第20話 何してるんですか?
緩い回です。
(………)
(……)
(…)
「……千夜、千夜!…寝とるのか?」
「ん……じ、爺さん!?」
聞き覚えのある声に千夜は目を覚ます。
畳敷きの茶の間。
中央に置かれたコタツに千夜は入っていた。
どうやら眠かけをしてしまったらしい。
「なんだ、疲れとるのか?」
「あー…いや、まぁ。色々あってさ」
なんだか嬉しくなった千夜の頬は自然と綻んだ。
爺さんとの生活がとても前の事のように感じる。
「ハハハ、ま、頑張るってのは悪い事じゃあねぇさ。ほれ、食え」
爺さんはコタツの中央に置かれたミカンを1つ取ると、器用に素早く向き取り、千夜へと手渡した。
「ありがとう」
窓の外は雪がしんしんと降り積もっていた。
正面に置かれたテレビには流行りのアイドルが映っている。
それを眺めながら2人で黙々と甘酸っぱいみかんを食べる。
「……千夜、家族を護ったんだろう?胸を張っていい。簡単に出来る事じゃないさ。だが力に溺れるのはいけねぇ。力のある奴は賢くないとな。使い方を間違えちゃならん。」
「爺さん……」
「俺は王なんて大層な仕事をやった事なんざない。俺から言えるのは民なくして王は成りえん。良き王であれ。固すぎる王より、民と同じ目線で笑えた方が幸せさ……さぁて…」
爺さんはコタツから出て、掛けてあったどてらを羽織る。
「どこか出掛ける予定でも?」
「おう。お隣の田中さんに回覧板をな。…こっちは心配すんな。お前はそっちで成すべき事を成せ。またな。千夜」
「…!ありがとう、爺さん」
「ハハハ、そっちの家族が呼んでるみたいだぞ。早く目を開けてやれ」
爺さんは後ろから千夜の頭をぐしゃぐしゃと撫でてポンポンと2回叩くと、茶の間を後にした。
(………)
(……)
(…)
「……センヤ様、センヤ様!!」
「……サナ?」
「お、起きてくれました!!」
目覚めるとサナ達が寝ているセンヤを覗き込んでいた。
心配そうなサナの目には涙が浮かんでいた。
「センヤ君……良かった…」
キリナもかなり心配していたのか、動揺の為にセンヤの呼び方が「君」になっていた。
確かにお互い「さん」だと、なんだかよそよそしさが抜けない為、今度からは「君」で呼んでもらおう。
「兄ちゃん無事だ!!」
「死んじゃうかと思った……」
子供たちも心配そうにベッドの縁に寄り添って、不安げにセンヤを見つめていた。
「よう、起きたか。吸血鬼の兄ちゃん」
ファテナが縄でグルグル巻きになりながら、あまり心配してなさそうな目でこちらを見ている。
確かに縄で縛られている状況は、他人より自分の事の方が大事である。
いやそれより…
「…何してるんですか?」
「支部長クビになっちゃった☆」
ぶりっ子をする痛々しいファテナの後ろから、片眼鏡を掛け、黒髪で襟足を小さく結び、男性用の使用人服を着た女性が現れる。
「今朝から門の前でウロウロしておりましたのでひっ捕らえました。こほん、…挨拶が遅れました。『主護の吐息』ワイバーン、アッシャー。千年ぶりの再開、とても嬉しく思います。王よ」
「また宜しく頼むよ。アッシャー」
初対面だが知っているという不思議な感覚。
どう説明すれば良いのだろうか。
あれだろうか、絶妙な距離感の『法事、葬式、お正月に来る親戚』の様な感じか。
「この女は如何致しましょうか。谷底に捨ててきましょうか?」バサッ
「ちょっと待て眼鏡それじゃアタシ死ぬだろうが羽広げんなしまえ」
「何か問題でも…?」
「おーっと兄ちゃん、この物騒な堅物眼鏡に何とか言ってやってくれ」
「サナ様やキリナ様ならまだしも、貴方が王に向かってその口の利き方をするのは容認できません。やはり捨てます」
「良いんだよアタシの方が年上だぞ。20歳のお姉さんだぞ」
「いえ、センヤ様はまだお若いですが、身体の年齢は貴方よりも遥かに年上です。それと、貴方の手、首、顔をじっくり拝見しましたが、そこから察するに貴方の実年齢はにじゅうな」
「馬鹿馬鹿馬鹿言うな言うななんて事を言い出すんだお前は!」
「では行ってきますね」
「うわー!コイツガチだ!助けろ兄ちゃん!」
アッシャーを説得し、捨てられそうになったファテナを解放した。
2人が揉めているのを聞き付け、他の城護たちも広間へと戻ってきた。
「騒がしいっすね…お、センヤ様起きた」
「ご無事で何よりです…その…言い難いのですがブーケちゃんは外で遊んでます……」
〜外〜
ボォォォォ……
「……」
無言で炎の闘技場を見つめ、仁王立ちをするブーケの姿がそこにはあった。
その表情は苦節60年の大工の親方を思わせる表情であった。
「炎の闘技場をこう、いっぱい重ねれば……炎の武道館になる。レイズヴェルのライブはここで決まりだ…!…よっしゃっ!」
広間を出た廊下にあるバルコニーからは大量に積み重なった炎の闘技場と、1人で満足感にガッツポーズを取るブーケの姿が見えた。
「何してんのあの子」
ファテナが言うのは少しアレな気もするが、最もなツッコミであった。
楽しそうなブーケはそのままにして、センヤ達は広間へと戻った。
「昨日は運んでもらったみたいで申し訳ない…まさかあそこで倒れるとは自分でも思ってなかった…」
「千年ぶりっすからね。無理もないっすよ。まだ昼にはなってないっすからしっかり眠ったのと同じっす」
広間の長テーブルの席に着き、今後の事について話す事にした。
アッシャーが皆に紅茶を注いでくれる。
「復活した城護の皆にはまず自分の担当の場所を整えて欲しい。他の城護の復活も視野には入れたいが、とりあえずは今の者たちだけで行う」
「サナやキリナさんは子供たちの面倒を見つつ、俺と交互に街へ不足している材料を買いに行く。城護の皆は強大な力を持つ代わりに、行動範囲が限られているんだ」
「えー…かわいそう…」
「どこかにお出掛けしたくならないの?」
「『この土地は明確にセンヤ様の支配地域』っていう認識があれば、その地域に移動は出来るようになるっす。まぁ真面目な城護は城から動かないっすけどね。例えばウェンゲージとか」
「わ、私は一応宝物庫の番人なので……」
「なるほど…じゃあお兄ちゃんが頑張らないといけないんだね」
「まぁそういう事になるな。だからこの周辺から徐々に『デュラハルド』の名を広めなければならない。ゆくゆくは奴隷を解放しこの大陸を統治する。その為に、この大陸のその辺りに詳しい者が必要だ……」チラッ
「……と、言う訳で今日からお世話になります。ファテナ・クライス、20歳!ファテナお姉さんと呼べ♡」
もうここに居るメンバーは、アッシャーの「にじゅうな」まで聞いている。
それでも設定を貫く鋼のメンタルを持っているようだ。
そんな時、センヤはある共通点を見つけた。
「ん…?サナ、キリナさん、ファテナさん、皆名前の最後が『ナ』で終わるな」
「私はたまたまですけど、この大陸を司る女神様の名前が『ナナリア・ナルズエルナ』と言うんです。なので名前に『ナ』が入っていると女神の加護が受けられると信じられていて、みんな名前に『ナ』が付いてるんですよ!」
サナはその辺り詳しいのでとても助かる。
「成程……つまり5階の教会もナナリアを信奉する為のものか」
ヴァスターリアの記憶を引き継いだセンヤだが、あまりにも膨大な量の為に、図書室の本棚の様に小分けにしたようだ。
知りたい内容を脳内で考えれば、自然とその知識が浮かび上がるようになっている。
しかし内容が難解であるもの、そもそも知らないものに関しては浮かびづらく、何も浮かばないこともある。
「しかし…」
キリナ・クレイトス、19歳。
ファテナ・クライス、にじゅうな…20歳。
名前はここまで似ているが、2人は真逆だった。
…主に生活力の点で。
「?どうしたの?センヤさん」
キリナが不思議そうにセンヤを見つめる。
「あー…いや、何でもない…うん、先に城を直そう。ファテナさんから話を聞くのはそれからでも問題無いと思う。じゃあ解散」
レイズヴェルは屋根や雨樋の修理。
ウェンゲージは5階の宝物庫の修理。
アッシャーは主に王の補佐なので、特定の場所、という事は無かった。
なので3階の水回りをお願いした。
外で遊んでいたブーケには各階、各部屋の燭台、暖炉の修理を頼んだ。
キリナは子供たちに勉強を教える。
サナは俺と不足している補修材料の買い出し。
ファテナはというと……
「ファテナさん、お昼ご飯できたよ」
「んー、ありがとー」
〜〜〜〜〜〜〜
「あっ、瓦礫で服に穴が……新しいの買わないと……んー面倒だな」
「ファテナさん、アタシ裁縫得意だから貸してもらえれば縫うよ」
「やった是非ともお願い」
(…なんだこれは)
支部長という責任ある役職をポイしたファテナは怠惰を極めていた。
キリナさんが子供たちと同じようにファテナの世話を焼いている。
た゛め な おねえさん か゛なかま に な っ た !




