3049. ヘズロンの一日 ~⑤魔物の締め・精霊は馬車に・報告と死霊説明・精霊のトラと勇者
※6200文字あります。お時間のある時にでも。
魔法使いが逃げ、魔物襲来。町の東、荒野に続く山裾方面に、砂煙がもうもうと立つ。
応戦する気のシュンディーンが発光したが、ミレイオはすぐ止めた。
「ドルドレンが」
後ろから、溢れ広がる勇者の力と、明るく変わる風景に振り返る。それはまるで、地上に太陽があるが如く―――
「さっきは避けていただけで体は疲れもないが、次から次だ」
剣を構えたドルドレンは、町へ猛進する群れを一気に薙ぎ払うつもり。久しぶりに、太陽柱を使う。他三人に攻撃しないよう命じ、両手に握った長剣が、橙の輝きを空に伸ばしかけた、その時。
はたと感じた強い気に、技を引っ込める。密度を増していた魔物の砂煙が、鋭い突風に煽られるや、ヘズロンの都を背に、カッと眩い真っ白が被さった。
貫く眩しさに目を瞑ったすぐ、体はおろか、砂も石も大量に引っ張られる吸引が生じる。
ドルドレンたちは急いで屈み、重心を落として引きずりに抗う。イーアンだ!と閉じた瞼を薄く開くと、空に風を起こす大きな龍が一頭。
魔物の群れは消され、龍は鎌首を揺らして残りを確かめてから、白く輝いて人の姿に戻った。6翼を広げ、ヘズロンの塀の外にいる仲間を見つけたイーアンは、すぐに降りてきた。
「大丈夫でした?」
「おお、イーアン。大丈夫も何も。戦う前に消してくれたか」
「魔物はね。でも、その前に違うのいたでしょう?」
にょきッと生えた巨木の不自然さに、イーアンは『これは、何です』と指差す。
巨木は少しずつ傾いており、茂っていた葉も薄くぼやけているが、集まったロゼールたちはここまでの事態を口々に教え、イーアンは巨木と崩壊現場の経緯に驚いた。
「魔法使いが、二人に増えたのですか」
「仲間がいたのである。いてもおかしくないけど」
「レムネアクの鉈狙いで、来たのでしょうか」
「だと思う。だがレムネアクは、御覧の通りで無事である」
「血まみれです」
正確には、血まみれだった姿に砂を貼り付けており、黄色っぽい全身の、砂がひび割れた隙間に赤黒い筋が見える状態だが、イーアンは『血』と分かる。
「これは、ここの前の処置による。後で話す」
会話がおかしい二人に、側にいたレムネアクは顔を傾けて少し笑い、『あんた、また一人で殺したの』と女龍に聞かれて頷くが、ドルドレンが『後で』と繰り返して質問を止めた。
留守にした時間で、どうやら込み入った事件が連続発生したようだが。
イーアンも黒い剣を探しに行き、ああだこうだと長引いた。どうにか手に入れた剣を魔導士に渡し、戻ったのが今。夜も再び魔導士に会わないといけない約束で(※内容は知らない)、留守にして大丈夫か気になった。
魔導士に協力してもらっているので、夜も出かける話をすると、ドルドレンは『行ってきなさい』と了解してくれ、ヘズロン入り初日については、帰り道がてらで話し、詳しくは明日にでもと決まる。
巨木は本物のようでありながら、魔法で現れた木なので、傾いて倒れたとしても、形も残さない印象ではあれ。
懸念したイーアンは『消します』と、望まぬ被害を防ぐために、龍の首に変える。
龍の力の前に、元は魔法の産物が耐えるわけもなく、空衝く高さまで巨大化した姿は、砂塵に紛れて消え失せた。
地上部は。今、これに気づく者はなく―――
見る影もない荒れた墓地遺跡を、一瞥するドルドレン。
「今日は目まぐるしくて、順を追って話すにも少々難しい」
「あなたがそう言うなんて、よほどですね」
魔法使い相手、ドルドレンたちは攻撃の仕方が、よく分からなかった。
何が効いて何が効かないか、今一つ理解しづらい相手だった。ドルドレンの剣は、魔法を弾き返したり、切って薙いだりが可能だったが、かといって、相手そのものを切った時は空振りした。何が何だか、終わった今もピンとこないのが正直なところ。
そう話している間で、ミレイオとシュンディーンも揃い、お疲れの労いを交わす。
「あー。しんどかったわ」
「ミレイオたちは、別の魔法使いを相手にしたのですね」
「そ。でも」
「僕が逃がしちゃった」
「こら。違う、って言ってるじゃない。違うのよ、シュンディーン」
二人のやり取りに、皆は注目。逃がした=捕まえていた?
尋ねるとシュンディーンは俯き、代わりにミレイオが説明してくれた。一度は捕えたが、死霊で驚いたために逃がしたと知り、今度はレムネアクが『面目ない』と謝る。皆も、何となく流れを感じ取ったが(※全体的に失敗)、ともかく長話も無駄なので、ドルドレンは話を切った。
「終わったことだ。どちらも気にしないで良い。今は馬車へ行こう・・・しかし、シャンガマックが気付かなかったのも、少し疑問だ。俺たちにいろいろあり過ぎたが、彼らは問題ないだろうか」
ムンクウォンの面で出した翼に飛び乗り、ドルドレンはふと案じたが、すかさず『獅子と一緒で何があるわけもないでしょ』と、これもミレイオに一蹴された。
一先ず、帰る。長居無用の町外れから、馬車のある西門方面へ。
*****
「お帰り・・・ 何かあったか?」
馬車番のシャンガマックが、仔牛と話しているところへ、次々に降りる仲間。その汚れた格好、一番強烈なレムネアクの姿に(※殺したと察する)褐色の騎士は驚く。
はぁ、と乾いた頬を掻く僧兵が答える前に、イーアンはレムネアクを引っ張ってどこかへ連れて行き(※清浄)ロゼールも『彼の着替えの用意が』と荷物を取りにいった。
見送ったシャンガマックが顔を戻すや、近くへ来たドルドレンが『非常にいろいろあった』と変な言い方で認め、総長が精神的に疲れているのを見て取る。
「どうしたんですか」
「お前は無事で良かった。あ、そういえば。うん?精霊の気配がするが、バロタータ?」
報告手前で、荷馬車の気配に気づいた総長。シャンガマックは『はい』とそちらを指差し、バロタータとポルトカリフティグがいることを教える。気持ちの疲れていたドルドレンには特効薬・・・ 安心と信頼の精霊、ポルトカリフティグがいるとは。
「そうか!来てくれたか」
「お昼前にバロタータが戻って・・・ポルトカリフティグが近くにいると聞きましたが、姿は見ていません」
ワンちゃんは荷台に乗ったそうだが、トラは分からないと言われ、ドルドレンは報告そっちのけで、ポルトカリフティグを探しにそそくさ出かけた。
目で追う仔牛は『精霊の守りは、あいつらに関係ない場所までだったか』と皮肉を落とす。どうやらそのようだとシャンガマックも思ったが、これも精霊の知るところ?・・・ 計画というほどのものではなくとも、そんな風に感じた。
バロタータ曰く、精霊の結界は今も張られたままだそうで―――
「駄目だ。疲れた。歳だわね」
どさっと石畳に座ったミレイオを振り返ると、『飲まず食わずでお昼越しに魔法使いと戦った』話。簡単な報告だが、シャンガマックは更に驚く。
「ま、魔法使いと対戦?魔物や人間じゃなかったんですか?」
どうして呼んでくれなかったんです!と大声を上げる騎士の後ろ、何となく知っていた仔牛は、そっぽを向いておく(※言わない)。
水が飲みたい・・・ 喚く褐色の騎士を放って、よろよろとミレイオは食料馬車の荷台へ水を汲みに行ってしまい、シャンガマックは、側にいたシュンディーンとルオロフを捉まえて詳しく状況を聞き、激しくがっくりした。
「俺の・・・敵じゃないか。二人もだって?なぜ、呼ばなかったんだ」
「呼ぶ時間がありません、シャンガマック。矢継ぎ早の展開でした。相手が魔法使いかどうかも、最初は分からなかったので」
気落ちしている騎士に、ルオロフは丁寧に答えて、彼の腕をさする。ちらっと貴族を見た漆黒の瞳はとても残念そうで、この人本当に戦うのを楽しみにしていたんだな、と思った。
落ち込む精霊の子は、自分が逃がしたことを引きずるが、それも理由を聞いてみて、シャンガマックは『俺が行けばどうにかなっただろうに』と残念なだけ(※なる保証はない)。
よく分からない消沈の傷を受ける、シャンガマックはさておき・・・
このすぐ後。広場の外れに突然黒雲が現れ、土砂降りが一ヵ所に集中し(※イーアン)、凝視するシャンガマックたちが『あれはイーアン』『なんで雨が』とその場で騒ぐ間に雨はやみ、ロゼールとレムネアクとイーアンが戻る。
何のことか分からないが、簡易版風呂だそう。豪雨で叩き落とした血と砂。汚れから解放された僧兵は、ずぶ濡れの服を着用したまま馬車影へ行き、新しい服に着替える。
この黒雲対応は、イーアン曰く『毎度のこと』。レムネアクは血まみれ率が高いため、『雨で落とした方が早い』と、黒雲を出すのは効率重視だった。
「イーアンは業務的だから」
横で苦笑するロゼールに、女龍は『あなたも入って良かったのですよ』と冷めた目を彼に向ける。ロゼールが『川浴びくらいが丁度いい』と断ったところで、着替えをまとめたレムネアクがイーアンを呼び、そっちへ行ったイーアンは着替え消滅(※速い)。
証拠隠滅のようだと呟いた真顔のルオロフに、ロゼールたちが笑い・・・
気落ちするシャンガマック、横でボーっとしている仔牛、石畳に座って水を飲むミレイオ、横にシュンディーン、そしてロゼール、ルオロフ、イーアン、レムネアク。荷馬車から出たバロタータが馬車脇に集まって、結果報告が始まる。
イーアンは留守だったので・・・ 聞くだけだが。
―――ミレイオとシュンディーンは、町の東にある博物館や僧院遺跡に足を運んだものの、同じ方角の墓地遺跡の異変にシュンディーンが気付き、調べに行った。この時は、巨木はなかった。
一方、ドルドレンたち4人は、バロタータが急用で早々いなくなった後、旧教の『呼びかけの室』で幽鬼付きの修験者に会い、無駄話になりそうで中へ入ることなく後にした。
次の人探しで、男二人組に呼び止められるが会話が怪しく、ドルドレンが指摘で迫ると二人は逃げた。すぐ近くの地下道へ降りた後を追い、四人で追跡した先は、地下道の一室にある悪人の溜まり場だった。
ここで有無を言わさぬ殺し合いの展開になり、レムネアクが十数人殺害。死霊を使って全滅させる。『念』憑きは二人混じっていたが、それらも容れ物を失い、しかし消息は曖昧。
表の馬車へ行くため、ロゼールが使うスフレトゥリクラトリに頼んだところ、出たのは東の町外れで、これはシュンディーンが応援を呼んだことに通じる。
ミレイオが一人で調べに行き、待機したシュンディーン。ミレイオが降りてすぐ、墓地遺跡中心を貫く木が出現し、ここでドルドレンたちとシュンディーンは合流。
ミレイオは木を出した敵と相打つことなく、根に巻かれて引きずり込まれたが、中心の種でもないかと、破壊しながら内部を探った。この間も幹内部はミレイオを押し潰す動きだったが、ミレイオは壊し続けて回避。
仕掛けらしいものがない印象に、ひとまず表へ出た時、シュンディーンが丁度、魔法使いを絡め捕っていた。
ドルドレンたちは木の反対側へ飛び、急な攻撃を受けた。レムネアクの鉈を狙った魔法使いが姿を現し、壊れた地面が炎の海に変わった。下へ降りられず、飛んでかわす魔法の閃光と雷撃は、ドルドレンの長剣が通用するも、滑空して本体を切りつけると手応えは無く、倒すに至らないまま時間が過ぎたのだが。
レムネアクが、古い墓地で呼びやすい死霊を嗾けることに決める。物理攻撃が難しいなら死霊で、の作戦。『死霊に追わせる』ため、気取られないよう物理攻撃を先に、と急いで作戦を話し合った矢先。
魔法使いが細かい移動をしなくなり・・・これはシュンディーンが、魔法使いを支えていた精霊を引き離したため。
魔法使いの動きがおかしくなり、機会逃さず、ロゼールとルオロフが状態を確認。動きがのろいと分かり、ルオロフの勢いで魔法使いを突き倒した。触れた感触を見て、ドルドレンも続き、剣で切る真似。その裏、レムネアクが『俺の敵を襲え』と魔法使いを敵指定した。
この時、レムネアクの鉈が僅かに魔法使いを切って、印を付けている。
そして、墓地遺跡を介した死霊と、先ほど殺した人間の死霊が、魔法使い二人を襲ったのだが。
照準指定された魔法使いは、死霊から逃れる術を使ったようだし、シュンディーンはミレイオに気を取られて魔法使いを逃がした―――
「お疲れさまでした・・・ 」
聞き終わったイーアンは、それぞれの報告を合わせて理解する。それは皆も一緒。そうだったのか、だからかと、嚙み合うと合点がいく。
「でもイーアンが来たら、一瞬で終わったわね」
苦笑いのミレイオに、ルオロフたちも同意する。シャンガマックは『俺が行ったら、また違うことになったかもしれない』としつこかったが、これは無視。
ロゼールの側で黙って聞いていた犬の精霊は、イーアンをちらと見た。
イーアンも、距離を保つワンちゃんを見て『私が間に合った方が良かったですか?』と・・・ 周囲が振り向く質問を投げる。
バロタータは、気づいていそうな女龍に『いいや』と返事をし、またロゼールの腕に寄りかかった。
ロゼールはワンちゃんを撫でながら、精霊は何を知っていたのかと考えるが、誰もそこを突っ込まない。イーアンも『私は私で忙しかった』と呟いたのを最後に、報告は終わる。この後は夕食作りで、イーアンは用事があるからと出かけた。
少し気になったこともあるが。
空へ飛んだすぐ、ヘズロン東の壊れた遺跡が視界に入って、イーアンは消した巨木に疑問が擡げた。さっきも思った。
なんで、あの大きさの木を出したんだろう。
素朴な疑問は、見忘れている事実がありそうで、でもこの時はこれ以上、思いつかず―――
*****
ドルドレンは、ポルトカリフティグと広場を離れた場所で会えた。
バロタータが朝の出発時に消えた理由は彼だったと知り、それから、互いの持ち場を決めた話(※前向きに捉える)を聞かせてもらい、精霊が二人もついてくれる感謝を伝えた。
ただ、ポルトカリフティグは・・・穏やかな彼の心は時々掴みにくい。何となく、バロタータを避けている感じがする。馬車へ行こうと誘ったが、『私は付かず離れず』と動かないので、ドルドレンもしばらくトラの側にいた。
ポルトカリフティグが馬車へ近寄ろうとしないため、夕方になった頃、いつまで一緒にいるかを尋ね、『少しの間は』と聞けたことから、今夜は久しぶりに一緒に寝ようと決める(※仲良し)。馬車ではなく、表で。
ポルトカリフティグがバロタータに配慮して、馬車の側を譲っているのかもしれないし、これは俺が合わせようとドルドレンが提案すると、トラは機嫌が良さそうだった。
トラは『急ぎではなくても、あの兄弟から受け取った馬車歌のことを教えてくれ』と勇者に言い、寝るまでの時間の話題も決まる。
馬車に事情を伝えに行き、精霊の犬が何となし、もの言いたげな視線を送ってくるのを感じつつ、ドルドレンは夕食だけもらって、ポルトカリフティグの側へ戻った。
この時、ドルドレンも他の者たちも、バロタータ以外は気づいていないことが一つ。シャンガマックは普通に、夕食を共にしていた。でも、獅子は不在だったこと―――
ヘズロンの初日は、激しく展開し、静かに終わる。
まだ何か起きないと言い切れるものではないが、精霊が守っている状態で心配はない。せいぜい、『あの修験者は』『あの魔法使い二人は』とそれくらいで、後から押し寄せる疲労に、誰もが早く休む。
その頃、魔導士の約束で出かけたイーアンは―――
お読み頂きありがとうございます。
明日は、珍しく全体的にほのぼのして、かなり長いです。どうぞお時間のある時にでも。




