3042. リオラヌの助手
※今回はちょっと短めです。3600文字しかありませんが、これはこれでどうぞよろしくお願いします。
サブパメントゥの『一枚』が関わった魔法使いこそ、リオラヌ。年齢は、シャンガマックより数個上の40手前。
生粋のヨライデ人の体格は、細身・長めの手足、平均ヨライデ人男性より、背が高い方。長い頭髪を灰色に染めて一つに結び、茶色の目の周りに黒と白の枠を引く。化粧は魔法使い独自の紋章を幾つか、額や首、血管の太い位置に描き入れている程度。
貫頭衣の長衣も、濃い灰色。僧服と似ているが、死霊使いの最高位が使う儀式服なので、布地に同じ色の刺繍が施された高価なもの。自身は最高位ではないにせよ、自分に最も合う服として着用する。
独学の天才肌であり、術の改良、新たな派生魔術も多く持ち、一世一代で極める孤高の魔法使い。性格は、堂々として抜け目なく、視野は広く実行も素早い。能力には厳しく差別的、誇り高く・・・と、本人は自覚している。
あくまでも本人の自覚であり、『孤高』の生き方であるがため、誰がそう言ってくれたわけでもない(※人と関りがない人生)。
そんなリオラヌだから、サブパメントゥの不躾な命令など覆してやったのだが、こちらの目的に使えそうかと考え、交渉し、さっさと相手の要求を果たして、サブパメントゥの仕事をせっつく予定だった。が。
「誰だ」
日中。自宅の横に影が映る。
窓向こうの草に人影だけが落ち、リオラヌは家の中から問いかけた。扉はそちらになく、声が阻まれる壁越しであれ、リオラヌの声は障壁物を通過し、表の客に届く。
「ここへ向かえと言われたが。魔法使いが待っている、とも」
表から戻った声に、リオラヌの眉間は皺を寄せた。何の話かさっぱりだが、魔法使いの俺の家に、何者かが行けと命じて辿り着いている?
外から遮断した、自宅一帯・・・ これまでこうしたことはなく、リオラヌは相手を調べる。答えずに、掌を壁へ向けて呪文を唱えた数秒。壁を透過して見えた相手に、更に不信が募った。
「何者だ。誰に命令された」
立っているのは、僧衣をまとう女だったが、声も帯びる雰囲気も男でしかない。
幻を見せているとなると、俺の領域で魔法を使えること自体、考えにくい。訪問客の顔はヨライデ女でも、女が僧衣を着用する不自然も、敵を意識させた。
相手はじっとしており、リオラヌは苛つく。気性が激しく気が短い上に、思い通りにならないことを何より嫌う男は、『去れ』と大声を出すなり、家の周囲に雷撃を落とした。
ガガガ!と落ちた雷撃は、瞬時に波紋を宙に広げ、宙に舞う誇りすら焼き散らす。去れという割に、侵入者を殺す勢いだが・・・ 死んでいない相手に気づき、頭にきて扉を乱暴に開け、表へ飛び出た。
「何の用で来た!何者だ!」
幻を張った一帯に忍び込んだ上、攻撃結界にも打たれなかった女は、叫んだ魔法使いから数m離れた切り株に、すっと現れる。急いでそちらを見たリオラヌが腕を突き出すのと同時、女の前に絡み合った植物の根が壁になって立ち上がり、リオラヌは攻撃を押さえた。
「お前は」
「サブパメントゥに言われた。ここにいる魔法使いの手伝いをしろと」
「おこがましいことを。失せろ」
「失せたいところだが、都合でそうもならん」
「女。お前は、男じゃないのか?俺に女の姿が利くと思ったか?容赦しないぞ」
「世捨て人の魔法使いに、女は有効そうだ」
ムカつく返事に、リオラヌの魔法が朱色の波紋を上げ、根っこの壁を燃やした。向かい合った女は、僧衣のフードを背中に落とし、小首を傾げる。その仕草も女だが・・・もしやと気づいたリオラヌは、これでまたムカつき、女はフフッと可笑しそうに笑った。
「私が女に見えたとは。女のような男も多いのに・・・よほど」
飢えている、まで言い終わらせるわけもなく、短気なリオラヌが次の魔法を放ち、女の見た目そのものの相手はこれを叩き落す。燃えた壁の続きは、空間を割いた洞から溢れる樹液で、リオラヌの波動を、ぼちょっと・・・包んで消えた。実に、呆気なく。
木の根・洞・樹液。新手魔法使いの背後に、巨大な木が薄っすら透けて聳え、リオラヌは眇めた目で木の天辺を追う。どこまでも、空を衝く高さの巨木を背に、相手はもう一度静かに笑った。
「私が手伝ってやった方が、あんたのためじゃないか?力はトントン」
これを『はいそうですね』と受け入れられないリオラヌだが―――
女の見た目の魔法使いは『この時代を最後に、再び異能が蘇える未来を望む』と続け、胡乱な目を向けたリオラヌに、それをサブパメントゥが支えると言った。
つまり。 リオラヌもピンとくる。
こいつは俺と同様、サブパメントゥに交渉し、『魔法使いが栄えた第二期を取り返す算段をつけた』ってことだ、と。そう分かると、憎たらしい相手ではあるが、悪くなかった。
「名前を言え」
受け入れたリオラヌ。利用も利己もあって当然。
女の顔で口端がやや動いた魔法使いは、ゆっくりと頭を左右に振り、あんたの名前を言えと返した。生意気な返事に大きく息を吐き出し、『リオラヌ』と答えてやる。どうせ教える。すると相手は頷いた。
「ナーブヤム」
聞き慣れない名前を呟き、切り株を下りて、リオラヌの前に進む。薄く見えていた大樹は消えており、ナーブヤムは同じくらいの背丈の男の顔を見つめ、『私は男だ』と繰り返した。
*****
手伝いに来たナーブヤムは、ティヤー人にもヨライデ人にも見える魔法使いで、肌は茶色、髪は黒く、小さな顔に大きな目、鼻も口も小さいため、ぱっと見が女に似ているどころか、女にしか見えない。
胸の高さで勘違いしたのは、僧衣の内側に胸当て他、両肩から吊るす道具をつけていた膨らみによる。厚ぼったい僧衣は古びて色褪せ、元は青と白だった様子。ナーブヤムの若い顔付きと会わない古臭い僧衣は、どこの宗教のものかも分からなかった。
手伝い・助手として回されたナーブヤムを了承したから帰そうとしたが、ナーブヤムは『手伝うのに何も話さないのか』と呆れ、仕方なし・・・ 家に入れた。
得意とする魔法の種類を確認すると、隠すこともなくあっさり『木々』と言った。あまり見たことのない魔法だったが、速度も効果も熟練者と理解する。
リオラヌは雷及び派生魔法を得意とする。物質的な魔法を使うナーブヤムと、光線的な魔法を使うリオラヌは、互いの持ち分を軽く決め、最初に落ち合う場所と時刻も決定。
ふと、熟練具合から年齢を聞き、リオラヌは少なからず驚かされる。
年上・・・瞬きしたリオラヌにハハッと笑ったナーブヤムが、小顔を指差し『女の上に、年下と思った?』と。
俺より十も上には見えない、そう驚いた心の声が聞こえたか。可笑しそうなナーブヤムから、目を逸らした。
更に驚かされたのは、付け足された経歴で、『私が魔術を始めたのは25年前』と言う。ぽかんとしたリオラヌに、ナーブヤムは何度か小さく頷き『才能だな』とささやかな真実の自慢も入れる。
「それまで、何していたんだ」
「・・・違う国にいた。普通の仕事だ」
「なぜ。魔法使いになろうと」
「面接じゃないだろ?」
つい聞きたくなって追いかける形になった質問を止め、リオラヌは席を立つ。話が済んだのだから帰れ、と扉へ手を払い、自分は奥の部屋へ。扉の開く音がし、『もっと話せる仲にでもなったらな』と捨て台詞が聞こえ、扉は閉まった。
目の前で話していても、女のようだった。声は男だが、見た目が紛らわしい。化粧はしていなかったので、ティヤー人のような印象もあるが、ティヤー人の混血ヨライデ人もいるため、その辺だろうと思う。とにかく、化粧抜きでも女にしか見えない男。
「何であんなのを。どこから見つけてきたんだ」
サブパメントゥは、あの魔法使いをヨライデで見つけたのだろう。ヨライデ語は堪能で違和感もない。そこそこ、能力も経験もありそうな魔法使いが、サブパメントゥとの交渉で『魔法使いの蘇る時代を支える』など頼むとは。若干、同感があったので、リオラヌも受け入れた部分・・・
面倒臭いなと呟いて、湯を沸かしに台所へ行った。男だと言われても、女に見えたナーブヤムが自分の助手になることが、リオラヌの調子を狂わせる。
自称天才で孤高の魔法使いにとって、特別な一日になった、この日。
リオラヌは志の高い新たな魔法使いに意識が持って行かれていたけれど、一つ誤解したまま。
ナーブヤムは『異能』と言った。だが、それを『能力の掛け金が外れた、魔法使いのこと』と捉えたリオラヌ。
ナーブヤムの『異能』は、異能・異質を示しており、異質であるがために差別される者が、人間の減った世界で土台を築くのを望んでいる。
サブパメントゥに、余計な人間を引き渡してでも、そうしたい。
風変わりな魔法を覚えた理由も、そこにある。木々の魔法は特殊で、覚えると、不老長寿手前の変化も術者に与える。何としても、身体が動く内に。何としても、寿命を延ばしても。
自分のため。諦めきれない、大事な子のため―――
このことが話題に出る日は、まだまだ先・・・・・
お読み頂きありがとうございます。
この回だけは、他の話と混ぜるに合わなく、独立して短くなりました。いつも長いから、たまにはいいかなと思います。明日は普通です。どうぞよろしくお願いします。




