3051. 旅の五百五日から7日間中 ~予定見直し・僧兵の体調・木々の魔法使いヴィボ・剣の仕掛け・ボニメツァ時代
☆前回までの流れ
古都ヘズロン初日は、思いもよらない出来事が連続。おかしな修験者が遺跡にいて入れず、町の中で見つけたのは悪人で、レムネアクが斬り、死霊で全滅へ。その後は魔法使いも現れ・・・イーアンは黒い剣を海底で探し、夜はラファルたちと食事と、詰まった一日でした。
今回は、馬車の朝から始まります。
※6400文字あります。お時間のある時にでも。
翌日―――
旅の一行は、ヘズロン入りして初っ端のひと騒動もあって、二日目は『ヘズロン滞在中』の予定を見直すことにした。
昨夜、山小屋で晩餐会(?)だったイーアン、そしてエサイは、お開きが夜10時。
魔導士の部屋へ戻ると、どうやってか獅子が現れて、ぶつくさ言いながらエサイを連れ帰った。イーアンは、魔導士に馬車まで送り届けられ・・・ 朝は寝坊し、ドルドレンたちの予定会議に途中参加。
ヘズロンと近隣の人探し。旧教遺跡の『呼びかけの室』。それと、『歌の波』の量産。が、当初の予定。
『歌の波』は、ここでの用事が済んだら、の話。
さして面倒でもない用事のつもりだったが、人探しは、地下道に巣食う輩を倒して始まり、『呼びかけの室』は修験者が牛耳って入れなかった。鉈を狙った魔法使いも二人に増え、あれらが攻撃すると魔物も来る・・・
ピフィアの町も近いしヘズロンから出かけよう、とそれ以上は考えていなかったが。
そういえばとイーアンは、ヘズロンを目指していた南部の『念』憑きの話(※2908話参照)を思い出し、それを話した。
「ヒフォルニスという南部の地で、魔導士たちが知った情報です。ある家に、ヘズロンへ行こうとしていた走り書きが壁にあったと。そしてそこに、イソロピアモの名もあったようで」
「今、この町にイソロピアモがいる?」
さっと尋ねたシャンガマックに、イーアンは首を横に一振りし『いないとは思うけど』と呟く。でも、ここに悪党が集まっていたのは、それが理由かもしれず何をしていたのか解りそうだと言うと、皆も可能性の高さに同意。
「人探しを、もう少ししてみたら。昨日の出来事で、他の悪人がいても場所を変えたでしょうけれど、証拠物があれば情報になるし」
「そうだな。ヘズロンは広い。探すか」
地下道は町の下を覆うようで、町役場へ行ってみようと決まる。何かしら資料がありそうなので、まずは地下道含め、ヘズロンの最近までの状態を少々知識に入れてから、問題を対処する方向に決まる。
修験者対応は、バロタータが一緒に行ってくれることになった。
バロタータ付きなら、幽鬼はしっかりいなくなる。それはイーアンも同じだけど、幽鬼を払う以外に、修験者も相手にしなければいけないので(※イーアンが行くと、どうなるか)。
魔法使いがまた来る可能性は放っておけないし、そうとなれば、今度はイーアンが対応した方が良い。シャンガマックが意気込んでいるにしても、二人を相手は難しいだろうと・・・皆は口にしないものの、イーアンに『出来れば馬車にいて』と願う。
イーアンも日課のダルナ連れがあるため、午前はちょっと・・・なのだが。
ダルナと巡るのは、サブパメントゥの歌や、死者の花の情報、そしてイーアンが片付ける仕事に関連する用事。女龍しか出来ない問題も、書庫で調べる。だから、午前は、馬車にいるのが難しいところ。
とはいえ、確かに魔法使い対戦は、皆に経験も少ないし、自分が出るべきかなと思い、昼以降は馬車に居るようにする、と答えた。
そして、大体の予定が決まった後。イーアンはやっぱり今日も、午前は留守に。
シャンガマックは、魔導士が迎えに来ないから連日、留守番だが、昨日の今日。『魔法使いは絶対に俺が!』と、意識がそっちに向いているので、獅子は息子をそっとしておく。
魔導士は『エサイを借りるつもりだったから、お前と若造の数日間を考えてやった』と、数日来なかった理由を恩着せがましく話していたので、エサイ貸し出し後日の今日も、きっと魔法の授業はない。
これで魔法使いとやらが来たら、息子は元気になる(?)。早く来いとまでは思わないが、息子が喜ぶならまぁ、といった感じで、獅子も留守番を引き受けた。
『呼びかけの室』へは、精霊バロタータを伴い・・・と思いきや。
バロタータは『今日ではない方が良い』と、決まった直後で、別の日を勧めた。
理由を話さないが、バロタータは何かの様子見をしていそうで、ドルドレンたちは了解し、町役場へ出かけることにする。この町には数日間滞在しようと決めていたのもあり、焦ることでもない。
今日は、ドルドレンとロゼール、ルオロフ、それとミレイオ、シュンディーンを連れて行く。
ちなみに、ドルドレンは昨晩、馬車ではなく、ポルトカリフティグと一緒に寝たのだが。
精霊のトラは、モデス村の兄弟の話を聞き、『見てくる』とか。今日はそちらへ向かった模様。
シャンガマック親子と留守番をすることになったレムネアクは、何となく体が重いから、馬車に残った。
これまで『憐みの刃』を数回使ったが、昨日は一晩、腕の火照りが取れなくて、体は体重を増したように重く、朝になって火照りは引いたものの、まだ体が重い。
それを総長に話すと『休んでくれ』と告げられて、シャンガマックたちに預けられた。
*****
「大丈夫か?」
「はい。じっとしている分には」
天気が良く、広場は風が強く吹くけれど暖かい。血の赤から銀色に戻った鉈を横に置き、馬車に腰かけて日光浴する具合の僧兵は・・・
「『憐みの刃』が直接の原因ではない、と思うんだけどな」
人間を連続で切り殺すと、その時は気が昂って分からないが、後から筋肉痛や関節にツケが来る。体の重さはそれじゃないかと、見当をつけるものの。でも、以前の時よりずっと重い。気持ちもつられて沈む。
俺は、殺しを拒まない。ヨライデが母国・ついでに僧兵だったし、抵抗もない。ない、んだ。ただ・・・
総長たちにやらせるくらいなら、やっぱり俺がやった方が良いだろうと、思うのに。
―――『龍に頼れ、レムネアク』『私もあんたにさせたくない』(※2992話参照)―――
あの時のイーアンの言葉が、頭から離れない。俺が汚れ役を引き受けるのを止める、彼女の言葉が。
僧兵上がりには適役じゃないかと、俺自身は・・・
レムネアクは考える。
汚れ役でも気にしないけど。僧兵だったからじゃなくて。彼らのために、彼らの面倒を少しでも減らしたくて、ああして動きに出る、そのことを。
まとまらない気持ちは掴めない。レムネアクは重苦しい鎖でも付いたように、鈍る体を床に横たえた。
*****
同じ頃。ヨライデにて現れた魔法使いの話を、夕食時、耳にした魔導士は。
「随分古びた本だな」
「そうだな、ざっと・・・二百年くらい前のだから」
これでも俺が管理しているから、新品みたいなもんだ、と言う魔導士にちょっとラファルは笑い、居間の大きな机に載った大きな本に、煙草を挟んだ指を向ける。
「年代物だが、棚になかった気がする」
「うん?・・・棚には置けん。これは、名簿だ」
「名簿。あんたの知り合いか」
「知り合いじゃなくても載っている。俺の時代以降、魔法使いは衰退したんだ。その後に記録で作ろうってな・・・ 俺の時代より前でも、強烈なやつは記してある」
魔導士は喋る口を止め、パラパラと探していたページを押さえる。少し前屈みになり、漆黒の目は紙面を見つめた。
ラファルもピンとくる。昨日、イーアンが『魔法使いが出た』と言っていたあれかと、一吸いした煙を吐くと、魔導士と目が合った。
「イーアンの話していた魔法を使う奴が、載っている」
「ほう・・・ ええと、雷と木がどうって」
「そうだ。木の方だな。俺も忘れていたが、地味な魔法なくせに歴史は古い」
「バニザットは使えるのか?」
「んん?使えないこともないが、あえて選ぶ場面がないよな。もっと効果の強い魔法が他にある以上」
「聞いていると、木の魔法とやらは、大したことがなく感じる。でも」
「そう。でも、だ。使いこなす魔法使いがいるとすると、地面が終わるな」
「はぁ?」
会話がラファルで止まり、魔導士は少し笑う。手を置いたページに目を戻し、『そうなりかねないことをしたやつが、過去にもいた』と呟いた。
「簡単に考えてくれ、ラファル。そこらじゅうの木が、根っこを出して動き出したらどうなるか」
「それは、土が返されるだろうな。山や森は・・・ そんなこと出来るのか?」
「使いこなすなら、有り得るんだ。イーアンが言うに、『大樹が遺跡をぶっ壊して瓦礫にした』らしいから、その魔法使いは危険だろう」
「今まで大人しく過ごしてた理由が知りたいよな」
フフッと笑った二人は目を見合わせ、首を傾げる。『碌な理由で潜んでいたわけじゃなさそうだ』と魔導士が、またページを捲った。
「もう一人の雷使いも・・・ 弟子を取らなかった先駆者はいたが、そいつの魔法をどこかで学んだかな。合わせ技でもないと、頭打ちがある。攻撃が単調だと、苦手な相手に出くわしたら一発でやられちまう」
「苦手か。雷なんて食らったら、大抵死ぬだろうが」
「同じ人間なら、ちょっとは大変だろう。だが妖精なんかに出くわしたら、あっという間に片付けられちまう。妖精は雷の質が、最大級だ」
耳を掻きながら教える魔導士は、短気なあの女を思う(※センダラ)。あんなのに、人間の魔法が通用するわけもない。
攻撃魔法が派手であるとか、同じ質の攻撃を得意とする種族がいるとか。確実に別の技も考慮しないと、結果的に長続きしない魔法はある。雷を使う以外に、逃げどころの技もいるものが・・・
「ああ、バニザット。イーアンがそういや、話していたんじゃないか?雷を使う魔法使いは、地霊と組んでいるとか」
「それもな。俺からすると・・・(※史上最強の視点)。地霊頼みの攻撃は、賢い選択じゃないんだよな。地霊に預けるってことは、地霊が何かの拍子に消えたら、頼みの綱が使えないわけだ」
「・・・複雑だな。魔法使いも」
「あの手この手でな、魔法使いってのは終わらない旅路を探求するもんだ。探求も行きつく所に着けば、晴れて魔導士になる」
「あんたは凄まじい、と俺はいつも思う。正しいな?」
正しい、と頷いた魔導士が可笑しそうに首を傾げ、ラファルの短い煙草を変えてやる。ぱちんと指を鳴らして吸いかけを消し去り、代わりに新しい煙草が、彼の人差し指と中指の間に落ち着いた。笑うラファルが新しい一服を吸い、『いつも、うまい』と付け足す。
「さて・・・俺も吸うか。どうするもんかな。木の魔法使いは、隠している力も多そうだ。この魔法を最大に引っ張った過去の魔法使いを、どう突き止めたかも気になる」
「地味な魔法でも、か」
「地味だ。だが、術者が特殊な力も得る。これは精霊と交わす約束以外で、極めて稀な内容で、それも世界に許可されている」
深くなってきた話。ページから手を離さず、もう片手で煙草を持つ魔導士は『術者を探った方が良さそうだ』と呟いた。ラファルはどこまで質問して良いか分からなくなり、遠慮して黙る。黙った側から、魔導士が視線を向けた。
「お前の状態と・・・ あれこれ細かいところが違うにしろ、少し近いんだ」
「俺の状態と近い、術者?」
「木と、同化する。これを最初にこなせると、木の魔法を使えるようになる。同化を与えられたら合格、だ。同化するとな、人間離れして、寿命が遠のくんだ」
ぽかんとするラファルに頷き、『だから、誰でも覚えられる魔法じゃない』と魔導士は本を閉じた。
「その意味は。同化の際に死んじまうと言ってるのか」
「多くは死ぬはずだ。同化期間、ほぼ、食べることも飲むこともない。木に取り込まれるのが条件だけに」
「体を突き刺すとかも?」
「いや。俺は見たことがないが、体を傷つけはしないと思う。認められる状態をこなすんだ。静かにな。木が黙すように・・・ひたすら、静かに」
そうと聞いている、と教えたが。魔導士もこんな魔法を、わざわざ覚えようとする人間の心境が謎。達人まで成長すれば、それこそ山をひっくり返して地面を砕く連続技も使うようだが、他の魔法を覚えることも出来ないはず。
木に同化したら、その領域から動きなど取れず、他を学ぶ余裕は必然的に断ち切られる。体を動かす自由が来るのは、どこへ行っても『木』を使えるようになってからと解釈しているが、詳しいことは不明な点が多い。その達人と直接的な接触は、ないから。
―――『ヴィボ』。 木の魔法を極めた男がいた。
この名前を知る者は、ほとんどいないだろう。ヴィボは、二度目の旅路前の時代にいて、彼が魔法で引き起こした出来事は、彼の敷地の墓石に彫刻されていた。
ヴィボが一番の大技を使った記録、その証拠が、彼の持つ土地にあった。魔導士はそれを見て、この奇妙な魔法使いの存在を知った。
場所は、アイエラダハッド。アーエイカッダの少し前、イヒレシャッダ時代の終末時。ヴィボが、地上を脅かす種族相手に魔法を使い、森林の広範囲を動かして根絶させた。
それは、木々の犠牲もあったのではないかと想像してしまうところだが、魔法は生きる木々に命じるものではなく、全てが木を通した魔法だったそうで・・・ 森林は、前代未聞の動きをした記録。
とはいえ、その森林を見に行くと、何も傷跡はなかった。見つけたのは、一帯の木々の幹に遺る、『ヴィボの礼』と彼が呼んだ、小さな印だけだった。
どれも千年近く過ごしたような大樹で、イヒレシャッダ時代に倒れたとしたら、こうまで大きくないと思ったのを覚えている―――
「その、あんたの名簿っていうかな。魔法使い名鑑に載っている、木の魔法を使った魔法使いは・・・まだ生きていることはないか?」
不意にラファルが質問し、魔導士は彼を見て『さすがにもういないだろう』と答えたが。有り得ない、とは言えなかった。
とにかく―― 三度目の旅路で、その存在を息吹き返した奇妙な魔法は、魔導士も引っ掛かるので、これは少し調べる。
それと、やるべきことは先に済ませねば。
*****
少し部屋に籠るとラファルに伝え、魔導士は自室に入って魔法陣を出す。
イーアンが海底から持ち帰った黒い剣を宙から出して、魔法陣を介しヨライデの数か所に『幻像』を設置する。
「鉈は、レムネアクが持っている。仕掛けを組む組まないの話でもない。まずは、剣だけだな」
金色の投網のように。八方に伸びる経糸を円心状に走る横糸が、任された『幻の剣』を下層のヨライデ地図へ、無造作にトットット・・・と置いて巡る。一番外側の円を巡ったところで、魔導士が息を吹きかけると網は完成し、置かれた幻の剣は、地図の中に吸い込まれた。
「何個だ・・・? 全部で7本だな。まぁ、剣だけでこれだけありゃ、しばらくは持つ。どうも黒い剣は、沈んだ陸地の海岸線に多かったから、内陸でも、海へ繋がってた古代の河川跡にあれば、疑いもしないだろう」
見抜く魔導士。黒い剣と宗教の関係は興味もないが、探ってみて、そして取りに行ったイーアンの報告も聞いて、発見しても怪しまれない条件を理解した。
遥か昔。ヨライデは『ボニメツァ』と呼ばれた時代がある。アイエラダハッドが、イヒレシャッダと最初の国名を決めた時よりも、前のこと。
ボニメツァの時代は、すぐに『ヨライデ』に名を改めて終わってしまったようだが、このボニメツァの前の時代は、国の形が全く違った想像もある。それが、海を伝ってティヤーへ伸びる沈んだ遺跡群。
幾つかの遺跡で、その存在を垣間見る機会はあれ、多くは謎のまま。黒い剣は、その謎の時代から続いているものと見た。
「そうなるとな・・・もう、『三つの供物』も、創世時代に現れた面倒な品と考えて良さそうだ。
ヨライデ王の心臓、死霊の絡む鉈、異界の精霊の剣。放り出すなり片付けるなり、時期を考慮したら、最終が丁度良いって具合か」
呟いた口を閉じる。独り言だ、と頭の中で強調する。これは、独り言・・・ 触れすぎてしまう癖は、面白くないことを引き起こす。精霊に咎めを受けそうな想像をやめ、魔法陣を消した。
「まずは、剣を押さえた」
次は、鉈だろうが・・・ どうしたもんか。鉈を持つレムネアクがいつやられるとも限らない以上、手は打った方が良いと思う。
「イーアン、守れないなんて間抜けするんじゃないぞ」
妙な予感がするけれど、呟きを残して部屋を出る。この予感は遠からず、当たる―――
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