3197. 龍王から贈り物・イーアンの役目・北東地下迷宮~合流
☆前回までの流れ
コルステイン、ドルドレンが離れた後。イーアンやフォラヴ、ロゼールも動き始めました。三つの供物を巡り、占術師メーヴェが占いで告げられたのは、『待つ場所』。ニアバートゥテは彼女を運び、一足先に王城付近へ。
今回は、空へ上がったイーアンから始まります。
空へ飛んだイーアンは、アラフィンツ海底遺跡での、魔導士の言葉を思い出す。
『三度目の旅路で最後だ。統一の日を迎える世界の土壇場。龍が城ごと心臓を消しても、文句は言われないだろうが。
お前に不利があるなら、お前の仕事じゃないかもしれない。お前はヨライデ王の心臓を棺から出して、他所へ移動する『念』憑きに持たせる。そこまで――― (※3039話参照)』
ミレイオと『打ち合わせ』はした。
ファタス前で連絡が入ったら、城の地下へ向かう。その前に、まずビルガメスに会って話を通し、物質置換のアドバイスを・・・多分、知っているはず。
雲を抜けたところでビルガメスが待っており、イーアンは彼の前で止まった。
一番大きな男龍は、龍王になって、さらに大きく変わった。向かう前に呼んだため、龍王ビルガメスは単独で地上の空へ出て来てくれ、イーアンに少し微笑んだ。
「始めるのか」
「はい。もうすぐです」
「お前に何かあれば、俺が出る」
「そのことで、これからの動きを」
伝えたいと言いかける女龍を引き寄せ、イーアンの捻じれ角に、ビルガメスは自分の一本角を当てる。角がコツッと音を立て、龍王は手を離した。
そして、イーアンが望む『小さな変化』に使う力を、彼女に与える。ビルガメスの大きな指が、女龍の頬の側へ動き、触れることなくイーアンに新しい能力が加わった。ぽわっと白く光った頬に、イーアンが尋ねる。
「ビルガメス。今」
「お前は空。空そのものだ。自由に使える。空は固形ではない。そして土の上にも土の中にも、空の一部が含まれるもの」
物質置換で王城に入らねばならないイーアンは、魔物の王の根城へ行くのだからと、完璧に気配を消す方法を知りたかった。
ビルガメスは、中間の地・最後の舞台幕開けに手伝う女龍を・・・ 母と重ねて承諾。龍族を生み出した偉大な女龍、その後を継いだイーアンに協力する。イーアンの物質置換の技を、空気状態まで変化させる力に底上げした。
「無理はするな」
角が当たっただけで思考を読み取り、女龍に必要な力を増した龍王は、けじめをつける女龍を送り出す。イーアンは大きく頷き、地上の空へ飛んだ―――
*****
もはや、後戻りも待ったも利かない。
早すぎても遅すぎても、どこで踏み外すか分からない。
「私の役目は、ヨライデ王の心臓奪取。ミレイオから連絡が来れば・・・ ファタス島で、不通になる可能性は高い。でも、センダラはこの前(※3179話参照)私の龍気爆に気づいたから、ファタス島一歩前なら連絡のつく確率はまだある」
今は、北東の地下迷宮へ(※3023話参照)。
船頭の彼に、仲間が来ることを伝えるが、もし先にタンクラッドたちがいたら、そのまま預ける。
それからヨライデ王城入り・・・ザッカリアの予言によれば、中で『手伝い』に遭遇する。
『手伝い』とは、城内に残る文なのか、それとも推理するに足る物証なのか。その辺は分からないけれど、何かが私を血の在り処へ導いてくれる。
『人の血を、壁の目にかける』までの道のりは、重要。
城内で『生きた気配』を探すのだとサミヘニは話していたので、とにかく大急ぎで探すつもりだったが、ギリギリでザッカリアに情報をもらえるとは。
見張りの守り番・エハリディオが不在であっても、目に見つからないよう、どう血を掛けるのか。その前に、血はどこにあるのか。『血は城の中』と、ザッカリアは決定していた。
確かに、ヘズロンの記念碑にも『海を越えゆ。最も高潔なる御身の水(※3064話参照)』と記されていた。誰の血液かも曖昧だったのが、あの一文で『ヨライデ王の血?』と思えた。
「そう考えると・・・ もしかして。導いてくれる手伝いとは」
口にはしないが、思い当たるのは『秘宝の町』で見た、親族の物語。
あの手この手で後世に遺した『魔物打倒』のアドバイスを、最後の最後まで見守っているかもしれない。
必ず、勝ちます――― 皆の願いが。遠い古代からの願いが、私たちに掛かっている。絶対に、何一つ残すことなく完勝する、と気を引き締めて。
眼下に見えてきた北部の山脈、夜の山影へ女龍は降下した。
*****
タンクラッドたちを乗せ、骨の狼で東を目指したロゼールは、そこへ行ったこともないし、先ほどイーアンに話を聞いただけだが―――
「お前は知っていると思ったんだ」
どんどん、目的地に近づいていく三つ頭の骨の背で、ロゼールは狼を褒める。青白い炎に巻かれながら走る骨と毛皮の狼が、乗り手を振り向いて頭をぐらつかせた。嬉しそうな骨の顔に、ロゼールは毛の有る背中をポンと叩く。
「一番近い場所へ頼む。どこがいいか分からないけど、お前に任せるよ」
真っ直ぐ、一直線に目的地へ、狼の足は駆けてゆく。まだサブパメントゥを通過しているのだが、本当に誰もいないので、他三人も気は楽・・・とはいえ、オーリンは。
「初めて入ったけど、真っ暗だな。この狼が光っていても、岩しか見えない」
サブパメントゥに足を踏み入れたのは、初めてのオーリン。タンクラッドもシャンガマックも、経験済みなので驚かない。ロゼールが振り返って『見えないと不安ですよね』と苦笑いし、オーリンは頷く。
「もう少し我慢して下さい。地上を走るより早いので」
「空と同じようなもんか。空で直線距離も、サブパメントゥで直線距離も・・・ うう、ちょっと。うーん」
「あ。具合が悪くなりました?属性あるか」
喋りながら、オーリンが堪えていた嘔気で黙り、驚いたシャンガマックが背中をさする。ロゼールの後ろにタンクラッド、その後ろのオーリン、最後がシャンガマックの並びなので、シャンガマックはオーリンの背中を撫でながら『大丈夫かな』と心配する。
「吐きそうです?もう少し・・・です。どうしよう、上に出るか」
上=地上。タンクラッドがすぐに止め、『このまま地下を通れ』と頼む。オーリンも目を瞑ってはいるが『上がらなくていい』と片手を前に出して遠慮した。とりあえず、褐色の騎士がオーリンの背中を支えて、揺れ続ける狼の走行を気遣う。
「属性、そういやそうだった。イーアンはサブパメントゥ寄りの龍、と言ってたが。あんなの珍しいんだろうし」
肩越しに呟く剣職人も、龍の民の具合が気になり、『向こうに着いたら痛み止めを』と励ます。レムネアクに貰って来ていた薬があり、シャンガマックも自前の薬は少し持参したので、オーリンは山脈到着後に少し休むことになった。
「ま、休むと言ったってな。移動は続くんだが。大丈夫か、オーリン」
「何とか」
口を押さえたまま答える龍の民。決戦前で体調を崩すとは。こういったことも忘れちゃダメだなと、シャンガマックは思い返す。自分も属性を忘れて大事件を起こした(※ミレイオの傷)。
「サブパメントゥを出れば、具合が戻るかも知れませんよ」
先頭のロゼールがちらちら気にしつつ、狼に速度を上げるよう伝え、地下の国通過を急ぐ。あと少し、もう少し。狼の把握がロゼールにも届き、結構な距離でも数十分の移動で到着先が感じ取れる。
「オーリン、あとちょっとです。頑張って」
「出たら楽になるからな。薬もすぐ使おう」
誰もいない暗い世界を、青白い炎と共に4人は北東へ直進し、ようやく狼が真上へ跳躍―――
「出ました!」
どこかは分からなくても、地上!送り届けたロゼールが、出ても暗い景色に目を配り、『表、ですね』と呟き、タンクラッドも周囲の影とにおいから、よくある山ではないと知った。
「(タ)木がないな。岩だらけか。ここのどこに行くんだ」
「(ロ)ええと、旧教の神殿があるようなんですが。あれ?神殿じゃなかったかな。でも建物が」
「(シャ)遺跡か?ロゼールは何て聞いてるんだ」
「(オ)とりあえず、降りていいか」
おえ、と口を押さえた龍の民の一言で、シャンガマックが慌てて『降りましょう』と抱える。ロゼールが骨の狼をしゃがませ、皆を土の上に降ろして、夜目の利くロゼールは少し離れたところに・・・ 発見したのだが。
「あ。あれ。でも」
「ん?あったか・・・どっちだ。あれか、え?」
地下の国ほどの黒さではなくても、切り取られたような空以外は真っ暗な谷間。降りた地面から左へ谷を見て、怪訝そうなロゼールの言い方にタンクラッドも気づいた。
「・・・少し光ってないか?」
「あの、もしかして」
タンクラッドに続いて、シャンガマックがピンと来たそこへ、上から降り注ぐ白い光が落ちる。オーリンが顔を上げ『イーアン』と同胞の名を呼んだ。
「あ~、いた!良かった」
6翼の女龍が降りてきて、オーリンは膝をついていた地面から立ち上がる。よろけた龍の民に、イーアンがすぐに近寄り、どうしたの?と彼の両腕を支えた。それだけでオーリン回復。
「ふー。助かった。俺は龍族なんだ」
「何言ってるんですか」
女龍の龍気で復活したオーリンは、そのままイーアンを抱きしめて『有難う』と礼を言う。何これ?と抱き返しつつ、タンクラッドたちを見た女龍に、ロゼールが苦笑し、状況を話した。
「あら、じゃ。間に合ったのですね。オーリン、あなた。龍の牙とか持ってるでしょうに」
「馬車に置いてきたんだ。俺は精霊と動くし」
んまー、と女龍は眉根を寄せ、仕方ないので今後の運を祈る。それから―――
「あちらです、それに頼もしい」
イーアンは気づいた。やんわりと光が漏れる洞窟口に、何があるのか。
時間が押しているので、ロゼールに感謝して、タンクラッドたちを引き取る。だがロゼールも『途中まで一緒に』と頼み、イーアンは了解した。
「きっとメーウィックも、一緒に行ったんじゃないかって」
過去の僧侶の名前を出した彼に、イーアンは微笑んで『行きましょう』と左へ歩き出す。少し先にぽかっと開いた洞窟下へ連れて行く。
ミレイオからまだ連絡はないが、中にいる間で連絡が来るかもしれないため、時間はかけられない。
だが、ここで会えた相手に、安心が増した。
「イーアン。あれは。さっき、頼もしいと言ったのは」
「そうです、当たっています」
笑顔なのは、イーアンだけ。タンクラッドもシャンガマックも表情が硬くなり、近づくにつれて目を細めたオーリンは、あからさまに嫌な顔をする。ロゼールも複雑そうだが、もう目前。
イーアンが『ここ』と手で示した洞窟は、地面と崖の間に横長の亀裂をあけ、つっかえ棒に似た、旧教の柱が立つ。旧教の神殿らしい印象・・・だが、イーアン以外は、柱奥の淡い水色の光に視線を寄せた。
「遅かったわね」
「ここ、知っていたのですね」
「アレハミィの記憶があるのよ。行くわよ。あなたはどうするの?」
「私は船頭にお願いするだけです」
「そう。でも、入るんでしょ?早くしなさい」
不機嫌そうな金髪の妖精が、旧教神殿の入り口で迎える―――
お読みいただき有難うございます。




