戦士の余裕の態度に、感嘆の息をもらす。
「龍種の巨大級だ!頼んだぞ!」
「りゅっ、メガッ…?」
『龍種の巨大級』。
一瞬で周囲の人々と、ダンは真顔になり、先に避難し始めた住民達と共に、龍種が襲来した入口とは別の入口に向かい逃げ出した。
「あっテメッ!くそ…ほら!兄ちゃん達も早く逃げな!」
どうやらダンディ髭戦士は真のダンディでは無かったようだ。
もう彼がこの街に来る事は無いのだろう。
ノット・ダンディになってしまったのだから。
さようなら、ノット・ダンディ。
いつか貴方がダンディに戻れる日が来る事を切に願う。
「サナ、近くのお店に隠れててくれ」
「センヤ様?」
「この先にあるのは俺の城だ。皆も居る。これ以上城をボロボロにされても困るしな」
「…ご武運をっ!センヤ様!」
「ありがとう。ちょっと行ってくる」
サナが拳を上に突き上げる。
センヤはその拳に自分の拳を当て、軽く微笑みながら街の正門へと向かった。
「オオオオオオオオオオォォォォ!!!!」
ラグディスの街の正門、そして近隣の店などは既に破壊されていた。
その瓦礫たちの真上には、地鳴りの様な声を上げ、巨大な翼をはためかす度に暴風を巻き起こす、赤き龍が居座っていた。
龍の金色の目はギョロギョロと動き、正面に立ち、自身を見上げるセンヤの姿を捉える。
「おぉ……さ、流石にデカいな…ファテナさんの言う事聞いといて良かった」
〜出掛ける前〜
センヤは街に行くだけだから、と終告げる紅薔薇を城へと置いて行こうと当初は考えていた。
しかし出掛ける際、どこからか持ってきたソファに寝転がるファテナが…
「兄ちゃん、拳を除いて武器はそれしか無いんだろ?なら持ってけ。出先で武器が必要になる場面は幾らでもある。ていうかめっちゃあった」
「その時はどうやって対処を?」
「兄ちゃんと同じさ」
「拳か…」
スリムに見えるが、意外と服の下は筋肉質で引き締まっているのかもしれない。
いや別に見たい訳では無いが。
「そんな助言をする貴方は捕らえた際、何も持っていませんでしたが。この大陸全土を担当する元支部長ですらそんな低賃金とは……お里が知れますね」
アッシャーが工具を取りに広間へと戻って来た。
片眼鏡を付けたアッシャーは冷めた目で寝転がるファテナを見つめていた。
「アタシは武器高いから支給品使ってたんだよ。クビになったら勿論没収されたし。金はそこそこだったがアタシにも色々あんの!良いから兄ちゃんは武器持ってけ!」
「貴方はいい加減何か手伝ったらどうですか穀潰し」
「嫌でーーーーーーーす!!!!イェェェェーーーーイ!!!!」
悪ノリをする大人はとてもタチが悪かった。
それを見る子供たちの目が、何か可哀想なものを見る様な目だった事が忘れられない。
その後、センヤとサナが門を出る時に、ファテナの悲鳴が聞こえた様な気がしたが、きっと気のせいだろう。きっとね。
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「違う違う…後半は余計だ」
(……)チラッ
まだ崩壊を免れている住居の窓の奥には、不安げにセンヤを見つめる人々の姿があった。
確かにこの近さでは、下手に外へ逃げるより中に居た方が見付からずに済む。
(城護の行動範囲も広げときたいしな。こう言うのも申し訳ないが…住民にアピールする絶好のチャンスだ)
昨夜の真血解放と共に形を変えた鞘。
遥かに大振りとなった為、腰から背中へと位置が変わっていた。
センヤが柄を握ると、その鞘は炎となって消える。
終告げる紅薔薇を赤龍へと向け、宣戦布告をする。
赤龍もセンヤがこちらに戦意を向けている事を知ったのか、激しい咆哮を上げた。
「オオオオオオオオオオ!!!!」
「…来い、赤龍ッ!」




