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魔物資源活用機構  作者: Ichen
三つの供物
3110/3110

3110. 真夜中の ~妖精と魔法使いとニダ・旅の五百十七日目 ~フォラヴの夜間飛行

 

 フォラヴとしては―――



 離脱がティヤーだったので、ティヤーに戻っただけ(※2585話参照)。


 ダルナに状況を聞けたら違ったものが、ダルナは貢献して消えてしまい、あの後、センを迎えた銀の城で・・・いろいろと済ませ、フォラヴは妖精の国を後にした。


 そうして出てきたのは―― これまでは森を通して土に足を置いていたのが一変し、センダラ級の雷を操れるようになって、ティヤーの空へ出た次第。


 出てすぐに奇妙な気配を遠くに感じ、サブパメントゥと・・・魔導士と違う魔力の放出に、様子を見に行った。

 近づいた視界に、なんと森が。島々の沖も遥かに離れた大海原に忽然と、透ける森が広がる様子。


 只ならぬそこに、サブパメントゥの気配も滲んでおり、仮にこれが魔法の幻であれば、人がいる可能性を思い、悪人か普通の人間か判別はさておき、サブパメントゥを遠ざけることに決める。



 フォラヴは、これまで通りの反応、その一端。人助け、である。


 応援が必要な悩める人々を助ける、その範囲ではあったが、もしも因縁のある悪人であれば、捕まえてどこかへ連れて行くことくらいは思った。


 仲間を探すのは連絡珠を使えば、きっとすぐ応答が戻る。でも、今は夜(※配慮)。使うなら明るくなってから・・・ 

 時間の都合も気配りするフォラヴの動きに手伝って、不思議な森とサブパメントゥの気配に雷を落としたのが、さっき―――



 *****



 なるほど、と浮かぶ妖精は、一部始終を聞いて納得。この状況と、イーアンの名が出た流れを理解する。


 魔法使いナーブヤム。その子供ニダ。イーアンとの繋がりは、ニダの方が先。ナーブヤムは最近で、サブパメントゥを裏切って、敵対しかけたイーアンに許された。そしてニダの親と判明し、『世界と約束した教え』を説いて回るニダに協力。協力は、つい昨日始まったそう。


 この会話で『イーアン』以外の、もう一つ思い出した。それは目の前にいる『ニダ』のこと。

 

 そう言えば、カーンソウリー島で教会にいた協力者が『ニダ』だったと気づいたが、同名の可能性もあるし伏せた。とはいえ、男女どちらでもない特徴・親がいなかった話など、遠からず当て嵌まるので、多分、この人では・・・


 生き別れたために、ニダはティヤーで過ごし、ナーブヤムはヨライデで魔法を習得。その魔法が。



 ちらっと外周に残る、薄煙の如き輪っか状の森に視線を流すフォラヴ。


「ごめんなさい。壊してしまいました」


「いえいえ、とんでもない!謝らないで下さい。魔法ですから痛くも痒くもないですし、その、妖精の前にあっては子供だましで」


「そんなご謙遜されて」


 コロコロと鈴の音のような声で笑うフォラヴに、ナーブヤムは恥ずかしくて俯く。ニダはお父さんの照れる顔が意外。二人は、足元にだけ残る枝の一部に乗っている状態。


「そうでしたか・・・ 通りすがりの妖精に、素直なご説明を有難うございます」


「お礼を言って頂くこともありません、私たちは救われて命拾いしましたし」


「あ。そうだ。あなたはサブパメントゥと戦って。魔法は対応しましたか」


 ふと、話を経緯から現状へ戻す妖精に、ナーブヤムも頷くが、頷いた頭は躊躇いがちに横へ傾げられる。ニダの手前、不安にさせることは言えないが。充分対応した、と言い切れない。


 それを雰囲気から読み取ったフォラヴが、じっと親を見ているニダと、抱えるナーブヤムを交互に見て『少し入れ知恵を』と冗談めかした。


「もしかして。サブパメントゥが迫りました?」


「はい・・・ 足を掴まれて。あれだけ密度を高めた木々をすり抜けて来たので」


「ええと。私は木や森が大好きですが、それは美しい樹皮や葉の繊細な影と光が素晴らしいと思うからです」


 唐突に木を褒める妖精。ぽかんとして、頷く魔法使い。何の話だろう?と瞬きしたニダに、フォラヴは次の言葉を続ける。


「もしも。氷が張るように一面を滑らかにしたら。光を映した時に影は映りません」


「それは。はい、そうですね・・・あ、ということは」


「そうです。あなたの使う魔法は、大変魅力的ですが。影がとても繊細に入り組んでいます。サブパメントゥは影さえあればどこへでも動けるので、大きな一枚の葉っぱを広げる方がと思いました。でも、そうした技はお持ち?」


 思わぬ助言をもらい光明が差すナーブヤム。その手があるか!と目を開いて頷き、『出来ます』と答えた。ニコッと笑った妖精に、心を射抜かれる。このままだと心に焼き付きそうで、視線を逸らしてニダを見ると、ニダが面白そうに見守っているので目を眇めた。


「お父さん」


「うん。次はその手がある。大丈夫だ」


 茶化される前に遮り、ニダがちょっと笑う。ずっと抱えられている状態で、枝の切れ端に乗る二人だが、ナーブヤムは早速、教えてもらったように大きな葉を呼び出した。


 ぼうっと空気が八方へ散り、直下で吹き付けた風を受けたように、何もなかった空中へ木の葉が大量に舞う。それは翻って巨大な一枚葉に変化し、ナーブヤムはニダをやっと下ろした。海面からの高さ7~8m、船の甲板よりずっと広い平たい葉っぱの床。


 フォラヴも目を瞠り『お見事』と褒め、ナーブヤムは照れた。


「あとは、葉脈を薄く出来ますか?影が極力なければ入り込める道が減ります。それと、浮かばせておくのはあなたの魔力に問題はない?魔量はどのくらいですか」


 魔力まで気にしてくれる優しい妖精に、ナーブヤムは自分の魔力は枯れないことと、魔量も影響していないと答え、巨大な葉っぱの葉脈を平たんに近づけた。


「これで大丈夫でしょうか・・・でも。凍った池のようにはならないですね」


「ふむ。では、こんなものでも使えるだろうか」


 葉脈を消し去ることは難しそうな魔法使いに、フォラヴは羽根を一枚抜くと彼に手渡す。輝く羽根をもらって驚く魔法使いに、『これくらいなら魔法を消す強さはないと思う』と前置きし、葉脈に羽根を突き立ててみるよう助言した。


 フォラヴも効果など分かっていないが、もしかすると光を渡すのでは?と試しに使わせたこと。これはうまく働いて、ナーブヤムが羽軸を葉の主脈に当てると、途端に淡い水色が葉脈全てに行き渡り、親子は感動する。


 振り返った勢いで頭を下げ、お礼を言った魔法使いに、妖精は『いつまで持つか分かりませんが、サブパメントゥが来た時も使えると良いですね』とあっさり笑った。


「とにかく、浮いている分にはサブパメントゥも来ないはずです。いい加減なことは言えませんけれど」


「有難うございました・・・ 本当に」


「それでは」


 一先ず手助けは終えた。フォラヴはヨライデ方面へ顔を向け、ナーブヤムも同じ方を見る。まだ深夜で、サブパメントゥが襲ってくるかもしれないが、偶然救われただけで、これは二人の旅路。


 妖精が翼を広げ、ナーブヤムは微笑み、ニダは少しだけ手を振った。手を振り返した妖精は『ご無事をお祈りしています』と別れの挨拶をし、流れ星のようにヨライデへ飛んで消えた。



「妖精が、イーアンの仲間にいるんだね」


 ぼそっと呟いたニダに頷くナーブヤム。答えが戻らないので、ニダが見上げると父は放心しているらしく、受け取った羽根をしまいもせず握っていた。


「お父さん、羽根が乱れちゃうよ」


「あ!そうだね。うっかり」


 大切にしなければと、慌てて羽の流れを整えるナーブヤムに、何となく友達的な微笑ましさを感じるニダは、あの妖精ともう一度会えたら良いなと・・・お父さんのために思った。


「すごくきれいだったね」


「この世の存在じゃないみたいに」


 羽根の乱れを直すナーブヤムは顔を上げない。恥ずかしい時はこんな態度なのかなぁと、ニダは観察しつつ自然体で少し逸らす。


「私は、ウィハニの女も素敵だと思ったよ、イーアンはカッコイイよね!」


「龍も違う美しさがあるんだ。人間じゃない種族、それぞれ・・・あるよ」


 はぐらかしている様子が可笑しいが、ニダは顔を上げないお父さんの胸中を察し、事実的な質問にする。その答えを父が知るわけもないけど、これは気遣い。


「妖精って、女でも男でもないのかな?」


「さぁ。でも男の体つきだったよね。全体が透明でも、性別は」


「私みたい」


 ニダの挟んだ一言で止まる。ナーブヤムは父親なので他人の反応と違い、ニコリと微笑んで頷いた。ニダには初めて受ける反応で、安心する。同情や理解を湛えた視線ではない、完全肯定する視線は初めて。


「そう。お前も彼らと近いんだよ。人間などより、崇高で尊い存在にニダは近いんだ」


「有難う・・・ 」


 顔を上げたお父さんの誇らしげな笑顔に満たされる心。羽根を整えたナーブヤムは、羽根を具帯の二重帯の間に入れると、ニダの頭を撫でた。ニダを抱き寄せて、ニダもお父さんを抱きしめる。


「さっき、守ってくれて」


「そのために一緒にいるんだ。これからずっとそうする」


「ねぇ、さっきの妖精にまた会えるかな」


「ん?分からないね、会えるかもしれないが」


「会えたら、また話してくれるように頼もうか」


「・・・頼むことでは」


 抱きついたお父さんが、妖精に戸惑う反応が素直で、ニダはついに吹き出した。ナーブヤムはちょっと体を離して『ニダ』と注意し、目が合って笑う。


「お父さん、妖精に照れた気がして」


「それは、相手が。すごい存在だから、そりゃ」


「きれい過ぎる?」


「きれいだ、ね、うん。笑顔が本当に。きれいどころか」


 もう寝ていいよと、無理やり話を終わらせた父にニダはくすくす笑って頷き、ナーブヤムは困ったように顔を手で拭う。

 意地悪してもいけないので、ニダも『寝ます』と了解し、大きな葉っぱの上に横になった。サブパメントゥ対策は取った後だから、()()()安心できる。



 この魔法、この羽根。効果はどれくらい続くか、そしていつまで使える方法か分からない。それでも二人が大急ぎで回らなければいけない巡業の道は、立ち止まる時間などない。


 効果終了に備え、毎回魔法の対策を考えようと、ナーブヤムは思う。

 緊張が解けたニダはすぐに寝息を立て始め、横に座ったナーブヤムも少しの仮眠へ―――



 フォラヴに攻撃を受けた『一枚』はというと、二度も襲う気になるわけがなく、間一髪で逃げた運を大切に・・・グィード領域へ戻った。



 *****



 妖精は、ヨライデの陸地影を見て進む。夜明けが来たら連絡を入れることにして、まずは最終国の状況視察のつもりだったが。

 すぐ気づいた変化は、家の明かりが全くないこと。不自然なくらいに、ない。



 異常な理由を知りたいけれど、センダラを呼ぶ気にはなれないので、現状は馬車で聞くことにする。

 彼女を苦手としているのもあるが・・・妖精の国について話すには、まだ心が落ち着かない。会えば確実に、国の話をするだろう。


『同じ時期、二人の妖精が近くにいてはいけない。どちらかが下がる』。

 その意味も知ったが、真実はただの都合にしか聞こえなかった。とどのつまり、それは誰かの都合でしかなかったという。

 サッと白金の頭を振って、嫌なことを忘れるフォラヴ。もう、こちらの世界にいるのだし、気持ちを切り替えたい。



「私がすべきことは・・・とにかく、総長が魔物の王を倒すまで、側で支える」


 まずはそれと決めて、ひと段落した妖精の国の事情を後ろへ回すと、妖精は視察の夜間飛行に集中した。

 魔物の動きや気配が少ないこと、アイエラダハッドで感じた土地の邪に似た印象が多いこと、そして時々、おかしな思念を感じ取ること・・・は、これまでの国と一風変わったように思えた。



「変ですね。なぜ魔物が少ないのか。あれは魔物かな・・・ 動きがないけれど、多分そうだ。倒そう」


 ゆっくり飛びながら見て回るあちこち。狭いヨライデとはいえ、ハイザンジェルよりは広い。

 海沿いの西側から山脈影のある東へ飛ぶ間で、ようやく見つけた魔物の姿は、魔物と判別することすら難しい。気配はそのものだから、間違えていないにせよ。


「なんだこれは・・・ 地面?地面に食い込んでいる」


 千切れる雲の隙間から月光が落ちる。細い月明かりに照らされる魔物は、ボコボコと不揃いの塊が集まって、地面をびっしりと埋めているのだが何もしない。


 妖精が近づいてようやく、一つ二つがぐらりと揺れたが、丸めていた体が起きるや、腹側に人の顔が沢山ついている不気味な面を向け、もわっと毒を吐いた。辺りが一瞬で濁るが、宙に浮かぶ妖精姿のフォラヴに効くわけもなく―――


 気色悪い。でも、攻撃はこれ?・・・フォラヴは戸惑いつつ、とりあえず雷撃で燃やして片付けた。ガン!と落ちた金色が散り、あっという間で二秒も要らない退治は完了。左右を見渡し、魔物が消えたのを確認して首を傾げる。


「この程度、ですか?何か見落としてはいない?」


 あまりに簡単すぎて、信じにくい。魔物自体は悪趣味の極みであれ、動きも遅く緊張感もなく、毒を中てるのが攻撃となれば、これまでの魔物と比較してしまう。


 なまじ信じられないヨライデの魔物との初対戦、対戦にも満たない呆気なさに疑問を抱きつつ、フォラヴはこの後、あちこち動き回って理解を深める。

 そして倒しても問題なさそうな『敵』と認めたものは退治し続け、数時間もする頃には、状態の根本を把握した。



 ヨライデは攻撃の質が違うのだ、と。


お読みいただき有難うございます。

5月10日(日)から少し休みます。二日~三日だと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

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