↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
三度目の最終戦
3222/3222

3222. 『銀色の双頭に問う』・自我・あく穴・女龍脱出

※明日の投稿をお休みします。度々休みが入り、申し訳ありません。どうぞよろしくお願いいたします。

 

『銀色の双頭に問う』



 決着をつけた直後、一秒足らず。

 今度は何だ、とぼやいたトゥすら呑むように、立ち込めて周囲の風景を沈ませる霧。辺り一面、灰白に包まれ、ダルナの力を以ても見通しが利かない。川も炎も何一つ残すことなく、自分とタンクラッド以外の動きが消える。


 剣を鞘に戻したタンクラッドは警戒。トゥは、尾に巻いた彼を背中に戻し、すぐ先の未来を探る。霧が透視出来ないなら、未来も無理かと思いきや、そうでもない。次の声までの間で、さっと映った未来は――― なるほど。



『道に引き入られ、暗い正道を失った末のその体」


 軽んじる発言に、タンクラッドの眉根がぐっと寄った。

 好きで悪神に跪いたわけではないトゥは、一体に二本の首を突っ込まれたのが現在の姿。おい、と喉元まで出かけたタンクラッドに、トゥは振り向かずに制する。少し横に動かした頭の仕草に、乗り手は黙った。


 余計な言葉に注意し、主の反抗を押さえ、無遠慮な問いかけに黙る。これは俺の最後の試し。


『仕えた仮象(かしょう)を憎んだ心は、身代わりへ巡らせた。罪を負う彷徨いも、幕を落として己を残そうとは、いかなる望みの一歩』


 問われた、『身代わりに押し付けてまで残った希望の意味』。トゥの右の頭が口を開き、どこにいるとも知れない中性的な声に応じる。


「調和ある世界の出現に、塵を捨てて己を委ねるため」


『身代わりは埋め、去らせてしまう行いを経て』


「俺もザハージャングも互いに影だが、俺は境涯を跨ぎ、地上と命の嘆きを手放す道を求める」


『創造と絶望の沙汰』


「埒が明かない創造の導(しるべ)に、沙汰で幕を引いたつもりもない。絶望の果てで、沙汰に狂ったのでもない。刹那に係り、時の渦に呑まれたのも、俺の沙汰と決める気か」


 捉えようで言い訳扱いかもしれないが、本音でもある。取り繕いは無用・・・ 問いかけは止まり、首元のタンクラッドの焦りが伝わった。トゥは微動せず次を待つ。


 何を言われようと。俺が消えることはない。俺は存在し、それは俺以外の誰でもない―――



 トゥは、悪神のために作られたドラゴンであれ、二つの頭が持つ思考は常に二つ分だったし、『トゥウィー・ヘルファ・トゥ』と呼ばれるようになっても、それぞれ違う二頭のドラゴンの思考で生きてきた。


 今も同じ。同居する二頭を体一つで賄っているわけで、能力はドラゴン二頭分。これからどんでん返しで分解されたら、一頭ずつ戻るだろうが、二頭共『俺』と自己を確立し、共有したことまで消えはしない。


 俺以外の何者かが裁く存在などではない。俺(・)が(・)この在り方を認めている以上、悪神だどうだは過去に生じた、ただの外因。



『その名を捨てるか。その存在を変えるか』


 不意打ちに似て、間を置いた後で決定打のような問が掛かる。トゥは二つの首を絡ませて、互いの顔を見る。『?』と言いたげなふざけた具合に、タンクラッドは不安だったが、トゥらしい返事を出した。


「俺は、トゥウィー・ヘルファ・トゥだ。誰の下敷きにもならない。誰の付属でもない。二頭のダルナが二つ首で共存する、一つの体。

 それとな。言い返す気はないが、俺は確か、もう存(・)在(・)は(・)変(・)え(・)た(・)は(・)ず(・)だよな?」


 相手が誰でも。どれほど崖っぷちでも。正面切って本音を伝えるのは、主タンクラッドと同じ・・・ タンクラッドはトゥの返答に面食らって、手で顔を覆ったが。


『委ねると先に話したが、今は誰の下敷きにもならないと言うか』


「委ねるのと下敷きは違うと、俺は解釈していたが。首に巻いた縄を引く飼い主の責任を、俺は二度と負う気はない。下敷きとは、そう言ったつもりだ」


 世界に委ねるが、引きずり回すなら違うだろと、遠回しに説明したトゥ。

 タンクラッドは口を出さないが、終(・)わ(・)っ(・)た(・)な(・)と諦めが入った。トゥがいなくなるなら、俺も付き合うか・・・剣職人の小さな苦笑は、霧に紛れる。


 それからまた数分の隙間を挟み、ゆっくりと頭上の霧が回転し出す。動き始めた白灰の流れを見上げる剣職人とトゥは、これが答えに思えた。タンクラッドは腹を据える。イーアンたちに別れを告げる暇はない、それでも。



「お前に付き合おう、トゥ」


「それもいいな」


 いつでも上から目線で従うダルナに、この状況下で不謹慎とは思いながらも、タンクラッドは笑った。控えめな笑いだったが声は合図のように木霊し、真顔に戻る。霧は急に円を広げ、フワッと大きく開いた円形の孔から―――



 目を丸くするタンクラッド。孔の遠くに粒がちらつき、それが『人間』と分かるまで時間は掛からなかった。ワッと迫った、夥しい人間の数。

 凄まじい速度で降り注ぐ人間が、自分たちのいる場所を避けて落下してゆく。


 足場は川だったのに、霧に包まれた地面や水はどこへ行ったか。目で追えない速さの落下、石礫のそれと等しく、自分たちを囲む外側を数え切れない人間が落ち続け、白い霧の向こうへ消える。


 トゥもじっとその様を見続けていたが、これが『自分の居残り決定』を示していると感じた。人間の降り注ぐ大孔は暫く開きっ放しで、悲鳴も音も立てず人々は足元に消え、そして、トゥは心で数を呟く。


 5、4、3、2、1――― 0 


 0の一瞬、ぎらっと針帽子が穴の先に光る。後ろでタンクラッドが『ザハージャング』と脳裏に過らせたのを知る。その通りで、最後に降ったのは火の柱に押し付けたはずの龍。それもまた、人間同様に落下して足元の霧へ呑まれた。



『トゥウィー・ヘルファ・トゥ。その名と共にこ(・)こ(・)に(・)根(・)付(・)く(・)よ(・)う(・)に(・)』


 厳かな深淵の声が『決定』を告げ、締め括る。頬が緩んだ剣職人。二つ首のダルナは少し頷き、


「『トゥ』と呼んで構わない」


 呼び名の短縮を許可した。



 *****



 あの人間たちは、何だったのか。タンクラッドは、大まかな連結で予想立てたが、正解を知ることまで至らず。


 トゥとタンクラッドは、『いて良し』を見事勝ち取った後も暫く霧に残され、これを『次の行動まで待機』と捉え、余計な会話もなく状況展開待ち――― その頃。


 女龍はザハージャングの行く末まで、全部見た。

 辛く、言葉が出てこないが、宿命の一部だったように運んだ出来事。



 タンクラッドとトゥが戦って、幻の大陸に飛び、ザハージャング諸共、トゥたちは火柱に入ったが彼らは出てきた。


イーアンがあの大陸で見た、三本柱から空を分ける光の線・・・両開きの巨大な、あちらの世界とこちらを繋ぐ扉(※2843話最後参照)あの面影もなかった。


 ザハージャングが通ったということは、民はどうなったんだろう?身を乗り出して映像を見つめたが、ザハージャングの続きに絞られる。


 この世から出された、棘の龍の行き先。イーアンの元いた世界―― それも、う(・)ん(・)と(・)過(・)去(・)の(・)大(・)陸(・)のどこか ――へ連れて行かれ、龍は、映像から消えた。


 次に見たのは、舞台の前後を台で回すように変化した別の状況。ヨライデの海で繰り広げられた、ホーミットによる古代サブパメントゥ壊滅は、もう、方が付いているように見えた。


 ホーミットは男の姿で、ガドゥグ・ィッダンの細かな絵柄を体に光らせ、彼の腕についた『狼歩面』と、もう片方の前腕の白い蔦模様(※ナシャウニットの腕輪)が、暴風残る嵐の暗がりに輝き、彼は黒い箱を抱えて立つ。


 表情は緊張を帯び、碧の双眸は、まだ残っているサブパメントゥを探しており・・・トゥに飛ばされたコルステインの行方は分からず、イーアンが思い出すのはクノキアの占い(※3119話参照)。もしや、もう。


『サブパメントゥが問(・)わ(・)れ(・)る(・)か、知りたいか』


 考えを読まれたイーアンがビクッとする。青鈍色の顔の精霊が見下したように『お前も含め、要不要が問われるからなぁ』そう呟き、きつい目を向けた女龍。


『もう少し待つだろうな。ただ決定している。こいつらは不要』


「なぜあなたが」


『何度も同じことを聞く。本当に馬鹿な奴め・・・人間と繋がるゴミだと』


 ゴミと聞いた瞬間。

 泣いたコルステインが過り、怒りで封じられていた龍気が弾ける。バッと膨れた白い龍気、同時に『原初の悪』は姿を消し、思わぬ力解放にイーアンも我に返った。



『この・・・!』


 鼠色の空間に、ぎゅうぎゅうと軋む音が渡る。解き放った龍気は、狭い空間を蹴散らかすように濛々と女龍から立ち上り、このまま逃げることをイーアンが過らせた時、頭の中にビルガメスの声が入った。


『来い、イーアン』


「はい」


 呼ばれた―――!はいと答えるや、白い6翼を開き、尾を伸ばした女龍は真上へ飛ぶ。


 女龍の龍気が閉じ込めた壁を割るのと、外から割ったビルガメスの動きは重なり、鼠色の空間は消滅。女龍を求めた龍王の力に、イーアンは引っ張り上げられた。


『女龍!!』


 怒鳴った精霊を、振り切る。龍王の送る龍気の一本道は、イヌァエル・テレンへ吸い込むよう。イーアンの体はどんどん軽くなり、速度は増し、地上の空を振り返る間もなく境目へ到達した。

 迎えた笑顔に飛び込み、大きな腕を広げたビルガメスに抱き留められ、イーアンは感謝する。


「やっと。出ました!有難うございます!」


「よく頑張った」


 パッと顔を上げ、お礼を言うなりイーアンは地上の空へ心配の目を向けた。


「サブパメントゥが。さっき、ザハージャングが異世界へ」


「知っている。ここからは、お(・)前(・)は(・)俺(・)と(・)共(・)に(・)」


「・・・ビルガメス。私も旅の仲間だから」


 喜び束の間。はた、と止まって見上げたイーアンに不安の色が浮かぶ。腕に抱えた女龍を優しく見下ろすビルガメスは、ゆっくり瞬きして『俺と、いろ』と強調した。だけど、でも、を続けるイーアンに教える。


「お前は、サブパメントゥの末も見つめる立場にある。人間の裁きが間もなく行われ、その続きにサブパメントゥもある」


「それなら、な(・)お(・)さ(・)ら(・)地上にいた方が」


「『待ち時間』に耐えられるか?ドルドレンも終わっていないのに」


 龍王の低い静かな諭しに、サーッと血の気が引く。ドルドレンも人間。彼が魔物の王を倒したら。でも決着がついていないから。人間は裁きが。


「混乱を考えるな。進行は、思う順序をなぞらない。起こるべくして起きるのを待て」


 ごった返す中間の地で、何が先になり、何が後になるか。誰も知らないのだが、一つ言えるのはビルガメスの助言のまま。

 起こるべくして起きるものが、全て果たされる―――



*****



 その頃。落ちて行った人々はというと。


お読みいただきありがとうございます。

月内は休みたくなかったのですが、ストックが追い付かなくて、明日はお休みします。もし足りなかったら明後日もお休みかもしれません。その場合はこちらで連絡します。

分かりにくくならないよう注意して続けるので、どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。