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第12話 悪の始まり

寒いですね〜





グェネリロと対峙するセンヤ。




周囲にはグェネリロの一味達が転がっていたが、グェネリロは構わずこの場で戦いを仕掛ける気の様だ。




グェネリロの顔に刻まれた深いシワは、彼自身が積み重ねてきた人生を感じさせるような、どこか歪な刻まれ方をしていた。




センヤは静かにグェネリロへ抱いていた疑問を問うた。




「グェネリロ…人は生まれながらにして悪か…?それとも生い立ちが人を悪とするのか…?」




「…さぁな、俺ァ学がねェ。家が貧乏でなァ、学び舎に通う金なんざ無かった。だがよ…何の因果かこの短刀の腕。これだけは天が俺に分け与えた唯一の才能。俺はこの力だけでここまで成り上がったのさ」




グェネリロは袖口から更に数本の短刀を、無駄の無い動きで取り出し、手の中に収める。




「そう考えると元々俺は生まれた時からこうなる運命だったのかもな。なんせ短刀だぜ?人を殺せって言ってるようなモンだ。誰だって限られた手札の中から最善を選ぶ。この道こそが俺の最善…」




センヤの問いに対し、片手で数本の短刀を曲芸士のようにクルクルと弄びながら、冷めた顔で実につまらなさそうに返答する。




「…まぁ学がねェなりに答えてやるよ。……生まれ落ちる家で全てが決まるんじゃねェかって俺は思うぜ。お前の問いは前者、後者どちらも当てはまるし、半分正解で半分不正解さ」




「…グェネリロ、お前だって貧困の元に生まれたんだろう?そんな男が何故、子供達を殺そうとする。お前も彼らの気持ちが分かるんじゃないのか?」




「……俺の生き方を否定するのか?テメェは」




グェネリロの態度が一変する。

先程までセンヤへの興味を欠片も感じさせなかった男が、瞬時に明らかな殺意の籠った眼へと変貌した。




「良いか、俺は俺が出来る限り、やりたいように生きてきた。他ならねぇ俺自身の選択でな。…テメェの勝手な価値観でこのグェネリロを測るんじゃ…ねぇッ!」




怒気を含んだ声を荒らげるグェネリロは、数本の短刀をセンヤへと投げ付ける。




ギンッ!




ギンッ!




ギンッ!




高速で迫る短刀はセンヤの身体へと当たるが、鉄と鉄が当たるような音が響くのみで、外傷を与えることが出来ない。




弾かれた短刀はワイヤーのような、伸縮式の鋼鉄の紐が付いているらしく、全てグェネリロの手の中に戻っていく。




「何だテメェは……鎧でも着込んでんのか?アァ!?」




そう、幾ら手練であろうと、それは『人間』が基準である。

吸血鬼の身体を持つセンヤに、チンピラ風情が傷一つでも負わせられる筈がない。

焦るグェネリロにセンヤは距離を詰める。

そして、拳を打ち込もうとした瞬間だった。




『情けを掛けるなッ!』




「……ッ!?」




またあの声だ。

身体へと違和感が走り、今度は急激なめまいがセンヤを襲う。

それを好機と捉えたグェネリロは、戦闘スタイルをワイヤーを用いた遠距離攻撃から、今度はワイヤーを使わない純粋な近距離の切込みへと変える。

両手に持った短刀を蛇のように唸らせる。




「ハッ、ありがてェ!俺ァどちらかってェと近距離の白兵戦のが得意なのさ!馬鹿が!」




「グッ………!」




グェネリロの右手に持った短剣が、センヤの脇腹に突き刺さり、破れた服から見える白い肌に真っ赤な血が流れ出す。




「センヤ様っ!」




「ッ…!サナ!サナはキリナさん達を守れ!」




「ハハハハッ!女の心配か!泣かせるじゃァねェか!」




この世界に来て初の外傷。

センヤの中に潜む『内なるモノ』。

彼の意志とセンヤの意思、噛み合わない2つの思いは、身体の適合を鈍らせる。




「おっと、危ねェ」




突き刺さった短刀で傷口を抉れば、センヤに深手を負わせる事が出来るだろう。

しかしグェネリロはいつまでもセンヤの懐に居座るのは危険と判断し、すぐに短刀を抜き絶妙な距離を取る。

グェネリロの判断は当たっていた。

もしグェネリロが前述の傷口を抉る時間があれば、センヤはすぐさまグェネリロに拳を放っていた。

粗暴な言動とは裏腹に次の行動を繊細に読んでいる。




センヤの脈動に合わせ、血がドクドクと流れ出る。

じんわりとした痛みが傷口を中心に広がっていく。

本来ならこの傷も5分と掛からない内に治癒する筈だ。

しかしセンヤの意識と、身体のバランスが今は不安定な為、その能力も鈍っていた。




「ハァ………ハァ………ハァ………」




(『内なるモノ』……何故お前はそうまでして俺に人を殺させたい………?)




センヤが『内なるモノ』に問うが、彼は沈黙を続け、答えは得られない。




人に優しく。

誰よりも優しかった両親が、センヤに言い続けてきた言葉。




しかし、その両親は本心を隠した、幸せを妬んだ悪しき人間に、その命を奪われた。




そしてセンヤは数年間、人の『悪意』に、嫌という程晒され続けた。




(……いや、グェネリロにも、まだ『心』がある筈だ……)




一瞬、何か言葉にならない感情が湧き上がったが、センヤはそれを振り払い、これまでの自身の生き方を、通す事にした。







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