3043. 魔導士『黒い剣探し』結果・ラファル近況・旅の五百日~五百三日目 ~①魔物と人の現状
三つの供物『黒い剣』探しを引き受けた魔導士は、イーアンを海底遺跡に連れて行ったその日の内に、イーアンから返事を受け取り、夜から探索開始。
「ルオロフの剣で良いじゃないか・・・面倒臭ぇことを」
本心をぼやきながら広げた魔法陣に、ヘズロンで見た黒い剣を命じ、ヨライデを調べる。
あるにはある。が、これで安心はしない。点々と、金色の円盤に浮かんだ目的物は、小枝の先程度の黒い欠片を模して、各地の上に浮かんでゆっくり回り、場所を示しているけれど、壊れている場合もあると聞いたばかり。
「手土産が破損しているってのは、特別な状況で認められないだろう。無傷な剣のまま・・・は、あるもんか?どうやっても、一度で壊れるようだが」
見た目は、普通の剣より短かった。短剣とは全く違うが、あの剣に『短い剣』の表現は正しい。鍔から切っ先まで、60㎝程度。切っ先の先細りも含む分、短く見える。
反身で黒く、滑らせるために作られた剣の形は、地面を切るたびに壊れて使い物にならなくなる、とか。
「剣というより、目的が道具扱いだったんだろうな。しかし、さて。あー・・・これはちょっと、範囲を広げるか」
覚えている形状を、思念で魔法陣に落としたところ、合致するものは無し。破損品はあれど、完全体がヨライデに一本もない。いや、あるのだが、それは丁度馬車のある位置で、ルオロフの持ち物である。
イーアンの話だと、ヨライデ以外の国もあの剣を用いていたようで、海から先へ捜索を広げたところ―――
「んー?何だこりゃ。どこかの遺跡の中?拡大するか・・・ む。俺が行ってはマズそうだな。海底か、海中か。微妙なところにあるもんだ。しかし、沈んじまったから残った具合かもしれん」
ティヤーの海域に入った少し先、無数の島々があるどこかかと思いきや、島ではなく海に印が付いた。一番近いところがそこで、他にアイエラダハッド方面、ティヤー奥など。そっちも見たが、どこも海だった。線を繋ぐと、思うに、古代は陸だった所。
同じような条件下で近場を選ぶなら、ティヤー・ヨライデ間の海、ど真ん中が候補に挙がった。
「あの辺は沈んだ遺跡が多いからな。剣を使う前に沈んだ所で、未だに原形を保つわけか。ふーむ。探るくらいなら許可は出たが、触ってまた、何だかんだ言われるのも気に障る」
これはイーアンに探させようと決め、魔導士は場所情報詳細を地図に変える。
金色魔法陣から金糸が伸びて、宙で高速機織りが一枚布を織る。しゅーっと上から下へ仕上がってゆく地図は、地図上部にヨライデの海岸線と現地、地図の下部に遺跡の平面図と断面図を織り込んだ。
仕上がると、地図は紙に変わって、ひらりと魔導士の手に乗る。魔導士は片手で髭を撫でながら、出来を確認。まぁ、飛んで移動するイーアンならすぐの距離、と思うが。
「あいつは方向感覚が。前から思っていたが、ちょっと危なっかしいんだよな(※方向音痴)」
案内してやることにして――
*****
「終わったか?」
「終わった。見つけた」
「あんたがいるってのも、イーアンたちには絶対必要だったと、よく思う。お疲れ」
居間で煙草を吸っていたラファルに労われ、魔導士は『疲れやしない』とちょっと笑う。リリューはどうした・・・と聞くと、ラファルは煙草を挟んだ指を窓に向け『サブパメントゥに呼び出された』とかで、帰ったそうな。
「ついこの前まで、忙しかったようだが。まだ落ち着いてない感じだ」
「サブパメントゥは、壊滅した後だからな。リリューもお前を放ったらかして、気が気じゃなかったみたいだが、コルステインに呼び戻されては断れんだろう」
それでも様子を見に来てくれて嬉しいよ、と微笑んだ男に、魔導士も頷く。で、ラファルの薄茶の瞳が少し泳ぎ、言いたげで言えない質問を察した。イーアン絡みの調べものだったのを知っているので、ついでにと言うか。
「イーアン、だろ?」
「ああ、うん、まぁ。彼女も大変だろうが」
「伝えておく。お前が会いたがっていると聞けば、心配してすぐ来る気がする」
「大した用事でもないのに、悪いけどな」
「そんなことはいい。お前は、人間と同じような体を持ったんだ。感覚を大事にしろ」
微笑むラファルは、『イーアンがまた料理してくれたら』と何度か・・・ホットドッグ以降、小さい希望を魔導士に話していた。
ここが魔物の最終国で、そんな場合じゃないくらい分かっていても、ラファルは人間味を少し取り戻したことで、同じ地球から来たイーアンやエサイと食事をしたいと思う時が増えた。
食事でなくても良い、だけど、あの気楽な感じが・・・昔は感じたこともない感覚で、楽しかったから。
いつ、自分たちが終わるのかも分からない。今度は我慢したくないと決めた自分が、急に幕を引かれないとも限らない。
煙草以外に興味や楽しみが増えたことを、ラファルは世話になる魔導士に打ち明け、魔導士はそれを『正常だ』と後押しする。
「あいつの予定もある。話は伝えるが、少し先になるかもな」
「いつでもいい・・・ ああっと、もう一人」
「エサイ?」
エサイを呼ぶには(※獅子付き)。まーそれも言っておこうと、魔導士はラファルのために尽力(?)を約束。
なので。
少々考えてから、魔導士はすぐにイーアンに結果を教えることなく、数日あけた。
一日二日、結果を遅らせたところで、剣は奪われない。海底のどこかに佇む剣一本、気配もへったくれもない品物で、サブパメントゥも探せはしない。だから、まだある。
子孫の魔法授業も、少し間を置く。子孫を連れだすと、ヨーマイテスが煩い。
どうでもいいが、エサイを連れてくるとなるとヨーマイテス付きなので、暫し、子孫も獅子も一緒に過ごさせる。数日一緒にいれば、半日離れる程度、我慢するだろう(※でもない)。
無欲なラファルの願いを、魔導士はいつも優先してやる癖がついた。
ヨライデで魔物の王が倒れた後。彼の状態に保障はないことを、魔導士も忘れはしない。
*****
魔物も、死霊も少ない。北部には悪鬼が増えたままで放置。
幽鬼もいるけれど、森沿いを離れると遭遇率は下がり、精霊バロタータと移動するようになって、本当に魔性と遭わなくなった。
イーアンが、海底遺跡に行った翌日から、三日間・・・
あの日、魔物の群れを見つけて倒したが、人の気配が全然ない場所で、違和感しかないと報告した。
魔法になじみのないイーアンは、『違和感』と称したが、これを聞いたシャンガマックは『魔法使いが近くにいるかも』と案じた。今まで潜んでいた者が、機を見て出てくるのも考えられる。
だがこの話はここまで。魔物は倒したし、後日、見回りに出るミレイオやイーアンは、魔物の群れを見かけないまま過ぎた。
タンクラッドに預けたメダルの行方については、イーアンもざっくりしか聞いていないため、ドルドレンには『夢のお告げみたい』と伝えた。これも、以後タンクラッドから連絡がないので、ここ止まり。
それと。人によく会うようになったのも、変化を感じる。
善人は、精霊たちの祝福がある前提で残っているので、大抵は良い人だが、他から運び込まれる・洗脳道具で魔物交じりの人々は、普通に会話をしてもおかしい流れになりがちで、多くは積極的に近寄ってくる。こちらを誰と確認することなく、洗脳道具を持ち出すなり、嘘でおびき寄せようとする。
精霊バロタータが率いているため、思っているよりも早く進む旅の道だが、人の存在に気づくバロタータは、数回足を止めて『人間が近い。会いに行くか』と尋ね、ドルドレンたちは勿論、その都度、見に行った。
ピフィアへ向かう道のりで、住居に住む者二名・道端や川沿いを歩く者三名と接触したが、住居に住む者の一人は、イーアンが『歌の波』を渡したおばあちゃん。
もう一人は、ヘズロンとピフィアの間に住む死霊使いで、彼は重い病気を患っており、日々の生活に苦労していた。
話は出来るので、この人が『子供の頃から精霊の声も聴く能力に恵まれた』と聞き、きっと精霊の祝福を受けたのだろうと判断。死霊使いの彼は、古都ヘズロンの旧教で専属だったそうだが、介助者がいなくなった今は、家から一歩も出られず、『死を待つだけ』と話していた。この死霊使いの話は・・・また後で。
無論、ドルドレンは彼にも『歌の波』を渡そうとしたが、『先のない自分には勿体ない』と返されてしまった。
二人の善人は、さておき。
歩いていた不審者三名との接触は、一人と二人のそれぞれで、合流目的と思しき同じ道を進んでいた。一人は、近づいたレムネアクを見るなり『ヨライデ人』と警戒を下げて近づき、あの洗脳道具を持ち出したが、『歌の波』を向けたレムネアクの前で手が止まり、正気に返った。
『歌の波』は見せるだけで済むのか、断定しにくいところだが、とりあえず『洗脳道具の正面に石を向ける』と洗脳は解けるらしいことを、レムネアクは実感。
攻撃沙汰にならなくて済んだ相手に事情を聴き、側で待機していたミレイオに伝えて、中部に家があると話した女性は、近場なのでミレイオが送り届けた。
二人組の方は、ミレイオが見回りで見つけた。川が見える路を歩いており、『念』憑きが一名で、もう一人はただの悪人。
ミレイオが道に降りて話しかけると、洗脳道具は使わず、言葉巧みに徒歩の事情や、『あんたの友達は』とミレイオの状態を聞き出そうとした。
嘘がよく出てくる男で、『ヘズロンへ行くと、何も恐れなくて済む』とか、『今は集まって安全を』と、ヘズロンに誘う。
何が安全だかはっきりしないので、少し嘘話を聞いた後、地下の力で動きを止め、馬車にいた女龍に交代した。
女龍は魔導士に呼びかけ、『念』憑きは引き取ってもらった。悪人に関しては、魔導士が消して終わる。
こんなの増えてきてるぞと注意を受け、イーアンは軽く頷いた。
黒い剣探しの進捗も尋ねると、それはあっさり『掴んだ』の返事。ただ、『俺が触ると、また嫌味を言われかねない』とか何とか。
魔導士は、神様に忠告されたのを不満に思っていそうで、イーアンの都合の良い時に同行すると言った。
「ヘズロンに行くのか」
魔導士が続く先へ顔を向けて尋ね、そうだとイーアンは答える。途中、ピフィアも寄ったが、ヘズロンから近いため、ヘズロンで少し滞在する間にピフィアも調べる予定を教えた。
「お前の都合は」
「一日使うなら、ヘズロンに入ってからがいい、と思う。私が留守でも、今は精霊が一緒だし、問題ないけど・・・」
一つ所にいてくれる方が安心。ヘズロンはもう、目と鼻の先にある。
魔導士は、ふむ、と頷いて『一日使う』と、そこを上塗り。意味深に聞こえた女龍が、ちらっと見上げ、『一日空けとけ』と付け足した。
「そこ、遠いの」
「着いてから、な。時間は食うかもしれん・・・ 」
何か隠していそうな態度だが、じーっと見たイーアンは、とりあえず了解し、魔導士は明日でも呼べと言い残し、帰って行った。
すぐ教えなかったのは―― 彼も用事の最中だったかもしれないし、もしかしたら、一緒に行かないと難しい場所なのかもしれない。
私に、別の用事もあるのか。色々考えてしまうが、イーアンも馬車へ戻った。
ここまでが、海底遺跡から古都ヘズロン手前の三日間で起きた出来事。
馬車は、ヘズロン前の道端で野営し、ティヤーにいるタンクラッドから進捗が入り・・・
翌朝。山影を背負う古都へ出発する。
お読み頂きありがとうございます。




