3112. 紹介報告雑多の朝食
※明日から投稿を数日お休みします。長引きそうであれば、またこちらにて追記の連絡をします。ご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願いいたします。
化粧を引いた、部族的な雰囲気の目元は大きく見開かれ、茶色い頭髪が風になびき、フォラヴとの間に流れた焚火の煙が遮る。
「あの方が。僧兵の」
イーアンに聞いたらしき、職業名を呟いた友達の心境を察する。シャンガマックは、フォラヴの凝視に視線を流し『彼はレムネアク』と名を教えた。
少し声を潜めて『彼は俺たちに、人を殺させないよう立ち回る』と、悪い印象を強めかねない物言いをした。
でも。褐色の騎士が伝えたいのは言葉面ではない。
人殺し前提で捉えるフォラヴに、『あれは好人物、普段は普通』などの響きでは軽いと分かっていて、単刀直入、彼の疑心に届かせたまで。
空色の瞳を向けた友に『そういう男なんだ』と続けたシャンガマックの声は柔らかく、思い遣りの強さを理解するよう示した。フォラヴは旧友の意図を受け取る。
「あなたの仰りたいことを、私が誤解しないと良いけれど」
「話せばわかることだ。お前なら、彼がラサンとは全く違うと解る」
馬車から離れた先で、オーリンとルオロフが歩いて戻ってくる姿が見え、用足しに行っていた二人は妖精の騎士に驚き、歓声を上げたが―――
そちらに、ふわっと片手を振ったフォラヴは、すぐさま僧兵に向き直り、自分を見ている男に数歩寄る。
「はじめまして。私は、旅の仲間のフォラヴです。ティヤーから留守にしていました」
透き通る声。温度を下げた静かな眼差し。空を写し取った瞳は、白金の長い睫毛に縁どられ、形の良い柳眉はピクリとも動かない。
北の国の人形のように白い肌、整った顔立ち、太陽の光を連れてきた白金の髪、背はレムネアクより高いが、どこか性別不明の印象を持つ相手に、レムネアクは・・・声が出ない。
見入って動けない男に、フォラヴは返事がなくて眉根を寄せる。
横で見ていて可笑しくなるタンクラッドだが、ここは邪魔せず。ドルドレンたちも見守っているものの、『レムネアクだから』と動き出すまで長いのを待つのみ。
「行った方が良いんじゃないの」
ミレイオがこそっと、イーアンに僧兵を動かすよう(※凝固)促すが、イーアンも状況を見る方を選んだ。レムネアク自身の反応を、フォラヴに見せたい。
オーリンとルオロフも察し、ルオロフがオーリンに待ったをかけた場所で立ち止まる。『レムネアクが返事してないんじゃないか?』と気にした弓職人に、『彼のことだから、フォラヴに放心しているんでしょう』と答え、オーリンは後ろを向いて吹き出した。
「フォラヴは、人間離れした美しさですからね。造形も振る舞いも気品も。比較はお嫌でしょうが、『貴族』と思われそうな、高貴な雰囲気を持ちます」
「あの男は泥臭い騎士生活だったのに、微塵も感じさせないよな」
ひそひそと周囲から聞こえるにもかかわらず、肝心のレムネアクはただただ、白い翼と透明な体を見せた不思議な人を前に、心で絶賛が続く。
「あなた。聞いていますか?」
しびれを切らしたフォラヴに注意され、ハッとした僧兵は慌てて『はい』と答えるや顔を手でこすって、目を合わせ『失礼しました』と息切れ気味に謝った。その場から動いていないのに息切れする僧兵にタンクラッドが笑い、レムネアクも苦笑する。
「も、申し訳ありません。私は。ヨライデで一緒に行動する、レムネアクです」
「・・・僧兵の?」
「はい。元僧兵」
レムネアクは、誰から『僧兵』の稼業を聞かされたとか、そんなことは関係なし。『僧兵か』と値踏みされた瞬間に、軽く頭を振って顔に掛かった髪を払い、『元僧兵』の言葉で、否定と肯定をこなす。
その返答の確かさに、フォラヴは少し面食らって『ふぅん』と素で頷く。レムネアクの目つきが少々変わったのも印象的だった。現を抜かす顔から、急に引き締まった。
「レムネアク。私は妖精です。普段はこの姿で生活します。よろしくお願いします」
「大変美しいお姿を拝見して、朝から幸せです。どうぞよろしくお願いします」
挨拶が変だぞと親方に突っ込まれ、そうですか?と見上げる僧兵に、フォラヴはつい笑い・・・ドルドレンたちは安心する。大丈夫そうかな、とイーアンも見つめる横でロゼールが腕に触れ、振り向いた。
「食事にしましょう。出来ていますし」
「あ。はい。有難うございます」
ニコーっと笑ったそばかすの笑顔は、支部にいた時によく見せた、少し幼さが残る安堵の表情。友達が戻ると嬉しいのは当然。イーアンも微笑み返して、ロゼールは皆に朝食を告げた。
僧兵の紹介は無事に終わり、そして食事の時間へ―――
*****
「あ。大きなワンちゃんが」
最後まで待っていた、バロタータ。シュンディーンと共に現れたのが、朝食の場。
ロゼールは、精霊が遠慮したのを知っているので、バロタータ登場に合わせて、油漬け魚の切り身を皿に載せ、側へ呼んだ。
「バロタータ。はい、朝食です」
「そこに置いてくれ。さて、この妖精は誰か?」
名乗るように促すのは、高位精霊の立場。タンクラッドでもなければ平然と楯突かないが(※不遜)、フォラヴはすぐに『精霊の犬』と見抜いたので、食事の皿を脇へ置き、犬の側へ行った。
シュンディーンと目が合って微笑み『ただいま戻りました、シュンディーン』とまずは挨拶。うん、と笑顔で頷いた精霊の子が犬を指差したので、フォラヴは距離を取って犬の向かいに跪く。
「私は妖精の、ドーナル・フォラヴと申します。旅の仲間の一人です。あなたは精霊?」
「いかにも。私は馬車の家族を守る、精霊バロタータ。最後に残ったドルドレンを守るため、ヘズロンから傍を選んだ。妖精、お前は最初からいたのか」
最後に残ったドルドレン・・・ この言葉に、フォラヴは少し違和感だが、今は挨拶中。あとで聞こうと思いながら頷いて、返事をした。
「はい。途中で抜けざるを得ない事情があり、ティヤーで離れました。しかし今、戻りましたので、ここからは魔物の王を倒すまで、皆と共にあります」
強い決意を実現する。声に力を籠めた妖精に、緑色の目を向けた犬はゆったりと『お前の力が必要な時に間に合ったな』と言った。ハッとする、フォラヴ他全員。
「私の?」
「ロゼール。もう少し、それを増やしてくれないか」
犬は解説を流して、近くにいたロゼールに切り身増量を求め、ロゼールは『はいはい』と瓶を取りに行く。精霊らしく、教え過ぎない。必要なことは覚えておくに留める口調で、もう一回目を合わせたフォラヴに『食べなさい』と、彼の皿へ鼻を向けた。
「あの、はい。では失礼します」
「それと。お前は」
「はい?」
食べて良いと送り出された割に引き留められ、フォラヴは立ち上がったすぐに振り返る。
犬はじっと自分を見て『妖精だが、人間の姿をとると変わるのか』と尋ねた。気配のこと?と思った妖精の騎士は、『この姿ですと、普通の人間とさして変わりありません』そう答える。すると。
「ふむ。お前も私に触っていい」
「触る?・・・そうですね、触ることが出来ると思います。イーアンとも触れま」
触れますので、と言い終わる前にイーアンと目が合い、彼女と抱擁していなかったのを思い出すフォラヴ。イーアンは大きく頷き(※やっと気づいたか、と)フォラヴは笑う。
「ええ。彼女にも触れますので、バロタータも大丈夫でしょう」
「よろしい」
なぜか触る許可が出され、ロゼールとシュンディーンが笑い、フォラヴは犬に会釈して自分の皿のある所へ戻った。ドルドレン曰く『バロタータは撫でられることが好き』らしいので、あとで撫でることにした。
朝食の席は、ヨライデの現状や、世界の状況を説明する場になり、フォラヴも食べながらそれを聞く。囲む皆が教えてくれる様々なことを、あちこちに顔を向けて聞きつつ、夜中に見た状態を重ねて理解を深める。
『人が全然いない』こと。先ほどバロタータも、総長のことを『最後の馬車の民』と表現した理由、イーアンから聞いた、世界から人が消えた経緯など・・・
様々、事態を聞かされて思う。では、ナーブヤム親子は貴重な人間だったのか。
ニダは、精霊の約束ありだから、その時点で重要な存在だが。
他、世界に残っただけでも、謂わば世界の最後に心を量られる対象として、選抜されているに等しい。残った人々が、人間代表の印象を受ける。
その他の話で、常に謎を解く鍵として身近だった『馬車歌』の、ヨライデ編も少し挟まり、馬車歌集を持っているとか(※借用)、歌に出てくる道具が重大とか。
道具はヨライデに於いて、謎を解く価値があるらしく、ヨライデ二大宗教の一つ、旧教が予言する道具も重視対象。
目下のところ、レムネアクの持つ『鉈』とルオロフの『黒い剣』が狙われている。
が、事件が絶えないのは『鉈』の方・・・など、次から次に耳に入れるフォラヴは飽和しそう。
そうして・・・ フォラヴは、オーリンがニダの世話をした期間があったことや、サブパメントゥ除けの旧教の道具他、幻の道具『歌の波』の効果なども矢継ぎ早に、と言うべきか。雑多混じる情報の波を受け取りながら、一つ思いつく。
「ティヤーを出てから、がらりと様相が変わったのは、私もこちらについて感じましたが。私の見解はさほど間違えていなかったのですね」
「これまでとは違うよね」
ロゼールが横で同意すると、他の者が続けて話そうとしたので、フォラヴはちょっと手を軽くあげた。で、皆は黙る。
「私は昨晩、ニダに会いました」
*****
オーリンの目が丸くなる。イーアンも思わず『ニダ?』と聞き返した。ざわっとするも、妖精の騎士はもう一度手を軽く振って、喋らせてもらえるよう場を静め、集まる視線を見渡した。
「はい。親のナーブヤムという魔法使いが付き添い、ニダは海の真ん中にいました。私が彼らを見つけたのは、ティヤーの海に出て間もなく・・・ 」
質問が挟まりそうなので、途切れることなくフォラヴは話し切る。
―――魔力の大きさを感じたが魔導士とは違い、見に行ったら海に森が出現し、サブパメントゥの気配があった。
魔法使いかどうかは定かでないにせよ、人助けのつもりでサブパメントゥを追い払うため、雷を落としたところ、顔のよく似た二人の人間がいて、それぞれ名乗り、話を聞く内に『イーアン』の名が出て―― とここまで。
「私の名前が」
「はい。妖精の姿で話していたため、『十二の司り』という存在に私がいたのだと、勘違いしたナーブヤムが言いました。ニダは『違う』と彼に教え、私もイーアンの名が出たことで、更に詳しく聞けたのです。その場では言いませんでしたが、カーンソウリー島の教会にいたニダでしょうか?」
「そう!そうです、フォラヴとニダは会っていませんでしたね。でも覚えていましたか!」
「はい、お名前だけ。海賊の名前が長い中で、あの子だけ名が短く覚えやすかったし」
「どう繋がるか、分からないもんねぇ!」
ミレイオが手を打って笑い、イーアンもちょっと笑ってオーリンを見る。『十二の司りと妖精か、勘違いするかもな』とオーリンも頭を掻いた。それで、と促したルオロフに、フォラヴは思い付きを続けた。
「とりあえずの対策として、私の翼から羽根を一枚差し上げました。光に弱いサブパメントゥですから、追われているなら一度二度は回避も可能でしょう。ですが、少々心許ない。私も自分の羽根にどこまで効力が宿るか知りませんので、無責任な結果になっては困るなと思っていました」
一区切りして、妖精は総長を見る。真っ直ぐな視線に灰色の瞳はすぐに察し『もしや』と自分の腰袋に手を添えて、フォラヴは微笑んだ。
「ええ。あなた方の話を伺ったところ、どうやらニダはそれをお持ちでない様子。『歌の波』を持たせてあげたら、操る種族も遠ざけられないかと思いました」
「ああ・・・それはどうだろうな。サブパメントゥの操りに対抗する力か、確認していないのだ。催眠術のようなものは効果を発揮したが」
そうなのかと口に手を当てた妖精の騎士に、総長とイーアンが目を見合わせ『でも持たせておくのは』と頷き合った。
「ナーブヤムは、操られかけても応戦したようですが、もう少し武器防具が揃うと安心でしょう」
部下の言葉にそれもそうだと『歌の波』を二つ出すドルドレン。イーアンは目をキョロっと上に向け『龍の祝福もありますしねぇ』と、完全に操られなかったのはそれじゃないか、その可能性を呟く。
こんなことで――― ナーブヤムが早速、サブパメントゥと対戦した不穏を聞いたため、出来ることはしてやるかと、親子の無事な道のりに手伝う道具を運ぶことに決まる。
「私の鱗もあげます。『歌の波』を二人分と一緒に、持たせてあげましょう」
レムネアクが受けた仕打ちを思えば、未だ気持ちは複雑だが、ニダの道を守る手伝いをフォラヴもしたとあれば、イーアンも。
「多分・・・十二の司りで、ティヤーにいる精霊が手伝ってくれる時もあると思うのです。ティエメンカダは、ティヤーの海にいるわけですし。他国へ行っても、自然の力を司る精霊たちがいるから、危機に追い込まれることはない気がするけれど」
長い尾から鱗をぺりぺり剥がし、イーアンは『大丈夫だと思う』と、旅路が悪路にはならない予想を伝え、革袋に鱗と『歌の波』を入れた。
「では届けてきますね」
「あ。私も」
話ながらの朝食も終わり、イーアンが届けてくると立ち上がったすぐ、フォラヴが同行を願う。え?と皆が見たが、妖精の騎士は『場所が分かるでしょう?』と案内役を買って出た。
勿論、戻って来たばかりで行かせたくないロゼールたちは止めたが、フォラヴはすぐ戻る旨を伝えて下がらず、ドルドレンも了解した。何か、イーアンに用事があるのかもしれない、と。
そうして、女龍は妖精を連れ・・・ ティヤーの海へ。馬車は、北へ向かって出発。
お読みいただき有難うございます。
仕事が詰まっており、数日休みます。あまり間が開かないよう、早めに戻る気でいますが、もし長引く場合は、この回の前書きに追記でお知らせします。
ご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願いいたします。いつもいらして下さる皆さんに、心から感謝して。
Ichen.




