3048. ヘズロンの一日 ~④巨木・二人の魔法使い VS ドルドレン他
10数人を切ったレムネアクは、腕も背中も筋肉が張ってパンパン。だが、味方にする死霊は作った。あの部屋で後から殺した者たちの死霊は、『礼』が残っているから呼べば来る―――
―――「あれ。なんですか」
目を凝らしたロゼールの視線の先は、急速に伸び上がる木。その大きさは目を疑う。
四人は一~二秒、呆気に取られたが、レムネアクは第二戦を覚悟して、スッと息を吸い込んだ。ドルドレンも異様な成長をする大樹に、『間違いなく敵』の判断。息を整えた僧兵に『着替えはもう少し後だ』と呟いた。
「総長、行きますよね」
ロゼールが顔を向け、当然と頷くと同時、四人は現場へ飛ぶ。離れていないので、ものの数秒も使えば現地到着。近づくにつれ、木の成長する動きが生き物のようで、この木を切り倒すべきかと誰もが先に過ったが・・・
「ドルドレン!」
「ミレイオ?」
下から聞こえた、ミレイオの声。だが、見当たらない。下を見回す四人に、次は背後から呼びかけられる。
「ドルドレン、ロゼール!」
ハッとして振り向いた上から、翼を広げた精霊の子が降りてきて、どうしたことかと下方の状況を二度見する。シュンディーンは四人に状況を伝え、ミレイオが様子見に行って間もなく、おかしな現象は始まったと知る。
「ミレイオはいつ降りたのだ」
「ちょっと前だよ。ミレイオは」
まだ呼ばれないシュンディーンは、大樹の異常な成長を見ても待っていた。そこへ来たドルドレンたちを、『サブパメントゥの、いい方の気配がしたから、僕が応援に呼んだ』と教えて、ロゼールと目が合う。シュンディーンも、ロゼールと断定はしていなかったが。
「それで、俺のスフレトゥリクラトリがこっちに来たんだな。良かった」
合点がいったのはさておき、ルオロフは下が気になり急かす。
「どうします。降りた方が」
「うむ。しかしミレイオが呼ばない理由が」
「さっき、総長の名前呼んだじゃないですか」
部下に突っ込まれ、そうだった、とドルドレンは頷く。声はしたが、姿は見えず。大樹はまだまだ止まることなく、天を衝く勢いでメキメキと音を立てて伸びている。
「シュンディーン、この場合は行って良い」
総長の律儀さがじれったく、ロゼールは先に滑空。ドルドレンたちも、下に見える大きな遺跡の大樹の足元―― 遺跡の中心へ急いだ。
*****
「ミレイオ・・・」
気配で相手が逃げたら、とそう言われて待機していたシュンディーンは、降りて来てしまったには、ミレイオを探す。勝手に行動して大丈夫かも気がかりだが、いざ降りるとミレイオが心配でならない。
大声は使わないが、どこにいるの、と呼びかけて、土を割って成長し続ける巨木の横を通る。ドルドレンたちは反対側へ行き、始めに降りたロゼールとルオロフも大樹の裏に回った。自分一人ではあるが、親を探す子の如く、精霊の子はミレイオの無事を心に願いつつ、遺跡の割れた石の上を進んだ。
人間ではない、おかしな感覚。動物でもない。でもミレイオは『人間』と言って・・・ 何度目かの『どこなのミレイオ』を口にした時、また奇妙な感覚を近くにし、シュンディーンは止まった。その途端、大樹の根の一部が真下から突き出す。
バッと避けたシュンディーンは、すぐさま奇妙な相手を探し、見つけた―――
喋る無駄は、無し。精霊の子は黄緑色の旋風を起こし、その気配の正体をむき出しにする。噴き上がった精霊の旋風は、あっという間に竜巻の猛威に変わり。そこかしこの瓦礫も砂も巻き込んで、彼を突き刺そうとした根すら引きちぎった。
煌々と輝くシュンディーンは、ミレイオの心配を一旦引っ込め、隠れ蓑をもぎ取って現れた正体を目に焼き付ける。
「男。人間じゃないのか。お前は、何が違う」
「精霊・・・ 精霊?」
引っ張り出した相手は、古い僧衣を猛風にばたつかせ、長い髪と瓦礫が邪魔する視界を片手で払う。その顔は女のようでも、シュンディーンには男だと分かった。しかし、ただの男ではなく、この人間は体の歳が狂っているのも見抜く。
向かい合った相手は、陽炎のような大きな木の枝に片腕を絡ませてしがみつき、竜巻に対処すべく目を走らせている。精霊の猛風に吹き飛ばされて当然の状況で・・・ 側の大樹から伸びていると思しき、太い透ける枝に掴まり凌いでいる姿は、訳が分からない。
また僕の力が半端なのか!と苛立ったが、現状そこに怒ってる場合ではないくらい、シュンディーンも理解する(※経験)。
多少のショックは受けるが、とにかくおかしな敵を捕まえたに等しいのは、確か。男はまだ対処を探しているようで・・・その暢気な状態も頭にくるけれど。
「うおっ!何を!」
「捕まえとく」
竜巻は急に萎んで、敵を絡め捕った。シュンディーンの風の力は衰えておらず、収縮した渦の線が、男の身体を雁字搦めにする。
「魔法使い。だろ、お前は」
「これは」
全く答えになってない相手にイラつく精霊の子。無視されるのもイヤだが、捕まえた以上は一手先。シュンディーンは、ドルドレンたちにこいつを引き渡そうと後ろを振り返って、瞬きした。
巨木の成長が止まった? さっきまで生き物のように太く膨れ、天井知らずの伸び方だったのが。樹皮も割れ、砕けた樹皮がはがれて落ちて、それでも成長を続けていたのに。
こいつの魔法だったのかと男を振り返って目が合い、目を逸らされた。お前は、と質問しかけたところで、大樹の根元の一ヵ所が、ぐしょっと潰れる。その鈍い音に顔を向けて驚いた。
「ミレイオ!!」
「あ、シュンディーン!」
小屋ほどの根っこの一部が砕けて消え、中から現れたミレイオ。シュンディーンはすぐさまミレイオの側に降り、根に捕らわれたらしき彼の身体を、頭からつま先まで見た。
「閉じ込められたの?怪我は?」
「大丈夫よ。それよりあいつは?あれはあんたが」
竜巻が絞られた見た目は、さながら輝く縄でぐるぐる巻きにされた状態。浮かんだまま、手も足も出ないザマの敵は、シュンディーンの仕業かと訊き、彼は頷いた。
「僕が捕まえた。ドルドレンたちも来てるから、渡そうと」
「もう一人いるのよ」
遮ったミレイオは、目を丸くしたシュンディーンの背中に手を添え『あいつを逃がしちゃダメ』とまずは注意。うっかり逃げられないとも限らずで、了解した精霊の子が腕を伸ばすと、綱に巻かれた罪人よろしくの敵は引き寄せられた。
ミレイオはその顔をちらと見たが、声はかけない。相手も無言。シュンディーンに『行きましょう』と促し、捕虜を連れた二人は、動きを停止した大樹の外周を、奥へ向かった。
その直径、御殿さながらの幅。幹を支える根の太さも半端ではなく、幹から地上へ張る根を越えるに、二階建ての階段を上がる具合。まさか歩いて乗り越える気もない二人は、魔法使いを連れて浮上し、大樹裏へ進む。
無言で進んだ、少しの時間――
顔はチラと見ただけだが、ミレイオは魔法使いにどことなく覚えがあり、気取られないよう思考遮断をかけて考えていた。サブパメントゥの力は弱い自分でも、人相手の思考遮断なら、効果はそこそこ。おかしな胸騒ぎが伝わっても、困る。
この顔・・・ あの子が思い浮かんだのは、なぜかしら。確かあの子、小さい頃に親が殺されて、孤児になったんじゃなかったっけ・・・?
胸騒ぎというだけのこと、深く考えないけれど。他人の空似はよくあることだし、そうも思う。でも。
ガアン!と大きな炸裂音が光線を伴い、ミレイオたちは浮かぶのをやめて下へ降りる。大樹の根っこ一本分の向こうは、もうドルドレンたちが戦う現場だった。
「派手にやってるわね」
赤く閃光が走ったと思いきや、ガガンと轟く振動が続き、弾ける光と揺さぶる振動の繰り返し。閃光が屈折して戻る印象は、ドルドレンが叩き返していそうではあれ、彼らは高い位置にいるのか、姿は見えない。
墓地遺跡は粉砕で酷い状態に変わり、大樹の出現で石の床がめくれ上がった風景。地面を掘って造られた枠の壁が辛うじて残っているが、破壊の勢いは増す一方。遺跡もへったくれもなくなっていた。
パッと光った雷がこちらにも飛び、即シュンディーンが応じる。光った瞬間、水色の翼が二人を覆い、光は散った。
「有難う」
「魔法だもの。人間の使う魔法なんか、どうってことはない」
魔導士には破られたけど・・・ あれは別、と除外して(※負け)。
ニコッと笑ったシュンディーンが、頼もしいミレイオ。うん、と微笑んで、誰が対戦しているのかを覗き見た。参戦してもいいが、ドルドレンが負ける気もしない。
でも奇襲くらいの手伝いはと、その場から状況を探る。ちょっと前に進んだら、ようやく仲間の姿を発見。
「あれドルドレン・・・よね?他は?」
「ロゼールとルオロフと、レムネアクも一緒だ。下にいるのは、もう一人の敵?」
「私は、少ししか見ていないの。こいつを先に止めた方が良いと思ったから」
こいつ、と振り返らずに肩越しで親指を後ろへ向けるミレイオに、シュンディーンは、ミレイオがこいつの魔法が大樹を作っていると気づいたことに、少し感心した。
止めるつもりで、木の内側に入ったのかと、理解する。成長が止まったのは、僕が捕まえたからか、それとも、ミレイオが内部を破壊したのか・・・ 少し考えていると、ミレイオは『手伝うべきかしらね』と空を見て呟いた。
「どうしようか。ドルドレン、技を出さないのは事情でもあるのかな」
木の向こうに浮かぶ、数人の影―― ドルドレンたち ――と、向かい合う石に立った魔法使い。
彼らは大樹から少し離れており、ミレイオたちとの間に、瓦礫が凄まじく積もっているので、地面の状態などは分からない。魔法使いは攻撃するが、ドルドレンの動きが大人しいのが気になる。そして、違うことに気づいた。
この魔法使い、飛べない・・・? フッと姿が消えて、別の所に現れるのだが、瞬間的な移動は出来ても、飛び続けない。
瞬間移動も、距離は近め。浮かんだようで、すぐに降りる。これは魔法か、精霊頼みか。移動速度は人間の速度ではないしと思っていたら、シュンディーンが首を傾げる。
「あいつ。地霊を使ってるのかも」
「そうなの?」
「地霊が側にいる。急に引っ張ったり、変な動きを」
瞬間移動は地霊による、と判明(※精霊の子曰く)。
誰かの協力なしでは無理と分かり、ミレイオはシュンディーンに『あんた、止めたら?』と素朴な方法を推奨。精霊の子は、ドルドレンたちの浮かぶ姿を指差した。
「僕が邪魔したら、怒られない?」
「怒らないわ。敵が使っている精霊を、あんたが止めるだけよ。隙を作れば、ドルドレンも倒しやすいでしょ」
「うん、なら。やってみる」
―――この会話を後ろで聞く、動けない魔法使いナーブヤム。
精霊の若者と刺青男、そしてリオラヌと戦う数人は仲間。鉈を持つ男の仲間を、今はしっかり観察する。力の状態、強さも……
黙っている捕虜を無視するシュンディーンは、スッと前へ伸ばした左手の掌を上に向けた。呪文を唱えるでもなく、言葉にするでもなく。
黄色い肌の若者の動作は、誰かから物を受け取るような仕草に似て、特別な違いなどないが・・・ 前に伸ばされた腕を、数秒で降ろした続き、成果は出た。
遠くにいる男は、振り返ったり横を見たり、首が動く。変化が起きて確認している様子に、ミレイオがちらっと精霊の子を見て、『止めた』と一言貰う。
「素晴らしいわ」
「僕の方が、あんなのよりも立場があるから」
人間と比較するシュンディーンが、何だか気にしているみたいで可愛いけれど、ミレイオは微笑み『これで片付くわ』と彼の肩を叩く。すぐに展開は起き、身動きの幅が狭まった敵に対し、ロゼールの行動が入る。様子確認なのか、ルオロフを連れたロゼールは、しゅっと地上近くへ飛んで旋回、戻って魔法使いの攻撃をかわし、また旋回する。
離れていて、過激な光の攻撃ばかりに目を捕らわれていたが、ここでミレイオとシュンディーンは雑魚に気づく。
「あ、あんなのいたのね」
「でも幻影だよ」
気配がしなかったのは幻だから、とシュンディーンが教えて、大樹の陰から少し身を乗り出した二人は、『敵の味方』を知った。
大樹の根が直径も大きすぎて見えなかったが、向こうに赤い輪郭の黒い中心を持つ、炎みたいな姿がうじゃうじゃしている。
それらは手足などはないものの、ボッと鈍い音を立てて、千切った炎を飛ばしている。高さはそこそこ行くが、矢のように弧を描いて落ちる攻撃。瓦礫の下り一面を埋め尽くしており、それで四人は降りてこなかったらしい。
対して強そうではないし、シュンディーン曰く『幻』だそうだが、範囲が広い・・・ 不意に、ミレイオの脳裏に、魔物が来るのではと過る。
「ドルドレンが」
さっと前に出たシュンディーンは、もう身を隠すのをやめる。ミレイオも屈めていた背を起こし、一気にとどめに動いた仲間を見守る。
ロゼールが何度か滑空した確認は終わり、不意にルオロフが地上を駆け、瞬く間に相手を叩き倒した。
急降下したロゼールに飛び乗ってルオロフは宙へ。入れ違いでドルドレンが急降下し、片手で長剣を振り被り、男に地上すれすれ、剣を突き刺した。ようだが。
血が、噴き出さない。
滑空の勢いでそのまま飛んで離れたドルドレンは、片腕にレムネアク付き。もしや、と眉根を寄せるミレイオ。
隣で食い入るように見ていた精霊の子も、あ、と一声あげるや―― それは、こちらにも襲ってきた死霊の群れに ――急いでミレイオを翼で覆い、飛び込む死霊から守った。
「シュンディーン!」
「動かないで」
死霊が精霊の自分を襲えるわけがないし、ミレイオを狙うこともないはずだが、なぜか、向こうの魔法使いに群がった死霊の半分がこちらへ直進した、数秒の出来事。
乾いた墓のどこからか、一斉に上がった死霊は、雲霞の如く。死霊の矛先に、レムネアクを一瞬疑うも、頭を上げて気づいたのは・・・
「しまった」
「シュンディーン、大丈夫?」
死霊が過ぎ去り、包まれた両腕が緩んだすぐ、ミレイオが心配する。シュンディーンは後ろを見ており、歪んだ顔の悔しそうなこと・・・
「逃がしてしまった」
「あんた、私を守ったから」
「うう・・・ また失敗した!」
気持ち全部、ミレイオへ注いだ隙を突かれ、シュンディーン失態。
雁字搦めの敵は搔っ攫われたと思いたいが、そんな都合は良くない。死霊がこっちを襲ったのは、自分たちの連れた敵を倒すためと、ここで気付いた。
だが、死霊は魔法使いを倒せなかったのかもしれない・・・ シュンディーンの絡め綱が解けたのと、あいつが逃げるのと、同時だったなら。
あ~!と顔を手で覆う精霊の子に、ミレイオは『私を守ってくれたんだから良いのよ』と慰めるものの。逃がしたのは、確かに痛い。
最初に襲い掛かった方の状況はと、背後を見たがあちらも・・・恐らく失敗に終わった。降りてきたドルドレンたちが周囲を気にし、ぐるぐる回っている。
「仕方ないわ。魔法使いって、敵対したこと少ないんだもの」
溜息と一緒に『今回はしようがない』と呟いたミレイオだが。一難去ってまた一難、ハッとして墓地遺跡の先に目を向けた。
「魔物・・・ 魔物が来たか、やっぱり」
魔法の力が大きすぎると、来る相手――
シュンディーンも、砂の膨らむ方に『今度こそは』と気を入れ直す。
お読み頂きありがとうございます。




