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第11話 人は正しき道行かば

カップ焼きそばばかり食べていたら、名前が『焼きそば』になりました。カレーメシへ怒りの転向。




数時間前、センヤとサナが泊まっていたキリナの家は、無慈悲にも激しい火の粉を巻き上げ、轟々と燃え盛っていた。




中にはまだ子供たちが残っていたが、燃え盛る家の前でたむろする男たちは、助ける素振りを微塵も見せなかった。




それは火の手が激しく自分が助けられる状況ではない、というものではなく、自分たちが子供を助ける必要は無い。という態度であった。







「あーあ、家もガキ共も燃えちまった。いくら命令とはいえやってらんねーな」




「オイ、まだ仕事は終わってねーぞ。それに俺らがやんねーと、俺らがグェネリロさんに殺されちまう」




「キリナ?とかいう女を攫って来いとか言ってたな。グェネリロさんもどうせ殺すなら俺らに預けて貰った方が、長ぁーく楽しぃーく遊んでやるのになァー」




「バカ言ってないで隠れんぞ。キリナは赤髪の女だとよ。ま、家とガキが燃えてんだ。一目見りゃ分かるさ」




「隠れんのか?俺らがグェネリロさんとこのって、この辺の連中も知ってるからな。野次馬も来やしねえ」




「念には念だ。なんでも昨日、この家に大男が出入りしてたそうだ」




「ヒュー!やっぱ女ってのはデカイのが好きなんだな!」







男たちが近くの林に隠れてから暫くして、大きな翼を広げたセンヤがキリナを抱えて、燃える家の前へと降下した。

街を出た頃から既に、焦げ臭いにおいが風で流れてきており、この火事は決して小規模なものでは無いと、2人に無情にも告げていた。







「………そんな……………」




センヤはキリナを地面へと立たせるが、すぐに力無く膝から崩れ落ちてしまった。

炎は周囲の空気を燃やし、大気を乾燥させる。

その勢いは離れていても、肌に炎の熱さを感じさせる程だった。




「キリナさん!待ってろ!俺が行く!」




炎の中にかろうじて家のシルエットがある事を確認出来る。

センヤは臆する事無く、燃え盛る家へと飛び込んで行った。







〜キリナの家、居間〜




「うえええぇぇん!!!キリナおねぇちゃぁぁぁん!!!助けてよぉお!!!」




「げほっ!げほっ!のどが…あつい…!」




「私たち…みんな死んじゃうの…?やだ…まだ…死にたくないよ…サナちゃんの歌…もっと知りたい…」




「兄ちゃん…!助けて…!げほっ…げほっ……」




今朝、食事をしたばかりの居間に子供たちは追い詰められていた。

周囲は炎に包まれて子供たちはどうする事も出来ず、このままではただ死を待つのみであった。

しかし、それを許さない男が、燃え盛る炎から現れた。




ドォォンッ!!




「皆!無事か!!」




「に、兄ちゃん!!皆まだ大丈夫だよ!!」




飛び込んできたセンヤの姿を見て、子供たちの表情が明るくなる。




「大事な物は持ったな!?キリナさんの写真はあるか!?」




「うん!写真とお仕事の道具を集めてたら逃げ遅れちゃって…」




それぞれの子供たちの鞄の中には、自分の物とキリナの裁縫道具や写真が大事にしまい込んであった。




「良くやった!脱出するぞ!皆俺の前に集まれ!………よし、全員捕まったな!?外に出るぞ!!」




センヤは子供たちを両腕と大きな翼でしっかりと掴み、炎や、崩れる天井から、子供たちを庇いつつ、服が所々焼け焦げるのも構わず外へと飛び出した。







一方、外では、センヤが家の中に突入した事を確認し、陰に隠れていた男達が現れ始め、呆然としていたキリナを拘束した。




「よう、赤髪の姉ちゃん。グェネリロさんからのじきじきのご指名だ」




「は…離せっ!!アンタ達が…アンタ達が家を燃やしたのかッ!!くそっ…くそ…!話が違うじゃないか!」




ガタイのいい男に捕まり、抵抗するキリナ。

両親との思い出が詰まった家、自分が親代わりとなって育てていた子供たち。

それが今、目の前で燃えている。




それなのに、自分はどうする事も出来なくて。悔しくて、悲しくて。




「殺してやる…!お前ら…全員…!殺してやる……!」




悔しさと悲しさがキリナの頬を大粒の熱い涙となって伝う。




「お前が俺らを?ハハハハハ!!バァーカ!お前も後でガキ共の後を追うんだよ!」




ギリッ…!




キリナは爪を食い込ませ、自身を拘束する男の腕に、出血を伴う傷を負わせた。




「チッ…痛えなァ!ふざけんじゃァねぇよ!」




ザクッ………




「うっ…!…………あぁ………そ、そんな……!!」




キリナの抵抗に腹を立てた男は、持っていたナイフで、キリナの手を突き刺した。




「馬鹿が、手間掛けさせんな」




「そんな……手が………母さん……!」




キリナにとって、手は何よりも大切なものだ。

仕事、家事、そして子供たちを抱き締める為に。

その手を、この男は何の躊躇いなく刺したのだ。




「……何してやがる…!」




そこに子供たちを避難させたセンヤが現れた。

センヤはキリナの怪我を見るや否や、怪我をさせた男へと距離を詰め、拳を打ち込んだ。




「!?テッ、テメェ…今家のなッ…」




ゴッ……ミジッ…ゴギッ……




「…ガ……ハッ……」




何本かアバラがヘシ折れる鈍い音が響いた。

男のみぞおちから、センヤの拳が引き抜かれる。

そのまま白目を剥き、男は地へと伏す。




「キリナさん!手は俺が必ず治す。まずは応急処置が先だ!」




「センヤ様!キリナさん!」




その時、店仕舞いを頼んでいたサナが、タイミング良くこちらへと向かって来るのが見えた。




「サナ!キリナさんを子供たちの所に!キリナさんは手を怪我した!応急処置を頼む!」




「分かりました!!」




「サナちゃん……ごめんね……」




「気にしないでください!後はセンヤ様がお仕置します!」




吸血鬼化したサナは、キリナを軽々と背負い、離れた場所にいる子供たちの方へと向かった。

2人が無事に向かったのを確認すると、センヤは男たちの方へと向き直った。

しかし子供たちやキリナに向けていた表情とは一変し、その表情は明らかに穏やかな物では無かった。




「殺しはしねぇが……」




「それなりの報いは受けてもらうぞ……!!」




センヤが拳をバキバキと鳴らす。

人間ならいざ知らず、吸血鬼の拳は凶器に他ならない。




「オイオイオイ、随分勝手してくれんじゃねぇの?兄ちゃん」




仲間の1人がヘラヘラとセンヤの前へと立ち塞がる。

しかしセンヤの身長の方が男よりも30cm以上高い為、男はセンヤを見上げる図となる。




ガシッ




「…へっ?」




ブォンッ…!




……………バシャァッ……ン!!





センヤは無言で立ち塞がった男の首根っこを掴み、ここから15メートルは離れた川へと投げ捨てた。




『この身体の戦い方は分かるか?アカツキセンヤ』




(お前は……!)




『基本の動きは貴様がやるといい。我が好きな時に勝手に動く。勿論、遠慮無く殺すがな』




センヤが明確な敵意を抱いた時、声が脳内に響き始めた。

しかしセンヤは人を殺すつもりは無かった。

どの様な悪人でも罪を償う権利があるからだ。




「そっ!その女は!俺らから金を借りてたんだ!今月末に返すそうだったが先にボスから家を燃やせとの指示が出ッ…!」




パァンッ!




センヤは懐から500メロ硬貨を取り出し、弁明をする男の額目掛けて、親指で弾き出す。

空を切り高速で弾き出された硬貨は大の男すら後ろへと吹き飛ばした。

先程までベラベラと弁明をしていた男は地面に倒れ込み、静かになった。




「黙れ……」




ゆっくりとセンヤは男たちの元へ歩き出す。それに合わせて、男たちも各々武器を構える。




「火事は…かつてその人が生きていた証、残された思い出の物すら全て燃やし尽くし灰としてしまう…」




「この外道共が……!!」




すると、センヤの怒りに呼応するかのように、黒い炎がセンヤの両拳に燃え上がり始めた。




『その炎は貴様の怒り……そして我が力……!』




(何を言おうと俺は殺すつもりは無い、お前がこの身体の主だろうがな)




『ククク……!そうだ、デュラハルドの者は強欲でなくてはならん!』




「チッ!構わねぇ!撃て撃て!どうせ当たりゃ死ぬ!」




しかし聖騎士軍の破魔弾ならまだしも、吸血鬼の強靭な肉体を持つセンヤには、普通の銃弾が何発当たろうが、傷1つ負わせる事が出来ない。




破魔弾は光弾のような物だったので、当たった箇所こそ燃えるように熱かったが、服に穴は空かなかった。

しかし普通の銃弾はセンヤの上質な貴族服に容赦なく穴を空けていく。




焼け焦げ、穴の空いた服からはセンヤの顔と同じく白い肌が露になる。

腹筋は綺麗に割れており、封印されていた事を感じさせない程の引き締まり具合だった。




「き、効かねえ!!…ヒィッ!?」




「くっ…くそがああああああ!!!」




ジワジワとセンヤに距離を詰められた男は銃を投げ捨てヤケクソで殴り掛かってきた。




ベチッ




「…へ?」




あまりにも軽い、間抜けな音が響く。

センヤは男の胸倉を掴みあげ、頭上へと持ち上げた。

男はジタバタと暴れ、足で必死にセンヤを蹴りつけるがセンヤはビクともしない。




「あわっ!あわわわわ!!!」




「…俺が怖いか?けどな、あの子たちはもっと怖かったんだ。相手が人なら一瞬で苦しまずに殺す事も出来る。だが…相手が火となるとそうはいかない。喉が焼け、身体が焼け、自分が助からない事を自覚して尚、長い苦しみを味わいながら死ぬんだ」




「それがどんなに残酷な事か分かるか?」




ドゴォッ!!




センヤはそのまま男を空高くへと投げる。

そして悲鳴を上げながら落ちてきた男の腹にローリングソバットを叩き込む。

男は仲間の元へと吹き飛ばされ、数人に当たっても止まらず、仲間ごと巻き込みながら数十メートル飛んだ所でようやく止まった。




無謀にも棍棒や刀剣で立ち向かって来る者は容赦無く武器をへし折る。

人は持ち上げ地へと垂直に叩き落とす、更に人へと投げ付ける、みぞおちに黒炎の拳を叩き込む。

センヤの通った後には、死んでこそいないがピクリとも動かない男達が横たわっていた。




銃弾ではものともしないセンヤに対し、いつまでも考え無しに銃を乱射する者へは500メロの硬貨を弾き飛ばし気絶させる。

銃撃があまりにもしつこかった為、センヤは落ちていた銃を拾い上げて自身の側頭部に残っていた弾を全て撃ち込んだ。

それでも平然としているセンヤに恐れを成し、大半の銃撃者は逃げていった。




「そりゃっ!あちっ!」




べちっ




「うりゃっ!あちっ!」




べちっ




キリナの応急処置を子供たちに任せ、サナは流れ弾を手で横へと払い除ける。

直で食らうのは流石に危ないらしいが、動体視力は明らかに人間の時より向上しているようだ。




「兄ちゃーん!頑張れー!」




「いけいけー!!」




「センヤ様さすがー!」




子供たち+サナの声援を受け、センヤは次々と男達を無力化していった。




暫くしてほぼ全ての男達が地へと伏し、センヤの両拳の黒炎も消え、無力化が完了した…かのように思えた時だった。







「おーおーおーおー!ガキに語る物語としては最高のモンじゃねぇか?…このグェネリロが出てくるってとこ以外はよォ」




センヤに蹴散らされた男達が呻きながら地面に這いつくばる中、その男は拍手をしながら現れた。




「帰りが遅せェと思ってわざわざ来てやったら…」




「あんな若造1人の手でお前らは今、母なる大地と熱い熱い接吻をするハメになってんのか?あァ?」




「すいません…グェネリロさん…ですがアイツはッ………」




「ですが、じゃねェ。意見すんな」




センヤにアバラを折られ倒れていた男がグェネリロに話しかけるが、グェネリロは足元に転がる男をその辺に転がる小石を見るような目で一瞥する。

そればかりかグェネリロは短刀を男の頭に投げ付け、簡単に殺してしまった。




「あー、また汚れちまった」




「よう若造。…俺ァ馬鹿は嫌ェだ。特にテメェみてェな若さと、それに任せたしょうもねェ正義感の持ち主、所謂…愚か者って奴がな」




グェネリロと名乗る男は突き刺した短刀を引き抜き、血液を払いながらゆっくりとセンヤの前へと歩み寄って来た。




「その男は仲間の筈だろう…!何故、人をそこまで簡単に殺せる…!」




グェネリロと対峙するセンヤ、一触即発の雰囲気が周囲に広がる。

先程、仲間を殺した短刀の腕、あの短い動作に一切の無駄、情が無かった事から、この男が先程の男達とは比べ物にはならない程の実力者である事をセンヤは理解していた。




「仲間?アイツが?違ェな。仲間は対等だからこそ仲の良い間柄で居られんだ。アイツは俺より弱ェ」




「テメェ、ここで這いつくばってる連中を誰一人として殺してねェな?…ハッ、甘ェ」




センヤとグェネリロはお互いの考え方が根幹から決して相容れない事を理解した。










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